Skip to main content

English

Japan

地方自治体において「総合窓口」の導入が進まない理由とその解決法

2012年3月23日(金曜日)

1. はじめに

地方自治法によれば、地方自治体は「住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする。」(第一条の二)と規定されている(*1)。この法律に基づき、地方自治体は住民の福祉の増進のため、様々な取り組みを行っている。地方自治体の中でも、市町村や特別区等が所管する業務は住民が窓口で申請・届出を行うものが多く、住民との接点が多い。そのため、市町村や特別区等が実施している取り組みでは、住民志向の観点からサービス向上を図っているものが多い。その1つが総合窓口化である。

総合窓口化とは、住民の利便性向上のため、住民が関連する複数の手続きを一箇所の窓口で集中して行うことができるようにする取り組みのことである。地方自治体では、手続きごとに窓口が分けられている。これは、地方自治体特有の事情によるところが大きい。すなわち、地方自治体では、各窓口は条例や規則等に基づき分割されているからである。このため、住民が複数の手続きを一度に行う必要がある場合(引越し、結婚等)に各々の部署の窓口を回らなければならず、住民が手間と感じやすいのである。

しかし、総合窓口を導入している地方自治体は意外に少ない。平成22年度、地方自治情報センター(LASDEC)が実施したアンケート調査によれば、総合窓口を導入している地方自治体は、回答した全1,004地方自治体中の2割に過ぎない(*2)

本オピニオンでは、上記アンケート調査結果から、総合窓口の導入を阻害している要因について、3つの解決策を提示する。第1の解決策は取扱業務決定のための基礎資料を容易に収集するための連動手続き調査ツールの開発、第2の解決策は取扱業務決定のためのライフイベント別連動業務分析、第3の解決策は総合窓口導入時の業務処理フローの見直し方法、業務処理方法のパターン判定基準、判定根拠のテンプレート化である。

2. 総合窓口の導入が進まない阻害要因

富士通総研が考える総合窓口導入にあたっての検討プロセスは、以下のとおりである(【図1】参照)。

【図1】総合窓口導入にあたっての検討プロセス
【図1】総合窓口導入にあたっての検討プロセス

この検討プロセスのうち、総合窓口導入における阻害要因として、回答した全374地方自治体中の約8割が「取扱業務の決定や業務処理フロー等の見直し」であると答えている(【図2】参照)。なぜ、これが阻害要因となるか、筆者なりに考えると以下のようになる。

【図2】総合窓口導入の阻害要因
【図2】総合窓口導入の阻害要因

(1)取扱業務の決定
 取扱業務の決定とは、「総合窓口において、どういった業務を取り扱うか」ということである。しかし、取扱業務の決定には、決定のための基礎情報として、住民が複数の窓口に行かなければならない手続きの種類(住民記録業務における転入届と国民健康保険の異動届等)、その手続きの年間件数等を定量的に把握し、リスト化する必要がある。手続きの連動状況の実態把握と総合窓口の効果予測を行うためである。

しかし、筆者の15年以上の地方自治体に対するコンサルティング経験において、上記の情報を把握していた地方自治体は皆無であった。筆者はその経験から、上記の情報を定量的に把握する仕組みをどのように作るかが真の課題であると考える。

(2)業務処理フローの見直し
 総合窓口では、複数の申請・届出を1つの窓口で取り扱う。ただし、複数の手続きを一度に連続して行う必要のある場合のみを取り扱う(転入時における学校転校手続きや国民健康保険異動届等)。総合窓口のみで、単一手続きの場合も含めて対応を行うことは総合窓口の業務量の負荷が大きすぎるため、単一手続きの場合には、従来どおりの部署(業務主管課)で対応するのが良い。

業務処理フローの見直しでは、上記を踏まえ、総合窓口と業務主管課の関係、情報システムの活用の可能性について、整理することが課題となる。

3. 阻害要因解決策

(1)連動手続き調査ツールの開発【阻害要因(1)に対応】
 総合窓口での取扱業務を決定するにあたり、住民が複数の手続きを一度に行う必要のある手続きに関し、定量的に把握するには、情報システムの仕組みで情報を取得できれば最も効率がよい。しかし、そういった機能を保有している情報システムはほとんど存在せず、また調査のために費用をかけ機能追加を行うという選択肢も現実的ではない。

そのため、筆者は連動する手続きの傾向を把握するための調査ツールを開発した(【表1】参照)。住民へのメリットに配慮し、調査ツールは手続きに来庁した住民を次に行く窓口へ案内するシートの役割を兼ねている。来庁した住民が次に行く窓口の番号をシートの“番号欄”に記入して手渡す。これを繰り返し、最後の窓口で職員が回収する。これを集計することにより、手続きの連動状況とパターンが把握でき、総合窓口での取扱業務を決定するための基礎情報を取得することが可能である。調査時期は、繁忙期と通常期が含まれるように設定し、連動状況の差を確認する。本調査ツールは、住民や職員に大きな負荷をかけずに調査することが可能である点に特長がある。同時に、窓口案内にも兼用可能であるため、住民にとってもメリットがある。

