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通信から見たIoT市場
―新たな通信方式「LPWAN」の登場とその影響―

2017年6月29日(木曜日)

数百、数千、時には数十万のセンサー/デバイスを接続するIoTネットワークを維持していくことは容易ではない。デバイスの電源供給、バッテリー交換や故障などのメンテナンスコスト、通信コストをどうするか、IoTがどのように新たな価値を生むかという命題を解くとともに、運用に関する問題を解決することがIoTサービスの実現に向けた大きな課題となっている。

IoTと概念は多少異なるが、従来のM2M(Machine-To-Machine)ネットワークは、欧米での普及エリアが広く、デバイス価格や通信コストが低い第2世代の移動通信(2G)を用いることが標準となっていた。しかし第4世代の無線通信(LTE)が先進国以外でも普及するようになり、2011年頃からLTEを用いたM2Mネットワークの規格化に向けた取り組みが開始された。その結果として生まれたものがLPWAN(Low Power Wide Area Network)である。

LPWANはその名前のとおり、LTEの特性の1つである広域をカバーできることを活かしたうえで、低運用コストを実現するM2M/IoTネットワークである。

本稿では、いよいよ国内でも普及に向けて本格的な取り組みが始まった、LPWANに関する特徴や先行事例について解説する。

1.LPWANとは

(1)急速に普及が見込まれるLPWAN

現時点(2017年4月現在)で、先進国におけるM2M/IoTのバックボーンとなるネットワークの大半は、通信キャリアが供給するセルラー回線(先に述べた2Gを筆頭に、その後の3G、LTEなど)が利用されている。しかし、英リサーチ会社であるアナリシス・メイソン社の予測によると、2年後の2019年にはLPWANがそれを追い抜き、2025年には市場を席巻し、グローバルで35億のM2M/IoTネットワーク回線がLPWANによって賄われることになる(図1)。LPWANは、IoT市場全体の成長をも促す存在となり得る可能性を秘めている新しい通信規格である。


●図1M2M/IoT回線の普及予測(アナリシス・メイソン社の予測に基づき富士通総研が作成)

(2)LPWANの特徴

冒頭でも述べたが、LPWANは省電力で広域をカバーできるモバイル・ネットワークである。従来のZigBeeやBluetoothなどの無線は省電力であるが、広域でデータを飛ばすことができない。一方、現在のセルラー回線の中心であるLTEは、広域でデータを飛ばせるものの、デバイス側で大きな電力を消費するため、接続された無数のデバイスのバッテリーを常に気にかけておかなければならない。これらの「良いところ」を合わせたものがLPWANである。しかし、LPWANはあくまでM2M/IoT用のネットワークであり、容量が大きいデータの送受信は難しい。例えば、LPWANの1規格であるLoRaWANでは、1回当たりの通信量が11byte(半角アルファベット11文字分)に制限されている。さらに、LPWAN世界基準では、センサー/デバイスからサーバへデータを送る一方向、つまり「上り」のみの通信が主体であることにも注意が必要である。

2.LPWANの勢力図

(1)LPWANにも種類がある

急速な普及が見込まれるLPWANだが、規格自体は複数あり、用途や規模によって適切なものを選ぶ必要がある。図2は代表的なM2M/IoT用の無線通信規格を比較したものである。現時点でLPWANの3大勢力となっているのは、フランス発のSIGFOX、フランス発米国生まれのLoRaWANおよび大手モバイル通信キャリア勢がLTE網をIoT向けに規格化したNB-IoTの3つである。


●図2主なM2M/IoT向け無線通信規格とその特徴

このLPWANの3つの規格の最も大きな相違点は回線利用料金、つまり無線周波数帯を利用する際にコストがかかるか否かである。通常、無線周波数帯は貴重な資源であり、各国の監督省庁によってネットワーク事業者へ高額でライセンス販売される(このような周波数帯をライセンス・バンドと呼ぶ)。そのため、ネットワーク事業者はこのコストを回収するために、周波数を実際に利用する顧客から回線料金を徴収するのが一般的である。しかし、SIGFOXとLoRaWANはアマチュア無線のように、無料で利用できる周波数帯(アンライセンス・バンド)を使用する。つまり、回線利用料金がかからないのである。この2つの規格が注目されている大きな理由はここにある。一方、もう1つの規格であるNB-IoTは、他の規格に比べ容量がやや大きなデータを送信できる点と、大手モバイル通信キャリアが運用することもあり、高品質なネットワークである点に期待が集まっている。

(2)LPWAN 3大規格の概要

世界で最も先行しているのはSIGFOXである。SIGFOXは同名のフランス企業が開発したLPWANの1つの規格であるが、先行者アドバンテージもあり、欧米を中心にすでに世界24か国で展開済みである。SIGFOX社は、基本的に1国1事業社へ独占的なSIGFOX規格の再販権を認める方式で世界展開を図っており、日本国内では京セラコミュニケーションシステム社がその権利を保有している。つまり、SIGFOXを国内で利用する場合は、同社の無線基地局設備を借り受けることになる。

SIGFOX社が1国1社のみに再販権を認めているのは、先に述べたようにアンライセンス・バンドを利用していることに起因する。無線の世界では、電波干渉という問題が常について回る。同じ周波数帯の無線基地局を無計画に設置すると、とたんに電波がつながりにくくなるが、SIGFOX社はそれを避け、通信品質を保つための策として、規格の再販権を限定しているのである。

