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シリーズ【EdTech―「学び方」が変わる・「教え方」が変わる―】
SDGs目標4(教育):世界の教育格差の是正を目指して
―ベトナムでの取り組みから見えたICT活用の可能性―

2017年12月4日(月曜日)

SDGs(注1)では、目標4として「質の高い教育をみんなに」が掲げられています。私たちは、その目標達成に向けた貢献として、ICT活用による世界の教育格差の解消に一歩ずつ近づくために取り組んでいきたいと考え活動しています。まずは日本にとって近隣国であるASEAN地域を対象として、そして最終的には問題が深刻なアフリカ等の貧困国・紛争地域の教育環境整備への貢献までを目指し、就業・起業に必要なスキル獲得等の支援・促進、そのためのICT活用教育プログラムやプラットフォームの検討などを行いたいと考えています。

今回は、その取り組みの一環(ファースト・ステップ)として、ASEANのベトナムにおいて、教育へのICT活用の現状や日本への期待、そして日本型教育(理科実験)の現地実証を通じたICT活用の可能性について調査・検討を行いました。ベトナムは、国の工業化を目指す中で人材育成に重点を置いており、政府支出や消費支出に占める教育支出の割合がアジアの中でも高く、「教育熱心な国」と言われています。そして、ICTを活用した教育については、都市部でも学校にPCが十分に揃っていないなど決して十分な環境ではない中で、ICTを使った学習環境の整備やICT教育に積極的に取り組んでいます。

本レポートでは、そうしたベトナムでの調査や実証結果、そしてSDGs4への貢献のポイントについて報告します。

1. SDGs 目標4 「質の高い教育をみんなに」とICTの可能性

2030年に向けた「持続可能な開発目標 (SDGs)」の目標4に「すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する」というものがあります。目標4の具体的ターゲットとして、地域や性別間の教育格差解消、障がい者等があらゆるレベルの教育にアクセスできること、雇用・働きがいのある仕事・起業に必要な技術的・職業的スキルの習得促進などが示されています。

【図1】SDGs(持続可能な開発目標)
【図1】SDGs(持続可能な開発目標)

目標4:すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する。

※国際連合広報センター資料より引用

そして、これらの実現においては、例えばオンラインでの遠隔教育による教育格差の解消や先生の育成・支援など、ICTが果たせる役割が大きいと考えられています。

私たちは、様々な世界の教育格差を解消するための具体的なICTの貢献可能性を下表のように整理し、その実現方法の検証に取り組んでいます。

【表1】 ICTによるSDGs 目標4「質の高い教育をみんなに)への貢献可能性(例)

課題 ICTによる貢献
学校や教材が不足している地域における学習環境の整備
  • オンライン学習やデジタル教材・アプリ等のツール、遠隔授業/バーチャルクラスによる個人/クラス単位への授業・教材の提供
  • ソーシャルメディア等のコミュニケーション・プラットフォームによる生徒同士のコミュニケーションや地域社会とのつながりの促進
性別等による教育格差解消のための学習環境の提供
  • オンライン学習や遠隔授業、デジタル教材・アプリ等による女性向けの学習環境の提供
  • オンライン上でのメンタリングやカウンセリングの提供
  • 障がいに応じた学習支援ツールや学習環境の提供
先生が不足している教育機関や地域における先生育成の支援
  • 先生用のオンライン学習や遠隔授業による学習機会の提供
  • コミュニケーション・プラットフォーム上での先生同士のコミュニティ創出による相互支援や教材・方法共有の機会創出
  • ソーシャルメディア等による教員募集機会の創出
  • アナリティクスによる生徒の学習進捗状況や学習課題の可視化・学習計画の策定支援
  • オンライン上での生徒とのコミュニケーションやサポートの実施
図書館・博物館等の教育施設が不足している地域における学習環境の整備
  • オンライン上にデジタル書籍による図書館の開設
  • VRを活用したバーチャル博物館・美術館・科学館の開設
  • VRによるバーチャルツアーや、AR/MRやドローン等を活用したフィールド調査の支援
国・地域の教育政策や教育整備のためのデータ提供
  • 学校別・地域別の各種データの分析・一元管理(入学者数/退学率/ドロップアウトリスク/先生・生徒の出席状況/教材・備品類の不足状況/、テスト点数・成績/教育予算等)
  • オンライン上での全国/地域一斉学力テストの実施による学力と課題の把握
  • アナリティクスによる教育施策立案のための課題分析
起業・就業のためのICT(先端技術)教育機会の提供
  • コンピュータの理解、プログラミングやWeb開発などICT教育の導入
  • VRや3Dプリンティング、IoT、AI等の先端テクノロジーの学習機会の提供
  • ソーシャルメディア等のコミュニケーション・プラットフォームによる起業・就業につながるネットワーク作りの促進
現地のICT人材不足への対応
  • クラウド活用による上記環境の低コストでの提供
  • クラウド活用による現地でのIT人材不足への対応(現地個別でのセキュリティ対策やシステム構築、ソフトウェアの開発やインストール・更新が不要)

