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「残業を前提としない働き方」で稼ぐ力の向上を目指す

2017年11月13日(月曜日)

昨今働き方改革が一種のはやりとなっており、残業時間規制に関する法案が準備されるなど、働く時間を短くする方向の議論がなされています。一方で本当にこれを実のあるものにするためには、企業にとって稼ぐ力を維持し、むしろ向上させていくことと両立した形で進められることが肝要です。

企業における働き方改革を企業の稼ぐ力との関係で見た場合に、キーワードとなるのが「残業を前提としない働き方」です。「残業を前提としない働き方」によって得られる効果のうち、企業の稼ぐ力の向上との両立という観点で特に重要なのが、(1)「従業員の成長を促す」、(2)「会社や仕事に対するエンゲージメントを高める」、(3)「人間の幅を広げ新たな時代に備える」という3つの効果です。本稿では働き方改革で目指すべき「残業を前提としない働き方」の定義とその3つの効果について示します。

1.残業を前提としない働き方とは

残業を前提としない働き方とは、一律に残業をしない、または残業時間を短縮するということではなく、時間当たりの生産性を強く意識し、必要な時間は掛けるが短縮できる時間は短縮させるメリハリの効いた働き方を言います。逆に残業を前提とした働き方とは、時間当たりの生産性をあまり意識せず、主に生産量だけに目がいってしまっているメリハリのない働き方です。

それぞれ具体的には以下のような働き方です【表1】。

【表1】 「残業を前提としない働き方」と「残業を前提とした働き方」の比較
チェックポイント 残業を前提としない働き方 残業を前提とした働き方
メリハリのある働き方 業務量が多い日は遅くまで仕事をすることもあるが、そうでない日は早く帰る 週に1日でも残業をしないで帰れるように調整することが難しい
常に時間意識を強く持ち
集中度の高い働き方
時間の有限性を強く意識し、時間当たりの生産性を高めている 仕事を進めているといつの間にか時間が経ってしまい、残業していることが多い
予測可能性の高い働き方 時間制約のある日にはそれに合わせた調整ができる その日の退社時間を予め決められないことが多い
高い調整力が発揮された
働き方
同僚や上司、部下が必ずしも遅くまでいることを前提としていない その日にやらなければならない仕事が残っていなくても上司や部下、同僚を気にして帰りにくい
創造性を高める余力ある
働き方
仕事以外にも熱中していることがあり、そこで得たものを新たな視点として仕事に活かすことにもつながっている 現在取り組んでいる仕事以外の多様な事柄への興味が薄く、早く帰っても特にやることがないので早く帰る必要性が少ない
明日への活力を意識した
働き方
健康価値を重視し、明晰で活力ある精神力を保つため、定時退社や適切な休暇の取得を互いに良しとしている 業務の成果に関わらず、日頃から残業しない人はそれだけで評価が低くなるので残業する

(資料:富士通総研作成)

なお「残業」という言い方をしていますが、時間管理対象外の方でも時間管理対象者における所定就業時間外の業務という意味で、ほぼ同じことがあてはまると理解できます。

2.残業を前提としない働き方の効果

残業を前提としない働き方をすることによって企業の稼ぐ力の向上につながる3つの効果が期待できます【図1】。

以下それぞれについて詳しく説明します。

【図1】 「残業を前提としない働き方」による「稼ぐ力の向上」へのフロー
【図1】 「残業を前提としない働き方」による「稼ぐ力の向上」へのフロー

(資料:富士通総研作成)

効果(1): 従業員の成長を促す

日本の時間当たり労働生産性は、諸外国との比較で見るとOECD諸国34カ国中20位と低い状況にあり、直近20年で順位はほぼ変わっていません。特にホワイトカラーではブルーカラーに比べ、これまで必ずしも労働時間が強い制約条件として意識されてこなかったので生産性向上の余地が大きいと考えられます。

労働生産性を左右する要素として、ビジネスモデルや商品・サービスの利益率もありますが、働き方にも多分に依存します。メリハリのある働き方を促すことで従業員の時間当たり労働生産性に関わる能力を向上させることができます。例えば以下のようなことが期待できます【表2】。

【表2】 残業を前提としない働き方による従業員の能力向上
時間意識による集中力の向上 常に終わりの時間や時間当たりの生産性を意識して仕事に取り組むことで、あらゆる面で重要なことにフォーカスして仕事に取り組むように動機付けられる
仕事の意義・重要性の把握 仕事の目的・意義を考え重要度の高い仕事を優先させる能力や、プレゼンテーション、その他顧客・上司・部下とのコミュニケーションでポイントを分かりやすく伝えたりする能力を向上させるようになる
調整力・コミュニケーション能力の向上 時間制約があるメンバーがいる中で一定時間内に仕事を終えられるように調整するため、社内メンバーとの間はもちろん、顧客との間も含め必要となるコミュニケーション力が養われる
高付加価値へのフォーカス 不要な仕事を廃止したり削減したりすることは当然であるが、そうした業務量の削減だけでなく短い時間の中でもより付加価値の高いアウトプットを出せるように訓練されていく
問題の本質へのフォーカス 問題解決やデータ分析などで、問題の本質を見抜くことにより、単に時間が早くなるだけでなく、提案力・問題解決力など価値が高い仕事力が鍛えらる

(資料:富士通総研作成)

時代の変化が激しくスピード感が以前より格段に求められるようになっている今、長い時間と期間を掛けて身につける能力だけでなくこの種の能力、いわば「要にフォーカスする力」が重要性を増しています。