【表1】連動手続き調査ツール
【表1】連動手続き調査ツール

(2)ライフイベント別連動業務分析【阻害要因(1)に対応】
 上記の連動手続き調査ツールとともに、取扱業務の決定を行う際に、有効な基礎資料を得るための調査分析ツールとして、ライフイベント別連動業務分析がある。これは、「転入」「転居」「転出」「出生」「死亡」といった住民の生活の節目に起こる様々な出来事(ライフイベント)ごとに関連する業務を洗い出し、分析を行うものである(【表2】参照)。

この分析により、ライフイベントと業務の関係性が明らかになり、総合窓口化する際に、どういったライフイベントを想定するか、または、当該ライフイベントを想定する場合にどの関連業務までを総合窓口の取扱対象とするか、上記の連動手続き調査の結果と照らし合わせ、具体的に検討することができる。

【表2】ライフイベント別連動業務分析イメージ
【表2】ライフイベント別連動業務分析イメージ

(3)総合窓口における業務処理パターン【阻害要因(2)に対応】
 総合窓口を実施する際の業務処理フローの見直しでは、総合窓口と業務主管課の人員配置をどのようにするか、人員を配置する場合に情報システムの活用を前提とするのか否か、どのような形で情報システムを活用するのか、について検討する。これを軸として設定すると、人的資源活用と情報技術活用を軸に4つのパターンが構成できる。以下、その4パターンについて各々検討を行う。

「人的資源活用型」には、「人海戦術パターン」と「高スキル職員依存パターン」の2種類がある。「人海戦術パターン」とは、総合窓口での取扱業務の人員を当該部署から総合窓口に配置替えするパターンである。個別の部署で行っていた業務の流れがそのまま総合窓口で実現される。「高スキル職員依存パターン」とは、個別の部署に頼らず、専門的知識のある職員が総合窓口で取り扱うすべての手続きに対応するパターンである。

「情報技術活用型」には、「ワークフローシステム活用パターン」と「ナレッジデータベース活用パターン」の2種類がある。「ワークフローシステム活用パターン」とは、情報システムを活用して受付のみを総合窓口で行い、処理は業務主管課に引き継いで対応し、回答を受付に戻すパターンである。「ナレッジデータベース活用パターン」は、総合窓口で取り扱う業務のノウハウをデータベースに蓄積し、それを活用してすべての手続きに対応するパターンである。

各パターンの特徴、メリット、デメリットの整理結果を以下に示す(【表3】参照)。

【表3】業務処理フローの見直し方法
【表3】業務処理フローの見直し方法

しかし、各パターンの特徴、メリット、デメリットの整理を行っただけでは、当該団体がどのパターンを採用するべきかを決定できない。そのため、この整理結果を踏まえ、パターンを選定するための判定基準を設定した。判定基準は、業務規模がどの程度になるか、業務効率化は期待できるか、導入するにあたっての初期投資の規模はどの程度になるかを見るため、各々、「業務量」、「業務効率化期待効果」「初期投資」の3軸を設定した。「業務量」は、その地方自治体の年間行政手続き件数の大小を基準とした。「業務効率化期待効果」は、当該パターンを採用することにより、業務効率化がどの程度望めるかを基準とした。「初期投資」は、当該パターンを採用するために初期投資がどの程度必要かを基準とした(【表4】参照)。

【表4】パターン判定表
【表4】パターン判定表

4. おわりに

本オピニオンでは、総合窓口導入を阻害している要因について述べるとともに、その解決策を提示した。富士通総研では、これらの解決策を有効に活用しながら、全国の地方自治体の総合窓口導入に関し、全面的に支援していきたいと考えている。

注釈

(*1)現行 自治六法 : 自治法規実務研究会、第一法規、平成19年。

(*2)総合窓口システム導入の概況把握 : 地方自治情報センター、同左、平成22年。

関連サービス

【情報戦略・最適化計画策定】



若林 克実

若林 克実(わかばやし かつみ)
【略歴】
株式会社富士通総研 公共事業部 シニアコンサルタント
独立系ソフトウェアハウスでのマーケティング・コンサルタント、 ITコンサルタントとしての経験を経て、2004年富士通株式会社入社。2007年、株式会社富士通総研に出向し、現在に至る。
「総合窓口化」「総務事務改革」「システム最適化」「ITIL R 」 等をキーワードに全国の地方自治体に対するコンサルティング活動 を展開中。
【執筆活動】
「電子行政サービスのさらなる利活用向上に向けて」(2007、共著)、「電子政府・ビジネス連携に関する調査研究報告書」(2006、共著)、「企業の行政関連手続き軽減策の提案」(2005、共著)(次世代電子商取引推進協議会発行)