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デジタル化時代を支える新たなFintechプラットフォームとは?
―オープンバンク化の進展を支えるBaaS(Banking as a Service)―

2017年8月31日(木曜日)

2015年頃より日本でも注目を集めるようになったFintechは、金融機関による本格的な適用の段階へと移行しつつあります。このような動向の中、金融機関とFintech企業による提携事例に加えて、業種を超えたサービスの連携も検討され始めています。Fintechとは、業種横断的に進行する「デジタル化」の潮流の1つであると言えます。デジタル化とは、IT系調査会社であるガードナー社の定義によれば、「デジタル技術の活用によりビジネスモデルの変革を行い、新たな価値創出、収益機会を導き出す」ものとされます。デジタル化時代のビジネスでは、業種を超えた様々なサービスを連携させた利便性の高いサービスが登場すると考えられ、金融機関にあってもこのような動向に対応すべく所謂「オープンバンク化」が進展するものと予想されます。この際、これら異業種のサービスを既存の金融サービスと連携して活用する新たな金融プラットフォームが必要となります。富士通総研では、これからの金融における新たなプラットフォームとしてBaaSというコンセプトを提唱しています。BaaSとはBanking as a Serviceの略称であり、IT業界におけるSaaS (Software as a Service)のように、銀行サービス自体をいわば「クラウドサービス」としてAPI(Application Programming Interface)を介して提供する潮流です。海外の金融メディアにおいては、ブロックチェーンやAI活用と並んで言及されることも多くなってきています。以下では、BaaSが注目される背景を探るとともに、もたらされる金融サービスの変革について考えたいと思います。

1.BaaS注目の背景

(1)Fintech推進に向けた規制改革の進展

Brexitや米国大統領選挙など、2016年は大きな政治的変動が起こった年として記憶されることは間違いありません。Fintechの分野においても各国で重大な規制改革が次々となされ、今後の発展のあり方に大きな影響を与えています。特に、英国におけるオープンバンク化に向けた規制改革、そして米国において、規制当局がFintech企業に対して銀行免許を与える方向に舵を切ったことは大きな進展であると言えます。英米両国はかねてよりグローバルな金融センターとしての地位を占めており、将来にわたって金融機能の競争力を向上させることを企図して、Fintech企業の参入を容易にする諸政策を実施しており、積極的に競争を促進している状況にあると言えます。かかる政策の中で、Fintech企業による新規参入を積極的に推進する施策の1つがオープンAPIの導入です。

英国では、2016年2月、オープンAPIに関する統一的なフレームワークであるOpen Banking Standardが公表されました。さらに同年8月、英国の公正取引委員会に当たるCMA(Competition and Markets Authority)より、金融機関やFintech企業間で顧客情報を安全に共有するためオープンバンキング推進の勧告がなされるなど、政府としてFintechを次世代の基幹産業の担い手とすること、これからの金融サービスの受け皿として拡大させていくことが示されました。現に英国では、こうした流れを受けて後述のChallenger Bankと呼ばれる新形態の金融機関が当局により続々と認可を受け、今後もこうした動きが継続していくと考えられます。そして2017年7月には、CMAの勧告を受けて設立された業界団体であるOpen Bankingが口座情報、取引情報を連携するAPI、決済処理に関するAPIの仕様を公開するに至りました。これにより、英国の金融機関とFintech企業の間では、口座情報や取引情報を共通の仕様を基にセキュアに連携することが可能となり、Fintech企業にとっては、これら情報を活用した新たな利便性の高いサービスの開発が見込まれます。このように英国ではオープンバンク化に向けて業界を挙げて推進していくことが明らかとなっています。

これまで、Fintech企業の発展と比較して規制改革が追いついていない感のあった米国でも、Fintechが今後さらなる発展を遂げるうえで重要となる規制改革が行われようとしています。2016年12月、米国金融機関の監督官庁であるOCC (Office of the Comptroller of the Currency: 通貨監督庁)より、Fintech企業に対して金融機関免許を付与する憲章(通称Fintech Charter)の草案が公表されました。これまで米国では、Fintech企業は州ごとに個別に認可を受ける必要があり、PayPalやSquareといった代表的なFintech企業も各州で独自に認可を受けていました。この憲章により、Fintech企業は全米で一斉にそのサービスを展開することができ、Fintech企業がそのサービスを拡大させていくうえでの障壁が取り払われることとなります。

このように英国と米国双方でFintech企業がそのサービスを展開していくうえで有利となるよう規制改革が進んでいます。今後とも、政治的には先行きが不透明な状況が続きますが、規制当局がFintech企業によるサービス変革の推進、もしくは、オープンバンク化によるFintech企業と既存金融機関との競争の促進の方向に舵を切っているのは間違いないようです。

