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電力を自給自足できる究極の省エネ技術「環境発電」

~自立的なセンサーネットワークの構築に向けた環境発電の可能性~

2012年8月31日(金曜日)

1. 環境発電とは

環境発電という技術をご存知でしょうか? 環境発電は、電池やケーブル等による電力供給を必要とせずに機器等を駆動させる技術であり、エネルギーの効率的な利用が叫ばれる中、今日、注目度が高まってきているものです。なぜ電源が要らないかというと、身の回りにある光や熱、振動、電波のエネルギーを電気エネルギーに変換するからです。利用できるエネルギーとしては、例えば、室内の照明光、工場の廃熱、私たちの体温、道路の振動、携帯電話の基地局から発せられる電波等、様々です。こうしたエネルギーを回収することを「収穫」に例えて、エネルギーハーベストとも呼んでいます。

2. 何に使えるのか

電源が要らない機器といっても、環境発電で得られる電力は、現状ではμW~mWオーダーです。まだまだ、電力量としては小さいため、それだけではパソコンや携帯電話を動かすことは困難ですが、小型の電子部品や電子機器であれば動かすことは可能です。例えば、身近なところで環境発電を使っているものとしては、ソーラー電卓やソーラー腕時計があります。

また、実用化されているものとして、照明を点灯/消灯させるリモコンスイッチがあります。普段あまり意識をしていない人が多いと思いますが、照明のリモコンスイッチには、照明器具へ点灯や消灯の信号を伝えるために電力が必要です。通常使われている照明スイッチでは電池等で電力を供給していますが、環境発電を利用すると、人がスイッチを押す圧力を電力に変換して利用することができます。

さらに、環境発電の今後の用途として期待されているのが、センサーです。センサーへの環境発電の適用については、まだまだ実証段階のものがほとんどですが、事例としては、道路や橋のヘルスモニタリングが挙げられます。ヘルスモニタリングとは、人手による点検の手間やコストを減らすために、多数のセンサーを道路や橋に設置し、その歪みや傾き、温度等をセンシングすることで劣化状況を判断するものです。ここで使われるセンサーの電源に、道路や橋の振動を電力に変換する環境発電技術が利用されています。その他、環境発電を使ったセンサーの用途として、自動車のタイヤの空気圧モニタリングや、農業分野での気象や土壌のモニタリング、ヘルスケア分野での生体データのモニタリング等への適用も検討されています。

例えば、自動車のタイヤの空気圧モニタリングシステムでは、タイヤの空気圧が一定値を下回るとアラームを出すようになっていますが、センサーはタイヤに装着する必要があるため、ケーブルを使って電力を供給することはできません。そこで、電源としてタイヤの振動を利用しようというものです。
 また、農業分野での気象・土壌モニタリングでは、気温や湿度、肥料の量等をモニタリングするセンサーの電源として、太陽光や外気と地面の温度差を利用しています。
 さらに、ヘルスケア分野での生体データのモニタリングでは、腕時計型血圧計のようなウェアラブルタイプのヘルスケア機器の電源として、外気と体温の温度差を利用しようとしています。

こうした例も踏まえて、電池を使う場合と環境発電を使う場合について比較してみると、先に述べたリモコンスイッチの電池交換では、交換にかかる手間やコストはそれほど大変ではないと思われます。しかし、上述した用途に利用するセンサー類では、必要となるセンサーの数が多くなるため、電源に電池を使うと、電池交換を行うために多大な手間とコストがかかりますし、交換廃棄する電池の数も相当なものになるでしょう。さらに、道路や橋のようなところで使用するセンサーでは、その設置場所によっては、大変危険を伴うケースもありますし、電池交換自体が非常に困難なケースも存在します。しかし、こうした際に環境発電技術を適用すれば、安定的に電力を供給することが可能になります。つまり、微弱な電力でも駆動が可能な場合や配線を引くのが困難な場合、また、センサーの数が多かったり、人が近づきにくかったりするような場所で使用されるセンサーへの環境発電の適用は、そのメリットを十二分に活かすことができると言えます。

