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【フォーカス】AI時代を生き抜くスキルとラーニングスタイル-米国事情を踏まえて-

2016年12月16日(金曜日)

【フォーカス】シリーズでは、旬のテーマに取り組むコンサルタントを対談形式で紹介します。

変化が予測しにくい時代のラーニングスタイルやスキルはどう定義されるのでしょうか? 新しい価値を創っていけるような学びとは、どのようなものでしょうか?

本対談では、「AI時代を生き抜くスキルとラーニングスタイル」というテーマで、ミネルバ大学日本事務所の山本代表、株式会社ベネッセホールディングス(以下、ベネッセ)事業開発部の後藤プロジェクトリーダー、株式会社富士通ソーシアルサイエンスラボラトリ(以下、富士通SSL)イノベーション戦略本部の平松本部長、株式会社富士通総研(以下、FRI)の志賀シニアコンサルタントに語っていただきました。進行役はFRIデジタルサービス開発室の平野室長です。

1. AI時代のスキルに対する問題意識-変化する時代に応じて新しい価値を生む学び-

【平野】
今ある職業の半分が将来コンピュータに取って代わられると言われたり、2020年にプログラミング教育が必修化されたり、ICTやAIをきっかけにラーニングスタイルやスキルの定義が大きく変わっています。それを踏まえ、「AI時代を生き抜くスキルとラーニングスタイル」というテーマでそれぞれの立場でお話しいただけますか?

【山本】
私はミネルバ大学の日本事務所代表を務めています。以前、外資系企業でリーダーシップ研修を行う中で、今の時代、良い大学を出て企業に入ったものの活躍できない、30代40代の方も過去に培ってきたスキルが今の社会に応用できない、というスキルギャップが大きい状態に課題を感じていました。それはミネルバ大学の問題意識と近いものです。つまり、これから大学を出て社会に出る人たちは今存在していないような職業に就くことになるだろう、そのとき法学、経済学、商学といったサイロ化された専門知識の教育で本当に社会に対して十分な準備ができるのか。2014年にギャラップという調査会社が行ったアンケートによれば、アメリカの大学の学長・学部長96%が自分の学校の生徒は社会に出て活躍できると言っているのに対し、雇用者は11%しかそう思っていない。そういうプレパレーションギャップをどう解決していくか。ミネルバは専門知識ではなくメタ知識と言われるクリティカル思考やクリエイティブ思考、効果的コミュニケーションをコアコンピテンシーとして鍛えるためにどう知識を再整理して教えていくかにフォーカスしている学校です。

【Minerva Schools at KGI (ミネルバ大学)日本事務所代表 山本 秀樹 氏】
【Minerva Schools at KGI (ミネルバ大学)日本事務所代表 山本 秀樹 氏】

【後藤】
十年ほど前から日本でも家庭にパソコンが普及することによってITを活用した学びができるのではという状況になり、「進研ゼミ」など冊子でお届けしていた教材をデジタル化するというミッションを担っていました。中学生、高校生、小学生向けに教育・学びをデジタルで効率化するだけでなく、個別化や新しい価値を提供するための挑戦です。その一環で、例えばオンライン授業やスマートフォンのアプリなど最新技術を使ったサービスの開発を行ってきました。そうした学びが先行しているシリコンバレーに2011年に飛び込み、最新情報をキャッチアップしながら日本のノウハウを合わせて新しいサービスを作っていこうと、シリコンバレーオフィスを開設し、現地の科学館と連携するなどの活動を続けてきました。今年夏に日本に戻り、新しく立ち上げたのが「プログラミング教育」のプロジェクトで、シリコンバレーで実践してきた知見を活かして日本で新たな事業を作ることに挑戦しています。その挑戦自体がまさにAI時代を生きる子供たちの新しい学びにつながると思っており、世界がどう変わっていくか予測が困難な中、今学んでいるものに加えて、変化していく時代に合わせて新しい価値を創っていける子供の学びを提供していきたいと思っています。

