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地域のレジリエンス向上を目指して

2017年8月7日(月曜日)

東日本大震災以降、回復力、復元力等を意味するレジリエンスの概念が注目されてきた。レジリエンスに関してはこれまで、さまざまな概念とフレームワークが提唱され、国連による2015年発効の仙台防災枠組と2016年発効の持続可能な開発目標(SDGs)には、レジリエンスの向上が明確に規定された。本稿では、レジリエンスに関するレビューを行うとともに、日本の地域社会のレジリエンス向上のための考察を行う。

1.レジリエンスとは何か

「レジリエンス」の概念は、元来政治的手腕や科学的方法論を指すものとして古くから用いられていたが、それが力学や心理学等の現象の理解に応用されるようになった。近現代では環境の変化や激甚災害への対応のニーズの高まりから生態学や防災・減災、気候変動等への適応へと展開されてきている。他方、レジリエンスは、生態学の概念から派生して、変化の激しい現代の経済へ適応し生存することの必要性を論じた経営、マネジメントの語としても用いられるようになっている。災害分野では、Bruneau (2007)によれば、社会の組織 (例えば組織体や共同体)が、(1)危険性(Hazard)を軽減し、(2)災害発生時の災害の影響を封じ込め、(3)災害の影響を軽減する形で復興を実行するための能力とされる。そのような能力を高めるための「4R」すなわちRobustness(頑強性)、 Resourcefulness(代替性)、 Redundancy(冗長性)、Rapidity(即応性)が提唱されている。

100 Resilient Cities

近年ではより広い観点からもレジリエンスがとらえられている。“100 Resilient Cities”は、都市のレジリエンスの評価と向上を目的とする包括的フレームワークであり、米国のロックフェラー財団によって創設された。2014年から2016年にかけて、レジリエンスの点で優れた都市を計100都市選定した。選定された都市は、財団からの資金的援助を受けながら、都市のプロジェクト代表者であるCRO(Chief Resilient Officer)とともにさらなるレジリエンスの向上を図っていく。

例えば米国では、ニューオーリンズ市がハリケーン被害後に復興を契機として生まれ変わり、気候変動に適応した街づくり、雇用創出と機会均等化による生活向上、平時・災害時ともに活用可能なエネルギーインフラ等を目指した50カ年の長期的戦略目標を打ち立て、Resilient Cityとして選定を受けた。日本国内では、富山市と京都市が選定されている。富山市は主として、コンパクトで持続可能な都市づくりの観点から、京都市は街の総合的な防災の取組の観点から評価を受けている。

100 Resilient Citiesにおいては、災害などの突発的な変化を「ショック」、平常時の困窮や欠乏などの重圧を「ストレス」と位置づけ、レジリエンスを「ショックとストレスに対して、より着実に、耐久し、反応し、適応するための能力であって、それはまた苦難の時代にはより頑強になり、豊かな時代にはより豊かに生きるためのものである。」としている。企業等一般組織に対しての外部脅威が、地域では内包されているという点で、ストレスという独特の語を用いている。

このような位置づけに基づき、100 Resilient Citiesでは以下のような観点から、評価選定を行っている。

100 Resilient Cities

従前の4Rの重点が比較的物質・手段等のリソースに置かれているのに対して、100 Resilient Citiesにおいては、定義の中に、「意思」や「意識」に関わる言及が多くなされている。この点においても、100 Resilient Citiesが多様なステークホルダーを巻き込むための将来に向けたビジョンやそのための実現のフレームを含む自律的な企画構築力をも含んでいることが明確に見て取れ、柔軟な適応力の源泉となると考えられる。これらの観点から、図1に示すCRF (City Resilience Framework)に則り、リーダーシップ・戦略、インフラ・環境、経済・社会、健康・福利の4大領域に対して評価が行われる。狭義の防災能力のみならず、内外のストレス・ショックへの適応を図る持続的発展のための包括的な指標となっている。

【図1】RCF(Resilient City Framework)
【図1】RCF (Resilient City Framework)
(出所)100 Resilient Cities(2014)を元に筆者作成

