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BOPビジネスの性格を正しく理解し戦略的展開を

2011年11月7日(月曜日)

米国に端を発した世界金融危機は、欧州の国債危機に発展し、終息の見えない状態が続いている。そのため、グローパル企業の関心の大部分は、経済成長が期待できない日米欧先進国市場から新興国・途上国へと舵を切っている。新興市場開拓を急ぐ日本企業は、ミドルクラスより所得の低い層(購買力平価(purchasing power parity:PPP))で1人当たり年収3,000ドル未満の所得層)、いわゆるBOP(Base of the Economic Pyramid)ビジネスに大きな関心を寄せ始めている。

世界企業がBOPビジネスに目を向けた背景

BOP層の人口は約40億人、市場規模は約5兆ドル以上に達すると言われる。これまで世界中の企業は、BOP層の購買力の弱さと市場インフラ未整備のために、BOP市場開拓に目を向けなかった。しかし、BOP層に対する所得分析の深化やビジネスモデルの革新によって収益を上げられた一部の革新的企業(主に現地企業や欧米系企業)のビジネス実践によって、BOP層にも購買力が育成できると証明されたのである。

他方、BOP層に関わる市場インフラも整備されつつある。まず、都市化の進展により、これまで農村地域に広がっていたBOP層も都市部およびその周辺に集まってきており、都市住民への商品やサービス提供を中心としていた企業も流通ネットワークの延長によってBOP層へタッチできるようになった。次に、BOP層へのICT普及が進み、市場取引環境が出来上がってきた。いわゆるバーチャルな流通革命が生じたのである。さらに、BOP層に関するネットワークを持つ開発援助機関やNGO、NPOは、民間の活力を利用すべきと悟り、民間企業の資金力と技術力を導入する代わりにネットワークを提供するようになった。

こうして、BOP層の購買力の確認と市場インフラの形成は、BOPビジネスが注目される大きな要因となったのである。

BOPビジネスへの日本企業の疑問

しかし、日本では、世界中のBOP層の所得構造や消費行動に対する分析が進んでおらず、グローパルに活動しているNGOやNPOも少ないため、BOP層の購買力に対する認識も、BOP層と関わるチャネルも不足していた。したがって、日本企業では、BOP市場を「貧困層」対象のビジネスであって、基本的な生存ニーズしかなく、必要とする商品やサービスは「低品質、低価格」のものだけであると理解し、事業の収益性と持続性に大きな不安を感じている。また、「価格競争」に巻き込まれ、ブランド価値が低下してしまう可能性が高いと懸念し、リスクを大きく見て、実践に移す企業は少ない。

日本企業経営者の多くも、BOPビジネスより購買力が顕著で、既存の市場インフラを活用できる、都市部に集中した中間層を対象とするビジネスに目を奪われがちである。したがって、BOP層に市場性が本当にあるのか、市場参入するとすれば、どのような事業戦略が必要なのか、など課題意識が多い。しかし、BOP層に属する地場企業はいうまでもなく、欧米系の有力企業の中でも、BOPビジネスを自社のコアビジネスにしている企業が多く出ている。BOPビジネスを展開していくには、新たなマインドセットが求められる。

BOPビジネスに対する欧米企業・日本企業のスタンス

【図1】BOPビジネスに対する欧米企業・日本企業のスタンス

自由裁量の多寡でBOP層の市場性を判断せよ

実際、BOP層の市場性や購買力を判断する場合、まず、ダイナミックな市場構造変化を見る視点を持つべきである。つまり、経済成長の速い新興国・途上国において、今日の低所得層は明日のミドル層になる潜在性が高い。実際、ユーロモニターの調査によると、アジア途上国における低所得者の人口は、2000年の25億人から2020年には11.5億人に半減し、同時期にミドルクラスの人口は、2.2億人から20億人にまで拡大すると推定される。

しかし、競争の激しいグローパル市場では、消費者が中間層になってから自社の顧客に取り込もうとするのでは、手遅れになってしまう可能性が高い。つまり、グローパル競争は、既に自社顧客を育成する戦略が必要な段階に入っているのである。BOP層に自社製品やサービス・ブランドなどへ親しんでもらう必要がある。需要の粘着性を高め、自社の顧客にロックインする取り組みが重要である。

次に、「市場創出」に必要な自由裁量支出の視点が必要である。低所得層を自由裁量支出の多寡によって分類すれば、低所得層にも「購買力」があることが分かる。つまり、所得階層別の戦略が必要なのである。世界経済フォーラム(WEF)の調査によれば、世界BOPトップ層(1日当たり1人の所得が購買力平価で2~8ドルに当たる層で、11億人もいる)の自由裁量支出は所得の約32%もあり、商品選択に必要な「購買力」は十分あると考えられる。

