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  5. アイデアを育て事業を起こす―IoT時代の新規事業の要件(3)―

アイデアを育て事業を起こす ―IoT時代の新規事業の要件(3)―

―デジタルビジネスに必要な人材像と組織風土―

2018年1月5日(金曜日)

会社内でこのような話を耳にすることはないだろうか?

「新規事業への取り組みを始めて久しいが、まだ企業としてプロフィットを創出したわけではない。新しいことをやっているというだけで、各所からの問い合わせ対応に忙殺される。ただ、今はその『やった感』だけで評価されている」

―――マネジメント社員

「自分がやりたいアイデア・事業を提案・実行したいと思って新規事業の部署に来たが、実際には『量』が重視されるルーチンの業務や事務処理と『代行』作業ばかり」

―――若手社員

我々もこのような現場に遭遇する機会は少なくない。利益確保が難しい新規事業に集中するのではなく、旧態依然ではあるが、短期的利益が見込める案件に意識が集中した結果、目の前の業績とタスクに追われてしまう。そこには有言不実行と生温さが蔓延、常態化している大企業の姿がある。それらがいつしか制約と化し、あらゆる可能性の芽を摘んでいる。

「アイデアを育て事業を起こす―IoT時代の新規事業の要件」連載の最終回は「デジタルビジネスに必要な人材像と組織風土」をテーマに、組織に必要な4つの要素を述べる。

1.「業務の割合とそのあり方」~業績と変革のバランス~

一般的な企業においては、「業績を支える価値」と、「現在を変革させる価値」の2種類の価値に基づいた業務があるといえる。両方とも経営にとって大切なのは言うまでもないが、次世代の事業を創る際には、「現在を変革させる価値」に沿う必要がある。実は両者の性質は全く異なる。

【図1】業績を支える価値・現在を変革させる価値(推進フロント)
【図1】業績を支える価値・現在を変革させる価値(推進フロント)

【図1】に示すとおり、自社のポートフォリオをもとに、業績を支える価値と、変化を与える領域を明確に分けて、それに応じた報酬形態、推進プロセス、プロジェクト組織のあり方・体制などの構えをとるべきである。

・「業績を支える価値」

「業績を支える価値」は、既定路線上の効果創出が前提となり、失敗が許されないため、マネジメントスタイル(組織構造・体制)は徹底した指示命令によるレビュープロセスに依った色合いが濃い。方法論も旧来培ったプロセスがあり、それにいかに寄せるか、準じるかといったことが求められる。この「業績を支える価値」は言わずもがなであるが、経営を維持するために非常に重要な部分である。

・「現在を変革させる価値」

一方で、次世代の新たな業績を創る「現在を変革させる価値」については、まだ明確なゴールや効果は語りづらい。手を挙げた人が効果を出し続けるまで実施するしかない。そのため自らが思いを持った領域に対して主体的に関わり、いかに「これまでと異なるやり方」を行うかに尽きる。デジタルビジネスもまだ黎明時であり、顧客への対価やビジネスモデルが確立しているところはまだ少ない。異種混合プレーヤーの対話で推進する現場では、日夜、試行錯誤型開発を行っているのが実態である。

【図2】業績を支える価値・現在を変革させる価値(社内体制)
【図2】業績を支える価値・現在を変革させる価値(社内体制)

【図2】に示すとおり、「現在を変革させる価値」は切れ味のある新規分野の開拓と、アイデア自体の新規性を育むため、これまでとは異なる“カオス”な組織をつくり、短い期間で小さな経営体と成功モデルを創り続けることがポイントである。投資の優先度は次世代のビジネスモデル開発に資する戦略・ビジネス性、熱量、ステークホルダーへの深耕度を判断し、自社の投資を判断すべきである。しかし、一部の大企業は投資の振り分け方が不明瞭で、熱量も戦略性もなくリターンを意図しない「予算消化」的投資の活用が実際に多い。確かに、デジタルビジネスにおいて、目先のリターンは難しく読みにくいが、目的を持たない投資やコスト体制は新たな業績を創る社内のあり方、体制・仕組み構築が重要である。