【平松】
当社はシステムインテグレーションの会社ですが、ソリューションビジネスを強化するため、3年前に新ビジネスを創出していく専門組織としてイノベーション戦略本部を立ち上げました。既存ビジネスの延長ではなく、ゼロから1を生み出すために、大学の研究室や尖った企業の方々と一緒にオープンイノベーション的なスタイルで進めています。AI時代に必要なスキルとは、課題を発見する力や、解決策を見つける力、それもディスカッションしながら導いていく力だと思っています。1人や自前主義で考えるよりオープンイノベーションという考えです。そこで、そういう考えのハブになり、スキルを高めていこうと、今年4月に「みらいDOORS」という共創の部屋を開設しました。この部屋での活動としては、外部のイノベーションリーダーとの研究会「タマリバ」、子供たちが先端技術と触れ合う「キッズイベント」などを用意しています。また、先端技術の常設展示で来訪者にアイデア発想を誘発し、様々な共創支援ツールでディスカッションを活性化させることにより問題解決スキルアップも狙っています。やがてAI自身がクリエイティブなアイデアも出していくかもしれません。そのようなAI時代のスキルには、アイデアや課題解決策を実現する行動力が一番大切だと思います。

【図1】共創空間「みらいDOORS」と活動計画(富士通SSL)
【図1】共創空間「みらいDOORS」と活動計画(富士通SSL)

【志賀】
私には就学前の子供が2人いますが、シンギュラリティ、IoT、AIと騒がれる中、どのようなスキルを子供が習得していけばいいのか、私だけでなく周りの親たちも皆悩んでいます。サイエンス教室、プログラミング教室、ロボット教室等が最近急激に増加し選択肢が広がる中、この上期にFRIでも「Scratch(スクラッチ)」という子供向けプログラミング言語を使って小学生対象の教室を5回開催し、子供のポテンシャルや親の問題意識の高さを肌で感じました。またシリコンバレーのQuantum Campというサイエンス専門のマイクロスクールと提携して日本でサイエンスのサマースクールを2日間開催しました。ミネルバ大学のインターンの方に英語で授業を提供してもらい、英語ができない子供たちに英語でサイエンスを勉強してもらうと、どんな反応が起きるのかを実証しました。富士通が出資する六本木のTechShop Japanでもプログラミング講座を実施し、3Dプリンターやレーザーカッター等の最先端の機器を見学することで子供たちにどういう反応が起きるのかということも実証実験しています。

2. 米国のトレンド-「教学分離」とパーソナライズ、アダプティブ-

【平野】
では、米国事情を踏まえてトレンドやキーワードをご紹介いただければと思います。

【山本】
2つトレンドがあると思います。1つはICTが普及してMOOCs(注1)というオープンオンラインコースが普及する中、大学の役割が「教えること」と「学ぶこと」に分離してきていますが、それがより加速する。例えばUdemyで一般教養課程をアウトソースする試みが行われています。またオンライン以外でも講義形式中心の知識を教えるだけの授業に失望して大学を辞めて自分でオープンコースを受ければいいと考える学生も増えている。それが結果的に2つめのトレンドであるブロックチェーン(注2)と呼ばれるもので、LinkedIn(注3)等が「この人はこういうスキルに優れている」というのをEndorseする、大学ではない誰かが保証する試みが始まっている。つまり、学びのあり方が多用化しています。こういう中で教育機関としての大学が今後どういう位置づけになっていくのか、アメリカも模索しているのではと思います。

【後藤】
アメリカの場合、特に大学の学費が高くて、教養部分はオンライン学習でもいいと4年前くらいからMOOCsが盛り上がってきました。将来は多くの大学がなくなるのではと言われていたくらいです。実際にはそこまでダイナミックな変化にはなっていないかもしれませんが、教養部分は教えるのがうまい先生からオンラインで学ぶような動きはあるのかと思います。ミネルバさんはオンライン授業が特徴的ですが、大学の将来をどうお考えですか?

