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【フォーカス】「デジタル×金融で銀行はどう生まれ変わるのか?」

2017年7月27日(木曜日)

【フォーカス】シリーズでは、旬のテーマに取り組むコンサルタントを対談形式で紹介します。

デジタル化が業種を超えて進展していく中、これからの銀行の姿とはどのように変化していくのでしょうか?また、IoTと金融サービスの融合や異業種参入により、金融業界にどのようなゲームチェンジが起きるのでしょうか?

本対談では、「デジタル×金融で銀行はどう生まれ変わるのか?」というテーマで、株式会社ナビゲータープラットフォームの泉田取締役と富士通総研(以下、FRI)の長堀常務に語っていただきました。

1.これからの銀行の姿とは?

【長堀】
本日は「デジタル×金融で銀行はどう生まれ変わるのか?」というテーマでお話を伺います。泉田さんは、「銀行はこれからどうなるのか」という本(注1)を最近書かれていますが、この本を書かれた思いについてお聞かせいただけますか?

【泉田】
Fintechとは、生活の中で金融がどうあるか、テクノロジーの変化が決済といった既存の金融サービスにどう影響を与えるかをユーザー目線で語るものだと捉えています。Fintechにおいて一番鍵になるのは預金だというのが、私の本での結論です。日本では金融機関にお金を預けてもほとんど金利がつかない状況が続いており、金融機関の預金はある意味、金庫のように使われていますが、海外も今や低金利となっています。今後は、低金利の中、お金をどう運用するかという視点で、Fintechで何をするかの議論になると思います。金利が低く、かつインフレ率も低くなっている中、金利とクレジットカードやECサイトなどのポイント、金利とサービスの使い勝手等、これまで比較が難しかった異なる領域のサービスが比較できるようになり、金融機関の役割は何か、価値は何であるのか、本質的な議論が求められていると感じています。金融機関の価値とは、もちろんインフラとしての決済機能の側面もありますが、保険会社でも銀行でも運用会社でも、共通するのは投資の目利きができるかどうかではないかと考えています。銀行でお金を貸し出すときも、この会社に貸してきちんと返ってくるのかといったリスク管理と、そもそもの投資機会を探すという両輪がないと金融機関と言えません。この投資の目利きというのは、銀行ごとに属人ベースで運用されています。例えば、事業者が銀行に融資の相談を行ったとすると、「そのアイデア面白いね」、「いくら必要なの?」という話から入って、「ファンドスキーム必要なの?」、「普通の融資でいいの?」と幅広く相談に乗ってくれる。これは、私が本書で提言している「銀行の未来の4つの姿」のうち、「投資銀行型」に分類されるものです。(【図1】)

【図1】未来の銀行の4つの姿

【図1】未来の銀行の4つの姿

(出所:泉田良輔著「銀行はこれからどうなるのか」(2017年 クロスメディア・パブリッシング)より) 

このように取引先に対して親身に対応してくれるのは銀行の役割で、機械にはできないものです。しかし、このような対応を取引先ごとに行うのは限界もあり、テクノロジーが進むことにより、人が担っていた部分も選別され、取引先も銀行に区別され、自動的に処理されるようになるかもしれません。これは先ほどの4つの姿の「クラウド型」に当てはまるものです。先ほどの預金の話に戻りますと、これからの預金の獲得競争は、ポイントやユーザビリティなどといった必ずしも現金同等物ではないものとの比較になると思います。そうなると、これまでの金融機関の枠組みに変化が生じるかもしれない。金融に新たなテクノロジーが組み合わさることで日本の金融機関にも大きな変化が生じるかもしれない。そういう思いでこの本を書いたというわけです。海外の金融機関をみてみると、例えば、投資銀行であるゴールドマンサックス(GS)などはリーマンショック後、投資銀行から銀行へと変化しつつあります。GSの従業員数は2~3万人程度で、Bank of Americaの20万人強と比較して大きな差があります。この従業員数の差を活用して、テクノロジーを積極的に活用することで効率的な経営とこれまで進出できなかった領域への進出を両立させています。GSでは、預金を集めている段階にあります。金融機関ではGSが大きく変革しているのですが、異業種に目を向けるとAmazonの動きは驚異的です。Amazon自身は、金融事業を行っているとは言わないかもしれませんが、結果的に金融事業に深く入り込んでいます。Amazonでは、自社のECサイト運営により、商流を押さえています。モノが動くと、クレジット(信用)も動かざるを得ません。そうなると、貸し出すという行為ができます。しかもAmazonはデータを有しています。最近、「Amazon経済圏」という言葉が聞かれますが、金融事業との接点が広がることでビジネスチャンスが見つかり、新規事業へとつながっているのです。つまり、Amazonは金融機関と異なり、モノを運ぶことでリアルなデータを持っているので強いのです。私は前著、「Google vs トヨタ」を執筆している最中、Googleのマネジメントが「一番の脅威はAmazon」とコメントしていたのが印象に残っています。それが本書執筆のきっかけでもあるのですが、金融機関も業界内で誰が勝つのかといった議論もありますが、異業種との比較も今後重要になってくると思います。

