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シリーズ【EdTech―「学び方」が変わる・「教え方」が変わる―】
バーチャルリアリティ(VR)はブームで終わってしまうのか?
―広がる教育へのVR活用の可能性―

2017年9月4日(月曜日)

2016年は「VR元年」と言われ、VR対応のゲーム機やVR対応のスマートフォン・アプリが多数登場しました。ビジネスにおいても、産業や医療など様々な領域にVR活用のアイデアが提示されVRへの期待が高まりました。しかし、今年になっても期待ばかりが先行して、現実にはアミューズメント以外での具体的なVR活用は進んでいるとは言えません。

一方、富士通総研では、従来より教育へのIT適用に取り組んできていたため、VRの有望な適用領域として「教育」に焦点を当て、VRの有用性や具体的な活用方法、普及への課題を検討すべく、VRを使った授業を実施しました。ここでは、米国での先進事例とVRを利用した実証授業での検証結果を踏まえ、VRの有用性や普及課題等について述べます。

米国では様々な教育用VRコンテンツやサービスが登場

教育へのVR活用は、大きな市場創出が期待されている「EdTech(注1)」の有力領域の 1つと言われています。
米国では、教育向けのVR教材やサービスが次々と誕生しています。例えば、教室にいながら外国や歴史の世界への旅=バーチャルツアーを体験できる(Google Expeditions)、生物を間近で360度観察できる、機械の構造を分解したり、組み立てしたりしながら学べる(zSpace)、失敗を恐れることなく安全に最新鋭の機器を使って科学実験を行える(Labster)といったVRの特性を活かしたコンテンツが考案されています。また、先生がVR教材を取り入れた授業を設計し、かつ他の先生と共有できるようなプラットフォームの提供(Nearpod)など、様々なVRの教育活用方法が提案されています。

  • Google Expeditions
    Googleのアプリ(Google Expeditions)と簡易的なヘッドマウントディスプレイ(Google Cardboard)を使って、宇宙や外国、恐竜のいる時代、海底、博物館など用意された約500のツアーを利用できます。クラス全員が同じツアーに参加し、先生は「ガイド」役として生徒達に注目すべき箇所を指し示すことができ、教室にいながら体験型の授業を提供できます。(https://edu.google.com/expeditions/#about 日本語サイト)
  • zSpace
    俯瞰型ディスプレイでのVRを提供しており、K-12(小学生から高校生)を対象とした、人体・生物の仕組み、天体や地球、電気回路や科学実験などの教育コンテンツが用意されています。ディスプレイ型では、専用メガネをかけると目前に物体があるように見え、専用のペン状のコントローラー(スタイラス)でドラッグ操作をすると対象物を360度自在に動かすことができます。昆虫や体の臓器を間近で観察したり、機械を分解したり組み立てたりしながらその構造を学んでいくこともできます。ヘッドマウントディスプレイは、小学生には眼の発達・健康リスクから使用できないため、ディスプレイ型のzSpaceが適しています。(https://jp.zspace.com/edu 日本語サイト)
  • Labster
    科学実験にフォーカスしており、仮想空間に用意された実験室で実験ができます。このバーチャル実験室には、最新鋭の機器が用意され、学生にとって危険な菌を使った実験や爆発の危険がある実験等も安全に行うことができます。
    また、科学への興味喚起のために、ゲームデザイナーが手がけたストーリー性を工夫したコンテンツ(米国のドラマ「CSI:科学捜査班」(Crime Scene Investigation)のように科学知識を活用して事件を解決する等)も用意されています。(https://www.labster.com/ TEDにてプレゼン「仮想ラボが科学の授業を変える」あり)
  • Nearpod
    幼稚園から高校生向けに100以上のバーチャルツアーが提供されています。ただ、コンテンツ提供にとどまらず、先生によるVRを活用した授業設計もサポートしています。授業に必要なVR教材や自作のスライド、参考資料のコピー等の授業で使用する教材一式を他の先生と共有できるプラットフォームを提供しています。その中では、クイズや確認テスト、アンケートを組み込むことができ、リアルタイムで生徒の理解状況などフィードバックを得られます。(https://nearpod.com/ 英語サイト)

