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東日本大震災からの復興に向けての意見(1)

復興財源は「埋蔵金」によって捻出できる

2011年4月28日(木曜日)

私たち富士通総研経済研究所の有志は東日本大震災直後の3月下旬に、大震災の影響分析と復興に向けての緊急政策提言を「東日本大震災の日本経済に与える影響と教訓」と題する8回シリーズの形で公表し、多方面からご意見をいただいた。その後、復興に向けての歩みは被災地では徐々に進みつつある一方で、将来を見据えてのグランド・デザインは未だ検討の域を出ておらず、議論は収束というより、拡散の気配さえ見せている。この間、被害に関する情報、企業の取り組みなどに関する情報も次第に集まり始めるとともに、私たちの考え方もさらに進化したこともあり、現時点で再度、私たちの意見を取りまとめ、『東日本大震災からの復興に向けての意見』として公表することとした。復興に向けての多方面の議論が進行中であるが、このシリーズが多少なりとも参考になることを希望するものである。なお、ここでの分析や提言は各研究員の責任において執筆されるものであり、今後、事態の推移とともに変化していく性格のものであることは言うまでもない。

(1) 復興財源は「埋蔵金」によって捻出できる

1.復興財源確保のための増税シナリオ

東日本大震災の復旧対策を盛り込んだ4兆円規模の2011年度第1次補正予算が成立する見込みとなり、次の段階として本格的な復興対策を盛り込んだ第2次補正予算の編成が課題となっている。1次補正予算の財源は、経済対策予備費(0.8兆円)のほか、子ども手当の上積みの見直し(0.2兆円)、基礎年金の国庫負担割合(2分の1)を維持するための財源の流用(2.5兆円)、高速道路割引サービスの一部見直しと無料化の凍結(0.4兆円)などによって賄い、新たな国債発行は行わずに済んだが、2次補正予算で必要な額は10兆円規模と見られており、この財源をどのように確保するかが問題となっている。

今のところ有力とされる案は、復興財源を賄うための復興債を発行し、その償還財源として基幹税(所得税、法人税、消費税)のいずれかを時限的に引き上げるというものである。消費税を時限的に引き上げる案では、まず3%程度引き上げて、1%を基礎年金の国庫負担分とし(1%あたりの消費税収は約2.5兆円)、残りを復興債の償還税源として使い、復興に目処が立った段階で消費税率を元の5%に戻さず、さらに10%超まで引き上げて、社会保障費の財源にするという、消費税率の2段階引き上げ論も語られている。

この案は、財政再建のために従来から必要とされながら中々踏み切れなかった消費税率引き上げに、復興対策へ充てることを契機に一気に踏み出そうというものである。消費税率引き上げを悲願とする財政当局が考えそうなことであるが、そもそも1次補正の財源として基礎年金の財源(ちょうど消費税率1%分に当たる2.5兆円)を流用するとした時点で、足りなくなった分を補うのは消費税しかないという流れにしたいという、財政当局の意図が強く表れていた。震災を契機に火事場泥棒的に消費税率を引き上げるという発想は、評判は良くない。震災前は、消費税率を上げる前には、財政の無駄を徹底的に排除すべきという意見が強かった。

一方、消費税ではなく、所得税や法人税を時限的に引き上げるべきという意見もある。消費税率を引き上げる場合、後に消費税率相当分を還付するにしても、一旦は被災者も負担せざるを得ないことや、消費税は低所得者ほど負担度が高い逆進性の問題があるためである。所得税や法人税は担税力のある人や法人が負担することになり、被災者を非課税にすることも技術的に容易である。東西ドイツ統一の際は、所得税と法人税に付加税をかけることでコスト負担した例がある。この案では、消費税率引き上げは、あくまでも社会保障費の財源として温存しておくべきとする。ただ、所得税や法人税の場合、税額を10%上乗せしたとしても所得税は年間で1兆円程度、法人税は数千億から1兆円の税収しか増えない点が難点とされている。

このように基幹税のどれを時限的に引き上げるかについて意見はなお収斂していないが、増税すること自体は、たとえその背後に火事場泥棒的な発想があったとしても、震災後の世論は比較的寛容である。最近の世論調査では65.5%が復興財源にするためには増税はやむを得ないと考えている(『産経新聞』4月26日)。ただ、このまま歳出面で何ら合理化の努力を行うことなく、増税に踏み切ってしまうことには大きな危惧を覚える。特に消費税の場合は、一旦引き上げたら再び引き下げるということは考えにくく、結果として財政当局の意図したシナリオ通りになってしまいかねない。増税が必要であるにしろ、その前に歳出合理化の努力を行うことは、今こそ必要と思われる。