株式会社ナビゲータープラットフォーム 取締役編集長 泉田 良輔氏
【株式会社ナビゲータープラットフォーム 取締役 Longine 編集長 泉田 良輔氏】

【長堀】
富士通総研では、2012年頃よりFintech分野の調査を行ってきました。調査を始めて気づいたのが、Fintechとは利用者目線で金融商品・サービスを再定義するものであること、つまり、デモクラタイゼーション(民主化)がキーワードとなっていることです。これは、一過性のものではなく、日本における金融機関の歴史を考えると、日本興業銀行、日本長期信用銀行といった産業金融の中核を担う金融機関が社会的使命を終え、この次に来た波と捉えることができます。つまり、より実体の経済に根差した金融サービスが求められているということではないでしょうか。まさにAmazonが好例ですが、Amazonで商品を買うと最大で2%もポイントで還元が行われます。金融機関が提供する金融商品でこのような高金利なものはなかなかありません。Amazonはモノの売買という実体経済が伴っているため、このような還元が行えます。消費者は合理的に行動するものなので、低金利な金融機関よりもAmazonのようなサービスを選択するのは自然とも言えます。

2.異業種に学ぶ金融機関のAPI活用

【長堀】
金融機関では、こうした異業種の動きに対抗して、自社の金融サービスの利便性を高めることを目的にAPI(Application Programming Interface)の活用を積極的に進めています。先日、私が委員を務めるIPA(情報処理推進機構)のシステムズエンジニアリングに関するWGにおいて、IoT(Internet of Things)分野を担当されているある委員の方が互換性のないIoT標準の乱立は市場の成長に何も役に立たないと主張されていました。IoTの分野では、現在、様々な標準化団体が設立されていますが、それが原因となってスマートハウスなどの実ビジネスの市場が立ち上がっていない現状があるようです。そこで、Webの標準化団体であるW3Cでは乱立する各社APIの上に標準となる部分を規定する動きがあり、これをWeb of Thingsと呼んでいます。金融機関によるAPI公開も各行もしくは各団体でその仕様が乱立してしまっては同様の動きとなってしまうのではないかと危惧しています。

【泉田】
APIの活用は、金融機関が主語で開放する、しないというロジックでは、うまくいかないと思います。消費者が必要とするもの、便利になるものを開放するという観点が必要だと感じています。噛み砕いて言えば、今までできなかったことができる、それにより消費者にどれだけサプライズが提供できるかが大事ではないでしょうか。GoogleやAmazonなど、すでに自社のサービスを提供している企業がAPIの提供により、さらに使い勝手の良いサービスが利用できるとなった場合、さらに消費者がついてくると思います。これら企業は、すでに具体的なサービスや商品が紐づいているので説得力が増します。大手金融機関でも業種を超えて様々な企業との協業による具体的な活用例を提示していますが、これから構築していくので、どこまで浸透するのかは慎重に見ていく必要がありますね。

【長堀】
GoogleやAmazonは、具体的な商品・サービスをまず消費者に提供し、その利便性を体感させています。そして、その裏側の仕組みを紐解いていくと、最新のテクノロジーがうまく活用されていることがわかります。つまり、実体経済に直接働きかけることが重要なのだと言えます。これは、日本のITベンダーの問題点でもあるのですが、クラウド、AIなどテクノロジーファーストになっているのが気にかかります。料理に例えると、美味しい食事をしたいお客様に「素晴らしいごはんが炊けます」と厨房施設をアピールしているようなものです。ITベンダーも実体経済に働きかけるビジネスを行わなければ、これからの時代に生き残るのは難しいと思います。

