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倫理的消費を促すためのビジネス創出

2017年4月7日(金曜日)

1. なぜ倫理的消費が提唱されているのか

消費者庁は2015年から、「倫理的消費の啓蒙と育成」に乗り出している。2017年3月2日、第10回倫理的消費調査研究会を開催し、過去2年間の取り組みをまとめ、倫理的消費の行動指針「最終報告書~あなたの消費が世界の未来を変える~(案)」を発表した。

倫理的消費(注1)とは、「地域の活性化や雇用なども含む、人や社会・環境に配慮した消費行動」(消費者基本計画)と定義されている。つまり、環境倫理、社会倫理、生命倫理に基づいた商品・サービスの選択を通じて、環境・社会問題の積極的解決に寄与しようとする消費者の購買行動である(山本 2015)。グローバル化や商業形態(物流)の変遷によって、消費者に商品の生産過程などに関する情報が届かず、生産地や労働者の状況(特に途上国の場合)に関心が薄くなることで、環境破壊などにより持続可能な生産が困難になるなどの悪循環が生じる可能性がある。さらには、地域の持続可能な発展に支障を与えると懸念される。

倫理的消費の理念は、欧州では1989年にイギリスでの「エシカル・コンシューマー(注2)」の創刊や2004年パリでのエシカル・ファッション(注3)ショーの開催を通じて、ファッション業界から食品業界まで浸透してきた。アメリカでは1960年から動物の福祉やオーガニックフードの検討が始まり、90年代からは有機食品の生産・販売が拡大し、2014年にはオーガニック市場が世界一の約361億ドルまで成長した(FiBL 2016)。

近年、倫理的消費が国内で注目されている主な理由は2点挙げられる。1つ目は、「エシカル五輪」の実現である。2012年のロンドン五輪・パラリンピックでは、大会を運営するロンドンオリンピック・パラリンピック組織委員会が2012年6月に持続可能なイベントのための国際規格ISO20121を取得し、「責任ある調達」「二次原料の使用」「環境負荷の最小化」「人や環境に害のない素材の利用」という4点の原則に基づき、調達の見える化を行った。大会開催中、全会場で1千万本のフェアトレードバナナ、7.5千万杯フェアトレード認証の茶製品および1.4千万杯のフェアトレードコーヒーが消費されていた(Holt and Ruta 2015)。2020年の東京五輪・パラリンピックの開催に向けて、日本は環境先進国として倫理的な調達と運営を取り入れる必要がある。また、これは日本発のエシカル商品・サービスの宣伝にもなる。2つ目は、震災後の応援消費である。東日本大震災後、被災地の商品・サービスの購入や被災地への旅行などの応援消費も倫理的消費の一環として日本全国で広がった。このような応援消費は地域ブランドの創出や地域活性化などにつながることが期待される。

2. 倫理的消費の分類と実態

倫理的消費は、認証商品の購入や応援消費以外に様々な消費形態を含む。具体的には、【図表1】に示すように、環境面・社会面・地域面の3つのタイプに分けられる。環境面においては、従来のグリーン商品から近年の動物福祉製品まで気候変動や生物多様性など環境問題の深刻化とともにその対象が広くなった。社会面においては、労働環境の改善から、倫理的投資、伝統的食材や文化とそれらを提供する生産者を守るスローフード運動などがある。さらに、地域面においては、農林水産物の地産地消や伝統工芸の保護、フェアトレード製品の利用促進を目標とするフェアトレードタウンへの認定などが挙げられる。

【図表1】倫理的消費のタイプ
環境 社会 地域
フェアトレード製品の購入 フェアトレード製品の購入 フェアトレード製品の購入
グリーン購入(省エネ、低炭素製品の購入) 障がい者の作った製品の購入 地産地消
自然エネルギー利用、オーガニック製品の購入 社会的責任投資 地元商品での買い物
車のレンタル・シェア、エコホテル、環境観光 ペイフォワード 応援消費
持続可能な森林・漁業認証 スローフード 伝統工芸
持続可能な鉱山から採掘された鉱物使用 寄付付き製品の購入 友産友消
ごみ排出削減 ボイコット フェアトレードタウン
動物福祉(アニマルウェルフェア)製品の購入 CSR調達 寄付

