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シリコンバレー発 ICTが生み出す新しい「学び」の形

2016年12月16日(金曜日)

日本では、これから到来するAI時代を見据え、創造力やコミュニケーション力などのスキルを習得すべく、アクティブラーニングの導入やプログラミング教育の必修化など、教育現場に変化が起きようとしています。こうした変化が日本より先行して始まっているシリコンバレーの教育現場を訪問した際のレポートを、「パーソナライズドラーニング」「ブレンディッドラーニング」「STEM(STEAM)教育」「教育マーケットプレイス」という4つのキーワードで整理し、日本における今後の展望を考えたいと思います。さらに、訪問先のzSpace、Udemyからの詳細レポートもご紹介します。

1. 生徒1人ひとりに最適な学習の提供 「パーソナライズドラーニング」

パーソナライズドラーニング(学習の個別化)とは、すべての子供には1人ひとり違いがあるという視点に立ち、個々人に合わせた学習カリキュラムを提供することです。パーソナライズドラーニングの考え方自体は新しいものではなく、以前から理想の学習形態として考えられてきましたが、ICTの進展により、ここ数年現実となってきました。

今回訪問したaltschoolは、パーソナライズドラーニングを追求した新しい形態の学校として注目を集めているマイクロスクールの代表格です。対象は、K-8(幼稚園年長から中学生)で、元Googleのマックス・ヴェンディラ氏により設立され、FacebookのCEOマーク・ザッカーバーグ氏等が1億ドルを出資したことでも話題となりました。

今の子供たちが大人になる10-20年後、テクノロジーやグローバリゼーションで世界は大きく変わると予想される中、習得すべき必要スキルは何か、それを実現するためにはどのような教育を受けさせればよいのかという視点で、エンジニアが設立した学校として注目されています。

altschoolでは、教師(Educator)が生徒1人ずつの学習状況をモニタリングし、算数や国語などの一般教科やプログラミング、外国語など最先端かつ多様な教科から、個々人に合わせてカスタマイズしたカリキュラム(「プレイリスト」)を用意しています。

現実世界で起こり得る実践的課題に対する解決スキルを獲得するために、自己学習用のiPad等のオンライン学習だけでなく、年齢の異なる子供で構成されるグループでプロジェクトベースドラーニング等リアルの場の授業も行っています。

実際にサンフランシスコ校の教室では、子供たちが床やソファなど好きな場所に座ってiPadで熱心に自己学習したり、奥のスペースで教師を囲んで様々な年齢の子供たちがグループでアクティビティをしたりしていました。そのアクティビティを数十台のカメラが撮影し、教室の3倍の広さのある隣接した部屋で20名以上のエンジニアが常にその状況を分析していました。

altschoolのパーソナライズドラーニングを支えているのはICTです。現にaltschoolでは、教師やコンテンツ開発者と並んで多くのエンジニアを雇っており、教師・コンテンツ開発者と密接に協議しながらニーズをツールに反映しているとのことでした。

altschoolでは3つのツールを使用しており、1つ目は先ほど紹介した「プレイリスト」で、オンラインコンテンツやアクティビティの記録といった生徒向けの学習ツールです。2つ目は教師のためのサポートツール「プログレッション」で、教師が生徒1人ひとりの学習状況をモニタリングし、状況を把握したうえで対話やフォローができるようにしています。3つ目は親と教師のコミュニケーションに利用する「マイアルトスクール」というツールで、スクールからの連絡事項・スケジュールだけでなく、子供の学習状況や成長の把握もでき、スクールと家庭で一貫した学習を実現するサポートにもなります。

ツール自体はAIなどの最先端テクノロジーが駆使されているわけではなく、どこにでもあるツールに思えました。しかし、altschoolはそのツールを使いパーソナライズドラーニングを「実現」させた点に強みがあります。実現のポイントは、教師、エンジニア、ICTによるツール、授業の形態等の要素が整合性を持ってパーソナライズドラーニングの全体システムを創り上げていることにあると思います。

同スクールの事業開発トップ Avra氏は将来展望として、「今はまだ教師の判断で生徒1人ひとりへ最適なコンテンツを提供しているが、近い将来AIで判断する時が来るだろう。altschoolの将来目標は、こうした最先端技術も取り入れながら、ツールを自分たちのために日々発展させるだけでなく、独力でツール開発するリソースを持たない公立学校に広くライセンスし、パーソナライズドラーニングを定着させることにある」と話してくれました。そのとおりに今後はICTをベースとしたパーソナライズドラーニングシステムのさらなる確立と普及に注力されていくでしょう。そして普及によって得られる膨大なデータによりAIが活用され、さらにパーソナライズドラーニングシステムの精度を高めていくでしょう。

