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「地方創生は今がラストチャンス!?」だからこそ、考えるべきこと

2017年9月11日(月曜日)

「地方創生の実現」のもと、全国各地で様々な取り組みが始まってから今年度で3年目を迎えます。全国の自治体で策定された「まち・ひと・しごと創生総合戦略」において、2015年度から5年後の2020年に政策目標を設定していることからすれば、ちょうど折り返し地点に差し掛かったことになり、「戦略フェーズ」から「実行フェーズ(結果が求められるフェーズ)」へ移行したところではないでしょうか。

また、これから我が国で開催される、2019年ラグビーワールドカップ、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会等の国際的なスポーツイベントに向けて、様々な計画や事業を考えている地域も多いのではないでしょうか。

2008年に始まった我が国の人口減少が、今後加速度的に進むと言われている今、地方創生として折り返し地点にある今、そして国際的にも注目が集まるイベントに国を挙げて取り組まれている今、数年間のうちに、これほどの機会が同時に訪れている今が、“加速度的”に地方創生を進めるうえでは「ラストチャンス」になるかもしれません。

本稿では、このようなタイミングにいる今だからこそ、「地方創生」に向けて、地域が考えるべきことは何かについて、筆者の経験をもとに述べさせていただきたいと思います。

1. 「地方創生」が持つ意味を考える

「地域活性化」、「地方創生」等々、類する表現は多数ありますが、これらの定義は何かと考えると、筆者も明確な回答は持っていません。

ただ、“これから”人口減少社会、高齢社会等といった様々な局面を迎えるにあたって、なぜ「地方創生」なのか、改めて考えてみました。

その1つが、過去・現在・将来を見た時間軸です。昔、地域にあった活気を取り戻していこうという、「過去」を基準に考えるのが「地域活性化」であるとするならば、今ある資源を活かして、住みたいと思える、希望を持てる地域を創っていこうという、「将来」を基準として考えるのが「地方創生」ではないかと解釈しています。また、これまで、全国各地で「地域活性化」に取り組まれてきましたが、これまでの成功体験をもとに目の前の地域課題を1つ1つ解決する対症療法的になっていたものも多かったかもしれません。しかし、その地域課題も、近年では複合的に絡み合い、何から手を付ければ良いか分からないという声もよく聞こえてきます。もしそうであれば、“将来、こんな地域に暮らしたい”という価値から、解決すべき課題を関連づけることによって、方向性がぶれることなく進めていくことができるのではないか、これが、明るい将来を見据えた「地方創生」が意味することではないかと考えます。

【図1】「地域活性化」と「地方創生」
【図1】「地域活性化」と「地方創生」

このように考えた時、筆者は、今取り組む「地方創生」には、特に、次の2つの問題があると考えています。

2. 地方創生の2つの問題点

(1) 地域を知ること、戦略がなければ始まらない

もし、「地方創生」に取り組むならば、将来の姿に向かっていくための方向性やシナリオである「戦略」が必要であり、これがなければ、「地方創生」は始まりません。現在、47都道府県、1,737市区町村(99.8%)で、平成27年度中に地方版総合戦略が策定済みとなっていますが、戦略策定の観点は様々です。

前述のとおり、様々な地域課題が複合的に絡み合っているから、解決策を見出せない、考えられない(=戦略が立てられない)という声も少なくありません。その際、筆者は、地域を「立地」「産業」「生活」という3つのレイヤーに分けて、それぞれ「ヒト」「カネ」「モノ」の好循環をどう生み出していくかという戦略を考える基本ルールを提案しています。

【図2】地域の3つレイヤー
【図2】地域の3つレイヤー

まず、この地域はどのような立地なのか、この立地にどのような産業が成り立っているのか、この産業にどのような生活者が支えられているのかというように、「地域を知る」ことから始めます。そして、将来、地域でどのような生活者がいて、どのような生活が実現しているのか、その生活を支えるためにはどのような産業構造となればよいのか、生活や産業を支えるために必要な資源・インフラはどのようなものか、まさに「戦略を練る」のです。このプロセスを言い換えると、「地域を知る」プロセスで作成されるものが人口ビジョンとなり、「戦略を練る」プロセスで作成されるものが地方版総合戦略となり、このプロセスを繰り返す(見直していく)ことで、将来の姿に向けた戦略がより洗練されたものになっていくと考えています。