【泉田】
例えば、自動車会社や流通業など、消費者と直接的な接点を持っている企業が中心となって、APIの活用などを進めると結果が違ってくるのかもしれませんが、ITベンダーばかりが「やりませんか」と言っている状態です。API活用と言うのではなく、消費者からの「便利になった」、「使い勝手がよくなった」という声が大きくなったときこそが、API活用が真に進んだ状態と言えるのかもしれません。

3.伝統的企業と新興企業

【長堀】
すでに有名な話ですが、先ほどから話題に上っているAmazonは、創業以来ずっと赤字経営を続け、黒字化したのはつい最近と言われています。売上は大きくても、利益の大半を投資に回すためで、株主もその点を理解していて、株式の時価総額は拡大しています。このような経営は、多くの日本企業にとっては難しいのではと感じています。

【泉田】
前職の生命保険会社では、アナリストとして外国株式の分析を担当していて、その際に受け持っていたのが、AmazonやYahooといったネット企業でした。Amazonは仰る通り、ずっと赤字であったため、先輩のファンドマネージャーからは投資対象ではないと指摘されたものです。Amazonなどはそれにもかかわらず、信じ続けて保有してきた株主が一方に存在していたことを物語っています。自動運転に取り組んでいるTesla Motorsも同じような状況ではないかと思います。経営者とそのビジョンに賛同して、「この人(経営者)が作る世界についていきたい」、という思いにさせるのは資本市場でもユニークな存在です。一方、米国でもGEなどの成熟した企業は利益が出ないと経営者がすぐに交代させられています。

【長堀】
AmazonやTesla Motorsのような企業とは対照的に、伝統的な企業はポートフォリオ経営を重視してきました。ある事業が立ち行かなくなっても、他の事業で盛り返すといった形です。このように他の事業で補えるので、危機感が働かないのかもしれません。現状が続くとは思っていないが、ここ数年は大丈夫だろうという安心感があるので、改革が進まないのです。Fintechにおいても、同じような状況に陥るのではと内心危惧しています。

【泉田】
安定的な経営を行うのは素晴らしいことですが、問題となるのは、例えば、外部でより圧倒的な規模でビジネスを行う企業が現れた場合です。例えば、ビール業界などが典型です。ビール業界は基本的に装置産業なので、規模がモノを言います。現在、世界最大のビール会社は、バドワイザーを製造しているABインベブ社(Anheuser-Busch InBev N.V.)ですが、同社の取扱量を100とすると、日本国内のキリンビールとサントリーの取扱量を足しても5程度です。日本国内では、今後高齢化などでビールの消費量が減少すると言われています。一方、海外に進出するとしても100対5という状況です。これは、金融業界にとっても示唆に富む事例ではないでしょうか。日本が高齢化社会を迎え、国内市場が維持できなくなり、どう海外進出するか議論をするという最初のケースだからです。国内の金融業界は未だに高齢者が主要顧客で、すぐにビール業界のようにはなりませんが、現在、スマートフォンを使いこなしている層が高齢者となると状況は大きく変わると思います。そうして海外進出の議論となった時にJP Morganのようなグローバル金融機関、Amazonやアリババといった企業が金融サービスを提供している環境でどう勝負をするのか、そういった環境に10年、20年後には変わってくるのが見えてくる気がします。

4.IoTに対して金融はどう融合していくか

【長堀】
先ほども話題となりましたが、IoTと金融サービスという観点では今後、どのような動きが予想されるでしょうか?

【泉田】
IoTの定義にもよりますが、私はBtoBでの動きが速いのではと考えています。その観点で注目しているのが自動車と流通業界です。例えば、自動車の場合、自動運転技術に大きな注目が集まっていますが、もし自動運転車が一般化した場合、個人に対して自動車を売るよりも、自動運転を運行するオペレータといった事業者が自動車を購入することが主流になるのではと予想しています。つまり、消費者は将来的に自動車を所有するのではなく、自動運転車を保有し、運行させているオペレータから借りるのです。私の持論なので間違っていると言われればそれまでなのですが、このような未来になった場合、これらオペレータは自社で保有する自動車にセンサーを取り付けて、即時に決済ができるようなシステムが構築されるのではないでしょうか。そうなれば、消費者は利用した分の燃費と保険料を簡単に支払うことできます。このようなシステムが出来上がると、事業者は安全に効率的に自動運転車が運行されているか、誰がどのように運転しているかといったデータを収集する必要があり、IoTに取り組むインセンティブが働きます。IoTに接続された自動車を買いましょうと個人に言ってもインセンティブがない。燃費が下がる、保険料が安くなると、駐車代が要らないといった実利的なメリットがないとイメージが沸きにくい。

