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  5. フォーカス「AI/IoT ―知識活用のデジタル化―」

フォーカス「AI/IoT ―知識活用のデジタル化―」

2018年2月9日(金曜日)

【フォーカス】シリーズでは、旬のテーマに取り組むコンサルタントを対談形式で紹介します。

昨今のデジタル化の流れでAIやIoTへの期待が膨らんでいますが、知識活用の領域では実際どのように活用されているのでしょうか?

本対談では、「AI/IoT ―知識活用のデジタル化―」というテーマで、株式会社イーパテントの野崎代表取締役社長と富士通株式会社(以下、富士通)ものづくりビジネスセンターの鎌田センター長、富士通総研(以下、FRI)の野村ビジネスアナリティクスグループリーダー、川越マネジングコンサルタントに語っていただきました。進行役は森岡エグゼクティブコンサルタントです。

1. 最近の新技術活用の状況:AI活用の動向

【森岡】
デジタル化が進んで、雑誌の新春特集でも新技術をどう使っていくかという話が多いのですが、AIやRPA(Robotic Process Automation)、仮想現実等への期待が大きいものの、実際はどうなのかというところを共有しながら、活用実態やお客様の期待についてディスカッションできればと思います。まず野村さんからAIの最近の動向についてお話しいただけますか?

【野村】
知財(知的財産権)戦略や知識活用のデジタル化では、製造業、特に知財やものづくりの現場のナレッジ活用において活用が活発化しています。従来より、知財・ノウハウが製造業にとって重要な資産であり、不確実で先の見えない時代においては、Big data、AI活用が複雑に絡み合う様々な要素から先を見る力を向上させます。また、製造現場における機械化の横で経験やノウハウ・知恵といった無形資産は重要な企業競争力の源泉であり、こちらもAI・IoTの活用ニーズが高い領域になります。いずれにせよ、人間が担ってきた領域へのICT活用に対するニーズが高いのですが、AIは人の代わりになれるわけではなく、人の知識の拡張支援や動作の模倣にとどまります。

株式会社富士通総研 ビジネスアナリティクスグループリーダー 野村 昌弘

野村 昌弘(のむら まさひろ)
株式会社富士通総研 ビジネスアナリティクスグループ グループリーダー
兼務)富士通株式会社 経営戦略室 シニアディレクター(ビジネスモデル担当)2013年より株式会社富士通総研で知識処理技術、アナリティクス・AIを活用した経営革新に取り組む。

いくつかAI活用の事例を用意したので、ご紹介します。まずグローバル製造業の研究支援のAI活用です。グローバル製造業では、従来の日本マザー工場・世界展開型モデルから世界同時展開型モデルへ転換しています。各市場のニーズ、必要技術研究を効果的にするために研究機能も世界展開しています。この企業では世界7拠点の研究所を展開しているのですが、同時に知財・人員が7か所に分散している状態とも言えます。分散より集中の方が効率はよくなりますから、この分散した知財をクラウドで統合するニーズがありました。しかし、異なる人種・文化・社会風土で育まれたアイデアや技術をいかに透過的に統合して活用し合えるようにするかが課題となり、AIの意味認識を活用したシステムを活用しています。