※各種資料をもとに富士通総研作成

2. ベトナム・ダナン市における調査と実証を通じた検証

ベトナムは、工業化を進めるうえで教育に重点を置き、海外からの教育導入も進めるなど、東南アジアの中でも”教育熱心な国”と言われています。実際に、初等教育は義務教育化され100%に近い就学率となっており、政府支出や消費支出に占める教育関連の支出は、総じてアジア各国の中でも高い水準にあります。また、人口は9,000万人以上で平均年齢も20代と若く、今後も増える見込みであり、教育の重要性は増す一方と考えられます。我が国の教育コンテンツ、サービス、インフラなどを、ICTの活用によりASEANに展開し、さらにはアフリカ等への展開まで視野に入れるうえで、重要な足がかりとなる国と想定しています。

今回はベトナムの中でも、今後の成長が最も期待されている都市の1つで、ハノイ、ホーチミンに次ぐ第三の都市ダナン市(注2)を訪問しました。現地にて、教育行政担当、学校関係者、現地教育事業者など関係者に、教育へのICT活用やICT教育の現状、日本への期待についてヒアリングを行いました。

さらに、日本の理科実験教室を現地中学校でテスト実施し、本格的な導入のための評価や、オンライン化などICTによるサポートの可能性を検証しました。

2-1. ベトナム・ダナン市の教育へのICT活用の現状

ダナン市の学校では、生徒約30人に対して1台程度のPCしか設置されていません。限られたPCを使って、コンピュータやインターネットを学ぶ授業、英語学習、プログラミング学習を行っていますが、十分ではない状況です。一方、大部分の家庭では、PCやスマートフォン、タブレット端末を持っており、放課後や家庭でのオンライン学習やアプリを使った勉強は、小学校高学年や中学生以上になると珍しくありません。

ベトナムでは、希望どおりに就職するためには「英語」と「IT」の習得が必須と言われ、学校以外でも勉強をしなければなりません。(「IT」の学習は次節で詳述します)。「英語」は、オンラインで勉強する生徒が増えており、かなり一般的になっています。リアルな英語スクールへの通学に比べても料金が安いこと、また、最近では学生が「どれを選んでよいか分からない」というほど提供サービスが増えてきていること、などが人気の要因です。

一方、現地の英語の先生から見ると、現状のオンラインによる英語学習は、その提供サービスの多さから、生徒一人ひとりのレベルに合わせたサービスやコースの選択が難しくなっているとのことです。非効率な学習になる懸念もあり、今後、ICTにより生徒一人ひとりに合わせたコースマッチングに対する期待が持たれています。

リアルな英会話スクールでは、先生達によるICT活用が想像以上に進んでいました。例えば、小学生以上を対象とした通学式の英会話スクールTITAN Educationでは、先生が生徒一人ひとりの英語でのスピーチをスマートフォンで動画撮影し、発音のチェックや、本人へのフィードバック、生徒の学習管理や成長の記録、そして保護者への成長報告を行っていました。

【写真1】ダナン市の英会話スクール TITAN Educationの授業風景
【写真1】ダナン市の英会話スクール TITAN Educationの授業風景

また、オンラインによる勉強は英語以外の科目でも人気があり、例えば、理科の勉強ができるオンライン・サービスとして「HOCMAI (https://hocmai.vn/)」などが多くのユーザーを獲得しています。

【写真2】ベトナムで人気のオンライン学習サービス:HOCMAI
【写真2】ベトナムで人気のオンライン学習サービス:HOCMAI

スマートフォンやタブレット端末のアプリでは、物理を学べるCrocodile-Physicsというアプリが特に中学生の間で人気を集めています。学校の物理の教科書に準拠した内容で、家で授業の復習や予習用に使われています。英語やIT以外の学習アプリの大部分は、Crocodile-Physicsのように学校の教科書に準拠しているとのことです。なお、今回訪問した王立タイソン中学校では、スマートフォンの学校への持ち込みは禁止されていましたが、先生の話では、家に帰ればほぼ全員がスマートフォンを使っており、勉強にはこのようなアプリを使っていました。

