GTM-MML4VXJ
Skip to main content

English

Japan

  1. ホーム >
  2. コラム >
  3. オピニオン >
  4. ソーシャル・スポーツ・ラーニング -地域における相互学習のためのスポーツ・センシングのプラットフォーム-

ソーシャル・スポーツ・ラーニング -地域における相互学習のためのスポーツ・センシングのプラットフォーム-

2016年2月22日(月曜日)

1. スポーツの領域とソーシャル・スポーツ・ラーニング(SSL)の焦点

「スポーツ×ICT」を考えるときに、スポーツの領域を明確に定義する必要があります。2019年、2020年に日本国内で開催される国際的なビックイベントを控えてスポーツに注目が集まる中、スポーツを一括りで考えてしまう傾向が見受けられます。そこで、【図1】に示すような2軸で考えると、スポーツの領域をシンプルに整理できるのではないでしょうか。そして、それぞれの象限に適したICT活用があります。焦点を明確にして、そこでイノベーションを起こし、そこから染み出すように他の象限に拡張、融合させていくことが大切です。

【図1】スポーツの領域定義
【図1】スポーツの領域定義

現在、アスリート、オリンピアン、メダリストの育成を目的として、第4象限をコアとした「スポーツ×ICT」の議論や実践が盛んになってきています。一方、私たちが取り組んでいるソーシャル・スポーツ・ラーニング(SSL)は第2象限“みんな×豊かになる”を焦点とし、社会的価値創造を起点に地域との共感によるイノベーションを目指しています。

2. SSLが創造する価値

従来、児童の運動は、その結果を時計やメジャーを利用して測定することが主流でした。小学生の体力診断結果は古くから蓄積されており、日本の宝とも言われています。一方、結果には、体格差や筋力差など、児童の発育段階の個人差の影響も大きく、一喜一憂すべきでない部分もあります。

アスリートの育成や児童の体育学に詳しい鳴門教育大学綿引教授は、児童の運動への取り組みで大切なこととして、以下の3点を挙げています。

  • (1)バランスやリズムなど運動神経に関わる巧みな運動(強さ、高さ、速さなど結果のみに注目し過ぎない)
  • (2)運動神経系の発達時期(5歳~12歳が大きな発達時期であり、身体の最大成長時はそのあとにくる)
  • (3)1つのシンプルな運動に多様な要素が含まれていることの理解

これは、体力診断という歴史ある蓄積の上に、時代に即した形で教育価値を提供していく1つの道標となります。私たちは、この考え方に沿うかたちで、簡単なセンサーを使って児童の運動の状況を数値化し、学校やNPOなど地域社会の中で関係者が児童の運動のあり方について学び合うような取り組みを行っています。そして、その取り組みをソーシャル・スポーツ・ラーニング(SSL)と名づけました。

SSLは結果だけでなく、そのプロセスとしての運動神経に関わる部分も見える化(データ解析)し、運動指導と組み合わせ提供します。その結果として体力診断における成長を促すことにも通じていきます。

3. SSLの取り組み概要

SSLは、

  • (1)ウェアラブル・センサーによる運動データ測定、
  • (2)クラウド上でのデータ蓄積と解析、
  • (3)地域(地元スポーツNPO、地元大学、自治体など)による運動指導、
  • (4)解析データをもとにした振り返り授業

で構成されます。その具体的な取り組み内容は以下の通りです。

3-1.具体的な取り組み

複数の文科省モデル事業や体育調査事業の中で、地域(地元スポーツNPO、地元大学、自治体など)と連携してSSLの活動を進めていきます。現場で継続可能なICT活用(実際に運用できる形態)を重視しています。対象や規模、測定種目などは以下の通りです。

  • 対象:保育園児、小学生、中学生
  • 規模:5県15校以上、約2000名
  • 測定種目:1分間縄跳び(体育時間の準備運動として実施することを想定)
  • 測定項目:回数、リズム、バランスなど6項目
  • 解析結果:各項目5段階評価+5段階総合評価

3-2.現場での活動

実際の現場では、以下のような活動を地域の方々と共に実践しています。

  • (1)ウェアラブル・センサーによる運動データ測定(【図2】)
    ・モーションセンサを専用ベルトで装着
    ・1分間縄跳びにおけるデータを取得
  • (2)クラウド上でのデータ蓄積と解析
    ・インターネット経由でデータをクラウドに転送、記録、解析
  • (3)運動指導
    ・地元指導員、教員等によるコーディネーション系の指導
  • (4)振り返り授業
    ・解析結果をもとにした振り返り
    ・児童、生徒によるグループ討議
    ・アスリートの情報提供