(2)英国を中心としたChallenger Bankの興隆

こうした法規制面での改革を受けて、オープンバンク化の潮流を反映した新業態の金融機関が英国を中心に数多く台頭しつつあります。一般にChallenger Bankと呼ばれるこれら新形態の金融機関は、Oxford Dictionaryによると、「伝統的な大規模金融機関にビジネス上で対抗する比較的小規模な金融機関」と定義されます。ドイツのFintech調査会社Burnmarkによると、現在世界で開設中もしくは開設予定のChallenger Bankは67存在し、うち40ものChallenger Bankが英国において開設もしくは開設予定となっています。英国では、規制当局が金融市場の活性化を図る目的で、金融機関の開設を目指すFintech企業を支援している側面もあり、今後とも多くのFintech企業が参入してくると思われます。

これまで、Fintech企業が直接銀行業に参入した事例は少なく、MovenやSimpleといった既存金融機関との提携により顧客向けフロントサービスを代替提供するNeobankが主流となっていました。これらNeobankは、銀行免許を取得せずに、いわば「銀行代理店」としてサービスを展開していました。しかし、英国では2015年から2016年にかけて、Atom Bank、Monzo、Starling、Tandemといったスタートアップ企業が、当局から銀行開設の認可を取得し、開業もしくは開業準備に入っています。また、Zopaのようにオルタナティブレンディング事業から銀行業に参入することを目指すFintech企業も存在し、その門戸は拡大しつつあります。今後もChallenger Bankは続々と誕生していくと目されており、Bank of Englandでは、2016年7月時点で上記スタートアップを含め20以上の事業者と銀行免許付与に向けた交渉を行っていると公表しています。

Challenger Bankの多くは、スマートフォンを中心としたデジタルチャネルを通じて若年層向けに洗練されたサービスを提供し、これら顧客から収集したデータを活用することに長けています。データ分析から顧客ニーズに即応した商品・サービス提供を行うことを目指し、他事業者との連携を重視したオープンな開発体制を整えています。例えば、Atom Bankは、外部事業者と提携して来年早々にも自行の顧客向けに住宅ローンの提供を検討しています。Challenger Bankにおける先駆的存在であるドイツのFidor Bankは、すでに20のFintech企業と提携して自社サービスの強化を図っています。

今後はさらに多くのChallenger Bankが本格的にサービスを開始することとなります。Challenger Bankがビジネスとして成功し、彼らのオープンエコシステムに基づく商品・サービス開発体制が今後の主流となる場合、それを支えるバックエンドについてもフロントでのAPI連携を意識した効率的かつ柔軟な基盤であることが必要となるでしょう。

(3)グローバル大手行によるオープンバンク化

英国、米国における規制改革は、新規参入企業のみならず既存金融機関のオープンバンク化を推進し、今後、金融機関とFintech企業との提携がより進展していくと思われます。この際、重要となるのはAPIによるシステム連携であり、一部の金融機関では、顧客の残高情報の照会や送金時の機能呼び出しなど、一部機能に関するプログラムコードや規約をAPIとして公開しています。

2016年には、スペインのBBVAや米国のCitibankなど、外部開発者向けにAPIの公開を行う大手金融機関が増加しました。金融機関は、APIの公開によりFintech企業など外部開発者と共同でのサービス提供が可能となり、アイデアに富むFintech企業がUX (User Experience)の高いフロントサービスを開発し、伝統的な金融機関が堅確性の高いバックエンドサービスを担うといった協業がより容易になります。また、一部の金融機関においは、残高情報や送金機能だけでなく、本人確認や認証、データ分析の機能を開放することも検討されており、金融機関自身がデジタルサービスを資金収益や役務取引収益といった伝統的な収益とは異なる新しい収益源として期待する動きも見られます。いずれにしても、APIを開放し、より多くの企業に金融サービスの参入を促進することは、消費者の利便性向上や取引コストの低減につながると考えられます。

各国の政策的な後押しから、今後も大手金融機関を中心としたAPIの公開は続くと見られます。Fintech企業とのAPI連携を前提とし、既存金融機関によるサービス提供体制が変化する場合、Challenger Bankでの議論と同じくバックエンドの変革が必要となってきます。

2.新たなFintechトレンド“BaaS”とは?

