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『新しいこと』への挑戦的アプローチ
―スペイン都市訪問レポート―

2017年4月4日(火曜日)

現在、IoTやAI、オープンデータなどを活用した新しい技術・サービス革新が世界中でブームを巻き起こしている。もちろん、日本においても例外ではない。特に日本は世界に誇れる技術力を保持しており、新技術分野においては頭角を現しそうなものだが、社会での実装に向けた進みは遅いのが現実である。その理由の1つとして、組織構造が細分化され、合従連衡型の大所帯(大企業、官公庁、自治体等)となっているケースが多く、新しい取り組みが一朝一夕には進展しにくいことが挙げられる。新しい価値に対する開発側の一方的な訴求と受け入れ側の理解や実行力との整合が難しいケースも多いのが実態である。

【写真1】 地中海を背景にしたバルセロナ市の風景
【写真1】 地中海を背景にしたバルセロナ市の風景

では、どうすれば現状の打開策が生まれるのだろうか?解決のヒントを得るため、我々は先進的な取り組みを次々に実行へ移しているスペインの各都市を訪問し、各担当者の話を伺ってきた。本稿では、前半で各都市の訪問で得た内容を共有し、後半で我々の考察を提示したい。

1. 未来のためのデータ

まず我々はスペイン第二の都市、バルセロナ市を訪れた。バルセロナ市では、データ活用によるスマートシティの実現や様々な社会課題の解決を目的として、「Digital City」、「City OS」といったコンセプトを示し、多種多様なICTデータ活用の取り組みを行っている。また、その取り組みは世界中のメディアに「最新事例」として取り上げられている。

【図1】「The Barcelona Digital City 2017-2020 plan - Ajuntament de Barcelona」HPより
【図1】「The Barcelona Digital City 2017-2020 plan - Ajuntament de Barcelona」HPより
(参照:http://ajuntament.barcelona.cat/estrategiadigital/enOpen a new window

バルセロナ市のCTO(Chief Technology and Digital Innovation Officer)であるFrancesa Bria氏によると、「我々は未来のためにデータを整備している。あらゆる人にデータを使ってもらいやすい状態にした基盤を創っている段階である」とのことだった。

実際に、バルセロナ市内にとどまらず、企業や学生、市外の自治体などを世界レベルでパートナーとして巻き込み、輪を拡大させる取り組みに前向きであることがうかがえた。

2. 1人1人が主役

バルセロナ市では、IoTの機器の受け皿としてSentiloというプラットフォームを開放している。プラットフォームをデータの受け皿として整備することにより、各企業に新しい技術活用を促している。企業には自社の新技術の実証の場、プロモーションの場としてのニーズ、バルセロナ市には効率的な都市運用というニーズがあり、双方のニーズがマッチしている。交通や水管理の分野では実際の業務にデータが活用されており、センサーデータの可視化による省力化でコストを削減したり、スマートパーキングなどの新事業において多くの収益を創出したりするなどの成果を生んでいる。

【写真2】バレンシア市における交通ダッシュボード(Smart Traffic)
【写真2】バレンシア市における交通ダッシュボード(Smart Traffic)

次に訪れたバレンシア市でも、バルセロナ市と同様にデータを市民に開放しており、企業や市民、大学などの研究機関による主体的な利用を促している。例えば、バレンシア市ではSmart Trafficというコンセプトのもと、あらゆる交通情報を道路や信号のセンサー、カメラから集約している。それらの通信規格について大学から提言があり、コストや利用のメリットが認められたことで、導入の政策意思決定がなされたという。

このように、スペインではデータを活用した都市づくりの取り組みが積極的に行われている都市があり、企業、市民、大学がそれぞれ重要な役割を果たしている。自治体との距離が非常に密接であるため、各ステークホルダーが主体的に提案し、意思決定を行う風土が形成されている。それらの提案や意思決定を推進するためにオープンデータが活用されている。

【図2】バレンシア市役所オープンデータポータルHPより
【図2】バレンシア市役所オープンデータポータルHPより
(参照:http://gobiernoabierto.valencia.es/enOpen a new window

