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移住者呼び込みの戦略─地域に必要な人材を自治体が選抜

2017年9月28日(木曜日)

移住者のターゲットを絞る戦略

近年は東京圏への人口移動が増える一方、人口減少に悩む地方では移住者の呼び込み競争が激しくなっている。過疎地などでは移住者呼び込みのため、手厚い経済的支援を行っている自治体は少なくない。こうした施策の多くは、広く地域への移住者を求めるものであるが、ターゲットが広くなると、訴える力が弱くなるという難点がある。

これに対し、移住者呼び込みの戦略として最近注目されているのは、自治体にとって来てもらいたい人材のターゲットを絞り、重点的に支援するというものである。会社が中途の人材募集を行う際、必要な人材のスペックを明確に示すのと同様の考え方である。

このタイプの人材を呼び込む策として、第一に、現に手に職を持つ人にターゲットを絞り、地域産業振興などに資する人材を優遇して迎えるというものがある。第二に、地域活性化に資する具体的な事業の提案を募集し、優秀者に活動資金を与え、実際に起業してもらうというものがある。第三に、地域で不足する職種、例えば介護職に就いてもらう条件で、シングルマザーなど特定の人に来てもらうというものがある。

いずれもターゲットは絞られるが、ターゲットになる人に深く訴え、挑戦してみようという気を起こさせる点で共通している。自治体にとっては、第一のタイプは手に職を持っているため、職の心配をする必要がなく、第二のタイプはその提案を実現するための支援を行えばよい。第三のタイプは、働く場はすでに決まっている。いずれも職がないことによって、移住する人がいないとの心配をする必要がない。

第一のタイプの代表としては、大分県竹田市で行われている伝統工芸職人の呼び込みがある。第二のタイプの代表としては、島根県江津市で行われているビジネスプランコンテストがある。第三のタイプの代表としては、島根県浜田市のシングルペアレントの呼び込みがある。

大分県竹田市の伝統工芸職人の呼び込み

竹田市は大分県南西部に位置し、熊本県、宮崎県に隣接する。中山間地域で、75歳以上の割合が全国1位になるなど、高齢化と人口減少が著しく進展している。2009年に竹田市新生ビジョンが掲げられ、それを推し進める政策の1つとして、「農村回帰宣言」が提唱された。都会から農村への移住・定住の受け皿となることで、竹田市の再生を図っていくというものである。具体的には、移住者へのワンストップサービス、空き家の改修費補助、お試し暮らし助成金などの施策を打ち出した。

中でも特徴的な施策が、竹工芸・紙すき・陶芸などの分野で、空き家・空き店舗を活用して起業する場合の補助制度(歴史・文化資源活用型起業支援事業補助金、最大100万円)である。移住者を募る場合にネックになるのが、職の確保である。竹田市のこの仕組みは、地域の伝統工芸の分野で、すでに手に職のある人に移住してもらうことにより、職の問題を解決しようというものである。2012年には全国に知られる大阪府出身の竹工芸家が移住するなど、これまでに10件以上の補助を行っている。さらに、職人や芸術家の移住を支援するため、2014年には、移転して使わなくなった中学校の校舎に、レンタル工房施設である「竹田総合学院」を開設した。

これまでに250人以上が移住したが、その多くが40歳代までと若く、仕事は農業、観光のほか、竹工芸や陶芸などの職人や芸術家となっている。竹田市では、伝統工芸職人や芸術家へのサポートが充実したまちというイメージが定着し、移住者を募る他地域との差別化に成功し、人が人を呼ぶ好循環が形成されている。

島根県江津市のビジネスプランコンテスト

江津市は島根県西部に位置し、東京からの移動時間が一番長いといわれる場所にある。島根県内の自治体の中でも早くから人口減少、高齢化が進行していた。江津市の合併前の旧桜絵町は1990年代前半に日本でも最も早く定住支援を掲げた自治体として知られる。空き家バンクを通じた移住受け入れに熱心だったが、合併後も引き継がれ、空き家の利用実績はこれまで250件以上にのぼる。

リーマンショックの前後には地場産業の衰退や誘致企業撤退などにより、多くの雇用が失われた。そこで江津市では、これまでの定住支援の実績を活かし、新たな雇用創出策を検討することになった。そこで出てきたアイディアが、江津市で起業するビジネスプランのアイディアをコンテスト形式で募るというものであった(「Go-Con」)。地域の課題解決につながるようなプランを提案してもらい、その後の起業を支援するものである。大賞受賞者には賞金100万円が贈られ、受賞者は1年間、市内で活動しなければならない。