SIGFOXを追う形で急成長を遂げているのはLoRaWANである。SIGFOXとは違ってLoRaWANはアライアンス方式を採っており、加盟する複数企業によって規格が作られ、運営されている。LoRaWANを利用するには、LoRaWANの規格に則った無線基地局やデバイスを独自に製造して設置するか、LoRaWANプロバイダーから設備を借り受けることになる。日本国内では、NTT東日本・NTT西日本やソラコム社などがプロバイダーとしてすでに展開を開始している。SIGFOXに比べ、自由な場所でLPWANを張り巡らせることができる反面、各社が無計画に基地局を増やしていくと、先に述べた電波干渉の問題が出てくる可能性もある。

もう1つの勢力であるNB-IoTについては、欧米ではモバイル通信キャリアによって展開が始まっているものの、日本国内では2018年にモバイル通信キャリアからようやく供給される予定である。NB-IoTは先の2つの規格と違い、各モバイル通信キャリアにすでに割り当てられているライセンス・バンドを利用するため、回線利用料金が発生する。ただし、通信品質は最も高くなると予測される。

そのほかにも、図2で示したように、これら3つの規格では、通信距離や通信速度など異なる点も多く、用途に応じて適切なものを選定する必要がある。

3.センサー/デバイスの省電力化により実現したIoT事例

通常、セルラー回線を用いて長距離通信を行うには非常に多くの電力を必要とする。大量のセンサー/デバイス機器との通信を常時行うには、機器への電源供給をいかに行うか、仮に大容量のバッテリーを搭載できたとしてもバッテリー寿命による機器交換作業をいかに行うかといった運用上の課題が山積している。図3は通信機器メーカーのCisco社がLPWANを用いて課題を解決した「スマートパーキング」の事例である。


●図3LPWANを用いたスマートパーキング事例

当事例では、LPWAN通信モジュールを搭載した磁気センサーを路上の各パーキングスペースに埋め込み、車のドライバーはスマートフォンで空き情報を検索できるとともに、バックエンドの決済プラットフォームと連携し、支払処理までを完結している。LPWANが効果を発揮した最大のポイントは、パーキングスペースに埋め込まれた磁気センサーの寿命である。LPWANの省電力性により、当センサーは5年間メンテナンスフリーと言われている。そのほかにも、各センサーとLPWAN基地局間の回線コストが不要である点や、確実な料金回収が可能となる点も、実現を後押しした要因である。

4.広域という特性を活かし、回線コストの大幅な削減を実現するIoT事例

管理すべきモノが増えれば増えるほど、それに比例してセルラー回線のコストは大きくなる。モノ同士が近くにある場合は、近距離無線技術を用いてブリッジ(モノ同士がデータを橋渡しし、ある1点のモノがデータをまとめてセルラー回線へ渡す技術)させることで通信コストを抑えることができるが、広範囲に点在している多数のモノを管理するには、1つ1つのモノにセルラー回線をつなげる方法しかなかった。図4は、富士通がLPWANを用いて課題解決を提唱する「スマート農業」の事例である。


●図4LPWANを用いたスマート農業事例(ビニールハウスの温度・湿度・照度・消費電力をモニタリング)

広域に複数存在するビニールハウス内の温度・湿度・照度・消費電力のセンサーを用いたモニタリングには、従来の方式では、各ビニールハウス単位でセルラー回線が必要となるため、回線利用料が大きな課題となっていたが、ここに広域をカバーできるLPWANを用いることで、その問題を解決した。

5.LPWANの今後の展望

(1)IoTはわかりやすいところから普及する

LPWANがもたらす恩恵は非常にわかりやすい。今回紹介した2つの事例を見てもわかるように、「IoTがどのような新しい価値を生みだすか」という議論が不要な領域から適用が始まっている。今回は紙面の都合で割愛したが、先行している欧米の他の事例を見ても、決してIoTの「夢物語の領域」ではなく、実現したくても技術的あるいはコスト的にこれまで不可能と判断され、見送られてきた「現実的な領域」での適用が目立つ。LPWANがIoT市場そのものを活性化させるのではないかと期待されている理由はこの辺りにある。

(2)LPWANの課題

回線利用料が不要、あるいは格安であったとしても、LPWANを利用するには少なくとも設備、およびそれにまつわる費用がかかる。よって、センサー/デバイスのコストや無線基地局のコストが競争原理によってどれだけ廉価になっていくかという点が今後の焦点になる。筆者は、当領域に先行して設備投資した複数の事業者が、これらの設備を貸し出す事業(イネーブラ事業)を開始することで、LPWAN利用にあたってのハードルは下がっていくものと考えている。冒頭にも述べたとおり、2017年は国内におけるLPWAN元年となる見込みであり、導入を予定しているお客様へのご支援を継続して行っていきたいと考えている。

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佐藤 秀之(さとう ひでゆき) 佐藤 秀之(さとう ひでゆき)
株式会社富士通総研コンサルティング本部 産業グループ チーフシニアコンサルタント
1993年 富士通株式会社入社。企業に対する業務改革コンサルティング、業務システム企画などの業務に従事。
2007年 株式会社富士通総研に出向。現在は、情報通信業のお客様を中心に、ネットワークを活用した新事業企画、新サービス検討などの業務に携わっている。