【山本】
テクノロジーを利用した授業が大学に浸透していく速度は今後加速すると思います。生身の先生が200人に教える授業とMOOCsで有名な先生が教える授業の質は大して変わらないという現実があります。ただ、MOOCsに変えたら、授業についていけずドロップアウトするレートが逆に高まってしまったという状況もあります。なぜかというと、きちんと生徒の理解度に応じたアダプティブな授業になっていないのです。そこで今、テクノロジーを使って1人1人の問題解答状況に応じて適切な解説を提供する、ニュートン(Knewton)さん等の新しいサービスが出てきています。講義形式の知識の伝達はMOOCsに置き換わらざるを得ない状況をミネルバ大学は作りたいと考えています。大学では、学び方を学ぶセミナー形式の授業やプロジェクト学習、施設を持つ大学は、専門分野でも尖った応用研究によりフォーカスしていくだろうと思います。

【後藤】
私はシリコンバレーに家族と住んでいましたが、子供は中学生、小学生2人、プリスクールの4人が現地の普通の学校に通っていました。スタンフォード大学も近く、スーパープログラマーもいるような所なので、プログラミング教育が進んでいるのではと身構えていましたが、実際はスーパープログラマー的な子は放課後に家でやる感じで、学校では特にサポートしていませんでした。ただ、日本と違うと感じたのは、ITを使って学校の運営を良くしていこうとか、子供たちが使うツール群をIT化していこうといった動きが多いことです。いいなと思ったのは、小学1年生からパソコンやマウスの操作に慣れるような取り組みがなされていること。算数のゲームや掲示板のようなコミュニケーションツールで子供が書き込むことによって体験的に「システムってこういうふうに動くんだ」と感じ取れることが大きいと思います。日本は今になってプログラミングをやろうということで、いきなり体験を飛ばして学びに入ってしまっているのが気になりますね。

【株式会社ベネッセホールディングス 事業開発部 プロジェクトリーダー 後藤 義雄 氏】
【株式会社ベネッセホールディングス 事業開発部 プロジェクトリーダー 後藤 義雄 氏】

【志賀】
私もシリコンバレーの公立小学校を見学しましたが、小学校1年生がイヤホンをしてオンラインで勉強したり、ブレンディッド・ラーニング(Blended Learning)で、教室を半分に割って、一方は後ろを向いてオンラインで問題を解き、もう一方は先生を囲んで授業をしたりしている。それによってパーソナライズができ、個別に「この子はこのくらい進んでいる」というのを先生が把握している。3、40人の子供たちの理解度を先生が一気に把握する解決策としてICTが公立校で使われているのに驚きました。

【後藤】
現地の先生は、本当はクラスを分割し少人数のレベル別に算数の授業をやりたいけど、先生を増やす予算がないことを解決するために、自分の授業のビデオをレベル別に4種類撮っておいて、それぞれ見てきた子の質問に答えたりしてパーソナライズを実現していると話していました。「ITツールを使え」と上から指示される感じではなく、先生が自分で考えて、「これなら何とかなる」とやっているのです。日本に比べ学力格差も大きいので、それをカバーするために努力しているなと感じました。

【志賀】
現地視察で注目したのはICTをベースとした学校です。元々行われていた授業にICTを導入するのではなく、ICTを使ってどんなことができるかを考えられた学校が出てきています。マイクロスクールという形で小さく始めているケースが多く、その中でも最も有名なAltschoolに行きました。凄いと感じたのは、教室の3倍ほどのスペースで子供10人に対し40人近くのエンジニアが10台のカメラで見ながらリアルタイムでモニタリングし、行動分析しているのです。目的はパーソナライズで、それぞれの子供が何を勉強すればいいのかをICTで実現する方法を研究していました。アメリカでも注目されていて、学費は高めですが、大変人気があります。使用しているツール自体は子供用、親や先生同士のコミュニケーション用も特に凄いという感じはしませんが、子供の行動や発言を分析しながらパーソナライズ、アダプティブしていく方法をどう実現するかをエンジニアが研究していることが衝撃的でした。

