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  5. デジタルヘルス時代における大企業とスタートアップの関係性

デジタルヘルス時代における大企業とスタートアップの関係性

2018年1月30日(火曜日)

オープンイノベーション注1、デジタルトランスフォーメーション注2というキーワードがビジネストレンドとなった今、先端技術やICTを活用しつつ、様々なステークホルダーと共創しながら新しい価値を作り上げる取り組みは、通信業や製造業だけでなく、ヘルスケア(医療、介護・自立支援や健康管理)の領域にも広がってきている。そこで生まれたキーワードとしては、以下のものが挙げられる。

  • デジタルヘルス、ヘルステック、スマートヘルスケア
    ICTやその他の先端技術を活用しながら、ヘルスケアの新製品・サービスを生み出すこと。明確な定義はないが、米国FDAによると、デジタルヘルスはスマートフォン、SNSやインターネットアプリケーションなどの技術によって、患者や消費者が健康や健康関連の活動をより管理・追跡しやすくするものであり、人・情報・技術およびコネクティビティが融合することで、医療と健康成果を向上させるもの注3とされている。
  • mHealth(モバイルヘルス)
    スマートフォンなどのモバイル技術やウェアラブル技術を活用することで、医療と連携しながら個人のQOLを高める仕組み。
  • IoMT(Internet of Medical Things)
    IoTの医療特化版。あらゆるヘルスケアデバイスがネットワークを介して連携する仕組み。

本稿では、これらの中から、最もポピュラーに使われている「デジタルヘルス」というキーワードを用いながら、この領域における大企業やスタートアップの動向について述べる。

1. デジタルヘルスビジネスの中身とは

まず、実際のデジタルヘルスビジネスを大別しながら見ていきたい。上述したFDAの定義では、デジタルヘルスは、スマートフォンやSNSなど消費者向けのデジタル技術を使った一般人向けの製品やサービスというイメージがあるが、ここでは、デジタルヘルスビジネスには、医療向け(コメディカル向け)の高精度な分析や診断支援、間接業務の効率化のための仕組みから、一般人向けの気軽にケアができる健康増進のための仕組みまで、幅広い製品・サービスが含まれるものとする。これらはさらに実現技術の観点から、ソフトウェア(データ)起点とハードウェア起点の2つに分けられる。その結果を【表1】に示す。

【表1】デジタルヘルスの分類
  ソフトウェア(データ)起点 ハードウェア起点
  関連技術:ビッグデータ、AI、統計等 関連技術:IoT、ウェアラブル、センシング、
VR、ロボティクス、3Dプリンター等
コメディカル向け
  • EMR、PHR、HER
  • AI創薬
  • 診断支援
  • 臨床研究支援
  • 診療知見研鑽
  • コメディカル間のコミュニケーション
  • 在宅診療支援
  • データヘルス
  • 遠隔診断/治療
  • 遺伝子/ゲノム解析
  • 手術用/研究用ロボット
  • 人工臓器
  • ナノマシン
  • デジタルリハビリ器具
一般人向け
  • モバイル健康管理
  • フィットネス支援
  • 通院支援
  • 遠隔診断/治療
  • センシングデバイス
  • ウェアラブルデバイス

(資料:富士通総研作成)