低所得者層にも購買力はある

【図2】低所得層にも「購買力」はある

ハーバード大学ビジネススクールのV. K. Rangank教授とMichael Chu教授らは、BOP層を以下の3つに分類し、異なるBOP戦略を論じている。所得の分類基準が異なるが、戦略的な考え方は同じである。((*)PPP:購買力平価(purchasing power parity))

  1. 低所得層(Low Income、3~5米ドル/PPP)
  2. 生活ギリギリ層(Subsistence、1~3ドル/PPP)
  3. 最貧困層(Extreme Poverty、1ドル/PPP以下)

「購買力」育成・活用にはビジネスモデルの革新を

しかし、BOP層の個々の支出は小さく、消費者もマイクロコンシューマーしかいない。しかも、物理的にも都市部周辺から農村エリアまで分散している。したがって、マイクロコンシューマーにどう対応するか、また、分散する市場をいかに集中させるか、あるいは市場アクセスのコストをいかに下げるか、が課題となる。

筆者は、以下のようなビジネスモデルの革新を提言したい。

  1. ノーマル商品・サービスをマイクロ化(例:小袋、分割払い)、あるいはマイクロコンシューマーをノーマル化(例:集団購入)する工夫
  2. 買い手を売り手に育成し、かつ組織化(フォーマル化)
  3. 分散するBOP市場をICTで関連させ、スケールメリットを実現

ノーマル商品・サービスのマイクロ化については、ユニリーパ社の消費財小袋化やマイクロファイナンスなどの話はよく聞かれるが、他の分野でも良い事例はある。例えば、インド最大の移動通信サービス会社であるBhati Airtel社は、通話料金徴収単位を分単位から秒単位に小口化してBOP層の需要を引き起こしている。また、個々のBOP消費者の不安定でマイクロ的な購買力をノーマル化する事例としては、インドのICIC銀行のBOP層向けローン事業がある。これは、個々の消費者に対してマイクロファイナンスを提供するのではなく、10~20人程度で構成されるSelf Help Groupに対して、グループ全員に借り入れ金額への連帯責任を負わせるというビジネスモデルになっている。

アジア関係国の1人当たり個人消費額の推移

【図3】アジア関係国の1人当たり個人消費額の推移

BOP層とともに価値創造を

上述のBOP層分類でわかるように、所得の低い層ほど自由裁量比率は低くなり、収益が上がる事業としてはリスクが高くなる。リスクヘッジを図るためには、地域開発を進めている政府機関やNGO、NPOなどとの連携が必要になってくる。なぜなら、世界銀行や政府部門、NGOなどの非営利団体は、自由裁量の多い層に対し、「市場歪曲」(Market Distortion)を避けて公的介入を控えるが、所得が1ドル(PPP)以下である貧困層はいうまでもなく、これまで注意を払っていなかった生活ギリギリ層に対しては、民間企業の活力を利用して貧困対策を進める政策アプローチを積極的に進めているからである。

また、ビジネス対象を所得の低い層とするほど、収益が上がるビジネスへの反発が生まれる。例えば、インドでマイクロファイナンスを行っているSKS社が上場した際には、政治家や社会から「貧乏人を搾取するビジネス」として批判されている。したがって、最貧困層へ「売る商売」は控えるべきであろう。むしろ、公的機関やNGOなどの非営利団体、BOP層の住民とともに貧困脱却優先の思考が求められる。その結果として、公的調達などのB2Gビジネスが生まれることも考えられる。例えば、よく事例として挙げられている住友化学の蚊帳「オリセットネット」BOPビジネスは、UNDPなどの公的機関による調達あってのビジネスであり、BOP層向けのB2Gビジネスとも言える。

これまで見てきたように、日本企業は、BOP層の所得構造や変化を見極め、戦略性を持って実践を行うべきであろう。そして、実践を通じて市場開拓のノウハウが蓄積されれば、BOPビジネスも魅力的な事業になり、日本企業の成長戦略に寄与すると期待される。

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【調査・研究】


金 堅敏(Jin Jianmin)
株式会社富士通総研 経済研究所 主席研究員
【略歴】
中国杭州生まれ。1985年 中国浙江大学大学院修了、97年 横浜国立大学国際開発研究科修了、博士。専門は中国経済、企業戦略論。1998年1月富士通総研入社。
【著書】
『自由貿易と環境保護』、『図解でわかる中国有力企業と主要業界』(日本実業出版社)、『中国世紀 日本の戦略 米中緊密化の狭間で』、『華人エコノミストの見た中国の実力』(共著)、日本経済新聞「中国のミドル市場開拓戦略」(「経済教室」)他。