【図1】技術文書・知財分野へのAI活用
【図1】技術文書・知財分野へのAI活用

また、化学メーカー、特に素材系の開発企業では、自社の研究技術がどのような業界のどのようなところに活用できそうなのか、逆に言えば、社会にどのようなニーズがあるのか、を常にウォッチして、自社の研究と顧客、さらにその顧客のニーズをマッチングさせていく必要があります。また、他社の研究から攻める領域・守る領域を常にウォッチしておく必要もあります。そのため、自社の研究・開発内容と、特許や論文、ニーズ・トレンドなどを相互連鎖的に可視化するAIを活用しています。例えば、ある分野の自社・他社の特許をマッピングし、各社の関心を知ると同時に競合がない領域を見つけ出すなどの活用や、自社の技術者の日常の研究内容を巡回して研究者の隠れた得意分野を見つけ出すなどのタレントマネジメントにも活用しています。従来でも研究成果の登録・閲覧システムや研究員のプロフィールを登録させるシステムはあったのですが、不確実性の高い時代では、自明のものよりも研究と研究の間にある隠れた分野を見出す方に価値があり、AIの持つ機能が効果的になっています。私のグループのAIエンジニアに新たな技術を出願した際の権利化可能性についてAIが算出するロジックを作ってもらったのですが、初期段階でも70%ほどの精度で権利化可否を回答することができます。もちろん、学習を積めば精度はもっと上がるでしょう。こうしたAIの能力は様々なところで活用できる可能性を秘めています。
また、工場の現場では、工場内ナレッジとして、製造ラインのトラブルシューティングで、事象を入力すると、可能性のある原因を提示し、提示されたものが原因だとわかると、その対処方法が示されるといった活用方法があります。事象・原因・結果というものは、今までも大切な現場ナレッジとして蓄積されてきましたが、ここにIoTから取得した運転状態データ等も合わせると、さらに精度の高い状態監視・事象への対処ができるようになります。
最後に、プロセス産業での品質と加工状態を結びつける例です。各工程の加工結果はOKなのに、最終品質チェック工程でNGとなってしまうものもあります。工程間の何らかの要因が重なると発生するものなのですが、その相互依存関係が人力ではどうしても発見できない。そこで機械学習を使って可視化したものになります。

【図2】プロセス全体での品質向上モデル
【図2】プロセス全体での品質向上モデル

2. 技術情報管理へのAI活用:方向性は「答えを出す」と「支援する」

【森岡】
ナレッジマネジメントの議論は以前からありますが、情報のマネジメントや探し方が変わってきているのだと思います。知財面については様々な企業が悩まれていると思うのですが、野崎さん、いかがですか?

【野崎】
まず官公庁の取り組みからお話しすると、日本の特許庁では昨年度からAI活用について取り組みを始めて、どのような業務がAIに置き換えられるか、また先行技術調査の一部業務にAIを活用できるか、検討しています。特許の先行技術調査では、ある一定件数の母集団でヒットした先行文献を読み、その後に新規性・進歩性等の判断になります。特許庁では新規性・進歩性判断については、AI化の最終決定を数年後まで留保する形になっています。とりあえず電話での質問対応や紙出願の電子化、誤記チェックなどを先行してAIで置き換えようとしています。一方、民間でもAIへの取り組みは進んでいます。FRONTEO(旧UBIC)はディスカバリ(証拠開示手続き)の対応に人工知能を活用したデジタルフォレンジック技術を開発しています。最近では、その技術を特許調査に応用したサービスも開始しています。また、ゴールドアイピーは人工知能によって特許性を判定するIP Samuraiというシステムを発表しました。今、期待値が高いのは、どのような新規事業開発を行うべきか、どのような新製品・新サービスを立ち上げるべきか、特許・学術文献・ニュース・ビジネス情報・財務情報の各種情報をAI活用で探索することです。数十年前にTRIZというアイデア創出手法をロシア特許庁の審査官が特許情報をベースに構築しましたが、現在の情報量は当時より多いので、人工知能を活用すれば新規事業や新製品・サービスのアイデアを出すことができるのではないかと個人的にも期待しています。

株式会社イーパテント 代表取締役社長 野崎 篤志

野崎 篤志(のざき あつし)
株式会社イーパテント 代表取締役社長/知財情報コンサルタント
日本技術貿易株式会社IP総研コンサルティングソリューショングループ・マネージャー、ランドンIP・シニアディレクター(日本事業統括部長)を経て、株式会社イーパテントを設立。技術動向分析、競合他社分析、知財デューデリジェンス、新規事業開発・アイデア創出支援などの知財情報コンサルティング業務に従事。著書に『調べるチカラ』(日本経済新聞出版社)、『特許情報分析とパテントマップ作成入門 改訂版』(発明推進協会)など。

【森岡】
今までのやり方を置き換えていく話と、やり方が全く変わって新しいパターンが出てきているという話がある気がしますが、川越さん、いかがですか?