(2) 実行していく「主体」は誰か

今の「地方創生」の流れから見ると、戦略フェーズから、すでに実行フェーズへと移行しており、そろそろ結果も求められ始めています。

このような中、早く事業を立ち上げようとする様々な検討が見られます。ただ、そこで気をつけなくてはならないのは、顧客等のターゲット対してサービス(価値)を提供する「主体」が不在の事業は成り立たないということです。

これは当然のように思われますが、これまで、“うちには活用できるこんな資源がある”、“誰かがやってくれるなら、うちはこんな技術(シーズ)がある”という流れで、「主体」がいないまま進められ、結局、事業化されずに頓挫してしまう事例も少なくないのです。

【図3】主体が不在の事業
【図3】主体が不在の事業

例えば、数年前、スマートコミュニティあるいはスマートシティというコンセプトのもとに、多くの事業者がビジネス機会を求めて参画したプロジェクトが全国で取り組まれました。ただし、その多くは、今に繋がっている技術が開発されたかもしれませんが、何となく終わってしまった?という感じも否めません。この場合も、関係した方々にうかがってみると、参画する事業者の多くが技術・インフラを提供するシーズ側で、それを活用したサービスを考えようというニーズを持った主体がいなかったのです。

では、なぜ、このように主体不在のまま進んでしまうのかを考えると、事業への関与の有無に関わらず、議論に参加する方々の総論賛成あるいは盛り上がりのままに進めてしまう、関わるステークホルダーが増えるほど、誰かがやってくれるだろうという流れで見切り発車してしまう、(補助金の申請、予算の確保等に)時間が無いから少しでも先に進めてしまう等、様々な理由が考えられます。逆に言えば、事業の主体を含めた核となる最小限のステークホルダーによって、時間軸をもって戦略的に考えていかなければ、同じことが繰り返されてしまうのです。

これから地域で新しい事業を創出しよう、取り組んでいこうというとき、「共創」というキーワードがよく使用されます。様々な価値観を持った生活者のニーズや変化スピードに対応していくためには、顧客を含めた様々なステークホルダーとともに価値を創造していく「共創」は、今の時代には重要です。ただ、目的を誤ると、主体不在の事業を創ってしまうことも多いのです。

例えば、同じテーマを共有し機運を醸成していこう、とりあえずのアイデア出しでも“共創”が使われます。最近はプロのファシリテーターによって、ある程度の盛り上がりを見せるので、機運醸成やアイデア出しとしては大成功かもしれません。しかし、間違ってはいけないのは、この場合の参加者は、事業に関わる人、関わらない人、様々な立場の人がいるオープンな場の議論に過ぎないということです。

もし今、実行フェーズとして「共創」を使うのであれば、事業の「主体」となる人や事業者が中心となって、想いを共有するステークホルダーと、同じ課題に対してアイデアを出し合っていくことの方が重要であって、小さく地道な「共創」に取り組んでいくべきなのではないでしょうか。

3. 地方創生の取り組み事例

ここで、これまで筆者が関わったプロジェクトの事例を2つ紹介させていただきます。いずれも、明確なコンセプトがあり、主体が明確かつ存在し、そのうえで共創があったという点が共通しています。

【事例1】地域コミュニティの活性化事業「ミナヨク」(東京都港区麻布地区)

本事例は、近年、全国的な課題となっている地域コミュニティの形成を支援したものです。特に都市部では、高層マンション建設による急速な住民の増加等、様々な要因によって深刻化しており、このような状況を受け、平成27年度、「今の時代に合った新しい地域づくりを考えること」「次世代のまちの担い手を発掘・育成すること」を目的に、人材育成講座に取り組み、現在第3期目に入りました。

通常、このような講座は、公平性・多様性等の観点から幅広く受講生を募集し、万遍なく行き届いた内容になってしまうため、受講生にとって未消化のまま終了してしまう、そして出されたアイデアもその場限りとなることが少なくありませんが、本事例の場合は、講座終了後も、受講生が主体となった地域コミュニティの活動へとつながっています。

