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TPP交渉と日本の立ち位置

2013年8月9日(金曜日)

1. TPP参加の大局的な意義

TPP交渉への参加については、輸出が有利になる製造業は歓迎する一方、農業分野などではそのメリットについて未だ意見が対立するなど、立場によって反応が異なるものとなっています。産業別の利害得失は異なりますが、より大きな視点から見れば、TPP交渉は、中国が著しい経済成長によってアジア太平洋地域で存在感を増す中、この地域での貿易ルール作りで誰が主導権をとるのかという問題と密接に関わっています。

TPP参加の決断をしたということは、日本はアメリカと組んで主導権争いに参加する決断をしたことを意味します。それは参加国の間の相互依存関係を強化するのみならず、日米の同盟関係を側面から支援することにもつながります。自由貿易交渉のグループという点だけに捉われると、個別の利害得失に議論が終始してしまいますが、中国が軍事的にも台頭して海洋進出の意欲を高める中で、アメリカとの関係を強化することが、国際関係上の日本の国益を守る1つの手段になるとの大局的な認識を持つことがまず重要になります。

2. 日本のTPP参加が自由貿易交渉を刺激

日本のTPP交渉参加は、アジア太平洋地域における他の自由貿易交渉を刺激する効果を発揮しています。最近ではTPPに対抗して、日中韓FTAやRCEP(東アジア地域包括連携協定)の交渉を加速させる動きが活発化しています。中国は日本に対し、以前はTPPへの交渉参加を決断しないよう働きかけていましたが、6月の米中会談では習主席がオバマ大統領にTPPへの関心を表明し、中国国内の一部でも、今後はTPPがアジア太平洋地域の自由貿易のルールを主導するとの声も出るようになっています。TPPは原則10年で関税を撤廃する高いレベルの自由化を目指しており、中国がすぐに参加することは困難ですが、中国では貿易ルール作りから取り残されることへの危機感が高まっています。

TPPにしろRCEPにしろ、これらはAPEC(アジア太平洋経済協力会議)が将来的に目指すFTTAP(アジア太平洋自由貿易地域)の母体になり得る存在ですが、TPPが最終的にそこに至る有力な入口になるとの期待も高まっています。日本にとっては、自由貿易のルール作りを主導し、関税引き下げや投資規制の自由化を実現することが、アジアにおけるサプライチェーンを強化する意味でも重要になります。安易な模倣などによって日本が悩まされ続けてきた、知的財産の保護ルールを確立することも必要です。

3. 弱点の農業強化を急ぐ必要性

とはいえ、高いレベルの自由化は日本にとっても簡単なことではありません。TPP交渉参加に向けた、日米の事前交渉では、日本が高関税で守っている農産品への配慮を求めた見返りに、アメリカが日本車にかける関税撤廃を最大限後ろ倒しすることが求められました。農産品を聖域として守るあまり、日本にとって有利になる関税撤廃について譲歩を迫られた結果になったのです。

TPPは全体として自由貿易ルール作りで主導することで参加国が有利な立場に立つという狙いがありますが、交渉内部では各国間の利害が対立することは当然です。その過程で、TPP反対派がかねてから危惧するように、アメリカのいいようにやられるのではないかとの懸念が実現しないとも限りません。また、アメリカはTPPと並行して、米欧FTAの交渉も進めており、ここで決められた事柄がTPPに影響を与える可能性もあります。交渉過程では各国が国益を最大限実現するために、厳しい駆け引きが繰り広げられるという冷徹な事実に目を向け、日本は交渉を有利に進めるため、弱点である農業の強化を急ぐことが求められます。

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【調査・研究】


米山 秀隆(よねやま ひでたか)
(株)富士通総研 経済研究所 上席主任研究員。
【略歴】
1989年 筑波大学大学院経営・政策科学研究科修了、(株)富士総合研究所を経て、1996年 (株)富士通総研入社、2007年~2010年3月 慶応義塾大学グローバルセキュリティ研究所客員研究員
【執筆活動】
「デフレの終わりと経済再生」(ダイヤモンド社、2004年)、「世界恐慌─日本経済最後の一手」(ダイヤモンド社、2002)、「空き家急増の真実」(日本経済新聞出版社、2012年)、「少子高齢化時代の住宅市場」(日本経済新聞出版社、2011年)ほか多数