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近隣の力を活用した空き家問題の解決策

2017年9月5日(火曜日)

空家対策特措法が2015年5月に全面施行されて以来、近隣に悪影響を及ぼす「特定空家」への対処が進み、所有者に代わって取り壊すなどの代執行の事例も出てきた。また、市場に流通させることは難しいが、所有者の理解の下、交流スペースなど地域のニーズに合致した形で空き家を活用する例も増えてきた。

最近新たに出てきた空き家対策で注目されるのは、近隣の力を積極的に活用しようというものである。市場では価値を持たないような空き家の処分に困った場合、昔から、まずは隣の人に取得意向があるかどうかを聞いてみるのが有効と言われてきた。

近隣への除却費用の補助

室蘭市では今年度から、特定空家を近隣住民や自治会が除却する場合に、費用を補助する仕組みを設けた(費用の9割、上限150万円)。現在、多くの自治体が、空き家除却の費用補助の仕組みを設けているが、その場合、補助を受けるのは所有者である。室蘭市では、近隣住民などが除却を求めた場合、空き家を管理しきれない所有者から土地・建物を近隣住民などに無償で取得させ、除却費用を補助する。跡地は住民が活用できるが、10年間は宅地や営利目的に使えず、広場などとして使うという条件付きである。

室蘭市ではかつての鉄鋼産業が衰退し、空き家増加が著しい地域であるが、近隣への支援によって、空き家除却を進める施策を取り入れた。補助は所有者本人に行うのが筋であるが、近隣住民に取得意向があるのであれば、その後の管理も含め、近隣の人に任せた方が合理的とも考えられる。この施策で数件の除却が進められる見込みという。

不在者財産管理人制度を利用した近隣住民への売却

一方、世田谷区では今年7月、所有者不明の空き家を、近隣住民に売却する前提で、不在者財産管理人制度を利用して取り壊した。不在者財産管理人制度を活用する場合、裁判所に申し立てて不在者財産管理人を選任する必要があるが、その際、一定の予納金(管理人への報酬支払いに備えた費用)が必要になる。しかし、敷地を売却できないと除却費用も含めて回収できなくなるため、これが制度利用のネックになっている。これに対し、市場では価値がなくとも、近隣住民が買い取る意向を持っていることがわかれば、この仕組みを利用して更地にして売却するという道が開ける。世田谷区は、この点に着目して今回の措置をとった。

同じことは、空家対策特措法に基づいて略式代執行(所有者がいない場合に行う代執行)の措置を取り、その後に不在者財産管理人を選任して、敷地を売却する道もあるが、今回の世田谷区の措置の方が、手間が省けるメリットがある。所有者がいない状態は、相続放棄されたケースでも生じるが、その場合は、似た仕組みであるが、不在者財産管理人制度ではなく、相続財産管理人制度の利用になる。宇部市では、空家対策特措法に基づく略式代執行で除却した後、相続財産管理人を選任し、敷地売却によって費用を回収しようとしている例がある。今後については、世田谷区のように、まずは近隣の意向を確認した上、手間を省くため、直接、財産管理人制度を活用するのは、一つのツールになると考えられる。

空き家の近隣住民への斡旋

空き家が発生した場合、近隣住民に積極的に取得を持ちかけてきた住宅地の例もある。埼玉県毛呂山町は埼玉県南西部で池袋から電車で1時間ほどの場所にあるが、1960年代に開発された古い戸建て団地の敷地が狭小であり(60~90㎡)、居住環境が良いとはいえない状況にあった。その後、老朽化が進み、空き家が発生するようになると、地元不動産業者がまずは近隣住民に取得を持ちかけるようになり、これまで200件ほどの隣地取得が行われた実績がある。敷地が狭いため、空き家になった区画を団地外から新たに取得しようとする人は現れにくいが、近隣住民にとっては空き家を取得して敷地を拡張するチャンスになるため、業者がそこに商機を見出して積極的に動いたという事例である。

毛呂山町は埼玉県内で最も空き家率が高く、空き家問題が深刻であるが、こうした事例も踏まえ、空き家を減らすためには、低価格での優先譲渡など隣地と統合する枠組みも検討課題としている。ただ、近隣の人も高齢となり、後を継いで住む人もいない場合には、隣地取得のインセンティブはない。タイミングが合わなければ、隣地取得促進の施策も効果を生むかはわからない。

例えば、東京都江戸川区ではかつて、小規模宅地の解消を目的に、隣地買い上げや新規購入について低利融資を行う仕組み(「街づくり宅地資金貸付制度」)を設けていたことがある(1994~2012年度)。対象は、隣地買い増しにより70㎡以上になる場合などであった。しかし、実際には隣地買い上げではなく、新規購入で使われるケースが圧倒的に多かった。隣地であっても、希望やタイミングが合わなければ、容易には取得されないことを示している。

ただ、今後とも住宅地として残る地域においては、隣地取得の支援策があれば、それによって多少なりとも敷地が統合され、居住環境の改善に役立つ可能性がある。

「近隣力」活用のメニューを

以上、近隣の力を活用して空き家を解消しようとする取り組みについて述べてきた。空き家対策には、これをやればすべて解決するという万能の処方箋はない。したがって、「近隣力」の活用メニューも、地域の置かれた状況によっては有効になると考えられるため、検討していく価値はある。

例えば、近隣住民が費用面で取得意向を示さない場合でも、かつての江戸川区のような支援を行って取得してもらえば、以降は自治体が管理不全の問題を心配する必要もなくなる。取得費用などを支援しても、自治体や地域にとってはその方が望ましいと考えられる場合はあると考えられる。実際、室蘭市では、近隣に取得させた上、除却費用を支援するというところまで踏み込んだ。今後の自治体の創意工夫が求められる。

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【調査・研究】


米山 秀隆(よねやま ひでたか)
株式会社富士通総研 経済研究所 主席研究員
1989年 筑波大学大学院経営・政策科学研究科修了、(株)富士総合研究所を経て、1996年 (株)富士通総研入社、2007年~2010年3月 慶応義塾大学グローバルセキュリティ研究所客員研究員

【執筆活動】
限界マンション(日本経済新聞出版社、2015年)
空き家急増の真実(日本経済新聞出版社、2012年)
ほか多数。
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