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シニア層の孤独感から生じる健康・犯罪リスクへの対処方法
―ICTを活用した自己効力感向上による孤独感対策の必要性―

2017年8月30日(水曜日)

少子高齢化が進む中で、シニア層の不健康や犯罪への対応が重要な課題になっている。シニア層の不健康や犯罪の重要な原因の一つは孤立や孤独感であるが、他者との物理的な接触を増やせば孤独感が解消されるというわけではない。本稿では、「自己効力感」の喪失が孤独感につながることを指摘し、ICTを活用した孤独感解消のための施策について提言する。

シニア層の孤独感が、不健康・死亡リスクや犯罪リスクを高めている

シニア層の孤独感が不健康や犯罪につながる可能性があることは直観的に理解できるが、最新の研究・調査によっても実証されてきている(注1)。孤独感が強いほど医療機関を受診する頻度が有位に高まったという報告や、孤食が死亡リスクを高めるという研究発表が国内外で相次いでいる。また、東京都の調査では、孤独感がシニア層による万引きの動機となっている可能性が指摘されている(注2)。

2015年の国勢調査によると、65歳以上のシニア層の世帯主のうち、単独世帯は約592.8万世帯である。65歳以上の単独世帯数の割合は年齢とともに高まる傾向があり、65歳から69歳が世帯主の世帯のうち約26%が単独世帯であり、同75歳から79歳では約31%、85歳以上では約45%に達する(図表1)。未婚率の上昇や少子化に伴い、今後単独世帯の割合がさらに高まって、孤独感を感じやすいシニア層が増えることが予想される。

【図表1】シニア層の単独世帯比率

【図表1】シニア層の単独世帯比率

出所)総務省統計局「平成27年国勢調査」から富士通総研が計算・作成

物理的な対人接触を増やす施策だけでは十分効果的な対策とは言えない

シニア層の孤独感改善策としてよく講じられるのは、自宅訪問や外出によって対人接触を増やす試みである。しかし、それだけでは必ずしも効果があるわけではない(注3)。自宅外イベントへの継続的参加意欲のあるシニア層でも、孤独感が高い場合もある(注4)。

孤独感を感じている独居のシニア層に近い立場で、対人接触機会を提供できる可能性があるのが、地域の民生委員である。しかし、無報酬の民生委員が高齢化するなか、民生委員の訪問回数を増やすことには、人数の面でも体力の面でも限界がある。したがって、物理的な対人接触を伴わないかたちの孤独感対策も、新たに講じる必要があるのではないだろうか。

ICTを活用した「自己効力感」向上策による健康・犯罪対策が有効

物理的な対人接触以外に孤独感と関係していると考えられるのは、「自己効力感」である。自己効力感とは「自分がある状況において必要な行動をうまく遂行できるかの可能性についての信念」である。複数の先行研究が、自己効力感の向上が不安感や孤独感の改善につながると示唆している。

実際、万引きの被疑者であるシニア層は、一般のシニア層よりも自己効力感が有意に低いことが、前述した「万引きの実態と要因」に関する東京都の報告書によって指摘されている。そこで、自己効力感を高めることによって、シニア層の孤立感を低下させ、不健康・犯罪リスクを減らせる可能性があると考えられる。

シニア層の自己効力感の向上に、ICTの活用が効果的である。国内外の研究で、「PC操作スキル」の上達が、シニア層の自己効力感を改善する効果があることが報告されている(注5)。また、自己効力感と自尊心の間に正の相関関係があることや、知的能力に関する自己評価が自尊心に大きく影響することも明らかになっている。さらに、独居シニア層の自尊心が孤独感と負の相関関係にあることもわかっている。よって、これらのことを考慮すれば、「PC操作スキル」の上達によって自己効力感が高まれば、自尊心も高まり、シニア層の孤独感が改善される可能性があると考えられる。

もちろん、ICTの活用には、例えばSNSへの参加などによって、シニア層の孤独感を直接和らげる効果もある。海外では、シニア層の孤独感や社会的孤立と、ICTの使用効果との関係に関する研究が進んでいる。今年8月には、米情報システム学会(AIS)でも、孤独感改善のためのSNSの効果的な使用方法を明らかにする研究の経過報告が行われている。

ICTを活用したシニア層同士の互助と孤独感対策の検討を

地域住民同士の交流が少ない都市部や新興住宅地、高齢化が進む過疎地域などでは、シニア層の物理的な接触の機会が少なく、相互扶助が難しい。このような地域のシニア層にとっては、スマートフォンやPCを使って日常生活に有用なインターネットサービスを活用する「新しい生活力」が今後ますます重要になってくる。そのような生活力が高まれば、自己効力感も高まり、孤独感の解消にもつながるだろう。

シニア層のICTを活用した生活力を向上させるための支援策としては、例えば、1人で学べる教材の開発・提供がある。すでに、電子書籍やアプリ、ブログ形式でシニア層特有の課題に配慮したICT活用のノウハウを丁寧に解説したものであれば、シニア層自身が費用を抑えて開発・配布しているものが多く出回っている(注6)。同様に、ICTを活用した生活ノウハウについても、シニア層自身が、自らの体験や同世代の視点を活かして開発・提供できると考えられる。