注:山本(2015)を参考に、筆者作成。

2010年から2014年まで、株式会社デルフィスによるエシカル(倫理的消費)実態調査(全4回)が実施された。その結果、エシカルに対する認識度は約10%前後であり、4年間で大きな変化が見られなかったが、エシカルに対する興味や実行度は低下傾向である。また、ヤラカス舘 SoooooS.カンパニーが2015年に実施した「生活者の社会的意識や行動を探るためのアンケート調査」によると、「社会性のある商品で、中身まで理解したうえでの購買は、大手企業のものでも1割前後」であった。2016年に継続実施した調査の結果、社会性のある商品を実際に購入した消費者の割合も約1割であった。

欧米各国と比較すると、倫理的消費の定義に対する認識度や実行度は低いが、実際、環境への配慮を中心に行われてきたグリーン購入活動は20年前から日本国内で展開されてきた。例えば、包装を減らすためのエコバッグの普及活動や省エネ効果のある家電の販売促進活動などが挙げられる。その多くの場合、商品的な魅力が欠けており、価格が割高なトイレタリーや量産型工業製品であった。また、消費者の購入動機は、主に家計の節約や健康目的である。消費者にとって直接メリットがない商品(例:森林認証商品)に対しては関心が示されなかった。

これまでのエコ商品と対照的に、エシカルジュエリーなどのエシカル製品・サービスが、そのデザイン性以外に、生産過程に関する紹介など企業の説明責任を果たした点で、徐々に知られるようになった。また、倫理的消費は、前述したように、その意義に対する理解が低いものの、被災地への応援消費など、いくつかの側面から消費者に浸透しつつある。

消費者庁は、倫理的消費を推進するため、全国に推進組織(エシカル・ラボや消費者庁主催のシンポジウムの開催など)の拡大による議論の場の提供、教育部門における啓発材料の作成、消費者向けの情報提示のために行政による認証関連ポータルサイトの構築などを挙げている。これらは主に、情報提示を中心とするものであった。以下では、倫理的消費の推進における産業界の役割について、特にビジネス創出の可能性について、事例を紹介しながら、検討したい。

3. 事例からみる倫理的消費のビジネスチャンス

(1)フェアトレードやエシカル製品の生産

フェアトレード製品は生産過程において良い労働環境の確保や生産地環境の保護などを行う企業の製品である。フェアトレード認証の認定には国際フェアトレード基準を満たさなければならない。例えば、鉱山の採掘現場での児童労働や環境汚染の防止に配慮した貴金属を使ったエシカルジュエリーなどが挙げられる。また、フェアトレード認証を取得しない製品でも、ソーシャルメディアなどを通じて説明責任を果たしている場合、エシカル商品と呼ばれるようになっている。一般的に、大量生産・販売をベースとする大企業よりも中小企業による商品開発の可能性が高いとされている。特に欧米では、NGOや政府機構などが、フェアトレード生産に取り組む中小企業に対して、融資から調達などのサプライチェーンまで全般的な起業支援を行っている。

日本の有名な事例として、2006年に創立したマザーハウスが挙げられる。マザーハウスの「マザー」は「マザー・テレサ」から取り、ハウスは、温かい家を意味しているようで、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」というコンセプトを掲げている。創立者兼デザイナーの山口絵里子氏がバングラデシュでのものづくりをはじめ、革製品からアクセサリーまで、比較的低価格で質の良い商品を消費者に提供している。設立当初には資金面の支援がなかったが、初期においてバングラデシュ当地の新聞や『日経ウーマン』などで紹介され、また民間主催のイベント「ロハスデザイン賞(注4) 2007」ヒト部門賞の受賞がきっかけとなって2008年にテレビ番組『情熱大陸』でバングラデシュでの生産過程などが報道され、販売拡大につながった。現在は、インドネシアやスリランカなどでジュエリーラインや衣料品工場など生産を拡大し、市場も日本にとどまらず、パリ、香港などにも進出している。その特徴としては、現代化されつつある途上国において、デザイン性のあるものづくりによって、現地の伝統技術が継承され、労働者の働く環境が改善されたことが挙げられる。顧客の中には、マザーハウスを社会貢献している企業と認識し、そのコンセプトに共感する人も少なくない。