また、この2つの分類に含まれる製品・サービスの具体例を【表2】に示す。

【表2】デジタルヘルス製品・サービスの例
  ソフトウェア(データ)起点 ハードウェア起点
コメディカル向け
  • Outcome Health(米)
    https://www.outcomehealth.com/Open a new window
    医師と患者のコミュニケーションを支援する院内システムを提供。
  • e-casebook(日本)
    https://www.e-casebook.com/Open a new window
    医師同士が、自らの経験や技術、情報などを共有し、学べる症例会議プラットフォームを運営。
  • エクスメディオ(日本)
    https://exmed.io/Open a new window
    非専門医の医師が専門医の医師に相談できるサービスや和風PubMedを提供。
  • Mind Maze(瑞)
    https://www.mindmaze.com/Open a new window
    医療用のVR製品と、入院中の脳卒中患者の運動機能回復を目的とするVRヘッドマウントディスプレイを提供。
  • Prellis Biologics(米)
    https://www.prellisbio.com/Open a new window
    3Dプリンターを活用して人工臓器を提供。
  • MICOTO テクノロジー(日本)
    http://www.micotech.jp/Open a new window
    研修医向けのシミュレータロボットを提供。
一般人向け
  • Doctor on Demand(米)
    https://www.doctorondemand.com/Open a new window
    アプリまたはWeb上で医師の診察を受けることができる遠隔診療サービスを提供。
  • ファミワン(日本)
    https://famione.com/Open a new window
    妊活サポートのためのパーソナライズサービスの提供。
  • リーズンホワイ(日本)
    https://www.reasonwhy.jp/Open a new window
    患者と専門医のマッチングプラットフォームを提供
  • 23 and Me(米)
    https://www.23andme.com/en-int/Open a new window
    個人向けの遺伝子解析キットの提供。
  • Misfit Wearables(米)
    https://misfit.com/Open a new window
    センサーを用いて睡眠やアクティビティの自動測定ができるヘルス・ウェアラブル端末を提供。
  • サイマックス(日本)
    http://symax.jp/ja.htmlOpen a new window
    世界初となる小型・低価格のトイレ後付け型の分析装置とヘルスモニタリングサービスを提供。

(資料:富士通総研作成)

昨今のこの領域におけるスタートアップの特徴として、これまでデジタル技術を使う側であった医師、看護師、薬剤師などのいわゆる師業と呼ばれる医療・薬事に精通した人が創業者となり、技術を活用しながら起業する例が増えてきている。また、消費者向け製品やサービスについては、スタートアップがプロトタイピングを繰り返してユーザーの意見を取り入れながら開発することも多くなっている。これらによって、当事者目線の獲得やエビデンスの担保が容易になり、ビジネスの拡大につながることが予想される。

さらに、上記の事例以外にも幅広く調査を行ったところ、米国を中心とした海外事例の方が国内事例よりもハードウェア起点のものが圧倒的に多かった。これは規制緩和によるものと考えられ、その理由は後述する。

2. デジタルヘルスビジネスを取り巻く環境

デジタルヘルスビジネスの市場規模は、年々拡大しており、世界市場を見ると、現在1,180億ドルであるものが2020年には2,060億ドルに達する注4。特に、ウェアラブル領域での成長性が見込まれている。今後も世界レベルでの成長は続くことが見込まれ、さらなるビジネスの加速化が予想される。一方で問題なのが、これらを上市するうえでエビデンスの担保や法規制に則った審査・承認に要する莫大なコスト負担である。これらは、上市する国のルールに則り、各社個別に対応を行っているというのが現状であり、官民を問わず、専門支援組織の構築や助成金の適応などが期待されている。

このデジタルヘルスビジネスの成長の鍵を握るのは、まだブルーオーシャンの要素が残る一般人向け製品・サービスであるとも言われており、それらの多くを手掛けるスタートアップに注目が集まっている。もちろんメガファーマをはじめとするグローバルヘルスケアメーカーや他の大企業も、ICT企業や大学と連携して、人工知能やウェアラブルデバイスなどを活用した、コメディカル向けの症例解析や創薬に取り組み始めている。しかし、自社の主力製品構造を大きく変えるものではなく、業務多角化の一端に位置づけられるようなものが多い。そのため、我々の日常生活を大きく変えるようなイノベーションの創造につながっているものは少ない。この理由として考えられるのは、以下の3点である。

  1. 製品あたりの売上規模が、既存製品(医薬品、医療機器、医療情報管理システム)と比較して、特に一般人向けの製品・サービスについては小さく見えるため、投資意欲があまり湧かない。(近年、世界の医薬品市場を席巻したギリアド・サイエンシズのC型肝炎治療薬「ハーボニー」の2015年の年間売上は2138億6,400万ドル。注5
  2. デジタルヘルスビジネスの企画開発には、一部のコメディカル向けの製品を除き、これまでの主力製品・開発のやり方(問題解決型、完成品の市場投入)と全く異なる手法(価値創造型、リーンスタートアップ注6)が求められており、社内体制がついていかない。
  3. 自社のビジネス領域を広げるための他者とのコラボレーションであったものが、研究費の提供やM&Aのように、自社が資金を提供する者であるかのような位置づけになってしまい、特に一般人向けの製品・サービスなどで必要とされるような「共創しながら社会価値を生む」という考え方に馴染めない。