【図2】運動データ測定風景
【図2】運動データ測定風景

3-3.地域との連携

現在は、上記の活動のうち、(1)(2)(4)を富士通総研が担当し、(3)をNPOなど地域の人々が実施しています。今後は、(1)(4)も徐々に地域で自発的に実施できるように関係者との連携を深めていきます。その中で、地域の人々はICT活用方法を、富士通グループは地域ごとの現場の実態や価値観などを相互に学び合います。SSLの「ソーシャル・ラーニング」は、

地域の子どもたちの成長を促すために関係者がお互いに学び合う関係を築き上げることを意味しています。

3-4.データ例

【図3】は、縄跳びについて、バランスやリズムを含む6項目の評価から導き出した総合評価(5段階)の分布を表した円グラフです。A校、B校は運動に積極的な学校で、評価4、5の割合が大変高くなっています。一方、B校においても後跳びとなるとバランスが難しくなります。

【図3】総合評価分布
【図3】総合評価分布

【図4】はB校のバランス項目の前跳びと後跳びの比較です。後跳びになると評価1、2が80%以上となります(評価方法は前跳び、後跳びとも同じ)。それぞれの状態に合わせて、地域で運動指導に取り組みます。

【図4】体軸のバランス項目評価(5段階)
【図4】体軸のバランス項目評価(5段階)

【図5」はサラリーマン100人の参考図です。

【図5】総合評価分布
【図5】総合評価分布

3-5.現場の声

SSLの活動を通じて、教師や地域の方々からは以下のような声をいただいています。

  • 短時間で、クラス全員同時にできるので良い
  • 運動評価の多様性を感じた
  • 体育で目立っていなかった児童のデータが良かったのが嬉しかった
  • 他校、他地域の児童の状況を参照できた
  • 大人もリズム、バランスは難しい

また、児童の声としては以下のようなものがあります。

  • 練習方法を話し合うのが面白かった
  • 回数だけでなくバランスも意識して跳んでみたい
  • 他の跳び方でもリズムをチェックしたい
  • 俺の跳躍は速い
  • お父さんのデータも知りたい
  • アスリートのデータにびっくり

4. 教育現場からみたSSL

SSLは、子どもたちがアクティブに運動学習に取り組む体育授業の情報還流システムのプラットフォームとして捉えることができます。子どもたち一人ひとりの日々成長する具体的な動作情報(Embodied Information)を、クラウド環境を活用しながら、体育授業の中で還流させる可能性を身近にします。

これまでの体育授業での情報還流は、主に教師の経験的な観察評価や体力診断テストによるところが多く、急速な発育発達段階にある子どもたちが主体的に活用できるような情報の質と量を確保することが困難でした。純粋な研究面からは、実験的に高いレベルの動作解析から得られた情報が利用される場合もありますが、そのための人的、時間的、コスト的(装置など)な努力によって、精密な動作情報は得られるものの、子どもたちが日常の体育授業で継続的に活用できるまでには至っていません。学校においてSSLが継続的に活用されることにより、一人ひとりの子どもたちに適したICT技術を順次円滑に導入するプラットフォームとなっていくことも期待されます。

5. おわりに

2009年にコペンハーゲンで行われたIOC(国際オリンピック委員会)総会では、2016年の東京への招致は失敗に終わりました。そして、その2年後2011年8月24日にスポーツ基本法が施行されました。これは、落選を振り返り、多くの方々の努力によりスポーツに対する国の方針を内外に向けて明文化したものです。2020年の招致成功にも大きく寄与しました。

そのスポーツ基本法では、「スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むことは、すべての人々の権利であり・・・」と強く宣言しています。SSLの理念は、このスポーツ基本法の精神に則り、地域の人々と寄り添って、「スポーツ×ICT」を考えていくことです。

また「子どもたち」がスポーツリテラシーを高め、豊かに暮らす力をつけていくことを、ICTで支援していくことは「ヒューマンセントリック社会」というコンセプトを実現する1つの道筋とも言えます。

関連サービス

【調査・研究】


内島 誠

内島 誠(うちしま まこと)
株式会社富士通総研 経済研究所 シニアディレクター
日本大学大学院理工学研究科航空宇宙工学専攻修士。1986年富士通株式会社入社。
株式会社富士通研究所にて宇宙衛星通信の研究、富士通株式会社にて技術の民生機器展開としてWCDMW/LTE通信プラットフォーム開発に従事。2011年より株式会社富士通総研実践知研究センターにてセンサー技術のサービス応用/スポーツへの展開を推進。2014年~2015年 筑波大学非常勤講師、熊本げんぎアップアソシエイツ実施委員。2015年10月より現職。