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Japan

公民協働で進める災害福祉広域支援ネットワークの構築

~高齢社会での安全・安心を求めて~

2014年2月20日(木曜日)

2011年3月11日の東日本大震災の発生から、丸3年が経とうとしています。東北地方沿岸部は高齢化率3割を越えている自治体も多く、被災した高齢者の姿が連日報道されていました。そして、避難生活の長期化は要介護高齢者の急増と重度化をもたらし、要介護認定を受けた人数(5月末)の震災後2年間の増加率は宮城県が18.8%で一番高く、次いで福島県が14.3%と、全国平均の11.3%を大きく上回りました。特に津波被害があった沿岸部や福島第一原発事故で被災した3県42市町村の増加率は、岩手県15.3%、宮城県21.6%、福島県22.9%と、被害が甚大であった自治体で軒並み高くなっている状況が明らかとなっています。

東北地方は、かねてより高齢化が進んだ地域としても注目されていました。地方と都市部等との違いはあるものの、東北地方はすでに高齢化率が3割に達しており、3人に1人が65歳以上になる2030年の日本社会の姿を示していると言われています。その社会の中での安全・安心の確保のあり方は東日本大震災から学ぶべき教訓の1つでもあります。

日本は世界でも有数の自然災害の多い国です。超高齢社会に向かい、さらに高齢化、核家族化、地域社会の脆弱化が進行する中で、安全・安心な社会のために何が必要なのでしょうか? その答えの1つが、富士通総研が厚生労働省の助成を受けて取り組んできた「災害福祉広域支援ネットワーク」の構築であると考えます。これは、東日本大震災が発生した2011年の実態調査に始まり、3年にわたって調査研究を行ってきたもので、現在は厚生労働省、都道府県、事業者によって公民協働で具体的な構築が進められようとしています。

1. 注目されるべきは二次被害の防止

災害では人命をどう守るかが最重要課題です。よって、発災直後の「災害による直接的な被災」から命を守る一次被害の防止を重視した活動である、消防や自衛隊等による救出、災害派遣医療チーム(DMAT:Disaster Medical Assistance Team)等の緊急災害医療の専門性が高い組織による救命等は、公的な体制として整備されています。しかし、災害による影響は一次被害が防止された後も続きます。次の段階では「災害による間接的な被災」から命を守る二次被害防止が必要となりますが、緊急性が低いとされ、そのための体制構築は進んでいませんでした。また、高齢者や障害者等、災害時に特別な支援を必要とする災害時要援護者の台帳整備等も進んでいませんでした。

一方、東日本大震災では、避難生活の長期化等による二次被害により、援護を必要とする人々が長期間にわたって発生しました。災害発生直後の救命行為等で命が守られても、そのすぐ後から発生する介護や援助等を確保するための緊急支援、その人の状況や状態に応じた適切な場所への移動支援、災害から一定程度時間が経過した際のソーシャルワーク的な支援による生活機能の確保等が必要です。しかしながら、緊急期~応急期~復旧期の時間経過に合った支援が得られなかった結果、要介護や要支援の高齢者や障害者の状態が悪化しただけでなく、災害前には対象外と考えられていた人々も援護が必要な状態に陥ったものと考えられます。

【図1】災害時の段階に応じた支援
【図1】災害時の段階に応じた支援

二次被害は災害による間接的な被害によるものであり、生活環境の変化等によって従前の生活機能が確保できなくなった際に発生すると考えられています。そして、その際の生活機能確保の支援を行うのが、災害時に提供される災害福祉です。

例えば、高齢者は、その人の生活場所と福祉で提供される介護サービス利用の有無で以下のように大別できます。

  1. 入所型施設で介護サービスを利用
  2. 自宅に居住し介護サービスを利用
  3. 自宅に居住し介護サービスは利用せず

ⅰ、ⅱの場合、入所型施設と在宅の差はありますが、日常的に介護サービスの提供がある生活環境で生活機能は確保され、微妙なバランスの上で生活が成立している状況にあります。しかし、災害で介護サービスが得られない等の生活環境の変化が起きれば、バランスは崩れて生活機能は急激に低下し、心身には大きな影響が及んで介護サービス等の支援ニーズが上昇します。これは、災害による津波や火災等の一次被害から命を守れても、その後の生活環境の変化等で二次被害が発生し、介護サービス等による福祉が得られなかった場合には命の危機が生じることを示します。そして、ⅲの場合に避難生活の継続や生活環境の悪化が起きれば、新たに介護サービス等の支援が必要となり、要援護の対象となる人々は増加します。よって、一次被害の防止後には、速やかに二次被害の防止のために災害福祉を提供し、生活機能確保の支援を行う体制が必要となるのです。