富士通総研自らがVR授業を実施(1) ―小学生向け理科授業―

一方、日本においては、授業にVRを活用した事例はまだ多くありませんが、近い将来は米国のようにVR活用が進むことが期待されます。そこで今回、富士通総研では、VRの教育における有用性や課題を検証するため、2017年6月30日、7月3日に東京都内の小学校で主に小学生4年生25名を対象としてVRを使った授業を行いました。

VR機器は上記米国事例にて紹介した小学生でも使用できる俯瞰型VR「zSpace」を使用し、授業の設計、テキスト教材の作成および講師役は富士通総研が担当しました。

【図1】zSpace (ディスプレイ型VR)
【図1】zSpace (ディスプレイ型VR)
ディスプレイ、専用メガネ、スタイラス(ペン型コントローラー)

また、VR教材には、株式会社加藤文明社印刷所様が試作された「月の満ち欠けの学習」と「太陽系の惑星の学習」を使用しました。宇宙空間は直接見ることができない世界であり、また立体で理解することが効果的であることから、VR授業に適していると判断しました。加藤文明社印刷所様でも、実際に子どもたちに本教材を使って授業をするのは初めての試みになります。

「月の満ち欠けの学習」では、例えば太陽と地球、月が立体的に配置され、月の公転によって地球から見える月の形(満月・三日月・新月等)が変化する様子を把握できます。また、スタイラス(コントローラー)を使って、「新月に見える場所はどこだろう?」と自分で月を動かしながら見え方を確認したり、月を目の前に持ってきて、表面のクレーターを観察したりすることができます。

【写真1】太陽系の惑星を見ている子供
【写真1】太陽系の惑星を見ている子供

富士通総研自らがVR授業を実施(2) 小学生・中学生向けアントレプレナー教室

また、VRを使った教育のもう1つの可能性として、アントレプレナー教育を考えました。VRを“教材”として使うだけでなく、将来のビジネス(やってみたいこと)を創造するにあたって、VRという先端技術に触れてみる、という活用です。

そこで、実際にアントレプレナー教室の中で、(1) VRとは何だろう?、(2)VRはどのような所に使われている/使われると言われているだろう?、(3)実際にVRを使ってみよう!、(4)VRを何に使いたいか?VRを使ってどのようなサービスをやってみたいか?という流れで実施しました。

ここでも、参加した生徒達はVRに夢中になり、「なぜ掴めるの?」「なぜ立体に見えるの?」と、その仕組みに興味津々でした。最後に「VRを使ってどんなサービスを作ってみたい?」と問いかけると、「事故を減らすために免許を取る前の子供のうちから運転の練習をできるようにしたい」「家にいながら好きなところへ旅行に行けるようにしたい」「動物は言葉が話せないので治療が難しいから、獣医さんが治療や手術を練習できるようにしたい」といったアイデアが次々と挙がってきました。

【写真2】アントレプレナー教室の風景
【写真2】アントレプレナー教室の風景

授業を通して見えたVRの有用性

これらの授業を通して、VRを学習に活用する効果=VRの有用性が4点確認できました。以下に整理します。

VR学習の有用性(1) ―子供の学習への興味喚起―

1つ目は、何といっても子供達のVRへの興味の大きさからもたらされる学習効果です。教室への端末の設置時から子供達の目はzSpaceに釘付けでした。そして、実際にスタイラスを握って操作する表情は真剣そのものでした。

惑星を1つずつ目前に引っ張ってきては360度あらゆる角度から観察したり、月の場所を変えながら月の満ち欠けを確認したりと、想像以上に高い関心を持って、思い思いに学習する様子が見て取れました。

【写真3】熱中してVRを操作している様子
【写真3】熱中してVRを操作している様子

【図2】アンケート結果
【図2】アンケート結果

VR学習の有用性(2) ―自分で答えを「発見」―

授業中、子供達がVRを操作している横で、「新月になるのは月がどの位置にあるとき?」「太陽系で太陽から一番遠い惑星の表面はどんな様子?」などと問いかけを行いました。その「問い」に対して、子供達が月や惑星を様々に動かし、試行錯誤と観察をしながら、自ら“答え”を発見していく様子が見て取れました。このように、VRを使って自分で「発見」するという学習の効果は大きいと思われます。