2010年に開催された初のビジネスプランコンテスト「Go-Con2010」では、全国から25件の応募を集め、4名が受賞した。その後、ビジネスプランコンテストは江津市の恒例となり、2016年に7回目の開催を数えるまでとなった。起業準備中の受賞者などの受け皿としては、「NPO法人てごねっと岩見」が2011年に設立された。これまで、若者と地域企業をつなぐインターンシップ事業、竹炭を使った鶏卵づくり、空き家のリノベーションや家具のデザイン・制作、江津産の大麦や県内産の米・麹、ゆずなどを使ったクラフトビール製造など、地域に密着したビジネスプランが実現された。

こうして江津市には、目標を持った意欲の高い移住者が集まってくる場となった。また、受賞者の活動を見て移住してくる人や、面白そうなまちだと移住してくる人が増えるなどの波及効果も生じるようになった。江津市の商店街では、ビジネスプランコンテストの受賞者も含め、ここ数年で20以上の店舗が開業するなどの効果が生まれている。

島根県浜田市のシングルペアレントの呼び込み

浜田市は島根県西部に位置するが、2014年5月に「増田レポート」で「消滅可能性都市」とされたことで危機感が高まった。日本創生会議(増田寛也座長)が発表した、いわゆる「増田レポート」では、20歳から39歳までの女性の数が、2010年から2040年にかけて半分以下に減少する896自治体が「消滅可能性都市」と名指しされた。

これに対応するため、市の女性職員有志によるプロジェクトが立ち上げられた。そこで出てきた提言の中に、独り親に対する支援の充実があったが、他方、浜田市では介護職の人材が足りないという問題を抱えていたことがあり、この二つを組み合わせるアイディアが浮かんだ。すなわち、独り親の移住者を募集して、介護サービス事業所の職を紹介した上、養育費支給など手厚い支援を行うというものである。

2015年度に開始されたこの仕組みは、高校生以下の子がいる独り親が対象で、1年間の研修期間内に、月給15万円以上、養育支援金月額3万円、一時金130万円(引越しの支度金30万円、1年間勤務した時点での奨励金100万円)を支給する。このほか、家賃補助月額の2分の1(上限2万円)、自動車を保有していない場合は中古自動車の無償提供を受けることができる。

独り親が働く介護サービス事業所は、特別養護老人ホームなどである。事業所は独り親に介護初任者研修を受けさせるが、その費用としては市が事業所に月額3万円を支給する。最初の1年間で対象者が受け取る金額は400万円近くとなる(うち、一時金については事業者による支払い)。

初年度はシングルマザー4人が採用となった(その後1人は辞退)。現在は、9世帯21人が移住し、6人が介護施設で働いている。これまで浜田市でも、移住者の募集に力を入れてきたが、特徴作りが難しかった。都会では仕事を見つけにくい独り親世帯にターゲットを絞って、手厚く支援するというアイディアは初めてだったことで、全国的に注目され、希望者が多く現れた。

竹田市の伝統工芸職人の呼び込みや、江津市の起業希望者の呼び込みとは異なるが、やはり、移住者の呼び込みには、特徴ある働きかけをして差別化することが1つの手であることがわかる。

地域に必要な人材を確保する手法

以上、移住促進策として、ターゲットを絞る戦略を紹介してきた。江津市、竹田市とも、施策がきっかけとなって興味を持つ移住者が集まる効果が生まれており、人が人を呼ぶ好循環が形成されつつある。インキュベーション施設として、竹田市では竹田総合学院、江津市ではてごねっと石見を設置しており、起業に向けた訓練を受けたり人脈を作ったりすることができるようになっている点も、移住希望者にとっては好都合である。

浜田市の場合は、不足する介護職を埋めるためシングルペアレントに目をつけた点がユニークであるが、長期的に定着していくかについては今後の課題である。介護職に限らず、特定の職種についてもらうため職業訓練を行う前提で、地域に必要な人材を確保するという戦略は、今後、多方面で応用可能と考えられる。

江津市や竹田市では起業家という職種の募集であり、浜田市では介護職という職種の募集であり、2つの方向性は一見異なっているように見えるが、地域に必要な人材を育成も含め募集するという点では共通点を持っている。移住者をただ待つだけではなく、ターゲットを絞って働きかける戦略は、地域活性化の有効な施策となりつつある。

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【調査・研究】


米山 秀隆(よねやま ひでたか)
株式会社富士通総研 経済研究所 主席研究員
1989年 筑波大学大学院経営・政策科学研究科修了、(株)富士総合研究所を経て、1996年 (株)富士通総研入社、2007年~2010年3月 慶応義塾大学グローバルセキュリティ研究所客員研究員

【執筆活動】
限界マンション(日本経済新聞出版社、2015年)
空き家急増の真実(日本経済新聞出版社、2012年)
ほか多数。
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