これまで見てきたとおり、Fintech企業などの外部事業者と金融機関の連携を促進するオープンバンク化が進展する中、新形態の金融機関Challenger Bankと既存の金融機関双方において、事業のあり方が見直されつつあります。フロントサービス(営業店、インターネット、モバイルなど)においては、より高いUXが求められるようになり、金融機関においては自身でこれを担うか、外部事業者とのAPIを介した連携するかが意識されます。一方、バックエンドサービス(堅確な事務プロセスや高信頼な情報システム)では、APIを通じてもたらされるトランザクションについて、より効率的に処理することが焦点となります。

BaaSとは、こうした柔軟なシステム基盤をバックエンド上で実現することを目的に、金融機関における基本機能(勘定系などのトランザクション処理)をクラウド上で共通の「サービス」として提供し、そのうえで多様な開発者が提供する「アプリ」を稼動させることを目指したものです。

BaaSにおける金融サービスモデルは、従来の製造から販売までを提供する「垂直統合」型モデルと大きく異なります。それは、多様なプレーヤーが機能ごとにサービス提供を行う金融サービスの「アンバンドリング化」を実現するものです。金融サービスのアンバンドリング化により、例えば、フロントサービス上では、Fintech企業が顧客への訴求力が高いサービスの開発・提供に特化し、バックエンドでは、金融機関が従来どおり堅確性の高い業務処理を担うといった役割分担も考えられます。このような役割分担が進むことにより、顧客が自身にとって使いやすい、もしくは使いたいFintechサービスを自由に選択して利用することができ、また、金融機関はバックエンドの処理に注力することが可能となるため、そのサービス提供コストを低減することができるといった効果も予想されます。

すでにその予兆となる動きが、世界各地の金融機関で見られます。例えば、米ボストンの小規模金融機関Radius Bankでは、外部サービスとの連携を重視したデジタルバンキングプラットフォーム(パッケージ)を導入し、Fintech企業との連携により、短期間で個人間送金、個人向け融資、デビットカード、リワードプログラムなど利便性の高い個人向けサービスの提供を実現しています。また、前述のFidor Bankは、自行の基幹システムを発展させることで、Fidor OSと呼ばれる金融機関向けOSを開発し、他行での利用拡大を目指しています。つまり、BaaSがスマートフォンでいうところのiOSやAndroid OSのように振る舞い、金融機関はFintech企業と連携して、そのOS上で顧客ニーズに合ったアプリを提供するビジネスモデルへと変化しつつあるのです。

【図1】BaaS (Banking as a Service) の概念図
【図1】BaaS (Banking as a Service)の概念図

3.Baasのこれから

金融サービスのアンバンドリング化の進展により、利便性の高い金融サービスを提供するFintech企業が顧客から支持を得てそのビジネスを拡大させる一方、バックエンドにおいて差別化を図ることが難しい金融機関はコスト削減やリスク対応といった負担を担うなど、そのビジネス上で“Cream Skimming”(いいとこ取り)が発生することも考えられます。金融機関においては、オープンバンキングのトレンドを踏まえ、自社のチャネルから、事務プロセス、情報システムなどをもう一度見直し、いずれが顧客に対する本質的な価値であるかを見極め、的確に自社のビジネスを再定義することが求められます。その上で金融機関は自行の得意な領域に対して、いち早くその資源を集中することで他行との差別化を図るといった選択肢も考えられます。

Fintech企業の参入に伴い、金融機関における伝統的なサービスのトランザクションが減少する恐れがある一方、IoTやブロックチェーンなどのテクノロジートレンドが生み出す新たなサービスはトランザクションを増加させる可能性もあり、それを支えるバックエンドサービスは、コスト効率とスケーラビリティを両立させるものである必要があるでしょう。また、顧客ニーズに適応したより柔軟なサービス提供の仕組みが求められることからも、金融システムをクラウドサービスの形態で提供することは、ある意味、論理的な帰結と言えるかもしれません。また、こうした課題を解決するICTソリューションを金融機関に提供することが事業者にとっての使命であると考えます。富士通総研では、今後とも金融機関のお客様に貢献し得るリサーチ・コンサルティングを継続して行っていきます。

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隈本正寛 隈本 正寛(くまもと まさひろ)
株式会社富士通総研 クロスインダストリビジネス企画グループ シニアマネジングコンサルタント
【略歴】
1998年にさくら銀行(現三井住友銀行)入行、2000年に富士通総研入社。
入社以来、海外先進金融機関におけるIT活用動向調査、金融機関に対するIT戦略策定コンサルティング、ビジネスコンサルティングなどを実施。直近では、Fintech最新動向の調査と海外Fintechソリューションの日本での適用に向けたコンサルティングを実施。

松原 義明 松原 義明(まつばら よしあき)
株式会社富士通総研 クロスインダストリビジネス企画グループ シニアコンサルタント
2007年富士通総研入社。入社より一貫して金融業界向けのコンサルティング、調査業務に従事。海外金融機関における先進サービスに関する調査業務、国内金融機関におけるソーシャルメディア、スマートデバイス活用に関するコンサルティングを実施。2016年4月より1年間、富士通研究所アメリカにてFintechならびに金融サービスの最新動向に関する調査活動に従事。