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フォーカス「豊かな生活創造を支える地域の産業振興」

2017年9月7日(木曜日)

【フォーカス】シリーズでは、旬のテーマに取り組むコンサルタントを対談形式で紹介します。

各地の地域活性化施策や顧客の課題意識・ニーズはどのように変化しているのでしょうか?また、様々なステークホルダーが共創するビジョンづくりは実際どのように行われるのでしょうか?

本対談では、「豊かな生活創造を支える地域の産業振興」というテーマで、鳥取県生活環境部環境立県推進課の足立課長補佐と富士通総研(以下、FRI)の櫻田マネジングコンサルタント、川口シニアコンサルタント、森田コンサルタントに語っていただきました。進行役は高橋プリンシパルコンサルタントです。

1. 各地の地域活性化施策や顧客の課題意識・ニーズは変化している

【高橋】
本日は「豊かな生活創造を支える地域の産業振興」というテーマでお話しいただきます。昨今、地域活性化施策をめぐる環境が変わってきて、以前は例えばイベントの集客目標を1,000人から1,500人にしようという指標などが普通でしたが、最近はそれを行うことでどのような成果や価値があるのかというアウトカム指標になり、進捗管理も厳しくなっています。計画づくりも多様な部署の人が集まって意見を出し合っていくこと、コンサルタントも一緒になってスクラムを組んで取り組んでいくことが求められるようになってきました。FRIの皆さんはこれまでの経験から、各地が取り組む地域活性化施策やお客様の課題意識・ニーズの変化について、どのように感じていますか?

【櫻田】
地域活性化というと、まず、どうやってたくさん人を呼び込むかという方法論から語られることが多かったのではないかと思います。案内板やマップの整備、イベントの開催などに注力してきたものの、負担ばかり大きい割に実入りが少なく、疲弊してしまうという例をよく見かけます。そうした状況に対して我々は、活性化の担い手になるだろう、地域の世代交代を狙う若手層や新たに移住してきた方々を巻き込んで、なぜ地域に人を呼び込むのか、どんな効果を狙うのか、そのために何をすべきなのか、この地域で使える資源は何なのかという根本を考えることから始めるようにしています。例えば北海道知内町では、海岸沿いにある高齢化が進む小さな限界集落において、観光を切り口に、移住促進や安心して暮らせる生活基盤づくりを上手に展開しています。具体的な事業として、空き家を活用したお試し暮らしを展開して、移住者を呼び込んだり、高台にある廃校小学校を登山客の受付・宿泊場所として再整備しつつ、津波発生時の防災拠点としても機能確保を図ったりといったことが挙げられます。単純に、一千万人の観光集客を目指すということではなく、それが地域の方々にとって、どのような経済的・社会的効果につながるのかということを改めて考える時が来ているのではないかと思います。

【高橋】
「そもそも何のために」というところはアイデアソン( 注1 )でも大事だと思いますが、高知や新潟などで関わっている川口さんはいかがですか?

【川口】
そうですね、「私たちも何を目指しているのか?今何が起こっているのか?」というところから、本当にアイデアソンでよいかも含めて考えることを大事にしています。その中で感じるのは、例えば地域資源を使った新サービスのアイデア創出がしたい、といった場合でも、アイデア自体はもとより、新しいことを考えられる地域の人材や人材同士の関係づくり、さらには自治体が個々のイベントを仕掛けなくてもそれらがどんどん生まれる地域になる-“文化づくり”をしたいという自治体が増えていると感じています。そういう意味では、1、2日のワークショップであるアイデアソンのイベントとしての評価とは別に、それがどう中長期目標につながるか、数値指標で成果を表すことについてはまだ模索しています。

【高橋】
森田さんは以前から薩摩川内市の地方創生プロジェクトと関わっていますが、環境の変化や課題認識についてお話しいただけますか?

【森田】
地方創生プロジェクトの評価指標として、確かにアウトカム指標を求める声が強くなっていると思います。私は薩摩川内市において、地域資源である竹を活用した産業振興プロジェクトの支援に携わっていますが、2年前の立ち上げ当初は地方創生50選にも選ばれて全国的に注目を集めたものの、最近は厳しい評価を頂いています。このプロジェクトでは、産学官金などによる協議会である「薩摩川内市竹バイオマス産業都市協議会」(市内外の広域的な事業者や関係機関等が参画しており、2017年8月30日現在会員数95社)を立ち上げ、ネットワークが構築されつつあります。現在ではそのネットワーク形成から具体的な事業化と雇用の創出、そして地域の人たちの所得向上にどれほど結びつくのか等が求められていると思います。

2. 様々なステークホルダーが共創するビジョンづくりの実際とは?