本事例のポイントと結果は、次のとおりです。

【本事例のポイント】

対象を絞り込む:
港区に在住・在勤・在学している20~40代を対象
自分ゴトとして考えてもらう:
自身が参加したいと思える興味・関心ごとを、フィールドワーク等を通じて感じとり、アイデアを検討
実践してもらう:
机上の空論で終わらせないために、できる限り実践する場や機会、関係者をつなぎ、実践・検証

矢印

【結果】

  • 第1期受講生は、港区在住・在勤等の28名が集まり、このうち18名が講座を修了。
  • 対象を若い世代に絞ったことによって、既存の組織や仕組みにとらわれない柔軟なアイデアが提案。
  • このアイデアの1つは、それを見た地域の企業の協力のもとに「はじめてのおつかい」として、赤坂アークヒルズ内アーク・カラヤン広場で開催されるヒルズマルシェの場で実践。その後も、第1期受講生が主体となって第2回が開催。
  • その他、受講生も地域のお祭りやイベント等で活動を始める等、継続した地域コミュニティ活動へと成長。

【事例2】新たな内発型産業の創出を目指したエネルギー事業の立ち上げ(鳥取県米子市)

本事例は、地域の経済成長を目指すべく、内発型産業を創出するため、新たなエネルギー事業の立ち上げを支援したものです。前述のとおり、これまでスマートコミュニティ等の取り組みでは、主体不在で頓挫してしまうことも少なくなくなかった中で、本事例の場合は、事業の主体の立ち上げについて、関わるステークホルダーが積極的に関与しながら検討が進められました。この結果、主体となる「ローカルエナジー株式会社」が平成27年12月に設立され、現在も順調に電力の小売・卸売事業を中心に事業を拡大しています。

本事例のポイントと結果は、次のとおりです。

【本事例のポイント】

主体となり得るステークホルダーへアプローチする:
旗振り役となった米子市が中心となり、電力小売全面自由化を見据えて検討を進めていた地元企業や既存のエネルギー関連企業(ガスの燃料供給等)等の主体となり得る企業に対して、迅速にアプローチ。
ステークホルダーのビジネスと役割を明確にする:
想定される事業の主体の立ち上げを前提に、ステークホルダーのメリットやビジネスと役割を整理したうえで、具体的な検討へと移行。
スモールスタートから展開する:
今後の事業の展開を描きつつ、各社の既存リソースを活かしてできることから実践。

矢印

【結果】

  • 主体となり得る地元企業が集まることによって、事業に向けて現実的な議論が実施。
  • 事業の主体を想定し、それを中心としたステークホルダーの関わりを示すことによって、各社が自社のメリットとビジネスを捉えやすくなり、主体の立ち上げに向けた理解も深耕。
  • 検討から見えてきた課題やリスク等を踏まえて、自治体と民間企業出資による「ローカルエナジー株式会社」が設立され、まずは電力の小売・卸売事業を中心にスタートし、今後、熱供給事業も視野に入れて展開中。

(詳細は、「知創の杜2015 vol.9」参照)

【図4】ローカルエナジー株式会社が目指すサービスモデル
【図4】ローカルエナジー株式会社が目指すサービスモデル
資料:米子市講演資料をもとに作成

4. 今だからこそ、考えなければいけないこと

(1) 今一度、戦略を見直す

「地方創生」が取り組まれてから3年が経過し、ちょうど折り返し地点となりました。国では社会動向や進展する技術開発等の変化に応じて、「地方創生」における基本方針も見直されていますが、全国の自治体で策定された戦略はどうでしょうか?例えば、今、“IoTや人工知能(AI)を活用した新たな技術を活用したビジネスを支援します”、“2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されるので、スポーツ資源を活用した取り組みを支援します”等と言われても、戦略策定当時に考えていたでしょうか?