【写真1】altschoolのプレイリスト
【写真1】altschoolのプレイリスト

【写真2】今回訪問したSan Francisco校
【写真2】今回訪問したSan Francisco校

2. オンライン学習と既存の授業の融合 「ブレンディッドラーニング」

ブレンディッドラーニングとは、既存の授業の一部にオンライン学習をブレンド(融合)する教育法で、近年米国で急速に普及している学習スタイルです。

今回は、積極的に公立学校の授業へテクノロジー導入を進めている学区の小学校を訪問しました。

40名ほどのクラスを半々に分け、半分は教師による授業を受け、もう半分はオンライン学習を利用して自習するブレンディッドラーニングが小学校1年生から取り入れられていました。教師に話を聞くと、「オンライン学習の進捗度を確認することで、生徒1人ひとりの理解度を明確に測ることができるようになった。また、クラスを半分にすることで、授業中に生徒1人ひとりとコミュニケーションを密に取れるようになった」と、ブレンディッドラーニングの効果を強く実感されていました。

ブレンディッドラーニングが浸透した要因は、テクノロジーの導入や整備はもちろん、学区全体で教師や生徒、親がブレンディッドラーニングの効果を理解し、マインドチェンジも含め授業スタイルを適応させていったことにあると思います。

【写真3】ブレンディッドラーニング授業風景
【写真3】ブレンディッドラーニング授業風景

3. 理数工系人材が未来を築く 「STEM(STEAM)教育」

STEMとはScience, Technology, Engineering, Mathの略で、理数工教育のことです。Art(& Design)も加えてSTEAMと呼ばれることもあります。世界的にSTEM(STEAM)教育が注目されている背景には、AIやIoT、バーチャルリアリティ(VR)などテクノロジーが急激に進化している中で、自国産業の発展のために優れた理数系人材が必要不可欠であることがあり、例えばアメリカではSTEMの授業導入に助成金を出すなど、国を挙げて促進に力を入れています。

日本でもSTEM教育の動きは盛んになってきており、特にアフタースクールでは、プログラミング教室やロボット工作教室が盛況です。富士通総研でも小学生を対象としたプログラミング教室やロボット教室を独自開発・開催し、最適なコンテンツや授業のあり方、子供の持つポテンシャルを把握し創造力を最大限発揮させる方法の研究や親との対話を通じた子供教育に対するニーズの分析などを行っています。

STEM教育の今後の動きとしては、プログラミングやロボット工作だけでなく、VRや3Dプリンター等の最新技術の導入が挙げられます。単に最先端の技術に触れるだけでなく、子供たちの思考力や創造力、理解度を高めるためのツールとして、これらの技術をどう教育に組み込んでいけるかが鍵となってくるでしょう。

今回は、実際にVRをSTEM教育のツールとして取り入れているzSpace社を訪問しました。同社は、製造業や医療等と並んで教育へのVR導入を重要な戦略として、全米だけでなく中国などアジア市場に広く展開しています。実際にVRを使った子供向け教育コンテンツを体験させてもらうと、PCの画面から出てくる木星を半分に切って、その断面を確認することができたり、蛙の解剖ができたり等、本や模型とは違って実際に体験(仮想体験)できるようになっています。

後述するzSpace社のElizabeth Lytleによるレポート「バーチャルリアリティと拡張現実を活用した未来のSTEM人材育成」の中で、VRはパーソナライズドラーニングのツールとなり得ることに言及されています。

【写真4】zSpaceでのVRイメージ
【写真4】zSpaceでのVRイメージ

4. 生きたスキルを学び続ける「教育マーケットプレイス」

教育マーケットプレイス(プラットフォーム)とは、数年前より爆発的に広がった世界の一流大学の講座を無料受講できるMOOCs(Massive Open Online Course:オープンなオンライン授業)とは一線を画しており、コンテンツを提供したい人/企業が提供したいコンテンツをプラットフォームに登録し、そのコンテンツを利用したユーザーから支払われた授業料の一部をマーケットプレイス提供企業に支払う仕組みです。コンテンツを提供したい人/企業がコンテンツ作成方法などのアドバイスを受けることもできるようになっています。こうしたマーケットプレイスの登場によって、ユーザーが利用できるコンテンツが一気に広がり、一般的なExcelやPythonなどのスキルだけでなく、ニッチなスキルまで気軽に習得できるようになっています。例えば、FLA(Fujitsu Laboratory of America)では、研究者が“Amazon Echo” (人工知能スピーカー)のプログラミング講座を受講し、“Amazon Echo”にFLAの紹介をさせるプログラムを組んでいました。