2.特別会計の剰余金を活用せよ

歳出の合理化による財源の捻出という点で、かねて注目されてきたのは特別会計の「埋蔵金」である。特別会計にはフローベースで毎年剰余金が発生しており、剰余金は積立金という特別会計のストックに充当されるほか、一般会計にも繰り入れられ、余った分は翌年度の予算に繰り入れられている。こうした特別会計の内容には、かねてから問題があると指摘されてきた。個々の特別会計については、その存在意義や支出内容、また、積立金の額が適切なものかどうかについて吟味する余地が大きい。ただ、これまでの特別会計に関する議論では、こうした議論は水掛け論で終わり、時に財源捻出のため、積立金が取り崩されることがあっても、抜本的な合理化が図られることはなかった。

ここでは個々の特別会計の存在意義に関する過去の議論をもう一度蒸し返すことは、生産的でないので行わない。ここで指摘したいのは、特別会計全体で剰余金が毎年発生し、その多くの部分が次年度の予算に繰り入れられているにも関わらず、終わってみればその年度もほぼ同じだけ剰余金が発生し、さらに次の年度に繰り入れられる結果になっているという点である。その額は20兆円を超え、つまりはこの額が、毎年滞留していることになる。もっとも、そのすべてが遊んでいるというわけではなく、翌年度に繰り入れられた分の中には、前年度に支払うべきだったものが、決済日などの関係で翌年度に繰り入れられた分が半分程度あり、遊んでいる部分は10兆円程度となる。

具体的な数字をあげると、特別会計の2008年度決算では全体で28.5兆円の剰余金が発生し(特別会計の歳入額に対する割合は7.3%)、そのうち4.2兆円が積立金に、2.4兆円が一般会計に、21.3兆円が翌年度の予算に繰り入れられている。翌年度に繰り入れられた分のうち、前年度分の歳出の繰り越しや前年度に発生した債務を支払う分は12.8兆円であり、21.3兆円から12.8兆円を引いた8.5兆円が遊んでいる部分となる。次に2009年度の決算を見ると、特別会計全体で29.8兆円の剰余金が発生し(特別会計の歳入額に対する割合は7.8%)、そのうち0.6兆円が積立金に、2.7兆円が一般会計に、26.4兆円が翌年度の予算に繰り入れられている。翌年度に繰り入れられた分のうち、前年度分の歳出の繰り越しや前年度に発生した債務を支払う分は14.1兆円であり、26.4兆円から14.1兆円を引いた12.3兆円が遊んでいる部分となる。このように特別会計全体で毎年遊んでいる余剰な部分は、10兆円前後存在する。

もちろん毎年の予算に、少しは遊びの部分があってもよい。しかし、それが特別会計全体で10兆円規模に達するのであれば、この際、これを復興財源に充てることが考えられてよい。遊びの部分がなくても支障がないように特別会計の資金繰りを合理化した上で、遊びの部分をすべて取り崩せば、1回限りではあるが、復興財源に充当することができる。すぐに取り崩すのが特別会計の負担になるというのならば、例えば、2回に分けて5兆円ずつ取り崩し、復興債の償還財源として使うことも考えられよう。このように特別会計の剰余金を使えば、基幹税を引き上げることなく、少なくとも2次補正予算で必要とされる復興財源は確保できる計算になる。

これは一例であるが、日本の財政にはなお無駄と考えられる部分が存在する。そうした部分を是正することなしに増税を急げば、無駄を是正する機会が失われてしまう。危機を増税の好機と考える発想ではなく、危機を合理化の好機と考える、企業ではごく普通の発想が日本の財政運営でも取り戻されることを期待したい。

シリーズ

【東日本大震災からの復興に向けての意見】

(2) クラウドで災害に強い自治体システムの構築を

(3) 原子力発電を何で代替するか? ~「第4の道」としてのスマートグリッドの推進を~

関連サービス

【調査・研究】


米山秀隆

米山 秀隆(よねやま ひでたか)
(株)富士通総研 経済研究所 上席主任研究員。
【略歴】
1989年 筑波大学大学院経営・政策科学研究科修了、(株)富士総合研究所を経て、1996年 (株)富士通総研入社、2007年~2010年3月 慶応義塾大学グローバルセキュリティ研究所客員研究員
【執筆活動】
デフレの終わりと経済再生(ダイヤモンド社 2004年)、少子高齢化時代の住宅市場(日本経済新聞出版社、2011年)ほか多数