【長堀】
もしそうなれば、業界で標準APIを導入しようとするのと同じ動きに見えますね。

【泉田】
そうですね。やはりBtoBで実ビジネスが動く業界ほど動きが速いのではと感じます。例えば、物流についてもBtoCに関しては人を運ぶということでハードルが高くなっていますが、BtoBでモノを運ぶという観点に絞れば、たとえ商品が輸送中に壊れたとしても保険で補償すればよいわけですよね。今まで紙の伝票でやり取りしていたものをネットワークに接続して決済する。誰がいつ支払い、誰が承諾したといったトレースがきちんとできればいい話ですし、その金融情報に紐づけて、モノをつなげれば担保されますし、意義のある取り組みだと思います。

【長堀】
国内企業では、コマツなどがIoTのプラットフォーム化に関する取り組みで進んでいますね。

【泉田】
自社ハードウェアのマーケットシェアが高いからでしょうね。また、先ほど説明したようにBtoBでビジネスを展開しているのも強みです。つまり、本業の強みを生かして、自分たちの速度でプラットフォーム化の取り組み速度をコントロールできるのです。他社に調整してもらう必要がなく、自社で必要な取り組みだけを率先して行えるのは大きいと思います。

5.異業種参入によるゲームチェンジ

【泉田】
金融業の話に戻りますと、やっぱり預金をという本業を軸に何ができるのかという考え方が必要なのではと考えています。国内で銀行口座、個人の預金をいまさら集めてどうするのだという声も聞こえてきますが、やはり口座数があることで、将来的にサービス業の事業者と連携するとか、もしくは自行で行えるビジネスの幅も違ってくると思います。現状では、預金口座を獲得しても、むしろ赤字なのかもしれませんが、将来的には預金口座の獲得競争にならざるを得ないのではないかと予想しています。

【長堀】
そうなると預金を預かる基幹系システムのコストを下げないといけないですね。国内の金融機関向け基幹系システムでは、どうしても堅牢な物を作ろうとするあまり、安くても数十億かかってしまうのが現状です。これではコスト的に高く、異業種の参入障壁となっています。今後のFintechにおける最も重要な論点は基幹系システムのコストを下げるために、どうテクノロジーを活用するかにあると思います。実は、数年前にも異業種から何社か銀行業への参入の動きがあったのですが、結局どこも最終的には参入できていません。やはり基幹系システムの構築に必要な金額を聞いて、経営が成り立たない、やる価値がないという判断になってしまうのですね。

【泉田】
だから、赤字を続けてでもビジネスを継続させる事業者が外部から来ると、一気にゲームのルールが変わってしまう可能性があるのです。

【長堀】
昨年弊社が主催した富士通総研フォーラム2016では、神戸大学の三品教授にご講演いただいたのですが、アメリカ人は企業の立地レベルをいきなり全部変えてしまうという話が印象的でした。どういうことかと言うと、日本の自動車産業がGMやフォードと競って勝ったとき、アメリカでは自動車を蛇口としてガソリンを売り、車の何倍も儲けたというものです。日本人は世界で1位ということで喜んでいたけど、実は違うところでビジネスをするという土俵を変えられていたのだと。日本企業は日々のオペレーション改善などは得意ですが、そもそものビジネスのルールを変えられてしまうと一溜りもありません。このような動きこそがFintechの本質ではないかと感じています。