今回訪問したUdemy社は、主に社会人向けのスキルアップコンテンツのマーケットプレイスとして、世界的で注目を集めており、日本でもサービス提供を開始しています。Udemyでは、ITやビジネス、デザイン等、数万種のコースが利用できるようになっています。

Udemy社の松方氏によるレポート「米国で生まれている新しい学びの形」では、教育プラットフォームが登場した背景や将来の姿を説明します。

5. AI時代に備えて

「ブレンディッドラーニング」「パーソナライズドラーニング」「STEM(STEAM)教育」「教育マーケットプレイス」について、シリコンバレーの実例から、その現状やトレンドを見てきましたが、いずれもICTが不可欠な要素となっています。

単に紙の教科書を電子化したり、電子黒板を使ったりという「既存の学習形態にICTを当てはめていく」発想ではなく、「ICTを基点にして学習システムを構築している」点は非常に重要だと思います。学習ツールとして、教師のサポートツールとして、コンテンツの拡充/流通の場として、親や地域社会も巻き込んだネットワークの基盤として等、学習システムの発展とともに、それをドライブするICTの活用方法についても創意工夫が重ねられていくでしょう。

AIは人口の半分の職業を奪うと言われる一方、貧困を救う、難病を治す、宇宙の謎を解明するなど、想像できないようなことを実現する可能性を秘めています。富士通総研は、AIに使われるのではなく、AIを使いこなすスキルを身につけることができる新しい「学び」の形を模索していきたいと思います。

【関連レポート1】

バーチャルリアリティ(VR)と拡張現実(AR)を活用した未来のSTEM人材育成

現在、世界中で、STEM(科学・技術・工学・数学)領域に多くの人材が必要とされています。それに合わせ、子供たちのSTEMへの関心とスキルを高めるための教育が様々な方法で展開されています。

zSpaceでは、K-12(幼稚園年長から高校まで)の教育において、子供たちが現実に似た体験をする機会を創り出すことを目的に、VRとARのテクノロジーを活用することに力を入れてきました。現在、VR/ARは、子供たちのSTEM領域への関心を高め、育成する重要な手段となりつつあります。以下に、VR/ARを活用した最先端のSTEM教育について、米国やその他の国で実現できたVR/AR活用の効果を紹介します。

パーソナライズドラーニングの促進

期待された知識レベルではなく、1人ひとりの現状の知識レベルに合わせたコンテンツが個別の学習プログラムとして生徒に提供されることになります。こうしたプログラムは一般的にオンラインベースで実施されており、知識の伝達ではなく、問いかけに対する生徒の反応に焦点を当てて最適なコンテンツを提供する方法で着実に人気を高めています。

VRによる学習体験は、より深いレベルでのパーソナライズを実現させます。生徒がスクリーンに近づいて見ると、対象物を細部まで見ることができ、下から覗き込んでみると、対象物の下側を見ることができます。

zSpaceのVRは、このような生徒の自然な動きに合わせて、実際に存在する物体を見る時と同じ動作を可能にしており、より現実に近いインタラクティブな世界を創出することで、生徒達の没入感を高めます。

探究心の刺激とそれによる深い学びの実現

目で見えているコトやモノだけでなく、より深く細部まで知りたいという探究心を刺激すれば、自然に疑問が生じ、熱心な議論が生まれ、学びはよりインタラクティブなものに変わっていきます。この学びのスタイルは、特にSTEM領域において、スキル獲得の可能性を高めていきます。

VR/ARを使用することで、探究心を刺激し、こうした学びのスタイルを実現・強化することができます。

実践的体験や現実的体験の向上

VR/ARには物理的な移動や金銭的な負担、スペースの制約などがないため、より多くの教室に仮想体験的学習を導入できるようになります。エジプトの巨大なピラミッドへの旅も、電気回路の製作も安全に行うことができ、必要なものは無制限に供給されるため、学習効果が高まります。

zSpace™のVR/AR教育向けソリューションは現在世界中の多くの市場で展開されており、日本では富士通をはじめとする企業とのパートナーシップにより提供されています。

【写真】zSpaceを使ったウィルスの授業風景
【写真】zSpaceを使ったウィルスの授業風景


zSpace社 教育ディレクター エリザベス・リトル氏

zSpace社 教育ディレクター エリザベス・リトル(Elizabeth Lytle)
製品デザイン、コンテンツ作成、専門技能開発分野での制作・提供、教室での教師へのサポートを担う。