【図2】高齢者はどこにいるのか
【図2】高齢者はどこにいるのか

2. 災害福祉は福祉事業所の事業継続がポイント

では、災害福祉では何を行うのでしょうか? 例えば、ⅰとⅱは、平時より介護事業者に認識されていますが、ⅲは認識されていません。ⅰは介護サービスの機能が住居とセットであり、介護サービスの提供者が施設の事業者であることから、生活機能の確保は「事業者の事業継続」がポイントです。ⅱは、自宅で介護サービスを外部から調達して生活しているため、被災後、速やかに福祉専門職らによって行われる「ニーズ把握とサービス調整」および、生活環境の整備による生活機能の確保がポイントです。一方、ⅲは、生活環境の激変による心身状態の悪化が懸念されるものの、それが見落とされる可能性があることから、福祉専門職が行う「リスクの早期発見と悪化防止」で生活機能を確保することがポイントです。その実施に必要な機能としては、「福祉ニーズ把握」、「スクリーニング」、「サービス供給」の3つに整理されています。特に重視されているのは福祉ニーズの把握です。初めに入所型施設を含む被災地域の要援護者の実態把握や課題確認を行い、その後のマンパワー投入、利用者移動、物資搬入等の的確で効率的な支援に結び付ける先遣隊的役割を担うものであり、災害派遣医療チームであるDMATの福祉版とも言われています。そして、そのすべてに関わるのは福祉専門職であることから、災害時の福祉の体制を確保するには、福祉専門職がいる福祉事業所の事業継続が重要であることがわかってきました。

しかし、東日本大震災当時には、二次被害防止に焦点を当てた検討は進んでいませんでした。公的な仕組みもなく、そうした意識が自治体・福祉事業所の双方にまだ無い中で、被災した福祉事業所の事業継続のために被災地以外の福祉事業所が職員派遣や利用者受入等の支援を行おうとしても、応援・受援ともうまく機能しませんでした。

【図3】災害福祉による支援の機能
【図3】災害福祉による支援の機能

こうしたことは、東日本大震災のように大規模な災害であったから必要だったのでしょうか? 今後、さらに高齢化は進行し、地域の要援護の対象者数は増加します。地域では、多くの重度の要介護高齢者や障害者が在宅で生活を送ります。核家族化で生活基盤が脆弱な高齢者のみの世帯は増加し、災害時に新たに支援が必要となる人が増加します。以上は、全国共通の話であり、災害が起きれば、どこの都道府県・福祉事業所であっても多くの人々からの支援要望への対応に迫られるであろうことは容易に想像されます。

今後、さらに高齢化が進む社会で災害が発生することの影響を考えると、災害福祉による二次被害防止と、そのためのネットワークづくりは重要であり、都道府県での福祉支援ネットワークと都道府県を越えた災害福祉広域支援ネットワークの構築が、自治体と福祉事業所を運営する民間事業者の双方に強く求められているのです。そうした危機感から、現在は全国の約半数の都道府県が災害福祉広域支援ネットワークの構築に民間事業者と取り組み始めています。

【図4】災害福祉広域支援ネットワークの体制図

【図4】災害福祉広域支援ネットワークの体制図

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3. 公民協働による災害福祉広域支援ネットワークの取り組み

富士通総研では厚生労働省の補助を受け、東日本大震災が発生した直後の2011年度は被災3県の入居機能を持つ全福祉事業所の実態把握、2012年度は高齢社会に即した新たな災害支援体制構築としての「災害福祉広域支援ネットワーク」の検討、2013年度は都道府県や事業者団体との情報交換や支援を実施し、公民連携による災害福祉広域支援ネットワーク構築の調査研究と支援を行っています。この一連の調査研究と連動して厚生労働省はネットワーク構築の検討を行い、以下の2つの方向性を示しています。

  1. 常時から、各都道府県単位で福祉・介護分野の関係者を中心とした協議会形式により災害発生時の福祉的支援について協議し、また緊急時に人材を派遣する体制を構築する
  2. 都道府県単位の体制がネットワーク化されることで、災害発生時には福祉・介護分野での全国を通じたネットワークからの人材派遣等、広域的な緊急支援を行う

以上の方向性に基づき、独立行政法人福祉医療機構も2012年度から災害福祉広域支援事業として、ネットワーク構築のための協議会を立ち上げようとする団体に対して助成を行ってきました。さらに、2014年度からは、この助成事業が厚生労働省のセーフティネット支援対策等事業費補助金のメニュー事業の「災害福祉広域支援ネットワークの構築支援事業」として都道府県や団体等に補助が行われることになる等、その推進は加速しています。

こうした厚生労働省等の検討にも、富士通総研は協力しており、厚生労働省が行う都道府県への事務連絡にも富士通総研の調査報告が引用・添付される等、連携しつつ都道府県に働きかけることでネットワークの構築が進められています。

日本には毎年のように自然災害が発生し、その度に高齢者や障害者等の要援護者がクローズアップされています。災害は何パーセントといった発生確率で語られるものではなく、起きるか・起きないかであり、南海トラフを震源とする大地震や首都直下型地震等の大規模災害も、いつ起きても不思議ではありません。東日本大震災で得た教訓を活かし、高齢社会下にあっても強い日本を公民が一緒となってつくりあげることが、震災を経験した私たちに課せられた使命でもあります。

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災害福祉支援体制・ネットワークフォーラム

「被災時から復興期における高齢者への段階的支援とその体制のあり方の調査研究事業」(平成23年度老人保健健康増進等事業)

「災害福祉広域支援ネットワークの構築に向けての調査研究事業」 (平成24年度社会福祉推進事業)

関連サービス

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名取 直美

名取 直美(なとり なおみ)
(株)富士通総研 公共事業部 シニアコンサルタント
都市計画事務所、医療・福祉関連を専門とする設計事務所の調査企画職等を経て、2007年に株式会社富士通総研に入社。持続性ある高齢社会の構築を目指し、福祉・医療分野の調査研究やコンサルティング、実現策としての公民協働事業のアドバイザリーおよび関連プロジェクトの立ち上げ等に従事。