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アイデアを育て事業を起こす
―IoT時代の新規事業の要件―

2017年6月29日(木曜日)

IoT(Internet of Things)というワードが広がり、モノとモノとのつながりが加速したことにより、従来にない製品・サービスを創る潮流が広がっている。異業種やユーザーなど、あらゆるプレーヤーの参画が可能となることで、無限のデータ交換がなされ、従来にはなかった利活用による新たな価値が生まれ得る。

しかしながら、IoTによる新事業を生み出すことは容易ではない。IoTによってこれまでのセグメントの枠が外れることは、複雑性が増し、従来型のパターンの転換を余儀なくされることを示す。変化に対応するにはパワーが必要で、周囲の共感がないと先に進みにくい。一方で、万人受けを狙った製品・サービスは一般的で陳腐化しやすい。IoT時代における新規事業のアイデアには、誰もが実行に移しづらい意外性と第三者から理解を得やすい共感性の両輪が求められ、多様なステークホルダーをうまく巻き込みながら、実効性ある事業基盤をセットで考えることがポイントである。

本稿では、IoTの推進現場で起きている変化や課題を述べ、具体的なケーススタディを用いることで、現在求められるIoTの事業創出と運営についての対応策をシリーズ(知創の杜WEB版)で体系的に述べたい。

(1)ターゲット市場の設定(本稿)

(2)IoT新サービス企画の体制、運用後の組織体制

(3)収益・運用のあり方

本稿は、IoTのターゲット市場の設定を述べる。シリーズ(2)(3)で組織体系、運用業務、人材要件などの課題への対応策を具体的に述べていきたい。

1.製造業の現場で多く見られるIoTへの取り組み現状

昨今、あらゆる製造業における企画担当者が、IoTを用いた新サービスの事業化推進を命ぜられ、困惑しているのではないだろうか。しかし、IoT製品を検討すること自体はそれほど難しいことではない。本当に難しいのは、センシングしたデータそのものに社会的な価値を見出し、自社のビジネスとして継続的に運用することだ。

「良いモノを作れば売れる時代」が終焉したことで、製造業はビジネスの仕組みの転換を求められている。図1のように、プロダクトの価値のみに対価を支払うだけの仕組みはすでに通用しない。プロダクトとそれに付随するサービスへの対価を支払う仕組みに変わっていくことで、1顧客から継続的に収入を得ることが、ものづくりを強みとしてきた製造業における新たな理想の姿の1つだと言える。

よって、本稿では製造業がビジネスモデルを転換し、IoTサービスを自社で展開していくためのヒントを示していきたい。


●図1製造業の検討範囲とIoTの事業化に向けた範囲の違い

2.IoTサービスの展開における課題

製造業がIoTサービスを展開するにあたって、課題は以下の3点であると考察する。

(1)ターゲット市場の設定

(2)IoT新サービス企画の体制、運用後の組織体制

(3)収益・運用のあり方

本稿では(1)ターゲット市場の設定にフォーカスし、次章ではその解決案について述べる。

(1)ターゲット市場の設定

初めてIoTの新規事業を考える製造業に多いのが、Industrie4.0やヘルスケア市場など一般的に成長市場と言われる市場をターゲットとして設定するパターンである。しかし、それらの市場はすでに多くの競合が参入しており、マーケットシェアの獲得は困難である。さらに法制度の対応など制約が多いことから、新規参入企業が事業化まで到達するには時間を要し、難しい傾向にある。

富士通総研がコンサルティングを担当した様々な製造業も同様の課題に陥っていた。

成長市場における市場規模を算出すると、大きな収益が予測され、企業内の近視眼的な投資のハードルを越えることが容易になるためだ。しかし、前述のとおり、現段階で予測可能な市場はすでに飽和状態にあるため、市場参入を図ったところで競合に埋もれてしまう。他サービスとの差別化を明示することが難しく、ターゲットやテーマ設定の段階で行き詰まる結果を迎えてしまうのである。

また、仮にホワイトスペースの市場を見出せたとしても、収益化のハードルは高い。通常、不確実性の高い領域、さらに数量が見込めないものとなると、たとえ試作段階であったとしても経営としての投資は掛けられない。収益とコストのバランスがある程度見込める状態でないと、意思決定は難しい。そのため、たとえサービス像が不鮮明であっても、初期の段階からビジネスモデルや収益構造を検討することが必要である。

3.課題に対する解決案

「2.IoTサービスの展開における課題」で述べた課題への解決策として、「既存の枠外」によるターゲティング設定を行う必要がある。以下で詳しく述べていこう。新規事業を創出するうえでの優位性を獲得するためには、既存事業の延長線上や成長市場から外れた発想が求められる。では、非連続的な発想をするためにはどうすればよいのだろうか。それは、「社会課題の潮流」、「未来の洞察」、「譲れない自社の独自性(コア技術など)」に対して、自社がどのように向き合うかを決めることに尽きる。

