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【フォーカス】世の中の変化を感じ取り、いま流通・小売業がすべきこと

2015年2月25日(水曜日)

【フォーカス】シリーズでは、旬のテーマに取り組むコンサルタントを対談形式で紹介します。

近年、企業、社会の変革と技術革新との関係は新しい局面を迎えていますが、『オムニチャネル』や『ビッグデータ』という技術面に囚われ過ぎて、それをやること自体が目的になっている風潮も見えます。世の中の激しい変化に対応していくには、何にどう取り組んでいくべきなのでしょうか?

本対談では、「世の中の変化を感じ取り、いま流通・小売業がすべきこと」をテーマに、京都大学経営管理大学院特別教授であり元セブン-イレブン・ジャパンCIOである碓井誠氏、韓国富士通株式会社の滝口副社長、富士通総研流通・生活サービス事業部の西田プリンシパルコンサルタントと今村事業部長に語っていただきました。

1. 『スモール化』の潮流

【今村】
流通業は変化対応業とも言われますが、まさに近年の世の中の変化は激しく、変化に対応し続けた企業が勝ち残れる時代だと思っています。しかし、近年のお客様の状況を見ていると、『オムニチャネル』や『ビッグデータ』という技術に振り回されていて、それをやること自体が目的になりつつある風潮があると思っています。何かちょっと大きな忘れ物をしているのではないか?と私は感じているのですが、碓井先生はいかがお考えですか?

【碓井】
その通りだと思います。IT業界はどうしても言葉が一人歩きしがちです。オムニチャネルやビッグデータというのはスケールの大きい新たな質で、問題解決しようという考え方自体は正しいと思います。そのことはまた、小さなモジュールの組み上げをしっかりしなくてはならないということです。1つ1つのモジュールがしっかりしていないのに、それを無理やり見せかけで繋げてみてもダメということを分かった上で組み立てないと、形だけ追いかけたけど最後までうまく繋がらない・効果が出ないという危険を孕んでいると思います。

【写真1】フォーカス 世の中の変化を感じ取り、いま流通・小売業がすべきこと<京都大学 経営管理大学院 碓井 特別教授>

【今村】
具体的にはどのようなことですか?

【碓井】
このような大きな概念を持ち、打ち手は『スモール』にする必要があると思っています。例えば小売業のコンビニ、イオンのマイバスケットですとか、テスコもウォルマートもスモール店舗を出しています。スモール化は顧客により近づくということです。より生活者に近づこうと思ったら、スモールサイズにして近接する必要があります。それは距離と時間と質の問題です。結局コンビニサイズだから、生活に今ちょっと必要なものに絞り込んだ領域で、サイズも小さくして、24時間でOne Stopなのです。そういったスモール化の流れというものをもう1回見ていくといいですね。
今、お店の話をしましたが、言葉で言えばウォルマートの基本的な考え方は、『Think Small』です。1人1人のお客様、1つ1つのお店の意見を吸い上げて、年商40兆円を運営しています。つまり、大きくなったとしても、スモールを大事にしていますね。また、セブン-イレブンで言えば、単品管理。超スモールですね。1品1品の起点をきっちりと組み立てる。ここから個店対応が出てきて、お店の主体性を生かして、お客様1人1人に対するフレンドリーさまで求めている。ものすごくスモールです。
そして、最大のスモールがパーソナル対応だと思います。例えば、自分のテイストに合ったファッション商品を買いたいと思ったら、それはあるブランドのものだけではないですよね。あるブランドの服だけでなく、それに合った靴、バッグなど、もっと広い企業の枠を超えたものが必要になるのですが、現在、各社が取り組んでいるオムニチャネルは、自分のグループやチェーンに閉じたオムニチャネルが中心となっている。スモールのモジュールを固めつつ、ビッグデータやオムニチャネルと連動することが重要です。
本来、オムニチャネルというのは顧客側から発想しなければいけない。売る側の自由度・選択肢を提供するのではなく、買う側の自由度・選択肢を提供することが、真のオムニチャネルであるわけで、そこを理想に置いて段階的に取り組まなければならないと思っています。

【今村】
なるほど、原点にあるスモールや、スモールの組み合わせができていないと、表面的にオムニチャネルやビッグデータに取り組んでもダメだということですね。西田さんは最近、米国のNRF(National Retail Federation:全米小売業大会)に行きましたが、米国の動向はどうでしたか?

2. 全米小売業大会では情報技術を駆使できる『人材育成』が革新のキーワード

【西田】
昨年から引き続き最頻出のキーワードが『オムニチャネル』と『カスタマーエクスペリエンス』でした。このような大きな概念で革新しようとした際の不可欠な要素として、組織の改革や情報技術を駆使できる人材育成が重要であるとの骨太のメッセージでした。あと特筆すべき点は、NRFでは全米の50の大学と連携して奨学金制度を作り、業界を挙げて人材育成行っているということです。そこが、日本とは異なる点です。

【今村】
日本企業でも先程のお話のようなことを実現する際、最終的には一番のキーになるのが、組織づくりや人材の育て方になると思いますが、碓井先生のお考えはいかがでしょうか?