これまで積み重ねてきた事業があるにもかかわらず、目の前の一時的な予算の獲得に終始してしまうなど、国の政策に惑わされていないでしょうか?次の一手を考えるために、国の動向を把握しておくことは必要かもしれませんが、何か方向性が変わったからといって、戦略がぶれてはならないのです。

ただし、もし、今ある戦略が社会の変化に合っていないと判断するならば、目の前の予算に紐づく事業を考えるよりも、将来の姿に向けた戦略を今一度、中長期的な視点をもって確認し修正していくことの方が重要です。

元々、2020年、さらにその数十年先を目指して策定された戦略です。策定した当時よりも、今の方が情報も多く、経験も積んでいるはずですので、将来の姿を実現するためのより良い戦術が考えられるはずなのです。

1つのエピソードですが、ある自治体の2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催に向けた行動計画の作成に関わった際、検討に参加いただいた地元関係者から、“2020年がゴールではなくて、2020年がスタートとなる、そんな計画を今から考える必要がある”という意見がありました。このような中長期的な視野をもって意見できる人は地域に必ずいるはずです。このような方々と共に考えていけばきっとうまくいくのではないでしょうか。

(2) 「主体」中心の事業を創る

“地域の取り組みは時間がかかるものだ、だからしっかりと考えて実行に移すべきだ”、確かにそのとおりです。ただし、そこには、“誰が”考え実行していくかが重要なのです。発意がある人や事業者等の意見を傾聴し、このような「主体」となり得る方々の地に足の着いた「共創」から始めていくことが重要なのです。そして、その「主体」が中心となった、身の丈に合った事業によって、小さくても利益を生み出し、補助金に頼らなくても回していける事業に成長させていくのです。

これを考える際、筆者は「サービスモデル」の作成を提案しています(【図4】)。

中長期的な視点に立って、今、取り組もうとしていることは、ターゲット(誰)に対して、どのような価値を提供するものであるか、それを共有していくことが必要です。もし、地域政策の一環で自治体が旗振り役となって進めるのならば、自治体がそれを明確に示す必要があります。

ここでは、まだ「総論賛成」の域を出ないため、では実際に、自分は誰とビジネス(取引)をするのかを、明確にしていく必要があります。まずはターゲットに対してサービスを提供する主体はいるのか、いないならばどうするのか、そして主体とステークホルダーあるいはステークホルダー間との関係性を、サービスと対価で示していきます。これによって、ステークホルダーの立ち位置や、誰から収益を得て、何にコストがかかるのかが明確になるため、無理のないスタート地点を意識しやすくなります。おそらく、前述の中長期視点に立つと、ターゲットも広く、かつ事業も大規模なものになりがちで、すぐにそれを実現することは大変難しいと思います。例えば、主体あるいはステークホルダーが有する既存の顧客をターゲットとして始められないか等、すでにあるリソースを活かして、できるところから始める、そのような検討がサービスモデルを起点に始められ、徐々にターゲットを増やしたり、新たなサービスを付加したりしながら、大きな方向性を揺れ動かさずに、書き換えていくことも可能と考えています。

【図5】サービスモデルイメージ
【図5】サービスモデルイメージ

5. 地方創生は今がラストチャンス

「地方創生」について筆者なりに考えた戦略的な解釈を踏まえ、今だからこそ、“特に”考えなければいけないと思うことを、コンサルタントとして地域に関わっている筆者の「じぶんゴト」として述べました。共感いただけた方もいれば、疑問を持った方もおられると思いますが、最終的には、地域活性化だろうと、地方創生だろうと、関わる住民や団体、事業者、自治体、そしてコンサルタントも、「じぶんゴト」として責任を持って考え、取り組んでいかなければ、将来、何も変えることはできないと、筆者は考えています。

これが正しいという答えはありません。是非、これをお読みいただく方々も、今が“ラストチャンス”だという気持ちで、改めて「じぶんゴト」として、将来の地域のことを考えてみませんか?

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上保 裕典

上保 裕典(うわぼ ゆうすけ)
株式会社富士通総研 コンサルティング本部 公共・地域政策グループ シニアマネジングコンサルタント
1995年 建設コンサルタント入社。農業農村に関わる計画・設計業務に従事。2006年 株式会社富士通総研入社。官公庁に対する地域振興、産業振興に関する計画策定コンサルティングに従事。近年、地域の経済成長戦略、地域における官民連携による新ビジネスの立ち上げに関するコンサルティングを中心に活動中。