【川越】
期待されるAIの役割には2つの方向性があると考えます。1つは「答えを出してくれるAI」。例えば、問い合わせ回答システムやパテンタビリティが何%といった答えを出してくれて、一定範囲で従来のやり方を置き換えることができるAIへの期待や方向性です。もう1つは「支援してくれるAI」。例えば、文書に分類を付けたり、関連性の高い候補を提示する等、従来のやり方を支援してくれるAIへの期待や方向性です。これらが、両方ともに進化し両極化していく印象を持っています。また、AI活用を議論するとき、この2つが混同されてしまうと、特に後者において「答えが出ないではないか」「この結果から何がわかるのか」という誤解につながりやすいと思います。

3. ものづくり領域でのAI活用の状況:課題はAI向きのデータ化

【森岡】
工場の技術伝承でも「ここはこういうところを見ればいい」というノウハウは定着しにくいと思います。ものづくりの現場で、不良品なのに最終検査まで作り込んでしまったといったことを悩まれているお客様も多いですね。鎌田さん、いかがですか?

【鎌田】
工程ごとでは大丈夫なのに最終検査で性能が出ない、そこにAIを活用できる可能性はあります。ものづくり全体としてはAI活用がさほど進んでいないのが実態です。ものづくりでは、AIで出された答えはレコメンドとしてしか受け止められません。ベテランは経験したことに近いものは自信をもって「こういうことだ」と言いますが、自信のないことは「たぶんこうだと思うけど、この辺はわからないから注意が必要」と答えを出します。一方、AIは統計処理で可能性のある中央値を出すだけなので、どこまで信じていいのかわからない。そのままでは使えないということで、トライアルしても実際の業務に使うまで至らないというのが難しいところです。

富士通株式会社 ものづくりビジネスセンター長 鎌田 聖一

鎌田 聖一(かまた せいいち)
富士通株式会社 ものづくりビジネスセンター センター長
1987年富士通入社。UNIX-OS技術者、コンピュータグラフィック開発などに従事。製品設計業務コンサルティングで主に組立業のお客様をご支援。現在は、ものづくりビジネスのマーケティング業務を担当。

【野村】
鎌田さんの観点は重要だと思います。AIはデータを処理して答えを出します。データが答えを持っています。しかし実際の人の活動では、何を考えたか、何を想像して「今のこれはそうではないか」と思ったか、どの過去事例を引用してきたか、という部分は全部データ化されていないので、AIでは処理できません。そこが、ベテランと同じことが言えないところにつながっていて、「使えない」となるわけです。

【図3】現場の状況
【図3】現場の状況

ナレッジは今までもまとめられてきました。80年代の頃は、ワープロもなく手書きのボリュームに限定されて「手順」しか書かれておらず、そのとき「どうするか」は体で覚えるナレッジでした。90年代以降、Officeソフトで文章のデータ化が進み、大量の文書を残せるようになると、マニュアルの形でノウハウが記述されるようになってきました。しかし突発的なシーンに遭遇すると、マニュアルでは対応できません。そこで、インタフェースを人間に近づけ、「問いかけたら答えてくれる」形のAIに対するニーズがあるのだと思います。そのとき重要なのがデータ化です。私は機械に読み込ませるデータという意味でのマシン・リーダブル、逆に人が読むという意味でのヒューマン・リーダブルと区別しているのですが、今までの文章は、画面でも印刷でもいいものの、人間が読むための構成をしています。データ形式でもそうです。これらのデータはAI向きではないものが多く存在します。古くからの形式で書かれた議事録などはその際たるものでAI活用では最悪です。今AI化が進んでいないのはAI向きのデータが存在してないからです。特許や論文はAIが認識しやすい構造化されたデータ化なので、活用が進んでいますが、普通の仕事の大半はAI向きのデータ化がされていないのです。これからはAI用のデータを蓄積していく工夫が求められます。仕事のやり方を変えていかないとダメだと思います。

【野崎】
一昨年12月にIBMがファイザーと組んで医薬品の新規リード化合物の探索にWatsonを活用するという発表がありました。難治性のAIDSやガンを治す薬を作るためにリード化合物を探索しますが、探索の繰り返しで筋の良いものを見つけるのにAIは親和性が高い。某カンファレンスで大学の先生が、隙間的なところを探すのはAIが得意だとおっしゃっていましたが、医薬品の場合、過去のデータが整っていて、テキスト情報などと比べると、化合物という構造化されたクリアなデータなのでAIと親和性が高いのです。一方、各種製造業の現場では様々なデータが溢れており、工場や生産設備等におけるセンシングデータを経済産業省が流通させようと、いろいろディスカッションしていますが、メーカーは自社データを出したくない、しかしながら様々な会社がデータを提供しないとAIは賢くなっていかないというジレンマがある状態です。