しかし、先進国における少子高齢化の進行、プラットフォームビジネスの台頭や医薬品の特許切れなどの問題を受けて、大企業も新しい領域に乗り出す必要性を感じており、ビジネス転換期の到来が予測される。また電機メーカーや化学メーカーなどの異業種からも、この領域への参入が始まっており、増加が予測される。

スタートアップの資金調達および取引フローは、2009年以来ほぼ毎年増加しており、2016年には918件の取引で60億ドルに達した注7。これはデジタルヘルス市場の2.9%を占める。スタートアップ全体の総数は不明であるが、そのうち大部分の75%が米国、次いでインドが4%、中国、カナダ、イギリスが3%、残りを他国が占める。

米国が多い理由としては、2008年以降、前オバマ政権時代に推進されてきた「オバマケア」と呼ばれる医療保険制度改革の中で医療IT投資が拡大されたこと注8や、2016年12月13日、医学研究の拡大と新たな医薬品・医療機器の認可迅速化を目的とする「21世紀医療法」に署名し、デジタルヘルス領域での規制緩和注9を行ったことが挙げられる。

ここでよく比較対象として挙げられるのが、我が国のデジタルヘルスを取り巻く法規制である。日本でも、それぞれの医療問題に対する問題意識を掲げたスタートアップは増えており、安倍政権下でも、ビジネスコンテストやアクセラレータプログラムの実施、資金調達状況を議論するなど、事業開発を活性化させる動きは出てきている。また、政府が発表した「未来投資戦略2017」においても、Society 5.0の実現に向けて指定した5つの戦略分野で最初に挙げたのが「健康・医療・介護」であり注10、2025年問題に対して、これらのデジタルヘルス領域を活性化させることで対策を図っていくという方向性が示されている。今後、すでに経済産業省主体で行われている「IoT lab注11」のような企業支援(ヘルスケア領域も一部含まれる)が、厚生労働省とも連携し、さらなる実効性の高い支援体制の構築が望まれる。

3. 大企業とスタートアップの共創事例

こうした中、目まぐるしいスピードで変化・成長していくスタートアップと新たな関係性作りに取り組もうとする大企業が国内からも出てきている。従来の自社シーズをもとにした基礎研究・応用研究・開発研究の流れに外部の力が加わることで、イノベーションの活性化につなげようとするものだ。代表的な取り組みとして、目的別((1)シーズ拡大のための外部リソースの積極的取り込み、(2)新規顧客ニーズ把握のための社会接点の増加)に下記2点を挙げる。

  1. オープンイノベーションプラットフォームの提供
    (シオノギ製薬「SHIONOGI INNOVATION」、アステラス製薬「a3(エーキューブ)」、武田薬品工業「SKIT Open Innovation、Co-Create Knowledge for Pharma Innovation with Takeda」、大日本住友製薬「PRISM」)
    これまで個別に行われてきた外部の研究機関との連携について、さらなる共同研究の促進、社内研究の活性化のために、オープンイノベーションプラットフォームとして連携窓口を一般公開することで、広く門戸開放している。これによって、企業側・応募者側の双方が、新しい研究チャネルの獲得やそこでの成果を期待する。
  2. コーポレートアクセラレータープログラム注12の実施
    (東京海上日動「東京海上日動アクセラレーター 2017」、森永乳業「MORINAGA ACCELERATOR 2017」、MSD「ヘルステックプログラム」、バイエル薬品「Grant4Apps Accelerator」、武田薬品工業「デジタルアクセラレーター」、田辺三菱製薬「田辺三菱製薬 Accelerator 2018」)
    スタートアップに対して、ビジネス化の検討に必要な各種情報、検討に必要なリソース、専門ノウハウやネットワークなどを提供し、一定期間中にアイデアや成果物のブラッシュアップを行うプログラム。大企業は、これらの育成を通して、新規ビジネスや新規技術と自社の交錯点を作り、自社のイノベーション風土の促進や新しいコア・コンピタンスの醸成につなげる。スタートアップは、自社製品・サービスのさらなる飛躍に向けての手がかりを得る。

