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子ども手当をどのように見直すべきか

2011年4月1日(金曜日)

子ども手当は半年間延長

民主党は野党の反対が強かった子ども手当について、2011年度から上積み(0~2歳児に限り月額7,000円を上積み)する法案を取り下げ、とりあえず現行の仕組みを4月から半年間延長させる「つなぎ法案」を成立させた。半年間のつなぎ期間中に子ども手当の内容を抜本的に見直すことで、野党の理解と協力を得たいという考えのようである。

子ども手当を継続するかどうかのこれまでの議論では、もっぱら野党が民主党を揺さぶる材料として使われ、本来、どのような内容が望ましいのかの議論が置き去りにされている感が強かった。その上、子ども手当は、東日本大震災が発生したことにより、復興財源の捻出のため、カットされる候補ともなっている。このような状況の下、現実問題として子ども手当を大幅に上積みすることは難しくなっているが、上積みは難しいにしても、それとは別に仕組みを導入した初年度の効果を分析し、どのような給付の仕方がより効果的であるかの検証が必要と思われる。その上で、半年のつなぎ期間中により望ましい制度設計を行うことが必要と考えられる。

そこで参考になるのが、厚生労働省が2010年8~9月に行った「子ども手当の使途等に関する調査」(インターネットによるアンケート調査)である。分析結果が発表されたのは12月であったが、マスメディアの扱いは、子ども手当の使途について41.6%の人が貯蓄を挙げたことをわずかに伝えたくらいで(【図表1】)、ほとんど注目されることはなかった。しかし、その内容をつぶさに見ると、興味深い結果がいくつか出ている。

【図表1】子ども手当の使途(複数回答、上位5つ)
(出所)厚生労働省「子ども手当の使途等に関する調査」
子ども手当の使途

子ども手当の効果

子ども手当の政策目的については、導入された当初から、景気対策なのか、少子化対策なのか、あるいは子育て層への所得再配分を狙ったものなのかという、政策意図が明確ではないという批判が強かった。確かに、子ども手当が給付されたとしても、その多くが貯蓄に回ったとすれば、景気対策としての効果は大きくないことになる。しかし、そもそも子ども手当に景気対策としての効果を期待するのは的外れである。

一方、所得再配分としての効果はどうだろうか?子ども手当の内容は、それ以前の児童手当と比較すると、年少扶養控除を廃止して導入しているため、年少扶養控除と児童手当を組み合わせた上、支給金額と支給年齢を拡大したものと見ることができる。年少扶養控除の仕組みについては、元々税額控除ではなく所得控除であるため、高い税率となる高所得者層ほど大きな恩恵が受けられるようになっていた。また、税金を支払わない層には、そもそも控除の恩恵が及ぶことはない。これを止め、一定額を給付する仕組みとすれば、税金を支払わない層にも恩恵が及ぶほか、高所得者ほど恩恵が受けられる逆進性の問題も解決できる。子ども手当の仕組みは、このような点で、従来の仕組みよりは優れた所得再配分効果を持っていると考えることができる。

近年は、景気低迷の長期化により、特に地方などでは、家計の主たる稼ぎ手でも安定した仕事に就くことが難しい例も多く、そうした層に子ども手当が給付されれば、生活を支援できることになる。アンケートでは、子ども手当は必ずしも子どものためだけではなく、家庭の日常生活費(家族全員の食費や光熱費の支払いなど)にも使われていることが示されているが(13.8%、【図表1】)、世帯年収300万円未満ではこの割合が24.4%となっている。この世帯では、子ども手当の使途を子どものために限定できない理由として、87.1%が「家計に余裕がないため」と答えている。子どものいる世帯のうち、年収300万円未満の世帯は14.3%に達する(「国民生活基礎調査」2009年)。このように子ども手当は、子どものいる家計が苦しい世帯の生活の足しとなり、その意味で子育てを支援する効果を持ったことになる。

