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「ビジネスモデル・イノベーション」における制約条件

~「精神論」が企業競争力の特異性を創る~

2011年5月19日(木曜日)

現在、日本企業各社は厳しい環境の中、継続的な価値創造に向けて、さまざまな取り組みを行っている。『ビジネスモデル・イノベーション』(*1)は、それら取り組みの1つとして存在するが、その実現はなかなか難しい。原因は、各社が抱える「制約条件」にある。

『ビジネスモデル・イノベーション』を起こすには、「(1)着想→(2)構想→(3)企画→(4)設計→(5)構築→(6)運用→(7)運営(検証)」等、イノベーションに至るまでの各フェーズについて検討する必要がある。ここでは主に「(3)企画」と「(4)設計」のフェーズ間に存在する「ビジネスモデル案の選定」にフォーカスする。検討の成功の可否がここに存在するといっても過言ではないからだ。

本稿では、この「制約条件」について、筆者のこれまでのコンサルティング実績と過去における自身の起業経験を基に考察を行う。

1.『ビジネスモデル・イノベーション』検討の「制約条件」

『ビジネスモデル・イノベーション』の検討にあたり、企業が直面する制約条件には以下のような「物理的制約条件」と「心理的制約条件」の大きく2つが存在する。

【物理的制約条件】

(ⅰ)外部環境による制約

(ⅱ)内部資源による制約

【心理的制約条件】

(ⅲ)認識の不足・差異による制約

(ⅳ)価値観(判断基準)の差異による制約

(ⅰ)は「衰退期の産業に属する企業」や「参入タイミングを逃した企業」を取り巻く制約である。(ⅱ)は「(競争力のある)資源が不足している企業」や「(過去からの)資源を過剰に有する企業」が直面する制約である。いずれの制約も「物理的制約条件」は、主に「着想・構想~企画」のフェーズで検討メンバーが直面する制約であり、これを乗り越えなければ、『ビジネスモデル・イノベーション』を始めることはできない。したがって、検討メンバーはこの「物理的制約条件」をクリアするビジネスモデル案の策定に多くの時間と労力を費やす。しかし、制約条件が重くのしかかり、良いビジネスモデルが描けない。このような状況に陥って断念した企業も数多くあるだろう。そこで、当該フェーズにおける検討のポイントを列挙する。

【「着想・構想~企画」のフェーズの検討ポイント】

A:未来社会にとって意義あるモノ・コトを考える

B:他社との協業を前提に考える

C:検討スピードを重視する

まず、A[未来社会における意義]は、儲かるビジネスか否かではなく、社会的意義の有無や大きさを追求すべきであることを指している。自らが能動的に社会(外部環境)を創造することによって、事業の失敗リスクを最小化していくのである。

しかし、これを念頭に置いて描かれた様々なビジネスモデルの素案も、より詳細・具体化される中で、自社単独では実現困難と想定される場面に多々遭遇する。そこで、これを打破するために、B[他社との協業]を検討の前提に置いておくのが良い。各社の専門性が高度化している現在、社会的意義の大きなビジネスを実現するには、自社のみで資源を賄おうとすることに、そもそも限界がある。大きなビジネスモデル案全体像の中で、自社がどのような強みで貢献したい(できる)かを検討するのが望ましい。

最後に、多くの企業が陥りやすいのが、スピード感の欠如である。同業他社も自社とさほど変わらない「物理的制約条件」の中で企画を行っている。したがって、検討によって導き出されたビジネスモデル案も他社と同類の内容となりがちである。これを忘れて、ビジネスモデル案の精度向上などに必要以上の時間をかけて、機動力のある他社に先んじられてしまうということがしばしばあるが、このようなことがないように、C[検討スピード]が重要なポイントであることを認識しておく必要がある。

2.心理的制約条件 ~「ビジネスモデル案の選定」における「制約条件」~

「着想・構想~企画」のフェーズにおける検討メンバーの懸命な努力の結果、抽出された様々なビジネスモデル案は、「設計」フェーズに入る前に「選定」が行われる。これは主にマネジメント層(以下、意思決定者)によって実施されることが多いが、この「選定」の場面が『ビジネスモデル・イノベーション』検討の肝となっている。例えば、客観的に捉えると社会的意義が大きく、まさに良いビジネスモデル案であるにも関わらず、なぜか選定されず他のモデル案が優先されたり、良い案がないなどと検討メンバーが叱責されたりするケースがある。しかし、検討のプロセスに問題がなければ、残るは意思決定者の「選定」に問題があると考えられる。

上記のような意思決定者に対して、時間を置いて改めて「選定」の根拠を聞いてみると、そのほとんどが「心理的制約条件」の影響を受けていたことがわかったのである。「成功するはずがない」とか「価値観(判断基準)と合わないからしたくない」といったような意思決定者の発言は、この「心理的制約条件」によるものである。このように、「物理的制約条件」を打破するようなモデル案も意思決定者の「心理的制約条件」によって一蹴させるようでは、それまでの検討フェーズは無意味であり、検討メンバーの士気にも影響を与えかねない。したがって、意思決定者に降りかかる「心理的制約条件」を打破する取り組みは『ビジネスモデル・イノベーション』の実現に向けた極めて重要な事項と言える。

『ビジネスモデル・イノベーション』における心理的制約条件

【図】『ビジネスモデル・イノベーション』における心理的制約条件
~心理的制約条件の「解決のポイント」と「社外人材への期待」~(精神論)