これらの取り組みは、いずれもここ数年で始まったものが多く、成果と今後の方向性が問われる時期に差し掛かっている。デジタルヘルス製品・サービスは、品質や機能を追求しすぎると、R&Dコストが嵩み、上市を断念しがちである。そのため、構想のすべてを製品化するのではなく、MVP注13を何にするのかを検討し、それを用いて段階的に進化していくビジネスモデルを設計していくことが重要である。また、他のものと比較すると長期的な取り組みとなることが多いため、それらを踏まえた投資をもとに事業の軸を形成していくことが必要となる。さらに、コラボレーションの際の特許を含めた知財の共有ルールも重要である。一般的な共同研究契約とは異なり、専門部署においてもノウハウが不足している場合が多いので、後で問題とならないようなルールを決めておくべきである。

一方で、スタートアップにとっても、ビジネスノウハウ・市場シェアの獲得や販路の拡大には、自社単体の取り組みでは難しい側面もある。このため、両者のシナジーを最大限に発揮する形で、これらの取り組みが進化していくことが期待される。

4. デジタルヘルスを起点にした我々の生活価値の向上

少子高齢化による医療費負担増に関する問題は言わずもがなであり、今後もデジタルヘルス業界に対する社会ニーズは高まっていくであろう。そこで、大企業とスタートアップの連携も増加するはずだ。

日本のヘルスケアは、これまでコメディカルが中心であり、製薬会社や医療機器メーカーをはじめ、先進技術やICTを扱う企業は外部事業者としての立ち位置であった。しかし、技術が飛躍的に進歩し、リソースの限界で現場業務に支障が生まれている今だからこそ、あらゆる形でのオープンイノベーションやデジタルトランスフォーメーションが推進される可能性が高まってきている。

ヘルスケアは私たちの日常生活に直結しているため、その成果が良くも悪くも体感しやすい。そのため、個人の問題意識も反映されやすく、変革の機会も多いはずだ。今後もこの領域に注目が集まると考えている。

注釈

(注1)オープンイノベーション : 自社技術だけでなく他社や大学などが持つ技術やアイデアを組み合わせ、革新的なビジネスモデルや革新的な研究成果、製品開発につなげるイノベーションの方法論。

(注2)デジタルトランスフォーメーション : ICTや先端技術の浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させるという考え方。

(注3):https://www.fda.gov/medicaldevices/digitalhealth/Open a new window

(注4):https://www.statista.com/statistics/387867/value-of-worldwide-digital-health-market-forecast-by-segment/Open a new window

(注5):http://www.iblc.co.jp/column/031/Open a new window

(注6):http://www.fujitsu.com/downloads/JP/archive/imgjp/group/fri/service/case/rep_vol6/rep01.pdfOpen a new window

(注7):https://www.cbinsights.com/research/digital-health-startups-world-map/Open a new window

(注8):https://japan.cnet.com/article/35109836/2/Open a new window

(注9):http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1708/25/news011.htmlOpen a new window

(注10):https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/miraitousi2017_t.pdfOpen a new window

(注11):https://iotlab.jp/jp/selection.htmlOpen a new window

(注12):企業や組織がスポンサーとなり、起業家やスタートアップとともに共創価値の実現を目標とするプログラムイベント。

(注13):Minimum Viable Product の略で、実用最小限の製品のことを示す。

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【共創のためのハッカソン・アイデアソン】

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片岡 枝里花 コンサルタント顔写真

片岡 枝里花(かたおか えりか)
株式会社富士通総研 コンサルティング本部 産業グループ シニアコンサルタント
薬剤師。製造業・ヘルスケアを中心とした新規事業企画・実行支援に関するコンサルティング業務に従事。