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アイデアソン・ジャーニーと成功の軌跡

-あしたのコミュニティーラボ×立教大学の産学連携プロジェクトから見えてきたこと-

2015年6月10日(水曜日)

今、実務界を中心に、事業や社会変革の波を創造する手法として期待されているのが、アイデアソン(注1)の実践である。これまで、筆者の研究室では様々な産学連携に取り組んできたが、今回アイデアソンにチャレンジする機会を得た。このプロジェクトを振り返ってみたい。

アイデアソンの醍醐味は、研究者、エンジニア、利用者など多様な人材が一堂に会し、ビビッドなライブ感によって異質な知がスパークするところにある。通常1日ないしは数日の短期イベント型が多いが、我々の行ったものは長距離走型で、ビジネスパーソンと学生がコラボレーションし、3か月サイクルを2回にわたって実施したことが特徴である。

1. アイデアソン・ジャーニー

このような知的マラソンの過程を、アイデアソン・ジャーニーと呼ぶことにしよう。最初のサイクルの流れは、大体下記の通りであった。

  • ○ミッション:富士通の先端技術を使い、暮らしを良くする新商品・サービスを提案せよ
  • (1)初期ブレーンストーミング(全員で可能な限りアイデアを発散させる)
  • (2)富士通フォーラム見学(技術展示会で先端技術を知り、アイデアを膨らませる)
  • (3)アイデアの絞り込み(7チーム結成。発散したアイデアを収束させる)
  • (4)プロトタイピング(利用シーンを検討する)
  • (5)フィージビリティ・スタディ(技術者との相談会で市場性、技術適用可能性を検討する)
  • (6)プレゼンテーション(成果報告会のイベントを開催する)

どのチームも(3)までは順調に進んでいった。様々な問題が顕在化していったのはそれ以降である。類似品があることが判明したり、技術的に実現不可能であったり、利用シーンの検証で訴求ポイントが不明瞭であることがわかったりと、アイデアソンの難しさに直面することになった。【図1】が、あるチームのアイデアソン・ジャーニーである。このチームでは、絞り込んだ3案がすべてボツになってしまい、再度テーマに捉われない新しいアイデア出しに挑戦している。技術重視から消費者の欲求重視に発想を転換することで、最終案の元となるアイデアを着想するに至った。その際、「スマホの位置情報を用いた新しい通信技術」の適用を思いつき、ブレークスルーに成功している。

【図1】某チームのアイデアソン・ジャーニー
【図1】某チームのアイデアソン・ジャーニー

2. アイデアソン・ジャーニーのモデル化

アイデアソン・ジャーニーとは、個人ワークとグループワークを組み合わせながら、アイデアの発散と収束、動と静を繰り返し、アイデアを鍛えていくプロセスに他ならない。成功の秘訣は、定期的に行われるチーム・ミーティングで「場のエネルギー」(チームの盛り上がり)を極大化させ、ベストタイム(最大の成果)でマラソンを走り抜けることである。【図1】では横軸に時間の流れ、縦軸にパフォーマンスを想定しているが、そこに場のエネルギーの変化を付加して成功パターンと失敗パターンをモデル化してみたい。なお、以下では簡便のために初期ブレスト(ブレーンストーミング)、プロトタイピング、フィージビリティ・スタディの3回のチーム・ミーティングが行われたものとする。

(1)ワインディング型ジャーニー
【図2】が、理想的な成功パターンである。場のエネルギーは、毎回のミーティングで極大化を繰り返しながら、徐々に上昇している。それに対し、パフォーマンスはほぼ直線的に上昇している。これは、手戻りなど大きな問題が発生することなく、スムーズにゴールに向かっていった状況を示している。このような場合、場のエネルギーとパフォーマンスの変化をプロット(前者をx座標、後者をy座標)すると、曲がりくねった上昇曲線が現れる。

【図2】ワインディング型ジャーニー
【図2】ワインディング型ジャーニー

(2)スパイラル型ジャーニー
ところが、実際にはパフォーマンスが単調に上昇していくことはほとんどなく、やはり上下変動(+/-)を繰り返していく。【図3】は、初期ブレストによって多くのアイデアが創発した(+)、アイデア絞り込みの後、類似品があることが判明した(-)、プロトタイピングで差別化のポイントを見出し、コンセプトの明確化に至った(+)、新たに適用技術の問題が表面化した(-)、フィージビリティ・スタディを通じて技術問題が解決した(+)、こうしてようやく最終案がまとまったプロセスを示している。2つの位相の異なる波動が影響し合って上昇していくとき、スパイラル曲線が現れる。我々が行ったアイデアソンの軌跡は、このようなスパイラル型のイメージに近いものであった。

【図3】スパイラル型ジャーニー
【図3】スパイラル型ジャーニー

(3)落ち葉型ジャーニー
【図4】が、失敗パターンの例である。どのアイデアも魅力に欠け、ピボット(アイデアの練り直しと再転換)を繰り返すうちにチームが疲弊していき、パフォーマンスは下降の一途を辿っている。この場合、曲線は落ち葉が地面に落ちていくような軌跡を描く。