3. 新たな取り組みを支える基盤 ―失敗を受け入れ、挑戦を奨励する土壌―

このように先進的な取り組みを柔軟に進めることができる理由は、以下3つの観点に集約される。

(1)目的ベースの組織

(2)意思決定プロセス

(3)結果を蓄積するデータベース

「日本では新しい技術・取り組みが定着することは容易ではないが、スペインではなぜ成功しているのか?」と質問すると、バルセロナ、バレンシアの各自治体から同様の答えが得られた。「目的に適えば導入は容易。逆になぜ躊躇することがあるだろうか」と。

【写真3】バレンシア市役所メンバーと
【写真3】バレンシア市役所メンバーと

スペインの各自治体の組織構造は日本と同様に縦割りだが、目的を同じくする者同士での組織横断の情報共有や連携が行われているという。意思決定も柔軟かつ迅速に推進されている。データのシミュレーションで効果が出ていれば、先に述べたように大学や企業からの意見を受け入れ、政策決定にかけるという。成功している事例はもちろんのこと、失敗も含めた情報をすべてデータベースに蓄積しており、試行錯誤しながら「実行している」。日本は実行までの検証に長時間を要していることから、この差は非常に大きいと言える。

スペインの各都市における先進的な取り組みは多くのメディアで取り上げられているが、実際にはまだ課題も多いという。データを活用したサービスづくりや、持続可能なビジネスモデルづくりなどはこれからだ。ステークホルダーを巻き込んだエコモデルを紡ぐことへの課題は多い。産官学で行っている取り組みも、各メンバーでの時間軸や目的意識、アクションの整合を取ることは容易ではないという。

【写真4】バルセロナ市役所メンバーとの撮影。左端と右端が筆者。右から2番目がCTOのFrancesca Bria氏。
【写真4】バルセロナ市役所メンバーとの撮影。
左端と右端が筆者。右から2番目がCTOのFrancesca Bria氏。

さらに、オープンデータというものに定義的なものはない。企業、個人によっては開示されたくない情報もあり、データ所有の問題も解決を図る必要がある。

我々はスペイン滞在の最後にマドリードにある富士通スペインを訪ねた。その際にもバルセロナ市、バレンシア市と同様に「なぜスペインでは先進的な取り組みが行えているのか、スピード感があるのか」という疑問を投げかけたところ、同様の返答があった。富士通スペインの鈴木國男イノベーションディレクターによると、「我々は顧客との対話を綿密に行っている。また、最適な提案を内部で共有し、連携してベストな解を生むようにしている。だから進みが速い」とのことだった。

実際に富士通スペインでは、イノベーション関連のテーマで、大学の教授、リサーチャーとの共同研究・開発を実施している。AIによる医師支援など、先端的な取り組みも先行している。その他、スペインの代表的な金融機関やヘルスケアの分野でも大きな実績をあげている。
(参照:2016年11月10日付け 富士通プレスリリース「富士通の人工知能技術により、医師の迅速な意思決定を支援」Open a new window

4. 単純なモデル輸入では成功しない

スペインは経済情勢の不安定さという大きな課題を抱えている。財政難という面では日本と共通するが、その他の課題は大きく異なる部分も多く、スペインと日本の文脈は異なっているため、事例をそっくりそのまま輸入することはナンセンスである。例えば、スペインは失業率が非常に高いことが社会問題となっている。スペインのデータ活用における各都市の取り組みは、実際に多くの雇用を創出しているとのデータもあり、課題解決につながっていることも評価ポイントであると判断できる。一方、日本の現場では人材不足が深刻であり、特に多くの分野で専門的な人材が高齢化を迎えているため、将来的な対応が求められている。これは新技術活用のチャンスであるとも考えられるため、実際に現場の声を拾いながら、日本独自の課題に対応する技術活用を検討する必要があるだろう。