【高橋】
「こういうことをやったら、いい社会になる」「産業もうまくいく」という「ありたい姿」に対して、現状の問題点とのギャップをどう埋めるのかという施策がありますが、「ありたい姿」の1つとして、住民や新しく住みたい人にとっての「豊かな生活」を考えることが多いと思います。鳥取県は、そこで豊かに生きていくために「水素社会の実現」に取り組んでおられますね。その問題意識や難しさについてご紹介いただけますか?

鳥取県 生活環境部環境立県推進課 足立課長補佐
【鳥取県 生活環境部環境立県推進課 足立課長補佐】

足立 浩司(あだち こうじ)
鳥取県 生活環境部環境立県推進課 次世代自動車普及促進総括 課長補佐
鳥取県庁で長年商工労働行政に従事。経営革新や技術開発など中小企業支援や、地域産業活性化計画や鳥取県版の経済成長戦略などの産業振興計画等の企画・立案など、幅広く産業政策に携わる。現在、環境・エネルギー部局で交通分野での低炭素化に取り組んでおり、地球温暖化対策を経済成長に結びつけるべく奮闘中。

【足立】
私たちは水素のビジョンを約1年かけて自動車メーカー、ハウスメーカーと議論して作りました。政府はこれからのエネルギー社会のビジョンを打ち出すことに苦慮していると思っています。「水素社会」と言われますが、それがどのようなものであるのか、国も描ききれていないと認識しています。私たちのビジョン検討会では、「なぜ水素なのか」「なぜエネルギー政策を転換しないといけないのか」という究極の疑問を討論してきました。「水素社会」をエネルギーのサプライチェーンも含めて描ききるのは難しく、最終的には地域の産業振興につなげていく思いはありますが、まずは県民から見て「豊かな暮らし」とは何かを考えて、水素のビジョンを作ることにしました。大切なのはユーザーオリエンテッドにすることであると。だからこそ我々は「水素社会」と言わず、「水素の暮らし」として考えているのです。寒い地域は生活もエネルギー消費量も全然違います。鳥取県の気象条件を考えて、今の技術で一番いい暮らしとは何かを考えたのが「水素の暮らし」です。暮らしはエネルギーが基盤になり、そのうえに産業振興があります。最小単位の家を考えることが、全部につながっていくという考え方に立たないと、地域の計画も日本全体の計画も作れません。

【図1】鳥取県が目指す「水素の暮らし」
【図1】鳥取県が目指す「水素の暮らし」

そして、将来の水素の暮らしを考えて作った実証拠点が「すいそ学びうむ」( 注2 )です。水素製造設備と水素で暮らせるスマートハウスを作ったのは鳥取県が最初です。ここは全部本物の水素でやっていて、エネルギーの豊かさとは何か、何が問題なのかを小学4年生を想定して教える施設になっています。

【図2】鳥取すいそ学びうむ
【図2】鳥取すいそ学びうむ

水素に関する取り組みは、大企業が先行しています。こうしたことは、地方の中小企業だけでは戦えないため、大企業とコラボレーションしていく仕掛けをしています。鳥取ガスさんが水素の知識や技術を身につけましたが、これも自動車メーカーやハウスメーカーと一緒に作り上げたからです。こうしてステーションの運営もできるし、東京の大企業を誘致しなくても済むし、地元のプレーヤーが活躍できる。そうして地域の経済成長にもなる。仕事の流出現象の歯止めになるし、新しいビジネスの機会もできてくる。それから、地域経済の産業振興や観光振興を考えるときに、地元の人の声だけでなく、東京に出て働いている人の意見を聞くとよいと思います。時間軸の変化もわかるし、足りない部分もわかるので。

【川口】
大企業から今後のビジネスをどうするかという相談も受けますが、キーワードの1つに地域貢献を考えていらっしゃるお客様も多いです。地元のリソースと大企業のリソースをうまく組み合わせることが必要でしょうが、それは大企業の技術を教えるとか、販路を使うとかだけでなく、人材も含めた新しい産業が地域に根付くところを作るということなのでしょう。自治体から見て、他地域から参入して来る企業とどう組めばいいと思われますか?

株式会社富士通総研 川口シニアコンサルタント
【株式会社富士通総研 川口シニアコンサルタント】

川口 紗弥香(かわぐち さやか)
株式会社富士通総研 産業グループ シニアコンサルタント
製造業を中心としたお客様と共同での新規事業の企画・具体化推進、国内外のICT中期計画・実行計画策定などのコンサルティングに従事。