2.レジリエンスをいかに高めるか

100 Resilient Citiesは、レジリエンスとは何かとの評価観点を示しながら、都市を選定、支援し、それによって当該都市を強化しつつ、他の都市に対してもレジリエンスの重要性を訴えるものであった。一方、より実践的、直接的に「レジリエンスをいかに高めるか」との観点から、OECD(2014)は「レジリエンスのシステムズ分析のためのガイドライン-リスク分析とレジリエンス・ロードマップ構築の手法」を発表している。レジリエンスとは特性・能力のみならず、それを増大させるプロセス自体をも含むとの位置づけと理解できる。主題からもわかるように、100 Resilience Citiesと比べても、ショックとストレスの関係をシステムとして分析し、対処していく点が特徴である。

OECDガイドライン

OECEガイドラインは、レジリエンスにおける適応をより広い視点でとらえたフレームワークである。その概念を図2に示す。これはBene et al(2012)をベースに作成されたものであり、右に向かうほど対応すベき変化が激しくなる。それに応じて、比較的緩やかな変化に対しては受容的(Absorptive)に、激しい変化に対しては変革的に(Transformative)に、その中間的な変化には適応的(Adaptive)に対応すべきであるとしている。これらの3つの対応力ないし受容量(capacity)を総じてレジリエンスととらえている。

【図2】外的変化の激しさとレジリエンス
【図2】外的変化の激しさとレジリエンス
(出所)OECD(2014)を元に筆者作成

レジリエンスの向上のためには、3つの類型の特徴と必要コストを、ストレス、ショックの性格、影響度を分析しつつ、適切に選択、増強していくことが必要である。このフレームワークにおいては、従前の事業継続マネジメントのサイクルを大局的には参照しつつ、地域の「ステークホルダー」(市民、企業、自治体ほか)を対象に、レジリエンス向上の以下のようなステップを繰り返していく。具体的には、図3に示すように、はじめに適宜専門家の支援のもと、自身の活動する生活空間や社会空間上のリスクの全貌(Risk Landscape)を、目標とするシステム(国、地域、コミュニティ、個人他)と対照させながら分析を行い、対策すべきショックやストレスを明らかにする。次いで、ショック/ストレスの特性と目標とするシステムの特性から改善のためのプログラミング(ロードマップなどのアウトプットのプロセス)を行い、レジリエンスを高めていく。

【図3】レジリエンス向上のためのフレームワーク
【図3】レジリエンス向上のためのフレームワーク
(出所)OECD(2014)を一部修正

3.日本の地域社会と適応・調和

筆者は、そのようなグローバルなフレームワークに学びつつ、過去から現在に至るまでの、とりわけ日本の地域社会における自然と人間の調和の思想に学ぶところは大きいと認識している。むしろかつて実現されていたフレームワークを再発見することが可能であり、また重要と考えている。

前述のとおりレジリエンスを捉える一つのキーワードとして、適応(Adaptation)が挙げられる。これは、人工物としての都市や社会システムを、環境・状況・トレンドを分析しつつ適切な形へ戦略的に導いていく思想である。その一方で、過去の近代都市開発は環境を人間のために「適合」させる過程であったと筆者は理解している。生活空間を制約する森林を伐採し、活動に不便な斜面は切り崩し、これらによって代償的に生じたリスクは、工学的に一定程度は管理しているものの、おそらく重要なのは戦略と思想の部分である。自然を人間環境に適合させ、その人間環境を自然-あるいは人工環境が生んだストレスそのもの-に適応させるという一種の循環が見て取れる。人間環境と自然環境の接点に緩衝するものがない不連続性から害悪が生じるとの認識もできようが、過去の日本では里山が適切なバッファとして機能していたことも指摘できる。近年では、自然が持つ防御力を利用したグリーンインフラストラクチャといった技術的思想も注目されつつあるが、自然と人間の両者を連続的に調和させる試みとみることもできよう。

人の思想や文化は自然と不可分とする和辻哲郎の「風土論」的世界観は著名であるが、長い時間をかけ自然と厳密な調和を図りながら発生してきた建築(あるいは都市)は世界中に見いだされ「建築家なしの建築」あるいは「バナキュラー」と呼ばれている。C.アレグザンダーは、長い間時間をかけて創成された建築・都市の自然への厳密な適応の結果得られる機能性、真価を、近現代的な計画者個人の「自覚的」な恣意と対比させながら論じている。