【写真2】フォーカス 世の中の変化を感じ取り、いま流通・小売業がすべきこと<富士通総研 今村 流通・生活サービス事業部長>

【碓井】
非常に難しいテーマですね。『サービスイノベーション』というのは、アメリカをはじめ今後の競争戦略がサービスだと言われ、そこからビッグデータとかオムニチャネルとかも出てきていると思うのですが、先進国がこぞってやっている。日本も2007年からやっていて、色々なイノベーション人材育成ということに政策も力を入れている。しかし、未だにイノベーション人材とは何かについては定義されていない。大学で育てられるのかというと、大学だけの問題ではなくて、サイエンスと実際のビジネスの融合が必要で、プロジェクトを一緒に実践していくということが1つの方法ではないかと思います。
例えば、ある大学では、ゼミの研究生を小売業に放り込んで、売場を作らせ、データ分析をして、どういうふうにプロモーションした時にレスポンスがあったのかというような実践をやっています。
それから、やはりIT企業にも期待したいです。新たなITを活用して、それができる基本的な仕組みとかモジュールとかシナリオとかを提供して欲しいと思います。これからITベンダーが活躍していく領域は、システムの構築だけでなく、ユーザー企業でのIT活用支援であり業務改革だと思っています。

【西田】
我々はITベンダー系のコンサル企業として、以前からIT活用支援コンサルをやってきていますが、SE含めその点の強化がユーザー企業を成功に導く鍵かもしれませんね。最近ユーザー企業のオムニチャネルのプロジェクトをいくつか実施していますが、冒頭のお話のように、オムニチャネルの場合、IT技術の活用という手段側から議論してく風潮があり、手段と目的が逆転してしまい兼ねないリスクを感じています。

3. 顧客接点のサービスをどこまで改善するか

【碓井】
オムニチャネルを語るなら、実際の顧客接点のサービスをどこまで改善するか、から議論しなければならないですね。例えばコンビニは、セブン-イレブンの鈴木会長も最初から言っているのは、経済産業省の分類ではセルフサービスと対面サービスだけですが、鈴木さんは『セミセルフ』だと。だからフレンドリーサービスがものすごく重要です。お客様の分析をしても、コンビニに限らず「この店をまた使いますか?」という質問に対してYesと答えた人の理由は「従業員の接客が良かった」というのが圧倒的な1位です。もう1つはクリンリネス(Cleanliness)、やっぱりきれいだというのは価値なんですね。そのあとに品揃えです。実はこれはインドネシアで調査しても同じ結果が出ました。だから、フレンドリーに限らず、顧客との関係性をどう組み立てるかが戦略の1つの柱と言えます。

【今村】
オムニチャネルに取り組む前に、インフラとなるベースの改革シナリオにしっかり取り組まなければならないということですね。

【西田】
ニューヨークのKマートなどのお店を回っていると、当たり前のように入口にネット注文の商品を受け取るカウンターがあり、売場に行くと、商品検索、在庫検索、発注機能つきの端末が置いてある。レシートはスマートフォンに飛んで来るし、セブン-イレブンにはアマゾンロッカーが当然のように置いてあります。お客様が欲しい商品を入手する、買うための利便性は著しく上がっていると思うのですが、逆に言うと、お店同士の差別化の戦いが高度化してきているなと思います。それを左右するのは結局、お客様への洞察力を持ち、ホスピタリティを持った人の優秀さだと感じました。

【写真3】フォーカス 世の中の変化を感じ取り、いま流通・小売業がすべきこと<富士通総研 西田 プリンシパルコンサルタント>

【今村】
『ホスピタリティ』は日本でも非常に重要なキーワードとなると考えますが、碓井先生はいかがお考えでしょうか?

【碓井】
日本はこれから超高齢化社会になってきます。そこで、今セブン-イレブンは御用聞きを相当力を入れてやっています。車も13000台以上配置しています。接客面のホスピタリティだけでなく社会全体での取り組みも重要です。色々な規制があるから非常に難しいのですが、ポーターの共通価値の戦略でも言っているような産業クラスターのミニ版的な地域拠点を形成して、行政サービスやヘルスケア、配食や買物代行といった領域にも、住民の参加共生型のホスピタリティサービスを組み立てることも重要です。

【今村】
他にNRFではどのような洞察がありますか?

