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ヘルスケア産業における新しい価値の創出

2016年10月20日(木曜日)

医療費、介護保険給付の削減に向けた取り組みが急務となっている日本。健康寿命の延伸や公的保険外の予防医療の拡充などが求められている。このような社会的課題の存在は、新たなビジネスの拡大をもたらす成長市場の可能性を示唆しており、既存の医療・介護業界以外の異業種企業から熱い視線が注がれている。

本稿では、ヘルスケア産業における各サービス、機器の領域の需要変化や新たに顕在化する需要の可能性について触れるとともに、公的保険制度の維持と関連産業の新たな価値創出に向けた課題および解決の方向性について述べる。

1. 医療・介護にかかる問題は社会経済システム全体の問題

国民医療費は2015年度には45兆円、2025年度には60兆円を超す見込みとなっている。60兆円のうち、公費負担は25兆円となる見込みであり、現在の一般会計税収の6割に相当する規模に拡大する見通しとなっている。国民医療費のうち、35%は75歳以上が占めており、1人当たりの医療費は64歳以下が18万円に対して、65歳以上は72万円と、高齢者に大きく偏っている。また、介護保険給付においても制度開始以来、給付額は増え続けており、2025年度には21兆円の見通しとなっている。

現行の社会保障制度は、経済の発展期に構築されたものであり、国民医療費や介護費等の社会保障費の増大に代表されるように、高齢化をはじめとする社会構造の変化に対応しきれておらず、社会経済システムのあり方を含め、制度の見直しが必要となっている。財政悪化を理由に社会保障サービスを制限せざるを得なくなる前になすべきことは、人々が健康を管理する習慣を持ち、健康を維持することで長期にわたる社会参加を可能にすることである。そして、社会への関わりがさらなる健康の維持に役立つという正の循環を構築することが、目指すべき高齢化社会実現の重要な鍵となる。

政府は、団塊の世代が75歳を迎える2025年に向けて給付費の増加抑制のための改革を進めており、病院の機能分化や在宅医療・ケアの推進、地域包括ケアシステム構築などを推進している。2018年度の診療報酬・介護報酬の同時改定の際には、これらの施策を加速させるような改革が盛り込まれ、給付抑制に向けて医療機関や介護事業者を政策的に誘導するような報酬体系が示される見通しである。この改革の進展により、予防・健康維持、診断・治療、介護・自立支援の各領域において需要の変化が予想されており、特に公的保険外の領域では、民間企業の技術力や経営資源を活用することで大きく拡充することが見込まれる分野である。

2. ヘルスケア産業に期待されること

ヘルスケア産業とは、健診等予防分野から、診断・治療、介護・自立支援に関するサービスを担う産業とそのようなサービスで使われる検査機器、薬剤、診療材料、医療機器、福祉機器などの製造業を含む産業によって構成される。(【図1】)

【図1】ヘルスケア産業の概観
【図1】ヘルスケア産業の概観

市場規模は、2025年度には医療分野で60兆円、介護分野で20兆円、健康・生活支援分野で20兆円超になると予想され、大繰りにすると100兆円規模の成長産業と捉えることができる。(【図2】)

【図2】ヘルスケア産業の2025年の市場規模
【図2】ヘルスケア産業の2025年の市場規模

ヘルスケア分野の政策・市場拡大の方向性は、治療中心から予防・健康増進へのシフトと地域包括ケアシステムの実現(生活支援の拡充)に向かっており、この領域におけるヘルスケア産業の活性化が期待されている。

例えば、予防に関し、癌などの難治性疾病や糖尿病などの慢性疾患は長期にわたり高額の医療費が必要になるため、患者数を減少させて医療費を抑制すべく、健診・検査に関するサービス、機器の強化が期待される。遺伝子検査は解析コストの低下、分析技術の進展により、市場が急拡大している。

また、地域包括ケアシステムの領域では、訪問看護や高齢者向け生活支援などの新たなサービスの充実とともに、関連する機器の進化が期待されている。例えば、在宅医療では、呼吸器や透析に関連する機器を中心に市場の広がりが期待されており、医療機器の小型化・モバイル化や家庭と診療所との連携強化につながるモニタリング機器の開発、データ連携が容易で安全にできるシステム提供が求められている。

今後、個人レベルで人々がなすべきことは「健康を管理する習慣を持ち、健康を維持すること」であるとした場合、これまでと異なる行動への変容を起こすための個別化された仕掛けが必要になる。最近では、センシングおよびネットワーク技術の進展により、スマートフォンやウェアラブル端末を活用したサービスが生まれている。ウェアラブル端末で生体情報をモニターし、個人に対して生活習慣の見直し等をアドバイスする健康サービスや、スマートフォンのアプリを活用し、食事記録を行いながら管理栄養士やトレーナーなどのアドバイスを受けられる健康指導サービスプログラムなどである。健康管理において、「IoT」(Internet of Things:モノのインターネット)技術が果たす役割は大きい。ベンチャー企業をはじめ多くの新規参入事業者が利用者にとっての便益性とビジネスとしての収益性を確保するために研鑽を重ねている。ただし、ヘルスケア産業は、成長市場ではあるが、リスクも大きい。その要因として、国の意向による制度改定・規制緩和が繰り返されることや、異業種からの参入が加速していることなどが挙げられる。

3. 利用者起点の新しい価値の創造が社会を変えるエンジンとなる

これからの時代、あらゆるものがネットワークにつながり、センシングによって蓄積されたデータに付加価値を加えて新たなサービスを提供していくことが可能になる。その実現方法については、ヘルスケア分野においても業種を超えて様々に検討されており、企業1社ですべてを賄うことは困難であると、多くの事業者は認識している。新しい価値を創造するためには、自社と他社の得意なことを組み合わせたビジネスのエコモデルを構築することが、これからの時代の必須検討課題となっている。

富士通総研では、富士通グループのデザイナーやエンジニアとチームを作り、顧客企業の独自性を踏まえながら、新たなサービスを創り上げる方法論の開発と実践を積み重ねている。その特徴は、UXデザイン、テクノロジー、ビジネスの三位一体の取り組み(【図3】)の実践であり、「利用者本位でサービスを考えること」を大切にしている。利用者の行動観察や利用者との対話を通して理解した価値観や社会的な課題との関係性を考慮し、何に困っていて、何が解決されると嬉しいのかをしっかりと洞察すること、そして、“新しい利用者体験”(User experience:UX)をデザインし、各段階で想定する利用者に評価してもらうことを繰り返している。このようなUXデザインに加え、技術的な実現性の検証や、ビジネス面での収益性、エコモデルの構築方法といったことを検討している。

利用者の本質的な洞察から生み出した新たなサービスやプロダクトがもたらす価値は、その人だけでなく社会全体を変えるエンジンになり得ると確信している。

【図3】新しい価値の創造を加速させる3つの軸
【図3】新しい価値の創造を加速させる3つの軸

国民総活躍には、健康な人、高齢者、障がい者など、それぞれの人が持った能力を最大限に発揮した状態で社会参加がなされていることを理想と考える。私たちは利用者起点でICT等の技術を活用した新しい価値の創出にこれからも邁進していく所存である。

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大原 宏之

大原 宏之(おおはら ひろゆき)
株式会社富士通総研 産業・エネルギー事業部 プリンシパルコンサルタント
製造業・サービス業における新規事業開発、業務改革、PMO運営、IT戦略立案など、戦略立案から定着化までを支援するコンサルティングに従事。