3. センサーネットワークへの活用

センサーへ環境発電を適用する際の課題は、環境発電で得られるエネルギーが、現状ではまだまだ不安定であるということです。照明用のリモコンスイッチでは、押した時だけ駆動すればよいため、必要な時に電力がないという心配はありません。しかし、モニタリングのために用いるセンサーは、定期的にセンシングした情報を送信する必要があるため、必要なときに十分な電力が得られないという可能性があります。解決策として、より消費電力の低いセンサーの開発が必要であることはもちろんですが、他の技術を組み合わせるという方法もあります。

例えば1つの方法は、蓄電池(*1)です。蓄電池は、センサーが電力を必要としない間、発電した電力を貯めておき、その時々に回収するエネルギーだけでは足りない分を補うために用います。蓄電池については、電気自動車向けやオフィス・工場等向けの定置用蓄電池等、大型の蓄電池ばかりに注目が集まっていますが、環境発電においても重要な役割を果たすのです。

環境発電向けの蓄電池には、PCやデジタルカメラ等のモバイル機器用の蓄電池や、電気自動車用や定置用の大型蓄電池とは異なる性質が求められます。まず、環境発電で得られる電力は小さいため、自己放電が小さいことが必要です。また、充電と放電を繰り返すため、充放電を繰り返しても劣化しにくいことも重要です。ウェアラブル機器に用いるのであれば、薄型にできることも必要です。すでに環境発電に特化した蓄電池メーカーもあり、今後、環境発電における蓄電池の重要性が高まるものと思われます。

もう1つ、環境発電で得られるエネルギーの不安定性を解決するために活用できると考えられている技術がワイヤレス給電です。ワイヤレス給電は、電力を電波の形でケーブルを用いずに供給する技術です。この技術をどう用いるかというと、電力が余っているセンサーから電力が不足しているセンサーに電力を供給し、不足分を補うのです。そんなことができるのかと思われるかもしれませんが、耐水性インクジェット紙にシルバーのインクで印刷するだけで、電波を電力に変換するアンテナと回路ができてしまう技術等、低コストで電波を電力に変えるためのデバイスを作る技術も開発されてきており、近いうちに商用化されるでしょう。環境発電で未利用のエネルギーを活用して発電し、不足する発電量にはワイヤレス給電で補完する、こうした利用形態が実現する日も、そう遠くはないと考えます。

このように他の技術をうまく組み合わせることで、安定的にセンサーに電力を供給することが可能になれば、これまで電力を供給することが困難であるためにリアルタイムなセンシングができなかったケースでも、よりリアルタイムに近い形でのセンシングが可能になるでしょう。前述した道路や橋のヘルスモニタリングであれば、劣化状況を定期的に監視するだけでなく、損傷が生じた際にすぐ把握することが可能になるでしょうし、有線での電力供給や頻繁な電池交換が難しい場所でも、それが実現可能になるということです。また、電池の消費量が大きいために、現状では、頻繁に電池交換が必要なヘルスケア機器でも、連続的な計測が可能になるでしょう。

センサーネットワークを通じて様々なデータを収集し、より高度なサービスを提供する取り組みが各所で行われていますが、それが大量のエネルギー供給を必要とするものであれば、現実的にはそうしたセンサーネットワークの構築は困難です。また、廃棄される電池を大量に出して環境に負荷を与えるものであっては望ましくありません。そうした問題を解決する自立的なセンサーネットワークの構築には、究極の省エネを実現する環境発電が必要不可欠と言えるのです。

注釈

(*1) : 蓄電池については、「車にも、家にも、街にも、新エネルギー産業を創造する蓄電池」をご覧下さい。

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長谷川SC顔写真

長谷川 誠 (はせがわ まこと)
【略歴】株式会社富士通総研 環境事業部 シニアコンサルタント
入社以来、技術経営(MOT)関連の調査研究やコンサルティングに従事。
最近は、環境関連技術の出口戦略策定支援、ICTのヘルスケア分野への適用、先端技術を活用した新規ビジネス企画を担当。