対人接触を増やす方法による効果的な孤独感対策が難しい地域では、余力のある公的組織がシルバー人材センターや老人会組織に協力を呼びかけ、地域のシニア層自身がそれぞれの地域にあった教材の開発・提供を行えないか検討することも、一考に値する(注7)。新たな教材開発が難しい地域でも、多くの場合、既存の教材をパッケージ化して提供する検討の余地があると考えられる。地域内外のシニア層がICTを活用することで、お互いの生活ノウハウを低コストで相互利用し、間接的であっても互助し合えるよう支援していくことが、対人接触に頼りきらない孤独感対策を進める上で重要なのではないだろうか。

さらに、教材を利用してICTを活用した生活力を向上させるシニア層が増えれば、近い将来、ICT自体に強い興味を持ち、プログラミングを学ぶ意欲と能力を持つシニア層が増えることも予想される(注8)。一方、今後、義務教育課程において必修とされるプログラミング学習の範囲が広がるにつれて、地域社会における児童・生徒向けプログラミング講座の需要も高まっていくと予想できる。

そこで、シニア層が担える仕事を取りまとめて実施管理するノウハウを持つ全国各地のシルバー人材センター等が、こうした時流をとらえてシニア層のプログラミング講師を養成すれば、児童・生徒向けの初歩的なプログラミング講座の需要の高まりに対応できると考えられる。そのような養成プログラムは、社会参加や自己効力感・自尊心の向上によって、シニア層の孤独感を継続的に改善する効果も期待できる。余力のある公的組織は、各地のシルバー人材センターや老人会組織に協力を呼びかけ、ICTを活用したシニア層同士の互助を支援して、生活力向上による孤独感対策のための教材の開発・提供に必要な検討を行うべきである。

注釈

(注1): 例えば、今年5月に出版された海外の先行研究レビュー論文によると、15カ国の約130本の研究論文が「孤立や孤独感が健康に悪影響」を与えると指摘している:Courtin, E & Knapp, M 2017, “Social Isolation, Loneliness and Health in Old Age: A Scoping Review,” Health & Social Care in the Community, 25, 3 (May), pp. 799-812 (DOI: 10.111/hsc.12311)。

(注2): 東京都が全国で初めて発表したシニア層の「万引きの実態と要因」に関する報告書によると、「万引きをして微罪処分となった被疑者」(検察に送致されなかった被疑者)である65歳以上のシニア層は一般より孤独な境遇にあり、「孤独感も犯行の動機」になっていることが明らかになった:東京都(万引きに関する有識者研究会)「高齢者による万引きに関する報告書」2017年3月。

(注3): 例えば、神戸市東灘区で行われた調査では、1週間に2回程度までの家庭訪問を行う「地域見守り推進活動」の利用と、孤独感の改善に有意な関係はみられなかった:下開千春「高齢単身者の孤独の要因と対処資源」『第一生命経済研究所Life Design Report』169(2005年9月)、pp. 4-15 (URI: iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000003981265-00)。

(注4): 亀岡市での調査に基づいて今年3月に発表された同志社女子大学と同志社大学を中心とした研究では、同市内の体力測定会に参加できる程度以上に健康であり「継続参加可能な意欲の高い」シニア層の中にも、孤独感が有意に高い「閉じこもり予備群」がいることが報告されている:山縣恵美他「地域在住自立高齢者を対象にした体力測定会への参加希望者における閉じこもりリスクと孤独感との関連」『同志社看護』2(2017年)、pp. 7-18(DOI: 10.15020/00001468)。

(注5): 例えば、今年発表された東北大学の研究(河野・和田[2017])は、米フロリダ州の53-88歳を対象にした研究で「PC操作スキル」の上達が自己効力感を高めるのに役立つと発表したKaravidas他(2005)のパス解析因果モデルをもとに、調査会社の日本国内モニター男女400名(60-69歳と70-79歳各200名、平均年齢68.34歳)へのウェブ調査と因果モデルの再検討、パス解析を行った。その結果、「PC操作スキルの向上はセルフ・エフィカシー[自己効力感]やPCに対する態度を向上させ,間接的にQOL[生活の質]の上昇に寄与するとみなすべきであろう」と考察している:河野賢一・和田裕一「シニア層ユーザーのPC活用が主観的ウェルビーイングとQOLに及ぼす影響」『心理学研究』88, 2(2017年6月)、pp. 113-122 (DOI: 10.4992/jjpsy.88.15049);Karavidas, M et al. 2005, “The Effects of Computers on Older Adult Users,” Computers in Human Behavior, 21, 5, pp. 697–711 (DOI: 10.1016/j.chb.2004.03.012)。

(注6): 例えば、鈴木富司氏(82歳)が開発した広告付き無料iPhoneアプリ「スマホの勉強」シリーズ(http://www.tomiji.net)。

(注7): 全国シルバー人材センター事業協会によると、全国各地のシルバー人材センターでは、シニア層人材を生かして、シニア層のためのパソコン指導やパソコン入力業務、家事・福祉サービスをすでに行なっており、教材の開発・提供事業を行える素地があると考えられる。

(注8):シニア層によるプログラミングの可能性については、例えば以下を参照:大平剛史「シニアによるシニアのためのプログラミング:可能性と課題」富士通総研ニューズレター、2017年6月21日発行(http://www.fujitsu.com/jp/group/fri/report/newsletter/2017/no17-011.html)。

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大平 剛史(おおだいら たけし)
株式会社富士通総研 経済研究所 上級研究員
2015年 早稲田大学 大学院アジア太平洋研究科国際関係学専攻 博士後期課程 修了後、2016年 富士通総研入社。
専門領域は、個人の社会適応支援、観光と地域産業活性化、国際関係論・安全保障研究、アジア地域研究(ASEAN・東アジア・南アジア)
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