【川越】
これまでデータがとれていない部分で、今期待されているのは音声です。音声認識で収集したデータをAIで分析できるよう加工する部分には、大きな可能性があると思います。

【鎌田】
音声はものづくりでも重要です。デザインレビューで設計課題などを検討しますが、ある設計対象の部位を検討している際の会話を裏でコンピュータが拾って、議論している部位に近い形状の過去データからノウハウを引き出して、人間が検索をかけずにコンピュータから話しかけてくるようなAIの会議参加で過去のベテランの知見を活用する取り組みを検討しています。

4. AI活用の課題:AIのリコメンドへの懸念

【森岡】
「何を見ているのか」が全部わかるデータが集まってくると、例えば容器を見たとき、貼られているフィルムのよれ具合が気になる人と気にならない人がいるとして、本当に大事なのは何かを判断してくれるようになるかもしれませんね。

【野崎】
今の森岡さんのお話は重要ですね。アマゾンは過去履歴からリコメンドしてくれますが、リアルな本屋ではなく全部アマゾンで本を買うとなると、自分と同じ趣味の人が世界に5人いて毎回同じ本を買っているなら自分も買わなければという強迫観念にならないかと。例えば会話の内容からAIが勝手に話しかけてくれるというのは、自分の考えが本当に自分の考えなのか、誘導されているのか、なんだか個が埋没していく恐怖を少し感じます。

【野村】
検索とリコメンドはアルゴリズム的には全く違うものですが、結果を見たときに人間にとっては同じに見えます。自らの意思で出した結果なのか、リコメンド、誘導されたものなのか、気づかないでしょうね。

【野崎】
アイデアは既存の知識と既存の知識の組み合わせだと言われます。それぞれはデータベースや頭の中に入っていても、そのつなげ方は個々人に依存するので、同じものを見て、つなげられる人もいれば、そうではない人もいる。人間は価値を認めて買ったり使ったりするので、その価値は人間が定義しなければいけない。そこは人間がやらざるを得ないところとして残るかと思います。

【川越】
一方で、生産性を上げなければいけないという命題もあり、例えば先ほどの特許庁の取り組みでは892業務のうち、AI適用を検討したのは約20業務だけで、残りのほとんどの業務はAIを使わずに通常のシステム化で効率化できると報告されています。AIに期待する部分は大きいですが、例えばRPA等も活用したトータルでの業務効率化をバランスよく進めていくべきかと思います。

株式会社富士通総研 マネジングコンサルタント 川越 康司

川越 康司(かわごえ やすし)
株式会社富士通総研 デジタルサービス開発室 マネジングコンサルタント
1991年、丸善株式会社入社。サーチャーとして科学技術・ビジネス分野の商用データベース調査・サポートを担当。2000年より株式会社ジー・サーチにて、科学技術・特許をはじめとする各種商用データベースやエンタープライズサーチの企画・販売に従事。2016年より富士通総研にて、技術情報分析を活用した官公庁および民間企業向けのリサーチ&コンサルティングに従事。

【森岡】
新しい技術を効率化や生産性向上で活用する流れは、AIでサジェスチョンを与えて効率化するし、RPAで業務効率化するものなど出てくると思います。工場でも検査の自動化は解析技術の向上に伸びしろがあります。富士通の例はありますか?

【鎌田】
工場ではなく設計領域ですが、基盤の設計でAIを使い始めています。基盤は何層かになっているのですが、回路を組んで配線したとき4層がよいのか6層がよいのかはパターンを見てベテランが判断していたのを、AIで予測しようとしています。ただ、「4層でいく」と言っても実際6層にしなければならなかったこともあり、正しい答えというより、近い答え、選択肢を狭めるという期待が多いと思います。

5. AI活用の課題AIの判断根拠は人間が与えるロジック

【森岡】
「なぜそういう答えになったのか」という部分は、なかなか説明しきれないですね。

【鎌田】
「なぜAIがそういう判断をしたのか」を提示できる技術を富士通が発表しました。AIの推定結果に影響した情報のつながり関係を根拠として示すことで、AIがなぜそういう結論を出したのかが分かる仕掛けです。今は医療診断のようなルールベースがある程度できる部分で使えるだけですが、AIが根拠を示せるようになると、爆発的に広がると思います。ものづくりも膨大なデータがあるものの、AIに必要なデータは揃っていないのが現実です。