【図4】落ち葉型ジャーニー
【図4】落ち葉型ジャーニー

3. 成功の軌跡を描く

チームが暗礁に乗り上げ、場のエネルギーが衰退、パフォーマンスの低下が起きると、落ち葉型に陥ってしまう。スパイラル型に引き上げるためには、直面する問題をどのように解決していけばよいのか? プロジェクト後の振り返りでは、先述の「発想を技術重視から欲求重視に変えた」以外に、「良いと思ったら、色々な人に見せる。良いと思ったら、それまでのアイデアに固執しない」、「技術者から『これ行けるんじゃない?』との一言で自信が持てた」、「SNSを使った技術者とのディスカッションが有効だった」、「もっとエンターテインメント性が欲しいというアドバイスで発想が転換できた」などの意見があった。ここに、いくつか重要なヒントが隠されている。

1つ目は、場のエネルギーの持続についてである。どのようにチーム・ミーティングで場のエネルギーを極大化させるか。チームが慣れてくると、チーム内で個人のポジションが確定し、これくらい貢献すればいいだろうという妥協や打算も生まれてくる。長距離走型で最も危惧すべき点は、ここにある。そうした組織慣性を排除するために、ファシリテーターには、メンバー構成やチームの状況を把握しながら、その都度効果的なメソッドやツールを繰り出していく柔軟性が求められる。今回のプロジェクトでは、今日はどんなことをするのだろうというワクワクした期待の中で、毎回チーム・ワークに取り組むことができた。また、ワークの際のちょっとしたアドバイスでチームの雰囲気が一変し、突然斬新なアイデアが生まれることもある。これらは、富士通総研のコンサルタントの指導や富士通の技術者の支援によるところが大きかった。

2つ目は、パフォーマンスの向上についてである。現実のマラソンでは、事前に選手やコーチがコースを詳細に調べ、どこで加速するか、水分を補給するかなど、念入りに計画を立てることができる。ところが、アイデアソンは一見、順調に進んでいるように見えて、実はテーマやチームによってゴールに至る軌跡は異なり、どこに山や谷があるかが事前にわからない。検討が進み過ぎた後でのピボットは手遅れになり、かえって混乱を招いてしまったりする。チームのアイデアが煮詰まった場合、一呼吸おいて発想の転換を図ったり、現案を推し進めていくべきか、どの時点でピボット実施の決定をするかなどについては、大局観に立った判断が必要になる。なお、今回はSNSで常時技術者からアドバイスを受ける体制を作り、これが有効に機能したことも指摘しておきたい。それは、アナログ(リアル)な場とデジタル(Web)な場の異質な空間を併用することの有用性を示唆している。

アイデアの源泉は、個人の洞察に帰着される。常にネットで他人とつながっている現状では、安易に人の意見に頼ったり、ネットに答えを求めたりして、自らが深く考えることを怠ってしまいがちである。そこで、今更ながら数学者、岡潔の残した言葉に耳を傾けたい。彼は、数学の発見では日本刀を鍛える時のように、熱しては冷やし、熱しては冷やしというやり方を適当に繰り返すのがよく、緊張が緩んだとき、真情によく澄んだ一瞬ができ、そこに智力の光が射すと言う。さらに、その時は蝶を採集に行って見事な蝶が木に止まっているのを見たような喜びを伴うと述べている(注2)。個人もまた、短距離走のように常に全速力で走るのではなく、チームの場のエネルギーの振幅と同じように、緊張と弛緩のリズムが必要になろう。1人静かに熟考したり、仲間とワイワイ議論したりを繰り返すうちに、ふとしたきっかけでそうした瞬間が訪れるのではないか。個人とチームがシンクロナイズしてクリエイティブなアイデアが創発されると、個人の喜びはチーム全体へと拡大する。これが、アイデアソンの素晴らしさである。

これまで、アイデアソンはICT業界が先導してきたが、今やその適用範囲はICTプロダクトやサービスの開発だけにとどまらない。アイデアソン・ジャーニーを通じて、共創の輪が広がっていくことを願う。“Our journey creates a new world!”

注釈

(注1)アイデアソン : Ideathon。アイデア(Idea)とマラソン(Marathon)を組み合わせた造語。 特定のテーマに興味を持つ人が集まり、課題解決につながるアイデアを出し合い、それをまとめていくワークショップ形式のイベント。

(注2)岡潔,「春宵十話」角川ソフィア文庫(2014年改版)を参照。

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【あしたのコミュニティーラボ】
"立教大学生と富士通によって形づくられた、共創の道筋"

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立教大学 経営学部教授 佐々木 宏

佐々木 宏(ささき ひろし)
立教大学 経営学部教授。キャリアセンター部長。
【略歴】
筑波大学経営・政策科学研究科修士課程、大阪大学経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。金融系シンクタンクにてマーケティング・リサーチ、経営コンサルティングなどに従事後、大学教員になる。ビッグデータ、データマイニング、IT産業の国際比較などが専門で、大学での教育・研究の傍ら企業向けにマーケティング・リサーチの支援などを行っている。著書・論文多数。
2014年度に富士通株式会社・立教大学主催、富士通総研運営の「あしたのコミュニティーラボ×立教大学 産学連携プロジェクト」に携わる。