【西田】
NRFで感じたのはリーバイスやウォルマートというエスタブリッシュメントが今も先端の一翼を担っていることでした。1990年代でもクイックレスポンス(QR)の先端企業であった2社がオムニチャネル対応においても明確な指針を持っていたのが印象的でした。90年代にリーバイ・リンク(リーバイス)、リテール・リンク(ウォルマート)などのサプライチェーンやバリューチェーンを成功させた企業でもあるので、表面上の技術論ではなく、経営理念、顧客、組織、人、を重視した取組論で継続的な強さを感じました。

【碓井】
私は今の時代のある意味最大のキーワードは『循環』だと思っています。結局、仮説検証にしても、モノからコト、コトからソリューションという、こういった顧客関係性、品質的な評価も、循環ですよね。今まで動脈経済で物を売ったら終わり、アフターケアがちょっと付いてくる程度。それを売った後、どういうふうに使ってどうなったか、どう改善したらよいかという循環が次のサービスへ繋がるわけです。リサイクルも含めてですね。そして循環のスピードをどう上げるか。ZARAなどはその典型ですね。1つのカテゴリーはマーケッター、デザイナー、バイヤーから成る12人のチームで、世界中の販売データ、顧客ニーズ、市場情報を分析し、即断即決で2週間で新商品提案として市場へ循環させています。12人という小さな行動モジュールが50組、400以上の生産工場と、世界の受注を8時間で発送する巨大物流センターといったインフラの上で動いています。
これからの循環には、行動モジュールと、POSやポイントカード、ECやSNS、オープンデータやヘルスケアレコードといった情報モジュールの質と連携が求められ、これらのモジュールの統合をいかに実現するかが新たな事業インフラの役割となります。新しいインフラはヒューマンセントリックな生活ソリューションのデザインと循環スピードを生むプロセス、そしてこれらを「できる化」するIT活用により形成されるものと考えます。

4. アジアの動向と日本の今後の課題

【今村】
滝口さん、今までは日本やアメリカの話でしたが、アジアの小売業の問題意識や今のトレンドというのがあれば、お聞かせください。

【滝口】
アジアは1つに表現するのは難しく、中華圏と韓国、ASEANでそれぞれ見ているところが違います。リファレンスを求めるのは日本がいいだろうとは一旦見ています。特にコンビニは、セブン-イレブンに代表されるように。ASEANのローカルのマレーシアといったところと中華圏の台湾では求め方、見方、リファレンスの仕方が違います。韓国はリファレンスするのも実務は日本型、コンセプトはウォルマートに代表されるアメリカ型を求めています。
本日のオムニチャネルに関して言うと、言葉に振り回されないということと、ITツール的には使う時期に来ていると思います。ITインフラが整い始めているからこそ、目的を明確にして取り組まなければならない。オムニチャネルで思うのは、ネットと店舗を分け隔てなく注文できて、色々な場所でピックアップできるというのが代表例として話されているけど、それは結局パーソナルの追求をして、その人の行動帯に合わせてフィッタブルなものを提供する1つのツールですよね。アマゾンロッカーみたいなものは1つの大きなインパクトがあったと思います。日本のように、こんなに緻密に数時間刻みで宅配便を届けますなんていう国は他にないけど、それすら顧客からすれば自宅での待ち時間が必要なわけで、自由度がないということですね。そこで私書箱を置いてより便利にというのがアマゾンロッカーの発想。そういうものを参考に組み合わせ日本の風土に合ったオムニチャネルを創っていくことだと思います。
ITはデータのバケツ、引き出し方、センサー技術など、ツールは大体揃ってきたと思います。ですが、活用レベルはまだまだというレベル。ITベンダーとしての富士通は、生活者の状態、時間、位置が把握できる今、それを活用する側のリテラシーを支えるための「データの引き出し方」や「活用の仕方」をいかに提供するかというのが、ユーザーから求められるソリューションだと考えています。

【写真4】フォーカス 世の中の変化を感じ取り、いま流通・小売業がすべきこと<韓国富士通 滝口 副社長>

【今村】
流通・小売業の方々だけがすべきことではなく、我々ITベンダーやコンサルタントのなすべき役割はまだまだ沢山ありますね。変化を感じ、流通・小売業やITベンダーが知恵と技術を寄せ合い、未来を創造して行くことが大切だということでしょうか?

【碓井】
そうですね。IT活用はこれまで、様々なモジュールの効率化と「見える化」を追求して来ましたが、情報化社会の本質は「見える化」にとどまらず「できる化」を実現することです。「できる化」には、新たなインフラとともに「仮説-検証」の組み込みが重要になります。その実現に向け、知恵を寄せ合い、価値を共創していく、それこそが日本人の得意なところだと思います。

【写真5】フォーカス 世の中の変化を感じ取り、いま流通・小売業がすべきこと

対談者(写真左から)

  • 碓井 誠
    :京都大学経営管理大学院特別教授
    株式会社オピニオン代表取締役(元セブン-イレブン・ジャパンCIO)
  • 今村 健 :(株)富士通総研 流通・生活サービス事業部 事業部長
  • 西田 武志 :(株)富士通総研 富士通総研流通・生活サービス事業部 プリンシパルコンサルタント
  • 滝口 勉 :韓国富士通(株) 取締役副社長