また、ベトナムで誕生したオンライン学習サービスが、東南アジア全域で多くの学生を集めている事例も出てきています。ベトナム発のTOPICA EdTechグループ(https://topica.asia/)は、東南アジアにおけるオンライン学習サービスのリーディングカンパニーで、オンライン大学を中核として、VRやスマートウォッチなどのテクノロジーを使った英語学習や、アントレプレナー支援など各種サービスを提供しています。オンライン大学では、国内トップレベルの大学に加え、アメリカやフィリピンの大学とも提携してコース開発をするとともに、学位が取得できることもあって東南アジアで急速に学生を集めています。

2-2. プログラミング教育などのICT教育の状況

ダナン市内の学校では、コンピュータやインターネット、プログラミング等のICT教育は、小学校3年生から行われています。教育行政担当の方によると、前述の学校のPC台数不足に加えて、家ではSNSを当たり前に使っている中で、学校のICTの授業の内容が古く、現実に追いついていないことが課題であるということです。その課題解消のために、2019年にICT教育の内容刷新を予定しています。最新の内容を迅速に導入するために、ICT教育については教材の「オープン化」により準備をする方針です。これにより、従来のように事前に行政側で細かく仕様を決めることをせず、各学校で開発した教材の内容に問題がなければ許可を出すため、迅速な導入が可能になります。

前述の学校のPC台数不足については依然として課題であり、こうしたハード面の課題が解消に向かえばICT教育はさらに加速する可能性があります。PC以外でも、例えば日本のロボット工作教室の事例を紹介した際にも、授業内容には非常に関心があるがロボットキットの価格が合わないということで、やはりハード面での課題が見られました。

学校以外でのICT教育については、代表的なスクールとして、市内のダナン大学内にあるMicrosoft IT Academy(MSITA)があります。ここでは、小学生から大学生・社会人を対象に、PCやインターネット、Word/Excel/PowerPointの使い方といった基礎から、Webデザインやプログラミングなどの専門的なコースまで幅広く提供されています。2014年に開校して以来、小学生から大学生・社会人まで生徒数はのべ8,000名にもなります。近年では、MSITA以外にも、BrandeeやSoftechといった現地のICTスクールも登場しており、ICT教育の広がりが見られています。

ただし、Microsoftが定義しているグローバルレベルとベトナムのレベルの間にはまだギャップがあるため、ダナン大学のMSITAは、このギャップの早期解消を目標に掲げて取り組みに一層の力を入れています。ギャップの例を挙げると、ベトナムの6-8歳向けには、グローバル共通コンテンツの4-6歳向けが使用されているということでした。

【写真3】ダナン大学にあるMicrosoft IT Academyの授業風景
【写真3】ダナン大学にあるMicrosoft IT Academyの授業風景

2-3. 日本への期待

それでは、日本にはどのような期待があるのでしょうか?今回のヒアリングの中では、PC等のハードウェア以外では、日本のICTを活用した教育やICT教育について特徴や明確なイメージが持たれておらず、日本としての強みを具体的にもっと示していく必要を感じました。

一方で、「日本式教育」(注3)へのニーズはありました。近年、海外、特に新興国からの「日本式教育」への関心が高まっていますが、ベトナムでも「日本の教育は質が良い」という声がありました。特に、行政の教育担当や学校関係者からは、「理科実験」への期待が見られました。背景には、社会的課題の解決に資する教育が求められている中で、理科教育、特に実験のように身近な課題解決を学べる教育へのニーズが高まっていることがあります。

今回は、実際に現地中学校で開催した日本の理科実験の実証授業(次節参照)に参加した生徒や見学に来ていた先生に、実証授業の評価や今後の期待を聞きました。授業内容や生徒・先生の声は次節で紹介しますが、特にICTについては、日本との遠隔授業形式での理科実験の実施や、現地での先生育成や実験授業のサポートという期待が見られ、ICTを活用した日本式教育のさらなる展開の可能性を強く感じました。

2-4. 高い日本の理科実験授業への関心とICT化への期待の期待

今回の調査の一環として、富士通総研のビジネスパートナーであり、特に理数系コンテンツに強い日本の教育ビジネスプレーヤーである株式会社リバネス様(https://lne.st/) が、王立タイソン中学校(ダナン市)にて「水質浄化」の理科実験を行いました。約20名の中学生が参加し、多くの現地の先生が見学しました。この実験では実際のダナン市内の川や池の水を使い、生徒は、その水がどれだけ汚れているか、そしてどのようにして浄化できるかについて、実験を通して学びました。

[授業の実施概要]

日時:2017年7月28日(金) 14:00 – 16:00
場所:王立タイソン中学校(ダナン市)理科室
参加者:同校の中学生20名、同校の先生7名(見学)

[授業の内容]