・「犠牲と意志のバランス」~犠牲のみを強いる組織は衰退する~

どの価値領域においても共通かつ重要なテーマが「犠牲と意志のバランス」である。マネージャー層によるマネジメントにおいて、量のみが重視される創造性を欠く作業・仕事にだけディレクションを集中した結果、若手社員や一部の社員が駒のように扱われ、目を覆いたくなる場面も少なくない。本来は旧態依然とした領域の業務を本人が意図せず業績のために犠牲を強いてアサインされる場合でも、自らの工夫で、発展的な変革領域に転嫁させるのが理想だが、量が前面に立ちすぎると、その改善の意思すら弱まり、消えてしまう。そのような組織は若手が去り、結果的に闊達さもなくなり、早晩衰退するとも言える。

マネージャー層は若手の意思を尊重し、その実現に向けた一定割合の機会の創出が必要である。例えば、業績を支える価値をコアに置きながらも、業務のうち5~10%は「現在を変革させる価値」にアサインするなど、小さくても責任とワクワクする場の提供、そして達成経験の提供が重要だ。そのためにはスキルだけでなく、どのような人となりなのか、何をモチベーションとしているのか、どのような状況・瞬間に熱量が上がるのか、といったパーソナリティにうまく向き合うことが大切である。

与えられた業務をこなして犠牲的達成感を得るような働き方ではなく、「やりたいこと」を追求し、常にその表現の場を自らが求められる環境に置くことがポイントである。マネージャー層がそのような経験をいかに提供できるかが今後の会社の成長の要とも言える。マネージャー層からは「使える若手がいない」、若手からは「面白い仕事がない」という声がよく聞こえる。しかし結局のところ、どの組織に属していようと、自らがやりたい環境を「開発する」、必要な状況・ヒトを「育てる」という意識と行動を持たない限り、両者が望む環境は成立しない。その行動こそが組織のコアとなる部分を創り得る。単なる労働量の補完・補強のための採用・調達にのみ頼るのでは、軟弱な土壌しか生まない。

2.「関係性のあり方」~対話と自律。そして闊達感あるカオス~

この「現在を変革させる価値」においては、一定のレポートラインはありながらも、それぞれスキルや年齢、雇用形態などが異なるメンバーがフラットな立場で存在する構成が望ましいと言える。

【図3】アイデアのユニーク度合とプレーヤーの多様性の相関イメージ
【図3】アイデアのユニーク度合とプレーヤーの多様性の相関イメージ

いつもと同じメンバーとアイデアを出し合えば、勝手がわかっている分、話し合いはスムーズかもしれないが、想定の範囲内を脱しにくい。昨今のデジタルビジネスにおいては、モバイル・SNS中心のビジネスモデルが多く、若者こそ感度が高く、意見として面白い場合が多い。新規プロジェクトでは、参加者に社会人限定という制約を設けず、学生をアイデアマン・評価者・エンジニアとしてアサインする場合が増えている。

【写真1】NPOハナラボとのプロトタイプ検討風景
【写真1】NPOハナラボとのプロトタイプ検討風景
(学生NPOハナラボとの共同プロジェクト(NPOハナラボHPより))

大企業の正社員で固められたプロジェクトは「それなり」のプロジェクトとなる場合が多く面白みには欠ける。サイクルに変化を与えながら、多様なプレーヤーを巻き込み、その中ではいかに関係者のお互いを認め・尊重し合えるかが重要となる。上の立場の者から下の立場の者への指示命令で推進するのではなく、異なる属性のプレーヤー同士が意見を発し、役職者、年長者、若者・初心者が対等である姿が理想形だと言える。(パートナー企業の巻き込み方については「アイデアを育て事業を起こす-IoT時代の新規事業の要件(2)-」参照)アイデアには正解はなく、個々が自律した意見を述べるなどの振る舞いが重要である。

【図4】デジタルビジネス時代の対話とステークホルダーのあり方
【図4】デジタルビジネス時代の対話とステークホルダーのあり方

また、大企業で起こりがちなのが、「新しいことを行う人への否定派の存在」である。実際に否定すればするだけ旧態派に陥るという客観的な自覚が必要だ。会社の成長のためには、新しいことを推進している人をどれだけ受け入れるかが重要な視点となる。デジタルビジネスにおいては、立場の違う者同士がどれだけ異論と弱点を議論し合えるかが組織強度の尺度と思ってよい。(実際に筆者間も年齢差はありながらも、顧客の前で喧嘩と思われる程度に頻繁にお互い異論を言い合っているが、それでよい。)