【泉田】
例えば、ベンチャービジネスの本場であるシリコンバレーで起業家が考えているのは、どのマーケットが大きいかという点です。実は、マーケットが大きい業種は大抵規制業種で、自動車や医療、エネルギーなどがそうです。そこで起業家は、どのように規制業種に入り込むかと考えて、その間隙を突いてくるのです。最初は、グレーゾーンといった領域でビジネスを始めて、うまくテクノロジーを活用し、ロビーイングを行う中で合法的な1産業として塗り替えてしまう。つまり、土俵そのものを変えてしまうわけです。例えば、タバコ産業などでは近年新商品が大手タバコ会社より開発されていますが、あれは、ベンチャー企業にやられる前に先手を取ったという感じではないでしょうか。ベンチャービジネスでは、無いものを作るというより、有るものをテクノロジーで入れ替えてしまうことが実は多いのです。自動車で言えば、ガソリン車では負けたとしても、エンジンの無い、モーターで動く自動車で勝負するといったものでしょうか。常に現状のビジネスのルールをひっくり返そうとしているのです。

【長堀】
今のお話で感じたのは、どの領域でDisruption(創造的破壊)を起こすのかという意識と、そもそも現状が不便だ、おかしいという消費者の意識、つまり、民主化による促進という両面が必要なのだと思います。弊社では、毎年、日本国内の消費者に対して、Fintechサービスのニーズがどの程度あるかアンケート調査を実施しているのですが、実は意外にニーズがないことが判明しています。Fintechによるサービスの利用については積極的ではなく、従来からある銀行の支店やATMを中心に利用したいという回答が多いのです。日本の消費者にとって銀行のサービスはそういうものだという意識が強いのかもしれません。しかし、ビジネスのルールが変わると状況は大きく変化するものです。例えば、日本でも十数年前に電気料金や携帯料金の支払いなどの小口決済がコンビニにでも可能となったとき、銀行側は全く手を打ちませんでした。今では、これらの小口決済のほとんどはコンビニで行われていますし、彼らのセールス情報として吸い取られています。金融マーケティングというキーワードが注目されて久しいですが、現状も銀行内に有効なデータがあるのですが、これらを組み合わせることができていたらと思います。

株式会社富士通総研 執行役員常務 長堀 泉
【株式会社富士通総研 取締役執行役員常務 長堀 泉】

6.改めて、これからの銀行の姿とは

【長堀】
改めて、これからの銀行の姿はどうあるべきかという話題に立ち返りたいと思います。泉田さんが「銀行はこれからどうなるのか」で紹介された未来の銀行の4つの姿は、消費者目線での分類ですよね。4つの姿のうちの2つ、「プライベートバンク型」と「投資銀行型」は、「人材がキーになる」としていますが、この分野でもある程度テクノロジーが代替する部分があると思います。昨年、証券会社の方と話したのですが、その方にアナリストによるマクロな市場予想とアルゴリズムによる市場予想のどちらが当たるのか聞いたら、アルゴリズムによる市場予測だと答えていました。こういう状況ですと、人材を資本としたビジネスモデルでもある程度テクノロジーに浸食されてしまうのではないでしょうか?

【泉田】
本書を出版後、海外に拠点のあるプライベートバンカーと話したのですが、その方の話によると富裕層ほど安定した運用を求めていて、結果次第では、一部の領域はロボアドバイザーなどのテクノロジーによって代替される可能性があり、例えば、それに付随する対人によるエンタテイメントといった要素が残るのではという議論でした。ただ、プライベートバンキングがテクノロジーと無縁で安泰かというと、そうでもありません。例えば、米国で流行しているスマートスピーカーのAmazon Echoなどは、毎日消費者が機械に話しかけている状況です。金融の話は毎日ではないまでも、時折、一般的な消費者でも話題に上ることがあります。例えば、相続とかお隣さんが株で儲けたといった話ですね。これらの会話をAmazon Echoを通じてデータとして蓄積・分析し、Amazon Echoを通じて相続税対策としてこういう方法があるとか、このような金融商品があるといったアドバイスがなされた場合、人手で行っていたかなりの部分が機械に代替される可能性があります。こうした話題は、信頼できる人にしか話さないという人もいると思うので、そこについては人手の部分として残りますが、機械の方が正確に処理できるということもありますので、消費者は機械の方を信頼してしまう領域があるかもしれませんね。

【長堀】
将来、銀行がこう変わるということ、それはいつ頃かということについて、明言するのは難しいと思いますが、どう考えていますか?