  1. 水の浄化技術を知ろう 〜綺麗な水の確保は重要〜
  2. 実際にダナン市の川や池の水がどれだけ汚れているか調べてみよう
  3. 浄化剤や浄化フィルターを使って
  4. 汚れた水を浄化してみよう

【写真4】 水質浄化の理科実験の様子
【写真4】水質浄化の理科実験の様子

ベトナムの下水道整備率は都市部でも10-30%と低く、水質浄化は大きな課題となっています。このような社会的課題の解決のために理科教育にも力を入れたい同中学校の要望もあり、今回の実証授業が実現しました。

参加した生徒や見学していた多くの先生の今回の実験授業への関心や評価は非常に高いものでした。また教育行政担当も、こうした日本式の理科実験教室の導入を強く希望されていました。

今後は、こうした実験授業を現地の先生が実施できるようすることや、生徒達が引き続き研究を続けられるようサポートすることが目標になります。その中で、先生の育成や授業の支援(授業の中での動画による実験方法の確認など)、生徒のメンタリングや研究のフォロー等にICTが貢献できる可能性が大いにあります。

3. 参入・展開に際して考えるべきこと ―今回のベトナム調査をケースに―

最後に、今回の調査や検証を踏まえ、今後、ASEANや貧困国等への展開や教育の現地定着を考える際に留意すべき点をまとめました。

[留意点1]「日本」ならではの貢献を考えること

ベトナムでは「『日本の教育は質が良い』と認識している」という声を聞くことがありましたが、一方で「日本語教育以外で、日本が強みを発揮できる教育は何なのか」と問われる場面もありました。近年、「日本式教育」は諸外国、特に新興国の関心を集めていますが、一方でICTの教育活用やICT教育については日本のイメージが決して強いとは言えない中で、「日本」のICTやEdTechブランドの創り方・活かし方を考えていく必要があります。

[留意点2]現地の先生へのノウハウ移転による先生育成まで考えること

現地の真の教育支援のためには、上記の理科実験で目指しているように、現地の先生自身が新たな実験授業を実施できるようにする必要があります。ノウハウ、スキル移転の仕組みとして、ICTを活用して、現地の先生育成や授業の支援を行うことまで考えておく必要があります。

[留意点3]現地の教育産業等の基盤作りに貢献すること

途上国では、授業の提供や先生育成だけでなく、教育システム全体を現地で構築する支援も重要になります。現地の教材やテスト会社との連携によるシステムづくりや、学校や生徒データの整備など、ICTの貢献を追求していく必要があります。

上記留意点を踏まえつつ、地道であっても上記理科実験のような有効と思われるコンテンツやサービスなどの現地での提供機会を増やしてくことや、ノウハウ移転の仕組み作り等も併せて行うこと(ボトムアップ)、さらには我が国としての「教育パッケージ輸出」政策推進や、その実現に向けたベンダーとしての富士通グループのような企業の積極的な関わり(投資も含む)機会を増やすこと(トップダウン)、それら両面が必要であり、それが日本の貢献としての大きな潮流につながると考えます。

私たちは、今後もICTによるSDGs目標4「質の高い教育をみんなに」貢献可能性を現実化すべく、ASEANでの遠隔授業の実証や、新たなサービスの開発などにも積極的に取り組んでいく予定です。

注釈

(注1)SDGs:(持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals)は、2015年9月の国連サミットで採択された、人間、地球および繁栄のための行動計画として、国連加盟193か国が2016年~2030年の15年間で達成するために掲げられた目標。SDGsは、17の目標と169のターゲットから成る。

(注2)ダナン市は、ハノイ市、ホーチミン市に次ぐベトナム第三の都市で、ベトナムの中部に位置する。近年ではビーチリゾート地としても知名度が上がっているが、2017年11月のAPEC開催地にもなるなど、ベトナムの中で今後大きな成長が期待されている都市の1つである。

(注3)「日本式教育」には、例えば、社会的課題の解決力の育成につながる理科実験、基礎学力としての計算ドリルを使った算数の授業、体力づくりのための体育や情操教育としての音楽などが挙げられる。また、授業内容以外にも、掃除や給食当番・日直制度などが導入されたケースもある。

シリーズ【EdTech―「学び方」が変わる・「教え方」が変わる―】

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志賀 真保子

志賀 真保子(しが まほこ)
株式会社富士通総研 デジタルサービス開発室 シニアコンサルタント
ヘッジファンド、複数のベンチャー企業の創業期に参画後、2005年株式会社富士通総研入社。内部統制構築、IFRS(国際財務報告基準)導入コンサルティングなどに従事。育児休業復帰後、子供向けのプログラミングやロボット教室の事業企画開発に従事。