「残業を前提としない働き方」に取り組むことにより、従業員のそのような能力が高められ、それが稼ぐ力の向上につながります。

効果(2): 会社や仕事に対するエンゲージメントを高める

経済同友会「世界に通じる働き方に関する企業経営者の行動宣言」(2015)によると、エンゲージメントとは「活力、献身、没頭などに特徴付けられる、仕事に関連するポジティブで充実した精神状態」のことです。日本企業の従業員のエンゲージメントは諸外国と比べてかなり低い水準にあり、そのことが稼ぐ力の低下につながっていると指摘されています。

エンゲージメントの低い従業員はモチベーションが低く、最低限の仕事しかしようとしない傾向があります。とりあえず目の前の仕事を片付ければよく、顧客との関係を深めたり商品・サービスを刷新したりはしません。そのネガティブな姿勢が周囲のモラルを低下させる原因にもなり、それがセキュリティや安全などの事故にもつながりかねません。それに対し、エンゲージメントの高い従業員は仕事に熱意を持って精力的に取り組み、自ら持てる能力を最大限発揮しようとします。自社の商品・サービスの支持者として熱心に顧客アピールし、顧客との関係を深めるため商品・サービスの刷新を図ります。企業に長く留まる可能性が高く、より高みを目指して自らの能力を高めていきます。こうしたことが企業活力につながり個人と組織の稼ぐ力となっていきます。

このエンゲージメントに関して、従業員満足度調査や、交流のためのイベントを行うこともありますが、それよりも働き方改革で、より直接的にエンゲージメントを高めることができます。エンゲージメントには従業員が「組織の目指す方向性を理解しそれに対し動機付けられている」「組織に対して帰属意識や誇り、愛着を持っている」「組織の成功のため進んで貢献する意欲がある」という3つの要素があります。「残業を前提としない働き方」によってこの3つの要素に働きかけることができます。例えば以下のようなことが期待できます【図2】。

【図2】 エンゲージメントの3つの構成要素と「残業を前提としない働き方」
【図2】 エンゲージメントの3つの構成要素と「残業を前提としない働き方」

(資料:富士通総研作成)

「残業を前提としない働き方」により従業員の会社や仕事に対するエンゲージメントを高めることが稼ぐ力の向上につながります。

効果(3): 人間の幅を広げ新たな時代に備える

政府は「人づくり革命」を政策に掲げ、年齢に関わらず誰もが人生を再設計できる社会を作り、人口が減る中でも一人ひとりの生産性を上げて経済を押し上げるべく「人生100年時代構想会議」を設置し本年から議論を開始しています。

健康寿命や働く年数が長くなる一方、事業やそれに求められる人材の能力は変化が激しく短命化しています。10年後の仕事は65%が今は存在しない仕事になるだろうなどと言われるように、今身につけている能力を頼りに今後も生き抜けるとは考えにくくなっています。そのため、生涯を通して新しいスキルと専門技能を獲得し続けることが必要になるケースも多いでしょう。リンダ・グラットンらは著書「LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略」()の中で、今後のキャリアの在り方として、生産性の高い人材であり続けるためには、自分になかった知識と見方を得るきっかけとして、幅広い人々との関係を深めることや多様性に富んだネットワークの形成、そこから得た知識、見方を行動に移す前向きな姿勢を持つこと、そして健康や明晰な頭脳を保つために生活習慣や仕事上のストレスの管理に気を付けることなどが今後ますます重要になると指摘しています。

企業の側から見ると、事業に必要な人材配置や要員計画を予測的に行うだけでは、時代の流れの速さや新たなビジネス開発に対応することが難しくなっています。人材教育も必要なスキルをリストアップし、体系的に提供するだけでは足りなくなっています。個々人の自律的なキャリア形成によって、新たなビジネスにつながる土地勘や人とのつながり、情報ソース、気づきを各人が涵養していくことが、重要と考えます。

「残業を前提としない働き方」によって生まれた時間的・精神的余力によって、現在の仕事と必ずしも直接関係ない新たな事柄への興味や社外の幅広い人々とのつながり、活力を生むリフレッシュメントを増進することができれば、新たな時代に対応できる創造性を向上させ、稼ぐ力を向上させることにつながります。

3.おわりに

以上、働き方改革による企業の稼ぐ力を向上させるための「残業を前提としない働き方」の内容と、その3つの効果を示しました。働き方改革のプロジェクトをご支援させて頂いている中で、関係者の様々な思いが交錯し、働き方改革の目的設定が上手くいっていないケースが比較的多く見受けられます。そのようなときに、この3つの効果を軸として目的設定されることをお勧めします。

(注):リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット(2016)「LIFE SHIFT」(東洋経済新報社)

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杉浦 淳之介(すぎうら じゅんのすけ)
杉浦 淳之介(すぎうら じゅんのすけ)
株式会社富士通総研 コンサルティング本部 公共・地域政策グループ マネジングコンサルタント

1998年富士通総研に入社以来、人材マネジメント、技術経営コンサルティング業務に従事。経済産業省「企業が真に人材の国際化に対応している度合いを測る指標の策定に関する調査」、厚生労働省「企業における高度外国人材促進事業」、一般財団法人企業活力研究所「グローバル競争下において必要な若者の確保、育成のあり方に関する調査研究」「シニア人材の新たな活躍に関する調査研究」「ダイバーシティ経営の推進(女性活躍の場拡大)に関する調査研究」「長時間労働体質からの脱却と新しい働き方に関する調査研究~残業を前提としない働き方の提言~」「働き方改革を実現する為のミドルマネージャーの役割と将来像に関する調査研究」などに携わる。