同じくファッション業界の海外の事例に、オーストラリア発のThought社がある。この会社は、途上国のオーガニックコットンなどを調達し、低価格で品質の良い商品を開発し、現在、世界各国で計1000店舗を展開している。Thought社の欧州上陸は、パリで開催されたエシカル・ファッションショーの翌年、2005年であり、エシカルブームに乗りながら、低価格でデザイン性のある商品で成功したと思われる。

フェアトレード認証製品の市場規模は年間15%~24%の増加を達成している。また、エシカル製品の市場も近年拡大傾向にある。現時点では、フェアトレード認証製品やエシカル製品そのものに対する消費者の認識が低いものの、機能性とデザイン性兼備のファッション商品としての利用が拡大している。スマートフォンなどの普及により、中小企業にとってソーシャルメディアの利用による商品宣伝コストの削減が可能となった。政府、NGOや民間組織が主催する各種のイベントに積極的に参加することで、知名度の向上につながる。今後、フェアトレード商品のさらなる普及が予想される中、いち早く商品・サービスのブランド化を行うことが重要と思われる。

(2)食品廃棄・ロスの削減

ごみ排出削減は、CO2の排出量の削減(カーボンフットプリント:CFP)や資源の有効活用などの環境への配慮の観点から、倫理的消費に含まれる。ごみ排出削減に関連する主な活動として、リサイクル、容器包装使用量の削減などが挙げられる。

2050年に世界人口が90億人に達することが予想され、食料不足が懸念されている。しかしながら、途上国における都市化の拡大などの影響で、食料生産の劇的増加が期待できない中、食品廃棄・ロスの削減が重要視され、国連の持続可能な目標(SDGs)のターゲット12.3として挙げられている。現在、日本も含めてEU、アメリカなどの国では、2030年までに50%の食品ロス削減目標を掲げている。

食品廃棄・ロスの削減は主に生産段階と販売・消費段階の2段階に分けられる。これまで、ロングライフ製品開発、食品廃棄発生実態の把握(計量システムの導入)、NO-FOODLOSS(注5)やフードバンク(注6)のプロジェクト、意識啓発、期限表示理解促進、エコクッキング等、様々な対策が講じられてきた。

先進国においては、消費段階の廃棄が主な原因とされている。2015年に日本で行われた調査によると、世帯における食品の食べ残しを行った理由として、内食の場合、料理の量が多かったためという回答の割合が71%にも上る。また、食品廃棄発生の理由として、過剰購入が挙げられている。

そこで、食材管理や調理方法に関する情報を消費者に提供できるAI搭載冷蔵庫が続々と登場した。例えば、シャープが開発した冷蔵庫の場合、専用スマートフォン向けアプリ「ココロボ~ド」に冷蔵庫の中にある食品の賞味期限などの情報を登録することで、利用者に通知することが可能となる。また、サムスンが発表したタッチスクリーン付きのスマート冷蔵庫の場合、外出先から食材の在庫確認などができる。冷蔵庫などの家電を含む様々なモノがインターネットにつながるIoT(モノのインターネット)のような新技術の応用によって新たなライフスタイルを提示しながら、食品廃棄の削減にもつながるため、これらも新たなエシカル商品といえよう。

このようにIoT技術の活用による倫理的消費の促進が考えられ、逆に、倫理的消費意識の普及がIoT技術の促進につながるかもしれない。倫理的消費の推進は、インターネットによる情報発信にとどまらず、新たなビジネスチャンスとして認識されることで、産業革新にもつながるだろう。