5. 価値実現のためのステークホルダーとの協調

我々は日々の業務において、民需系企業の新規製品・サービスの企画・実行の支援を行っている。それらの業務を通し、新ビジネスの検討は、一方向からの視点でユーザーにとって役に立つ新サービスを創るだけでは事業は立ち上がらないと実感している。実際にそのビジネスを運用する受け入れ側、意思決定側のプロセスが新しい技術やサービスに追いつかず、表面的な評価だけで終わるケースが多いためだ。そのため、受け入れ側の意思決定プロセスを理解し、方法策を模索することが必要となる。また、新しい施策の定着までのシナリオと運用方法、プロモーションの検討も同様に必要である。新しい技術・サービスを生み出す作り手は、これらを視野にシナリオを描くことが求められている。

【図3】新規系の取り組みに必要な条件
【図3】新規系の取り組みに必要な条件

実証実験のプロセスにおいて、技術開発だけで終わる場合も多い。本来は計画段階でビジネスモデルの構築やプロモーションまでを含めた「出口から逆算したアプローチ」が必要だが、日本でそのアプローチが行われることはあまりない。スペインでも、同じように技術ドリブンのPoC(Proof Of Concept:概念実証)起点で行われるケースが多いが、スタートアップの枠組みを有効活用しPoCに時間をかけないことが特徴だ。限られた期間とリソースの中で出口を見据えた計画が必要と言える。

(ご参考)日本でも新たなデータの価値を広めるためのチャレンジに積極的な自治体がある。神戸市の長井氏(企画調整局創造都市推進部ICT創造・事業推進担当係長)は姉妹都市であるバルセロナ市に乗り込み、バルセロナ市と連携して神戸市でデータの価値を高める取り組みにつなげている。オープンデータの基盤整備・データ活用手法を検討するワークショップや、企業との実証実験、市役所内での人材育成を通し、実行の輪を広げているという。まずは理解者を増やすという意味での啓蒙活動は大変労力が要るが、重要なアプローチだと言える。方法論が確立していない中でリーダーシップ溢れる長井氏の行動を称賛したい。

【写真5】左端が長井氏。2016年6月バルセロナ市プラットフォーム『Sentilo』メンバーと検討会後の記念撮影。
【写真5】左端が長井氏。2016年6月バルセロナ市プラットフォーム『Sentilo』メンバーと
検討会後の記念撮影。

6. 「解」がないから「現状」を脱却し続ける

往々にして日本企業は「新しいこと」を実行するスタートラインに立つまでに時間を要する。意思決定よりも先に、他社事例の調査、定義付け、関連する対象との整合性の確保などに時間を割いてしまう。様々な整合性を常に合わせるために、結果的に無用な副産物を多く生んでしまう傾向もある。人材不足や財政難という課題を抱える中、可能性が未知数である新しいチャレンジへの投資は徒に労力を要す可能性もあり、意思決定が難しい。

しかし、既存のルールに疑問を感じ、新しいアクションを次々と起こしていかないと、進展はない。目の前のタスクをただ待って、流しているだけでは、いつか現在の付加価値が新しい秩序の付加価値に追い越されてしまう。

スペイン各都市では、コンセプト起点で環境を整え、コトが起きやすいように見えた。「個」が自由に発想し、内容が良ければ、判断もされやすく実行に移しやすい。ある意味、近い将来、個の単位でコトを起こす汎用性の広がりを示しているのではないだろうか。仮に、企業の制約が外れ、自由な発想や施策と引き換えに自立が求められた際に、どれだけ個として付加価値が生み出せているか?今後の変化に対して備えるべきスキルや、考え方、ステークホルダーとの関係性をスマートに整備し、どのように柔軟に対処していくかについて、ますます問い続け、自分なりの「解」を見つけるために実践的に試行錯誤することが重要になると言えるのではないだろうか。

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「アイデアを育て事業を起こす」(知創の杜 2016 Vol.13掲載)
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久本 浩太郎(ひさもと こうたろう)久本 浩太郎(ひさもと こうたろう)
株式会社富士通総研 産業・エネルギー事業部 シニアコンサルタント
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株式会社富士通総研 産業・エネルギー事業部 アシスタントコンサルタント
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