【平松】
ツールという観点では、教育分野にも適用できる新技術が次々と開発されています。例えば私どもはzSpace(ジースペース)というホログラフィックタブレットを扱っています。アメリカでは化学や理科などで使われているそうです。ホログラフィックで3Dとして心臓とかタービンのような大きいものとか、実際には触れないものを触れたり分解したりできるので、実物ではなく実質という意味でバーチャルだけどリアルに物の仕組みを体感でき、ICTならではの教材ができると思います。こうしたものが今後教育現場で盛んに活用されるようになっていくのではないでしょうか。

3. ミネルバ大学が行き着いた教育の姿-社会で活躍できる知恵を適切な学費で実現-

【平野】
VR(Virtual Reality:仮想現実)というやつですね。教育に限らず日本でもトレンドになっています。ところで、ミネルバさんは今やアイビーリーグを凌ぐほど学生が世界中から集まると紹介されていますが、詳しく内容をお聞かせいただけますか?

【株式会社富士通総研 デジタルサービス開発室長 平野 篤】
【株式会社富士通総研 デジタルサービス開発室長 平野 篤】

【山本】
ミネルバのミッションは、「世界中の才能ある学生にこれからの社会で活躍できる知恵を適切な学費で実現すること」です。これを今のアメリカのすべてのエリート大で実現させるためのベンチマークがミネルバ大学です。設立には、創立者のベンネルソンがペンシルバニアのウォートン校で20年前に疑問を感じ、学生の立場で訴えた教育改革が最新ICTの活用で可能になり、彼の望む学校の姿を実現できるようになった背景があります。より直接的なきっかけは、2012年、当時のハーバード大学の学長ラリー・サマーズ氏、かつて財務長官でもあった方の応援が得られたことです。彼が、才能があるのにハーバードの事情で受け入れられない多くの学生に対して最新テクノロジーを用いて最高の教育をモデルケースとして実現したら、大学はフォローするだろうと後押ししたことで、投資家や寄付者が現れたのです。今のアメリカの大学の課題は、学費が高すぎるためにアイビーリーグなどは一部の富裕層で半分以上を占められていること、人種や国籍、ジェンダーを優遇する優先枠が背後にある大きな需要を実は抑える制限枠になっていること。それなら、優先枠を取り払ってしまおうと。また、テクノロジーの進化が速く変化の激しい時代では専門知識はすぐに役に立たなくなる、科目横断的に学んでいくクリティカル思考やクリエイティブ思考が重要ですが、これらは教えることができない、学ぶことしかできないものです。その学びの環境を提供するには、少人数の反転授業(注4)が有用ですが、コストが高い。これをミネルバは新しいオンラインのプラットフォームを創ることで解決しました。

【平野】
実際やってみて、学生からの評判はどうですか?

【山本】
オンラインのプラットフォームを使った授業は、学ぶテーマについての事前課題を提出したうえで参加でき、授業中のディスカッションで生徒個々人のパフォーマンスを測れます。また個人の発言量を測り、生徒に均等な発言機会を与えることができます。習熟度、学習効果は非常に高く、生徒からも好評です。生徒達は、従来の教室型授業に比べ3倍疲れる、脳が実際動いているのがよくわかると言っています。CLA+というテストの結果によれば、ミネルバ入学時にはクリティカル思考力のテストでアイビーリーグの1年生と同レベルですが、1年生修了時点でアイビーリーグの大学院生と同レベルになります。

【図2】ミネルバ大学の特徴
【図2】ミネルバ大学の特徴

4. これからの教育に向けたベネッセのチャレンジ-創造的な思考、問題解決・発見力を身につけられる学びへ-

【平野】
ベネッセさんの新しいチャレンジを詳しくご紹介いただけますか?