3.「推進のあり方」~「とりあえずやる」と「最後までやる」~

とはいえ、新規事業を創るということは決して簡単ではない。プロジェクトの際は役割も規定しづらく「側だけなぞる人」と「守備範囲を固める人」は不要であり、それぞれがユーザーや、経営、エンジニア、デザイン視点相互を持って柔軟に取り組むべきである。面白そうであれば「とりあえず」手を動かして作ってみる、という試行錯誤とキャッチーさが重要である。企業によっては、短期的なリターンを追求するばかりに、市場調査や投資計画を重視し過ぎ、「紙上」の議論で足踏みした結果、頓挫してしまう場面が多いのではないだろうか。実証実験でも「とりあえずやってみないと何も見えない」のであり、トライを尊重する姿勢は必要である。

ただし、責任を持って最後まで事業を創り継続的な事業を運営し続けることは最も重要である。しかし、大企業ではなかなか推進力のあるプレーヤーが少ないのが実態である。

【図5】デジタルビジネスの新規事業の事業化に求められる9つの人材要件
【図5】デジタルビジネスの新規事業の事業化に求められる9つの人材要件

【図5】は我々が関与してきた顧客から抽出した、企業内で事業を推進する人材に求められる要件である。リーダー的存在の者は、新規事業を実現するまでどのような手段を使っても「最後まで事業化の責任を負う力」を持つことが求められる。そのうえでサービスや投資のスキーム、技術との繋ぎなどを意識してチームをうまくマネジメントをすることがポイントとなる。もちろんデジタルビジネスはまだ黎明期のため成功確率は高いわけではない。しかし、無用な外圧と適切なフィードバックをうまく取捨選択し、1回の成功失敗に一喜一憂し過ぎず、失敗を肯定する(再チャレンジして結果を残す人ほど奨励)風土が大切となる。

4.「自らの動機づけ」~答えは初心者と若者っている~

・愛着こそすべて

結局のところ、新規製品・サービスについて、自分の内面のストーリー性との関連がないと、開発期間を乗り切れないといっても過言ではない。苦しい局面を迎えるステージもあるが、いかにロジック立てた準備をしたところで、内面の動機づけが弱い場合は、ロジックだけの議論で思考停止してしまう。新しい可能性の模索に注力できなくなってしまうのだ。

【図6】新しい製品・サービスアイデンティティの必要な要素
【図6】新しい製品・サービスアイデンティティの必要な要素

我々のコンサルティングでは、まだプロトタイプも見えていない段階の新しいプロダクトやサービスを検討する際の初期に、必要最小限の機能面と個人の愛着面の両面からアイデンティティを検討する場合が多い。その際に重要視しているのは「私」の視点である。何事においても、自分事になって初めてドライブがかかる。

【写真2】実際に行った某新規製品・サービスアイデンティティ検討時の様子
【写真2】実際に行った某新規製品・サービスアイデンティティ検討時の様子

上記【写真2】の取り組みでは、メンバーそれぞれが愛着を持つものを写真に撮り、愛着を持っている理由に着想して新製品・サービスのゴール設定の共感とそのヒントを探る検討を行っている。

・答えは初心者と若者が持っている

ここでいう初心者と若者というのは単純に技術の習熟度や年齢の若さなどを言っているのではない。何か新しいことを生み出そうとするときには、凝り固まった既知のゴールに向けて方法論や考えを押し込もうとする熟練者は不要である。未知なことに対して「こうかもしれない」「こうなったら楽しいのではないのかな」といった可能性の模索をやめない人こそ、面白いアイデアを生み、人を巻き込むことができる。組織に所属する人や働くための環境、個々人の心境など、状況は流動的であり、機械のようなマネジメントはできない。従来の仕事のやり方、自分の成功体験の「焼き直し」の量を「こなす」仕事のやり方では、人はついてこない。「アイデアを育て事業を起こす」ためには、異なる立場に立つ誰しもが公平に議論を尽くし、密度の濃い検討ができる土壌を作っていくことこそが不可欠なのだ。

参考文献

ジョナサン・トレバー,琴坂 将広.「業績を担う人材」と「変革を担う人材」、組織変革で二つの異なる才能を共存させる.ハーバードビジネスレビュー. 2017年04月28日

シリーズ

アイデアを育て事業を起こす―IoT時代の新規事業の要件―
アイデアを育て事業を起こす―IoT時代の新規事業の要件(2)―デジタルビジネスの現実的な組織体制と収益構造のあり方を目指して

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