【泉田】
私見ですが、イノベーションというのは20年程度続くトレンドなのだと考えています。例えば、スマートフォンの場合、iPhoneが発売されたのが2007年なので、まだ10年程度しか経っていないのですが、もうスマートフォンをグローバルで製造している会社は数社に集約されてしまい、我々の生活も大きく変わりました。これは、民生品で起こった事象ですが、インフラの場合はもっと長いスパンで起こると思っています。例えば、IoTの場合、その元年をいつとするかによりますが、20年と考えると東京オリンピックも通過点で、これからまだ変化していくのではないでしょうか。イノベーションの途上で一定の姿は見えるかもしれません。例えば、スマートフォンの場合はほとんどその完成形が見えていて、類似のものが出たとしてもスマートフォンを軸に考えられると思います。つまり、イノベーションはそんなに簡単には起きるものではないのです。

【長堀】
このような視点で捉えると、銀行業はある意味まだまだ安泰かもしれませんね。しかし、マイナス金利など今後とも事業環境は厳しい状況が続きそうです。

【泉田】
現状の課題として、このような低金利にもかかわらず、一様の金利で貸し付けを行っていることが挙げられます。消費者ローンなどがその最たる例ですが、事業性融資でも同様のことが起こっています。このような分野にこそ機械を活用して、金利設定も変えることができれば、収益性も改善されるはずです。先ほどの議論では、イノベーションに関してはまだ安泰かもしれませんが、テクノロジーに関しては押えておく必要があるでしょうね。

【長堀】
本業回帰ですね。テクノロジーの導入により本業回帰が再びクローズアップされるのですね。

【泉田】
対談で何度も触れさせていただきましたが、預金獲得、ビジネスの目利きこそが金融機関の本業だと思うのです。本業を強化するために、どうテクノロジーを活用するかを考えた場合、新たな視点が見えてくると思います。例えば、預金を切り口として金融機関と異業種の接点を考えた場合、現状、住宅ローン、クレジットカード、消費者金融くらいしかありませんが、もしかしたら預金を切り口にライフスタイルに根差したサービスが出てくるかもしれません。例えば、中国では、個人間での決済手段としてAlipayとWeChat Payが普及していますが、その背景には彼ら(中国人)のライフスタイルにうまく適合していることが挙げられます。少し前に「爆買い」などという言葉も生まれましたが、中国人には個人間での商品の売買行為がよく見られます。このため、知らない人同士で円滑に決済が行える必要があることからAlipayが普及しました。また、WeChat Payについても、中国ではお年玉を皆で分け合うゲームのような習慣があり、この際、個人間で簡単にお金が送金できる必要があるため、普及したと言われています。送金するには銀行口座を開設することが必要で、その際には日本と同じく本人確認のため身分証明書が必要ですが、現金がもらえるというインセンティブが働くため、その手続きが苦になっていないのです。

【長堀】
文化そのものを変えるのは時間がかかりますが、文化に合わせてサービスを提供するという視点が必要かもしれません。その際、金融機関単独では行えないので、本業を重視して、異業種と連携していくことが重要ではないでしょうか。しっかりとビジネスの目利きを行い、リスクを取ること、これをテクノロジーでアシストして効率化することが金融機関のなすべきこと、Fintechで取り組むべきことと思います。そして、ICTベンダーは基幹系システムのコストを下げるなど、この取り組みをサポートしていかなければなりません。

【泉田】
今後、日本国内は市場として先細りになっていくと予想されます。そこで、内需に見切りをつけて海外に進出した先行企業に学ぶ必要もあるかと思います。例えば、ビール業界やマタニティ業界などが当てはまります。これら業界ではもう一度自社の本業は何か、その強みは何かを整理して海外で勝負しようとしています。金融機関も同じ視点で本業を見直す必要があると思います。一方、国内において、地元密着型でこれからも存続することを選択するなら、「金融」であることが強みではなくなるかもしれません。もしかしたら、ビジネスの目利きに関する情報は「メディア」として、取引の基盤は「インフラ」に集約されてしまうかもしれません。

【長堀】
本日は貴重なお話をありがとうございました。

(対談日:2017年7月6日)

対談者

対談者(敬称略 左から)

  • 株式会社ナビゲータープラットフォーム 取締役 Longine 編集長 泉田 良輔
  • 株式会社富士通総研 取締役執行役員常務 長堀 泉

注釈

(注1)「銀行はこれからどうなるのか」泉田 良輔(著) クロスメディア・パブリッシング(インプレス)2017

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