【足立】
大企業はウェルカムです。前出の自動車メーカーは、これまで鳥取県とあまり関係がなく、これだけのプロジェクトを拠点もない自治体でやったのは初めてですが、地域でも反対なく、混乱もありませんでした。ネームバリューがあるので、地元の企業さんも喜んでいます。これまでに次世代自動車の仕事で手広く各企業さんとおつきあいがありましたが、世の中に地球温暖化対策をPRするのに必要なシンボルを考える中で、トレンドが水素に変わり、水素利活用の住宅の話が持ち上がってきたのです。水素はツールでしかないので、あくまで究極の省エネ住宅・暮らしを体現するものですが、自動車メーカーを説得し、ハウスメーカーと連携していただくのに2年かかりました。様々な困難がありましたが、全部勘案しながら「あくまで県民にとっての豊かな姿です」と説得しました。

【櫻田】
足立さんのような方が様々な企業の思惑を理解しながら巻き込んでいけたからこそ、こういう絵が描けたのだろうと思います。自治体職員さんも交渉力は重要ですよね。

株式会社富士通総研 櫻田マネジングコンサルタント
【株式会社富士通総研 櫻田マネジングコンサルタント】

櫻田 和子(さくらだ かずこ)
株式会社富士通総研 行政経営グループ マネジングコンサルタント
2004年株式会社富士通総研入社。主に地方自治体のお客様を対象に行政経営や地域振興に関わるコンサルティング業務に従事。新公会計や公共施設マネジメントのほか、総合計画や観光、産業振興プランなどの各種計画策定を支援。共著:『「観光」を切り口にしたまちおこし―地域ビジネスの進め方』(日刊建設工業新聞社)

【高橋】
同じことがコンサルタントに求められている気がします。今までは仕様書にある項目に沿って作業をしてアウトプットを出せばよいものが少なくなかったわけですが、答えがあるかわからないものを、顧客と一緒になって試行錯誤して取り組んでいくような仕事が増えています。様々な関係者の思惑を聞いて回り、背中に必要な情報を背負って、相手にとってメリットになりそうな情報を提供して、徐々に関係性を高めていく、広い意味でのコミュニケーション力が求められていると思います。

【足立】
自動車メーカーやハウスメーカーに相応の投資をしていただくには、彼らにもメリットがないといけません。本プロジェクトは教育拠点という形で、これまで日本にはない施設などという売りが必要でした。「鳥取県オリジナル」などと言ったことも財源を考えると有効だと思います。県の財源も企業の財源も尖っていた方が出しやすいので、そういうことも意識された方がよいと思います。

3. 「豊かな生活」のビジョンを実現していくために地域活性化の観点で必要なことは?

【高橋】
共通の目的意識と背景にある各々の思惑も把握したうえで、ある人にはエッジの効いたものをぶつけて形にしていくことを手伝えるということがコンサルタントに求められているのかもしれませんね。大手企業を巻き込むことによって、地元の企業さんが学び、そこで具体的に地元のビジネスになっているものはありますか?

【足立】
先ほどご説明しました鳥取ガスさんが、自分たちで水素ステーションを運営できるようになったことは大きいです。以前は「水素って何?」といったところから、今ではすごく詳しくなっています。元々鳥取ガスさんは「世の中が水素社会になったときに、自社が地域で主役になり続けるため」という考え方がありました。これがうまくいかなかったとしても、血や肉になるので、何も無駄なことはないとの思いで取り組まれました。新規事業は割り切らないといけないのです。失敗で学んだことが別の事業で成功したりする。関わる人が情熱を持ってやっていければ、次につながっていきます。

【森田】
薩摩川内市では、次世代エネルギービジョンを策定し、様々な事業を推進していますが、ビジョンの冊子に子供たちの絵が載っています。これらの絵は薩摩川内市の子供たちに、将来どんな薩摩川内市であってほしいかを描いてもらったものです。未来の姿というと自動車が空を飛んでいるような絵を思い浮かべられるかもしれませんが、実際は緑や青を用いた絵が多く、自然が豊かでエネルギーが活用されている街がよいと、エネルギーを基盤とした生活が子供たちに意識されているのだと思いました。プロジェクトを大手企業と地元企業が組んで一緒に行うことは人材育成につながると私も思います。薩摩川内市でも地元企業と東京の企業、そして大学や金融機関とがチームを作って、セルロースナノファイバーという竹から作る新素材を用いて低炭素化を目指す取り組みを進めているところです。このような取り組みにより、竹の需要や付加価値も高くなり、林業に携わる人たちの所得の向上や雇用にもつながっていくとよいと思っています。

株式会社富士通総研 森田コンサルタント
【株式会社富士通総研 森田コンサルタント】

森田 のぞみ(もりた のぞみ)
株式会社富士通総研 クロスインダストリビジネス企画グループ コンサルタント
2015年株式会社富士通総研入社。主に自治体のお客様を対象に、産業振興計画策定や地域活性化に関わるコンサルティング業務に従事。

セルロースナノファイバーと竹
【写真】セルロースナノファイバーと竹

4. 地域のありたい姿の実現のためにコンサルタントに期待することは?