【後藤】
「未来を予測する最善の方法はそれを発明することだ」というのはアラン・ケイの言葉ですが、子供たちが未来を創っていく、新しく問題を発見してそれを解決できるように育って欲しいというのが目標です。そのチャレンジとして、クリエイティブな力を持つ子供を育てる、問題発見力・解決力を身につけられるサービスを作りたいと思っています。その目的のためにシリコンバレーでは現地の科学館と提携して現地の子供向けにワークショップを行ってきました。そこで練られた学びを日本に持ってきて、2020年の学習指導要領改訂におけるプログラミング教育必修化に対応できる学びとして、日本で求められる力とシリコンバレーでの取り組みを合わせて実現しようとしています。プログラミング教育はプログラマーを育てることが目的というわけではありません。創造的な思考や問題解決ができる子を育てるといったことが求められており、ベネッセとしては長い歴史と経験を生かして学校や家庭に新たな学びを提供させていただきたいと思っています。そのため、本当に子どもたちが学ぶべきものを定義して、それをお届けしようと取り組み始めています。小中高で求められる資質・能力を取りまとめて、学校や家庭、放課後の学習など、様々な学びの対象に適した形態で学びを提供するサービスを開発しています。

【志賀】
シリコンバレーでは具体的にどのようなことをされたのでしょうか?

【後藤】
新しい学びの方法を実現するために、自社の知見だけではなく、現地のスタートアップや面白い技術を持った人たちと一緒に開発してきました。教育とは違う分野で使われる技術でも「子供の教育に置き換えたらどうなるのか」と相談すると、意外とアイデアが出てくるのですね。例えば電気を通すペンを作っている会社があって、元々技術者向けを想定したサービスだったのですが、子供たちの学びの道具として考えてみることで、光るメッセージカードという授業案が作れました。電気を通すペンと電池とLEDを使うことで、お絵かきした絵を光らせる内容です。「電池は1個しか渡さないので2個以上のLEDを光らせるにはどうすればいい?」「これが並列つなぎだよ」と知識を教えながらも、「母の日にプレゼントにするカードを作ろう」というテーマを与えて、自分で考えて制作することを主題にしています。設計して、実行して、間違ったらやり直して、を繰り返すことで、いわゆるエンジニアリングプロセスを体験しながら作品を完成させていきます。最後にはその場の30人くらいの前で発表して振り返る流れですが、さらに教室外での振り返りも意識しており、家に持って帰って「こんなこと学んだよ」と家族にプレゼントして喜んでもらったり、作品をYouTubeなどで紹介して多くの人からフィードバックを得られることで、より深い学びにつながることも狙ってワークショップを開催していました。

【写真】ワークショップの風景(ベネッセ)
【写真】ワークショップの風景(ベネッセ)

【平野】
シリコンバレー、スタートアップと言うと華々しい感じですが、非常に地道ですね。

【後藤】
はい、地道に開発してきました。ただ、こういった子供たちが自分で考えて表現するということはこれからもっと評価されるようになると考えています。自分の作品をオンラインのポートフォリオに載せて「自分はこういうことをやってきた」とアピールすることは重要で、アメリカでは大学入試での多面的評価につながる流れも出来つつあります。そういった自分を表現する手段や題材をサポートして、どんどん作ってもらう試みもチャレンジしたいと思っています。

【平野】
先程エンジニアリングという話もありましたが、丁寧にきちんと作り上げていくところがベネッセさんの強みですね。

【後藤】
はい、ニーズに合わせて必要な学びを提供するお手伝いができればと思っています。ですが、我々はIT企業ではありません。最新のテクノロジーを使った学びを提供するために、シリコンバレーのスタートアップとも協力してきましたし、この「知創の杜」を見ていただく企業とも一緒に子供の学びに取り組んでいければ嬉しいです。

5. 教育へのICTテクノロジーの活用や期待-共創支援、ダイバーシティ・コミュニケーション、テレイグジスタンス-

【平野】
AI時代というと遠い先の話もあるかもしれませんが、直近ではこういうことができるようになっているといったICT側からのインプットをいただけますか?