3.「心理的制約条件」の打破に向けたアプローチ

「(ⅲ)認識の不足・差異による制約」とは、「成功するはずがない」とか「あまり儲からない」などの心理状態となるもので、これは意思決定者の「情報・知識の不足・差異」が原因となっている場合が想定される。したがって、これを打破するためには、意思決定者が常日頃から情報・知識の収集に努めることが求められるが、「検討メンバーがなぜ、この案を進めてくるのか」や「このモデル案が社会的意義を持つと考えられる根拠は何か」、さらには「いつまでにどのような状況にしたいと考えているのか」などを直接検討メンバーに問うことが、最も優先して取られるべきアプローチである。検討メンバーは、「着想・構想~企画」のフェーズにおいて情報収集から始まり、その上で未来社会のシナリオを描き、その社会において意義あるモデル案として、意思決定者に対して提示してきているのだとしたら、その当人に聞くのは、むしろ当然のことだろう。これによって、少なくとも、意思決定者と検討メンバーの情報・知識の差異は打破できる。ポイントは自律的に活動する検討メンバーを「信頼する」ことである。

「(ⅳ)価値観(判断基準)の差異による制約」とは、「価値観(判断基準)と合わないからしたくない」などの心理状態となるもので、これは意思決定者と検討メンバーの「理念・ビジョンの差異」が原因となっている場合が多い。しかし、これを一朝一夕で打破するのは極めて困難である。そのため、意思決定者と検討メンバーは常日頃から頻繁に理念・ビジョンについて議論を行い、詳細・具体化し、共有・共感する「場」を設けることによって、価値観(判断基準)の共通化、さらには精度向上に努める必要がある。議論のテーマは「自分たちは、いつ誰が幸せに感じることのできる社会を創造したいのか」「その社会とは、どのような社会なのか」「その社会を創造するために自分たちは誰に対して、どのような価値を提供したい(できる)のか」などになる。理念・ビジョンを詳細・具体化していく中で、自ずと価値観(判断基準)の優先順位づけは行われ、「自分たちが最も大切にするモノ・コト、善いモノ・コトとは何か」すなわち『共通善』の策定を実現するのである。『共通善』が策定されれば、検討メンバーが抽出したモデル案に対して「価値観(判断基準)と合わないからしたくない」などはあり得ず、「やるべき」や「あるべき」と意思決定者は、躊躇を打破することができる。なお、このアプローチは、副次的効果として意思決定者や検討メンバー全員の人間関係構築の促進も期待できる。人間の価値観が「あれも善い、これも善い」となりがちな中で、ポイントは「何が最も善いのかを追求し、その『共通善』の達成のために捨てざるを得ないモノ・コト」を検討メンバーと日頃から共有・共感しておくことである。

4.社外人材の活用

「心理的制約条件」の多くは、上記のようなアプローチによって徐々に改善することが可能と考えるが、自社のメンバーだけでの実践はなかなか難しい。そこで、コンサルタントなどの社外の人材を検討支援のメンバーとして採用するのが得策だろう。社外人材に求める役割とは、以下の3つである。

  • 情報・知識の提供
    社内人材とは別の経験を基にした情報・知識の提供
  • 理念・ビジョンに関する議論の「場」の醸成
    価値観(共通善、判断基準)の共有・共感を目的に、優先順位づけを意識した議論の「場」のコーディネート
  • 熱意のある発言(支持・反論)
    意思決定者の利己心を捨てた「覚悟」(『とにかく、やる』)の後追し

特に重要な役割は、3つ目の『意思決定者の「覚悟」の後追し』である。制約条件を越えた最後には、意思決定者の「覚悟」が不可欠である。どんなに議論を重ねて、社会的意義の大きな『共通善』を達成し得る良いビジネスモデルが策定されても、マネジメント層が自らの保身など利己的な意識でいれば、判断が鈍ったり誤ったりするなどして厳しい競争環境には勝てない。意思決定者に迷いが生じている場合には、後ろから背中を押し、万が一、議論が不足していたり、間違った方向に流れていると感じる場合には徹底的に反論する、そのような役割が社外人材に対しては最も期待される。

そのためには、やはり社内のメンバーとの信頼関係が不可欠であり、採用した社外人材に対しては、常駐型での支援を要求することが望ましいだろう。「同じ釜の飯を食う」からこそ、言葉ではなかなか表せないような社内の様々な事情もしっかりと理解し、適確な役割を担ってくれるはずであるし、一方の社内メンバーも社外人材の言動に対して真摯に受け止めることができる。

このように、『ビジネスモデル・イノベーション』は、あらゆる人材の知の有機的な結合によって実現されるが、そのアプローチについては従来より、アメリカ流の「技術論」(M.ポーターのポジショニングセオリーやJ.バーニーらのリソース・ベースト・ビュー(RBV)など)ばかりにフォーカスされている。しかし、今日の日本企業の実態を見ると、「技術論」に論点があるのではなく、むしろ「精神論」を軽視し過ぎるが故の問題であると捉えることができる。「技術論」も、それを扱う「精神論」が根幹にあってこそ活きるはずであり、そのことを各社は忘れてないだろうか。忘れてはならない「精神論」として、例えば、リーダーシップを挙げることができる。日本企業がグローバル経済の中でポジティブな特異性を発揮するために、今、最も追求すべき要素は、まさにこの点にあると認識している。

注釈

(*1) :新たな社会経済環境に対応するために、共通善を意識し、普遍的な正しさを持ってダイナミックな事業創造を追求するというビジョンを組み込んだビジネスモデルの革新。(参考:「ビジネスモデル・イノベーション」野中郁次郎 徳岡晃一郎(著)東洋経済新報社[一橋ビジネスレビュー])

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(株)富士通総研 流通・サービス事業部 シニアコンサルタント
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