【野崎】
結局データが取得できても、本当に良いデータになっているかどうか、データのクレンジングが非常に重要だと思っています。データサイエンティストがデータのクリーニングに苦慮していますが、逆に特許、文献、医療系、医薬品、画像診断といったものは基本的に構造化されているデータなので、AIとの親和性が高いですね。

【森岡】
例えば高速で回転する機械の負荷を見るとき、1秒毎のデータではなく1秒の間の最大値が欲しいと修理者は言うけど、ITが集めるのは瞬間のデータだったりします。必要なデータをとるノウハウも流通するとよいですね。

【鎌田】
現場の経験の部分はAIで分析するデータを人間が入れるわけですよね。ベテランが様々な情報源に接してきたことが全部経験になって判断しているのであれば、AIにも必要かもしれないものを全部入れてしまうことはできないのですか?

【野村】
データは重要だとしてきましたが、実はデータよりも「何がしたいか」の方が重要なのです。「何がしたいか」に基づいてロジックを考え、そのロジックが必要とするデータが決定されます。AIは人工知能と言われますが、人工インテリジェンスでしかなく、ロジックは人間が作っています。人間が作ったロジックが要求するデータ以外は要らないので、データセットの設計、クレンジングという作業につながります。最近の関心事や技術伝承のベテランの知恵を盛り込んだとしても、ロジックがそれを引用するかしないか、引用するならどう反映させるか、ということを考えるのは実は人間なのです。

【野崎】
Watsonがクイズ番組で過去の優勝者に勝った時は、Wikipediaなどの各種情報を全部データベースに入れたそうです。質問に対してWatsonのデータベースの中から関連するものを抽出して答える形式です。ただし、何が求められているかが複雑な質問の場合、シチュエーションによっては知識があっても単純に回答すればよいのではなく、回答らしいものの中からどれを抽出するかを定義しないといけません。

【鎌田】
あるお客様の製造工程で様々なデータをとって分析してみると、曜日変動があることがわかりました。例えば月曜は生産性が高く、金曜に向けて悪くなり、水曜だけ良いといった周期性があるけど、何を改善したら一定にできるのかわからない。作業員によるのか、朝食に何を食べたか、翌日行事があるか、どんなデータを入れたらいいのかわからない。そういう時に使える手法はありませんか?例えばディープラーニングは雑多なデータの関連性を見つけるのに使えませんか?

【川越】
クイズ番組の時はロジックを人手で組んだそうですが、最近はロジックそのものをマシンに作らせるやり方もあり、それはブラックボックスになっています。大量の教師データありきであれば、複雑なプロセスでもロジックを自動で作らせることができるらしいですが、汎用的な用途に限られる気がします。

6. 今後への期待:オープンかクローズか

【森岡】
こういった技術は汎用化されて広がるスピードは昔に比べて速いですが、一段上に行こうとすると、そのポイントなど、経験上からありませんか?

株式会社富士通総研 エグゼクティブコンサルタント 森岡 豊

森岡 豊(もりおか ゆたか)
株式会社富士通総研 執行役員 エグゼクティブコンサルタント
1984年富士通入社、SEとしてお客様への情報系システム適用を担当。1986年富士通総研(旧富士通システム総研)設立に伴い異動。各種コンサルティングメソッドの開発とともに、民需のお客様を中心に、中期計画策定、業務改革推進を支援。

【鎌田】
日本の企業は新しい技術や投資判断になかなか踏み出さないので、先行事例があって、生産性や売上が上がることが担保できれば取り組まれます。誰もやっていないものでも海外は経営判断が速いですが。そこがブレークポイントかと思います。

【野崎】
私も同じ状況によく遭遇します。特許分析ツール、テキストマイニングツールは海外で約20年前から出ていました。アメリカ人は問題点を踏まえつつ、ツールの良いところだけ使うのに対し、日本人は例えばテキストマイニングであれば縦軸と横軸には意味がないのに縦軸と横軸について理解することにこだわるケースがあると聞きます。そして過去の実績や他社の事例を示さないと導入しません。「IBMのような海外有名企業が使っています」と言えば、一気にOKが出るようですが。黒船みたいなもので、マインドセットですかね。