少子化対策としての効果はどうだっただろうか?子ども手当が支給されたことにより、子どもを増やす計画を立てたかどうかについては、「非常にあてはまる」(2.0%)、「ややあてはまる」(6.5%)との肯定的評価は全体で8.5%に過ぎない。しかし、0~3歳の長子を持つ世帯では、「非常にあてはまる」(3.3%)、「ややあてはまる」(10.6%)と肯定的評価は13.9%と、全体に比べ高い割合となっている。このほか肯定的評価をする世帯の特徴としては、「親の年齢が低い」、「子どもが1人しかいない」、「年収は300~600万円」などがあげられる。このように、親が若く、長子もまだ3歳未満で子どもが1人しかいない中堅所得層では、子ども手当は、もう1人子どもをもうけることについて、いくらか後押しする可能性があることがわかる。ただ、それでも肯定的評価をする世帯は全体の一部に過ぎず、また、肯定的評価をしたとしても実際に子どもをもうけるかどうかとの間にはギャップが存在するため、現状で少子化対策として効果があったと評価することは難しい。

子ども手当見直しの方向性

以上から、子ども手当を今後どのように見直していくべきと考えられるだろうか?子ども手当に対して否定的な意見の代表としては、お金を配るくらいなら、保育所などの施設を整備すべきというものである。これは待機児童が多い都市部ほど切実な声となっている。保育所の整備については、それはそれで必要なことはいうまでもない。しかし、子育て層には、子どもを保育所に入所させる以前に、不景気のため給与がカットされたり、仕事が不安定な世帯も少なくなく、そうした世帯に対しては、現金給付もまた有効な支援策になると考えられる。

一方、少子化対策としての効果は、現状では発揮していると言い難い。しかし、アンケート結果は、子ども手当の支給は、世帯の属性によっては子どもを増やす可能性を高めることを示している。とすれば、今後はそうした可能性をより一層高める給付の仕組みに変えていくべきであろう。しばしば指摘されるように、フランスにおける出生率引き上げの一因となった家族手当は、子ども1人の場合は支給されず、2人以上で支給され、3人以上になると更に様々な優遇が与えられる。1人の場合は支給されないということは、子どもを持つ世帯への生活支援的な政策目的はフランスの場合、持っていないことになる。日本でも少子化対策をより重視するとすれば、第1子への給付を減らし、第2子以降への給付を厚くするというメリハリをつけていくことも考えられよう。

所得制限については、所得再配分、少子化対策の2つの政策目的に照らし合わせると、生活支援は高所得者の場合は必要なく、また、少子化対策としての効果も、高所得者の場合は中堅取得者に比べ小さくなるため、必要性は高くないと考えられる。フランスの場合、所得制限は設けられていないが、日本では財政状況が厳しいため、所得制限を行うこともやむを得ないと考えられる。

【図表2】子ども手当、児童手当の仕組み

支給年齢 支給額(月額)
2009年民主党マニフェスト子ども手当 0~15歳 2万6千円
2010年度子ども手当 0~15歳 1万3千円
2011年度子ども手当 当初案 0~2歳 2万円
3~15歳 1万3千円
児童手当 0~2歳 1万円 所得制限あり
3~12歳 第1子、第2子 5千円
第3子以降 1万円
公明党の児童手当拡充案 0~15歳 1万円

こうした観点から現在出ている各党の案を見ると(【図表2】)、民主党の2011年度の子ども手当上積みの当初案は0~2歳児の支給額を7千円増やすというもので、一律2万6千円給付の2009年マニフェストの実行は財政難で厳しいものの、増やせるところから少しでも増やそうという内容になっている。一方、公明党案は自公政権時代の児童手当を拡充するもので、子どもの年齢に関係なく一律1万円とする内容になっている(所得制限あり)。2010年度の子ども手当よりは給付水準は下がるが、児童手当よりは上がるという内容になっている。このほか、自民党は児童手当に戻すことを主張している。

いずれも2010年度の子ども手当の効果を踏まえたというわけではなく、自らの面子(民主党は2009年マニフェストの実現、自民党、公明党は児童手当へのこだわり)を優先するような内容になっている。政策目的と財源を睨みながら、最も効果的な給付の仕方はどのようなものであるかについて、半年間のつなぎ期間の間に議論を深めていくことが必要と思われる。

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米山秀隆

米山 秀隆(よねやま ひでたか)
(株)富士通総研 経済研究所 上席主任研究員。
【略歴】
1989年 筑波大学大学院経営・政策科学研究科修了、(株)富士総合研究所を経て、1996年 (株)富士通総研入社、2007年~2010年3月 慶応義塾大学グローバルセキュリティ研究所客員研究員
【執筆活動】
デフレの終わりと経済再生(ダイヤモンド社 2004年)、少子高齢化時代の住宅市場(日本経済新聞出版社、2011年)ほか多数