【関連レポート2】

米国で生まれている新しい学びの形

現在の学びのオプション

テクノロジーの発達とともに、社会で求められるスキルも変わってきています。そのため従来の大学教育だけでは実務で使うスキルが学べないのでは、という考えが出ています。サンフランシスコ近郊ではGeneral Assemblyなどの短期集中型ブートキャンプでプログラミングやデザインを学ぶスタイルが学びのオプションとして定着してきました。Make Schoolは高卒向けの2年間プログラムで起業やプログラミングを集中的に学ぶコースを始め、合格したハーバードやMITを蹴ってMake Schoolで学ぶ選択肢を採る高校生も出ています。またオンラインでもUdacityなどはNanodegreeというプログラムを作り、学校では学べないAIや機械学習、VRに特化したプログラミングや自動運転のエンジニアリングなど、ニッチな分野のスキルを学べるだけでなく、そこからGoogleなどの会社へ就職を斡旋してもらえることもあるようです。こうした形で従来の大学や大学院で学ぶよりも実践に直結するスキルをオンラインで学ぶことを選択する若者が増えています。

Udemyはマーケットプレイスのプラットフォーム

Udemyは上記のような学習の選択肢として急成長している会社です。学習環境が整わず思うように学びを得られなかったトルコ人創始者が、多くの人に学習機会を与えるというミッションの下に2011年にサービス開始し、5年間でユーザー数は190か国以上、1300万人にまで増えています。提供コースの70%以上が実務に影響を与えるProfessional skill developmentで、”Help anyone build the life they imagine” をモットーにスキルベースのコースを展開しています。

他のオンライン教育プロバイダーと違い、マーケットプレイスのプラットフォームなので、誰もが参加でき、品質基準を満たしたコースなら誰でも公開できるシステムです。コースの形式は最低1時間のコンテンツを提供する以外の定義は決まっておらず、長さや内容はコースごとに異なり、教え方も講師によって違います。誰でも講師になれるので、教えるスキルを実際に使っているプロや、自分の知識を他人と共有したいエキスパートが多く、現在2万人以上の講師が4万以上のコースを展開中です。

市場ニーズに合ったコンテンツをいち早く提供可能

エキスパートが自由にコースを作れる環境がある利点として「市場のニーズに合ったコンテンツをいち早く提供できる」ことがあります。大学教授が講座を作る場合、事前にリサーチを行い、レクチャーの内容を検討し、所定フォーマットにまとめ、学部の承認を得て次の学期で展開する形になるため、生徒が求めるものをタイムリーに提供するのは難しいですが、講師が自分のペースで好きな形のコースを作れる環境があると、自分に合ったタイミングでコースを公開できます。実際、2016年9月にApple社がiOS10の更新を発表した際には、Udemyでは発表当日に10数個のコースが展開されました。これはApple社のデモ版発表時点から講師たちがiOS10リリースに合わせてスケジュールを組みコース製作していたからで、Udemyの力だけではできなかったでしょう。弊社が世界中の生徒たちのニーズを100%理解しているわけではありませんが、これも各国のマーケットで必要とされているコースをその国の講師たちが作ってくれることでカバーできます。

知識の地域格差を解消する

オンライン教育はネット環境がある所ではどこからでもアクセスできます。Udemyは携帯アプリでコースをダウンロードできるので、ネット環境がない所でも受講可能です。ユーザーから「学びたいことがあるけど、自宅近くで教えている所がないので、今まで学べなかった」という話を聞きます。例えば、佐賀県の文系の大学4年生は、大学のプロジェクトで携帯アプリを作ることになり、Udemyのアプリ開発のコースを受講して、2週間で地方の観光推進を目的としたアプリ開発に成功、この実績を基に就職面接でプレゼンし、職を得ることができました。こうして、知識の地域格差解消にも貢献できるといいと思います。

【写真】多種多様のコンテンツがあるUdemy
【写真】多種多様のコンテンツがあるUdemy


Udemy社 シニアアカウントマネージャー 松方 肇氏

Udemy社 シニアアカウントマネージャー 松方 肇
Boston Collegeでコンピューターサイエンス専攻。ソフトウェアエンジニア経験を経てMBA取得、2015年2月Udemy入社。現在、日本やシンガポールのマーケット展開を手がける。

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【社会・産業基盤に貢献するコンサルティング】


志賀 真保子

志賀 真保子(しが まほこ)
株式会社富士通総研 デジタルサービス開発室 シニアコンサルタント
ヘッジファンド、複数のベンチャー企業の創業期に参画後、2005年株式会社富士通総研入社。内部統制構築、IFRS(国際財務報告基準)導入コンサルティングなどに従事。育児休業復帰後、子供向けのプログラミングやロボット教室の事業企画開発に従事。