【川越】
先行する成功事例がなく、どうしたら前に進めるかといった時に、建前は必要だと思います。そこは「データから見るとこうなる」というのを提示するのが1つのやり方で、そのためにAIが利用できると思っています。また、データを活用するうえで大事なのは分析のためのデータクレンジングで、分析しやすい形に加工する、データに付加価値をつけるといった一見地味なノウハウが成否のかなりの部分を握っています。評価されにくいし、パワーをかけられないところですが、ここをブレークスルーしないと、効果的な分析に進みません。まず、費用対効果の高い所から着手していくものと思います。

【野村】
今週ある大学でAIの講義をしましたが、今時はすでに消費者は最新技術に触れていて、「最先端のAIは実は皆さんの手元にあります」という説明になるのです。スマホに「Hey, Siri、明日の天気は?」と問いかけると、「いい天気になります。気温はマイナス2度から6度まで」と答える。これが最新なのです。一方、企業がこれを使おうとしたら、当然技術的にはすぐにできます。インターネットに自社のノウハウをすべて公開したらいいのです。オープンデータにしたら、Siriが工程におけるノウハウを答えてくれるようになります。技術は揃っています。でも、自社の重要な知財をオープンデータになどできませんよね。オープンなのかクローズドなのかということを考えたとき、各企業が自社ナレッジのためのロジックをもった自社独自のAIナレッジを作るべきなのか、自社のエコシステムを形成してエコシステム共通のAIナレッジを作るべきなのか、といった、どういうナレッジエコシステムを作るかというのが今後の重要な観点かと思います。

【森岡】
事務処理系でも同業者で同じ仕組みを一緒に作ろうという会社は数社出てきました。

【野村】
非競争領域ならいけますが、知財をオープンにすることは自分の生命線を自ら断つとも言えるかもしれません。

【鎌田】
オープンデータとは逆ですが、あるメーカーさんがアジア市場を持っていて、そのメーカーのサプライヤーの1社が同じ製品を作ることに参入しました。それ自体は大した脅威ではないけど、そのメーカーが作ったプラットフォーム上に、自分の会社のこの部品を組み合わせると同じ製品を作れる、工場ではこういう作り方をしなさいというのを全部ノウハウとして載せてしまったのです。ノウハウの中身はブラックボックスですが、そのインタフェースはオープンなので、アジアのベンチャーはそのとおりにやるだけで同じものを作れてしまい、それが1万社もできたら、市場が壊れてしまう。いわゆるオープン&クローズ戦略()かもしれないですが。

【野村】
それはすごくダイナミックに変わると思います。

【森岡】
企業規模と関係なく取り組めてしまう所が出てくる可能性はありますね。

【野崎】
スタートアップの成長は本当に早いです。DJIというドローンの会社が中国・深圳にあって、マーケットシェア世界75%、連結5~6千人、日本での人材採用も積極的です。さらに特許出願の増加も凄いのです。特許など知的財産権も押さえたうえで、一気に売上百倍~1万倍へとスケールアップさせるのが以前に比べると非常にやりやすくなったと思います。各国特許庁もデータベースを整備したため特許情報も十分流通していますので、権利化されていない、消滅しているような公知技術をうまく活用していく会社もますます増えてくるのではないでしょうか。

【森岡】
新技術系の話からオープン&クローズ戦略まで広がるとは思いませんでしたが、周りの取り組みにアンテナを高くして取り込んでいく刺激をいただけましたし、それを糧にまた次に進んでいければと思います。本日はありがとうございました。

(対談日:2018年1月11日)

対談者

対談者(敬称略 左から)

  • 株式会社富士通総研 ビジネスアナリティクスグループ グループリーダー 野村 昌弘
  • 株式会社富士通総研 執行役員 エグゼクティブコンサルタント 森岡 豊
  • 株式会社イーパテント 代表取締役社長 野崎 篤志
  • 富士通株式会社 ものづくりビジネスセンター センター長 鎌田 聖一
  • 株式会社富士通総研 デジタルサービス開発室 マネジングコンサルタント 川越 康司

注釈

(注)オープン&クローズ戦略 : 事業者が保有する特許群をコア技術とそうでないものとに分け、前者は実施を独占(クローズ)するとともに、後者は他人に実施を許す(オープン)戦略。

関連サービス

【AI活用・ビジネスアナリティクス】