【平松】
私たちはお客様と共に新しい価値を創る共創活動が大きなテーマで、その支援技術やツールも扱っています。例えばグループや学習でディスカッションの記録をとり、様々な発言の中からキーワードがどういう形で起きて、いつどういう学びが起こるかを分析する研究をしています。いろいろなデータを取ってみて集約できれば、学びを分析するとか、授業のデザインをどう変えるかといった検討にも入れます。もう1つのテーマはダイバーシティ・コミュニケーションで、例えば聴覚障がい者の方が参加している会議で不自由がないように、ディスカッション内容をテキスト化して表示するツールを提供しています。これも授業に使えると思っています。日本語に加えて、多言語対応もリリース間近です。さらに、これは「お知らせテクノロジー」と言っておりますが、音声を光や振動に変えてお知らせするツールや空間の特定のスポットに音源を発生させて、静かな所で知らせたい人にだけお知らせするツールなどを研究し様々な条件の下でのコミュニケーションを円滑にしていこうとしています。また、テレイグジスタンス(Telexistence)で、遠隔地から臨場感がある形で参加する仕組みがあります。皆がディスカッションしている場所で、パペットの形の自分の分身が話す、自分が話すと分身も話すし、身振りをすると分身も身振りをする、というものも作っています。

【株式会社富士通ソーシアルサイエンスラボラトリ イノベーション戦略本部長 平松 知江子】
【株式会社富士通ソーシアルサイエンスラボラトリ イノベーション戦略本部長 平松 知江子】

【平野】
そうしたことが実現できると、またMOOCsなども変わってくる気がします。本当に遠い将来だと思っていたことが、もうこの辺にいる感じですね。

【平松】
コミュニケーションは「できる」というだけでなく、その質が大事だと思います。先程のテレイグジスタンスでは、例えば見知らぬ大人が小さな子供たちの中に入って会話すると、どうしても威圧感がありますよね。でもパペットが(大人の代わりに)喋っているなら、初めから人見知りなく楽しく会話が弾みます。そうした効果をICTでもたらすことができるのです。

【山本】
ミネルバのオンラインプラットフォームの面白いところは、テクノロジーの背後にある、例えばクリティカル思考を学びとるために必要な脳の使い方や基礎コンセプトを約120項目の要素に分けて、1~5段階の習熟度をアセスメントしていくというところです。そのデータがある程度蓄積されるとトレンドが見えてきます。データを分析・検証することで、効率的、効果的な学び方が得られます。ミネルバで出来上がったその教授法とテクノロジー・プラットフォームがセットになって様々な学校にライセンスされたり、国の教育に生かされる形になっていくと思います。

【後藤】
弊社は以前からICTを使った学びに取り組んでいますが、プログラミング教育などICTを学ぶことは今後のチャレンジです。ICTは所詮ツールと言う人が多く、既存の業務フローや生活の効率化に使うイメージで語られますが、本当は「ツール」を超えて「武器」にして欲しいと思っています。例えば戦国時代に鉄砲が伝来して戦い方が変わったのと同じように、新しい技術を知っていると、今までの価値とは全然違うビジネスや生活の新しいやり方を発想することができると思うのです。子供たちには様々なテクノロジーに慣れてもらって、自分で考えて作れる武器として身につけて欲しいです。そしてその武器を使って新しい価値を作っていってもらう。そんな学びにチャレンジしていきたいと思います。