まずは、既存の事業における提供価値をメタに捉え、ユーザーの範囲を広げた場合に提供すべき体験を構想する。一見自社とは関係がないように見える社会課題を自分事として捉え、検討したアイデアがどのような課題を解決するかを本質的に考える。

おそらく自社の既存事業の枠内でのアイデア創造は社内で何度も検討されており、インパクトの大きいアイデアを創造することは困難である。そのため、なるべく現在地点から遠いケースを想定することがポイントである。その際、誰もが思い浮かべる成長市場を想定してしまうと、すでに多くの企業が取り組みを先行しているところに飛び込む羽目になるのは先述のとおりだ。まずは、図2のように未知の枠外のターゲットユーザーを決めることが第一歩だ。以下にこの解決策により課題を乗り越えた事例を紹介していきたい。


●図2アイデアの広がりイメージ

•ケーススタディ A社様の事例におけるターゲット設定

富士通総研がコンサルティングを担当した通信機器メーカーA社様においては、製品の特性上、1つの大きな取引先に売上を依存しており、今後の事業展開が難しいという課題に直面していた。

A社様は取引先の事業者や業界に左右されるような依存状況の脱却が急務であった。その課題を打破するため、A社様は新規事業の企画に乗り出した。目的は、新たなセグメントへの進出により、取引先企業の対象を拡大し、事業の収益の柱をもう1つ立てることだ。


●図3A社様の既存事業と変革したい方向性

A社様は社内公募により、自社技術を活かした新プロダクトを考案していた。そのプロダクトを活用した新規事業を検討するため、プロダクトの活用シーンの想定からテーマを設定し、プロジェクトメンバーがそのテーマに対して抱えている課題認識を共有することから始めた。各自の課題認識をマインドマップとしてまとめると、自然に同様の課題が集まった。その課題認識のボリュームから、特に自分たちに身近な社会課題を抽出し、ターゲットを設定した。

企画段階でテーマやターゲットを限定してしまうことに躊躇してしまうケースも多いが、後々の方向転換を見据えつつ、不完全なものであったとしても「誰のどのような課題を解決する、どのようなサービスなのか」を最短ルートで完成形にすることが最も重要である。その先の事業化に向けてはまだまだ苦難が続くため、このフェーズにとどまりすぎてはならないのだ。アイデア検討のきっかけづくり・雰囲気醸成を行うためにも、正解かどうかはわからない「市場機会の発見」を踏まえたうえでのアイデア出しがポイントだ。


●図4ターゲット設定プロセス

また、IoTの新規事業を検討するとなると、どのようなことが可能なのか、技術を選定したうえで検討を始める企業が多くなりがちである。実現可能な技術から何ができるのかを検討するのではなく、自社の譲れないコア(技術など)が何かを見据えたうえで活用のテーマを決定し、そのシーンにまつわる社会課題や未来の潮流からターゲットを詳細に設定することが大切となってくる。市場規模の大きさなどの分析に時間を掛けてからアイデア出しをするようでは、その段階で時間や投資に限界が来てしまううえ、類似アイデアはスタートアップ企業の手で続々と世に出てしまう。そのような事態を防ぐため、経営的価値を示すために必要なマーケットストーリーは後付けでよいと考える。IoTの新規事業を考えるにあたっては、譲れないコア>サービス>ビジネス>技術(詳細)の順で検討することが定石だ。

4.アイデアは身近な場所から

社会課題を解決するIoTというととても大きなことを成し遂げなければならないように聞こえる。しかし、社会課題は身近に起きている問題でもある。そして自分事に考えられる課題を解決することは、それだけ熱意を持って取り組めるということでもある。様々な手法や成功のためのヒントはインターネットやセミナーなど、どこでも得ることができるが、プロジェクトメンバーが熱意をもって最後まで推進できるかどうかは最も大きな成功要因とも言える。

IoTの新規事業推進と聞いて肩肘を張るのではなく、自分の身近な環境に起きていることにじっくりと向き合い、その課題を自社でどう解決できるのかを検討することが大切だ。インターネットで調査した大きな市場より、身近に転がっている困り事市場のほうが、社会へのインパクトを残すかもしれない。

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久本 浩太郎(ひさもと こうたろう) 久本 浩太郎(ひさもと こうたろう)
株式会社富士通総研 コンサルティング本部 産業グループ シニアコンサルタント
新規事業のビジネスモデル設計、チャネル開拓、M&Aなど企画から事業化に至るコンサルティング業務に従事。マネジメント力(PMO)にも強みを有する。

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株式会社富士通総研 コンサルティング本部 産業グループ アシスタントコンサルタント
若者視点を取り入れたユニークな新規事業のアイデア企画立案やデジタルマーケティング分野のコンサルティング業務に従事。