今後、倫理的消費の対象はさらに拡大されると予想できる。日本において、これまで、主に消費者教育の観点から、NGOや政府機関などが倫理的消費の育成のために様々な宣伝や情報提示を行ってきたが、今後は、産業界主導のボトムアップ的な理解と取り組みの拡大が望まれる。そのためには、まず、政府をはじめ、民間の研究団体などが事業者にビジネスチャンスが潜んでいることを明示する必要がある。現在、先進国の消費者だけでなく、一部の途上国でもエシカル商品への関心が高くなっている。例えば、青木らの研究(2017)では、日本やタイの市場において米の味よりもフェアトレードやオーガニックへの関心が高いことを示した。この潜在的な市場の規模と今後の拡大速度を予測し、事業者に提供することが必要であろう。

需要を把握したうえで次に重要なのは、フェアトレード商品やエシカル商品の開発のため、人材、資金、ネットワーク、広報の分野において多様なステークホルダーによる起業家への支援を行うことである。その中でも、特に、メディアの宣伝、消費者を惹きつけるイベントの開催などは、市場の拡大を可能にする有効な支援策である。近年、自治体のフェアトレードタウン認証への参加や地域応援消費イベントなどの開催によって、エシカル商品が宣伝され、行政、企業、市民のつながりが密接になり、地域の一体化をもたらす効果もある。また、社会的責任投資が国際的に拡大し、日本においてもESG(環境、社会、企業統治)情報を投資に組み込む動きが見られている。起業家にとって、エシカル商品の開発は融資の円滑化にも有利と思われる。

倫理的消費が世界的に広がっていく中、新たな基準が構築されることも予想できる。日本の企業が、東京五輪を機に、エシカル商品・サービスの提供による日本発の基準づくりに取り組めば、倫理的消費のグローバルな拡大に貢献し、今後のビジネス展開のリーダーにもなると思われる。2020年の東京五輪に向けて、企業人はもちろん、市民や技術者も提案可能な仕組みや商品宣伝の場づくりを通じて、優れたアイデアの実践や商品・サービスの知名度を向上させていくことが必要である。

注釈

(注1) : 倫理的消費:エシカル消費、社会的(ソーシャル)消費とも呼ばれる。最近は、同じ意味合いで持続可能な消費も使用されるようになってきた。

(注2) : エシカル・コンシューマー:倫理的消費を行う消費者という意味で、環境、労働、社会問題に配慮する消費活動を行う消費者を指す。

(注3) : エシカル・ファッション:環境問題、労働問題、社会問題に配慮した、良識にかなった素材の選定や購入、生産、販売をしているファッションのことを指す。具体的には、労働者権益の保護、動物権利の保護、動植物の持続可能性へのサポート、環境に優しい素材の開発などを含む。

(注4) : ロハスデザイン賞:2005年12月から、年一度開催される月刊「ソトコト」主催・環境省後援のイベントである。

(注5) : NO-FOODLOSSプロジェクト:消費者庁が関係5省庁と連携して事業者と家庭、双方における食品ロスの削減を目指して進めている国民運動である。

(注6) : フードバンク:安全に食べられるのに包装の破損や過剰在庫、印字ミスなどの理由で、流通に出すことができない食品を企業などから寄贈していただき、必要としている施設や団体、困窮世帯に無償で提供する活動である(全国フードバンク推進協議会 ホームページより)。

参考文献

関連サービス

【調査・研究】


楊珏(ヤン ジュエ Yang Jue)
株式会社富士通総研 経済研究所 上級研究員
2008年 国立環境研究所・地球環境研究センター アシスタント・フェロー/特別研究員、2011年 筑波大学大学院・生命環境科学研究科 Ph.D.、2012年 東北大学大学院・環境科学研究科 産学官連携研究員を経て、2015年 株式会社富士通総研 経済研究所 入社。
専門領域は環境経済学、環境政策。
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