【高橋】
地域のありたい姿の実現のためには、今後ますます行政と支えるコンサルタントの担うべき役割が高度になっていくことが予想されます。そこで最後に、足立さんから私たちコンサルタントに期待することをお話しいただきたいと思います。

【足立】
1つは、国の制度、霞が関の動きに敏感であること。それから提案力ですね。例えば地方創生に資する提案には、関連する国の予算情報などは最低限必要です。日本の産業界は技術を活用していくに際して、水面下でシンクタンクを動かし、地方自治体に営業してもらう事例も出てきています。目標は自社製品を売ることですが、それをどう利活用したらいいか、自治体の計画にどう利用してもらうかという観点でシンクタンクを使っているわけです。公共施設を使ったPRや地方自治体と大企業をつなげるところをシンクタンクに担ってもらおうとしています。しかし、中には予算規模が非現実的であったり、明らかに他都市の焼き直しであったりするようなものも見られます。地方財政の現状や地方経済も踏まえて提案すべきで、地方なりのサービス、地方創生に資する提案が必要です。

【高橋】
相手のことを考えて提案することが大事だということですね。そういうリクエストに対し、我々コンサルタントはどういう形で応えていきますか?

【櫻田】
地域によって個性が違って、求めるものも違う中で、その実情を理解しながら提案していくことは最低限必要だと思います。我々は、さらにその地域の十年後を見据えたうえで、地域で継続展開できる技術なのか、継続させるためにはどのようなスキームが必要なのかということも視野に入れた提案をしたいと思います。

【川口】
提案するときは必ず現地に行き、その土地のことを知るというのは当然として、足立さんのような方から私たちコンサルタントに対して「一緒に考えたい」と思ってもらえるようにすることが提案の第一歩だと思います。その地域で人を作る、文化を作るということを考えていかないと、新しい産業や観光のアイデアは表面的に成功しても根付かないと思うので、地域の人の心を大事にしていきたいと思います。

【森田】
提案する際に、そこに住んでいる人や働く人にとって何が幸せか、将来のあるべき姿も踏まえ、その地域の現状や資源、強みや弱みも認識したうえで解決策を提案できる力と、協力者と話し合いや試行錯誤を重ねながら、着実に形にしていく力を身につけていきたいと思います。

株式会社富士通総研 高橋プリンシパルコンサルタント
【株式会社富士通総研 高橋プリンシパルコンサルタント】

高橋 誠司(たかはし せいじ)
株式会社富士通総研 クロスインダストリビジネス企画グループ プリンシパルコンサルタント
調査・コンサルティング会社を経て、2002年富士通総研入社。これまで、地域活性化、産業振興、スマートシティ等に係るリサーチやコンサルティング業務等に従事。近年は、全国各所で主に地域振興、スマートシティをテーマに、地域特性・資源等を活用したプランづくりや事業化コーディネート業務に従事。

【高橋】
答えは絶対これだということではないので、迷いながらもお客様や関係者の皆さんと共創していくのがよいでしょう。本日は、以前「鳥取県経済成長戦略策定業務委託」を承り、本当に大変な仕事でしたが、共に頑張り、以来様々に関わりを持たせていただいている足立さんにお越しいただきました。今回のような、今後を担う若手のコンサルタントとお客様とで議論する場をまた作れればと思います。近く「(仮)地域新創造研究会」を設立する予定です。これまでにプロジェクトを通じて知り合った、まさに問題意識をもって自らネットワークを作って前に進んでいく行政職員さんたちと共創パートナーとしての関係性を作り、様々な議論や取り組みを進めていくことにより、お互いの人材育成や体制づくりの形になるようにしていきたいと思います。本日はありがとうございました。

(対談日:2017年7月31日)

対談者

対談者(敬称略 左から)

  • 株式会社富士通総研 プリンシパルコンサルタント 高橋 誠司
  • 株式会社富士通総研 コンサルタント 森田 のぞみ
  • 鳥取県生活環境部 環境立県推進課 課長補佐 足立 浩司
  • 株式会社富士通総研 シニアコンサルタント 川口 紗弥香
  • 株式会社富士通総研 マネジングコンサルタント 櫻田 和子

注釈

(注1)アイデアソン : Ideathon。アイデア(Idea)とマラソン(Marathon)を組み合わせた造語。特定のテーマに興味を持つ人が集まり、課題解決につながるアイデアを出し合い、それをまとめていくワークショップ形式のイベント。

(注2)すいそ学びうむ : 鳥取県の水素エネルギー実証と環境教育の拠点。2016年1月25日に鳥取県と3社(鳥取ガス、積水ハウス、本田技研工業)が締結した、地球温暖化防止と持続可能な低炭素社会の構築を目指す鳥取県の「水素エネルギー実証拠点整備プロジェクト」を推進する協定に基づき整備したもの。

関連サービス

【地域活性化】