【志賀】
プログラミング教室を実施してわかったのは、子供はすぐ覚えるということです。パソコンを触ったことがない子が数時間でゲームを作っていく。こうしたいという創造力のポテンシャルが凄い。ただ、ローマ字入力ができず、やりたいことがあるのに、そこで引っかかっている。学校でパソコンもローマ字も授業があるのに、つながっていないのです。ICTを今までの授業スタイルに入れていくのではなく、「ICTで何ができるか」から考えて、子供にとって何が一番いいのかを考えていきたいと思います。

【株式会社富士通総研 シニアコンサルタント 志賀 真保子】
【株式会社富士通総研 シニアコンサルタント 志賀 真保子】

6. これからの日本における変化-2020年に向けて学校を変える、IT教育を変える-

【平野】
最後に今後の日本について、お1人ずつお話しいただきたいと思います。

【山本】
シンガポールやマレーシアの中等教育の学校では、授業に自然にITが導入されています。数学や英語の授業だけでなくデザイン&テクノロジーの授業でCADを回して3Dプリンターで抽出したものをプレゼンしています。まさにクリティカル思考・クリエイティブ思考を養う過程でITを普通に使っているのを見ると、日本で一方通行で話す授業に自分の子を預けていいのかと不安になります。日本の私学の経営者から「なぜミネルバは実績もないのに世界中から人が集まるのか」とご相談を受けますが、学校経営者もどう変わるべきかわからない、変わる勇気が足りない。また、日本では、社会に出て活躍できる学生を育てるために企業が果たせる役割はまだまだあります。学校のニーズを聞くだけでなく、学校をどう変えていくかということに、我々も主体的に関わっていくべきだと思います。

【後藤】
2020年は大きな変わり目になると思っています。東京オリンピック・パラリンピック競技大会の年でもあり、学習指導要領が改訂される年でもあります。「何を知っているか」という知識の習得だけでなく、「それを使ってどのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか」を視野に入れた学びのサポートをしていきたいです。そして、さらに新しい価値を創造し、世界に対して活躍する人材を育てることに貢献できればと思っています。

【平松】
将来からバックキャストして考えると、変わらなければいけないとわかっている段階です。共創によるイノベーションがますます重要な時代になってくると思います。ICTでできることを1つずつ進めながら実現に近づいていきたいですし、そうした中で私たち自身ももっと好奇心旺盛にチャレンジしていきたいと思います。

【志賀】
多くのことが変化していくこの先、「これだ」というスタンダードがない中を進んでいかなければいけません。AI時代と言いながら、まだAIで何ができるか模索中だと思うので、常に変化をウォッチし、様々な方々とディスカッションしながら、共に新しい学びを模索していけたらと思います。

【平野】
本日はありがとうございました。

(対談日:2016年11月9日)

対談者

対談者(敬称略 左から)

  • 後藤 義雄 : 株式会社ベネッセホールディングス 事業開発部 プロジェクトリーダー
  • 平松知江子 : 株式会社富士通ソーシアルサイエンスラボラトリ イノベーション戦略本部長
  • 山本 秀樹 : Minerva Schools at KGI (ミネルバ大学)日本事務所代表
  • 志賀 真保子 : 株式会社富士通総研 シニアコンサルタント
  • 平野 篤 : 株式会社富士通総研 デジタルサービス開発室長

注釈

(注1) MOOCs : Massive Open Online Courses (MOOCs、ムークス)。インターネット上で誰もが無料 で受講できる大規模な開かれた講義のこと。

(注2) ブロックチェーン : 分散型台帳技術、分散型ネットワーク。

(注3) LinkedIn : 2003年5月にサービス開始した世界最大級のビジネス特化型ソーシャル・ネットワーキング・サービス。

(注4) 反転授業 : 授業と宿題の役割を「反転」させ、授業時間外にデジタル教材等により知識習得を済ませ、教室では知識確認や問題解決学習を行う授業形態のこと。

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