授業の前半、紙の教科書で月の満ち欠けや太陽系の惑星を説明したときには、「それ知ってるよ」「もう習ったよ」と言っていた子供達からも、月や惑星を動かしながら「あ、そういうことか」「分かった!」という声が聞こえてきました。

【写真4】VRを使った授業風景
【写真4】VRを使った授業風景

VR学習の有用性(3) ―疑問や興味の広がり―

上記(2)の答えの「発見」だけにとどまらず、VRを通じて子供達の興味や疑問がどんどん広がっていく様子も見えました。操作している間、「海王星の先には何があるの?」「海王星(の表面)はどうして青いの?」「なぜ月の裏には模様がないのだろう?」「太陽の中はどうなってるのだろう?」と、次々を問いが発せられました。

このように、紙の教科書で説明した時には出なかった疑問や興味を持てることも、VRによる学習の効果ではないかと考えています。

【写真5】VRを覗き込んで観察
【写真5】VRを覗き込んで観察

VR学習の有用性(4) ―顧客に提供できる「体験」を考える―

アントレプレナー教室では、自分が主人公となってVRを使う姿を想像したり、目の前の物を掴んで触ってみたり動かしたりする驚きの体験を通じて、様々なVR活用アイデアが出てきました。どれも、顧客に対して、モノではなく、どのような「体験」を提供できるか/したいかという発想が強化される様子を観察できました。何となく「面白そうだから」「便利そうだから」ではなく、しっかりと相手にどんな場面で「体験」して欲しいか、なぜそれが必要なのかと1つずつ考えていく様子が見えました。

教育へのVR導入・普及の課題

今回の授業で教育におけるVRの有用性や可能性(の一端)を観察することができた一方で、本格的な導入や普及に向けての主な課題も見えてきました。

[課題1]VRが高い学習効果を発揮する領域(適用領域)の見極め

今回の宇宙や天体のように、実際に見ることのできない世界の体験や、立体による理解が重要な領域にはVRは向いていると考えられます。一方で保護者からは、「すべての学習項目がVRによる授業になってしまうことには不安がある。しっかりと知識を覚えることには不向きと感じた。」という意見も頂きました。こうした声も踏まえ、学習におけるVRの最適な活用領域を見極めていく必要があります。

[課題2]VRを使用した効果的な「教え方」の確立

先生が、VRを授業の中でどのように活用するか、どのようにVRを使って教えるか、といった「教え方」のモデルを作っていく必要もあります。先生から問いを発し、その答えをVRで自ら発見していくことや、「もし〜したら、どうなるだろう?」という仮説思考を促すといったVR活用の効果を、授業の中でどう活用するかの検討が必要になります。

[課題3]日本向けのVR教材(コンテンツ)の拡充

前述の米国事例のように、海外では様々なVR教材が提供され始めています。今後は、日本語による教材や、学習指導要領に準拠した教材、もしくは受験対応など、日本向けのVR教材拡充が求められます。

また、国語・算数・理科など教科の枠組みを超えた総合的・実践的なテーマや、創造性の育成といった、VRの特性を活かせる教材の登場も期待されます。

今後、VR端末の普及と併せて、これらの課題の解消により、教育へのVR活用が進む可能性があります。また、VRだけでなくAR(Augmented Reality:拡張現実)、そしてMicrosoftのHoloLense(ホロレンズ)が話題となっているMR(Mixed Reality:複合現実)など、様々な技術の実用化が進められています。これら先進技術を活用した教育の質の向上に向けて、富士通総研では引き続き、有用性や課題解消の検証を重ね、教育を通じた豊かな未来の創造に貢献していきたいと考えています。

注釈

(注1)EdTech : テクノロジー(ICT)による教育イノベーション。EducationとTechnologyを組み合わせた用語。

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志賀 真保子

志賀 真保子(しが まほこ)
株式会社富士通総研 デジタルサービス開発室 シニアコンサルタント
ヘッジファンド、複数のベンチャー企業の創業期に参画後、2005年株式会社富士通総研入社。内部統制構築、IFRS(国際財務報告基準)導入コンサルティングなどに従事。育児休業復帰後、子供向けのプログラミングやロボット教室の事業企画開発に従事。