上記のような例証の一つとして、愛知・岐阜地域にみられる水防の「輪中」が知られている。文字通り輪のような堤が有名であるが、それのみならず様々な側面から生活の知恵の中で自然との調和を図っている。築堤によって災害リスクを減じながら、内部に農作用水のライフラインと、避難場所、救助避難用の舟(移動インフラ)等を備え、仏壇等の代替不能資産を選択的に保護する機構を有し、堤防の決壊した箇所には補強による改善を施し、水神を祭ることによって記録と注意喚起を図っている。そして、これらの維持管理を平時の農作行為とコミュニティ、ハレの場での祭事に一体的に結びつけながら遂行してきた。川を時に擬人化して、いわばステークホルダーとしての人格を与えながら、あるいは今日よりもはるかに拡張された現実を見ながら、対話を続けてきた。これらは、図4に示すようにリスク管理はもちろん多重防御やトリアージ(優先選択)、システムの維持改善等の今日の事業・地域継続計画の先駆け、というよりもむしろそのようなフレームワークを超えて、日常行為の中に溶け込み、そして包括的・継続的な、あるべき姿とみている。それは近代的な経済発展への適応の結果、忘れ去られた文化と考えている。

【図4】輪中におけるバナキュラー(土着的)フレームワーク
【図4】輪中におけるバナキュラー(土着的)フレームワーク
(出所)筆者作成

年月を経た現代においても、愛知県のとある産業地域では、周辺の製造業者や道路管理行政、ライフライン事業者とも連携しながら一つの自律的共同体として活動するものもあり、通底する機能と精神性を見出すこともある。このような思想への探求を深めることも、前述の地域のレジリエンスに向けて地域・都市の意識・ビジョン形成を図っていく上で重要と考える。

グローバルに先見的な概念を輸入しつつも、過去にも目を向け「文化」を再発見することが、日本のとりわけ地域社会に向けて取り組む価値であると考える。過去と現代を照らしながら、過去を現代における技術、システム、価値から再解釈することが、地域のレジリエンス向上の要である。そのような「文化」は、回顧すれば全ての人の身の回りに遍在するのである。

参考文献

  • Bruneau, Michel(2007), The 4R’s of Resilience and Multi-Hazard Engineering
  • Grosvenor (2014): Resilient Cities, Grosvenor Research Report
  • OECD (2014): Guidelines for Resilience Systems Analysis -How to analyse risk and build a roadmap to resilience
  • United Nations(2016): Sustainable Development Goals
    https://sustainabledevelopment.un.org/sdgs
  • Wisner, Ben(2003): At Risk- Natural Hazards, People's Vulnerability and Disasters, Routledge
  • 100 Resilient Cities Team& Rock Rockefeller Foundation (2017): 100 Resilient Cities,http://100resilientcities.org/
  • アレグザンダー, C. (1984): 形の合成に関するノート/都市はツリーではない, 鹿島出版会
  • 生田孝史(2017): SDGs時代の企業戦略, 富士通総研・経済研究所研究レポート
  • 上田遼(2015): 兵庫県南部地震後の神戸市の人口復元力特性の分析とレジリエンス評価-力学的アナロジーに基づく復興過程の研究-,日本建築学会計画系論文集
  • 上田遼(2017): 災害に対するレジリエント社会の共創に向けて -自然・人間の相互作用と複雑系科学, 富士通総研ER第4号
  • 国連防災世界会議(2015): 仙台防災枠組2015-2030
  • 清水美香(2015): 協働知創造のレジリエンス, 京都大学出版会
  • ルドルフスキー, B. (1984): 建築家なしの建築, 鹿島出版会
  • 渡辺研司(2013): BCMS事業継続マネジメントシステム-強靭でしなやかな組織をつくる, 日刊工業新聞社
  • 和辻哲郎(1979): 風土-人間学的考察, 岩波文庫

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【調査・研究】



上田 遼(うえだ りょう)
株式会社富士通総研 経済研究所 上級研究員
2007年、東京工業大学大学院総合理工学研究科修士課程(工学) 修了後、鹿島建設株式会社、株式会社小堀鐸二研究所を経て、2016年 富士通総研入社。
専門領域は、都市防災へのICTの活用、Human-Computer Interaction、Internet of Phenomena (現象のインターネット)。
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