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東日本大震災の日本経済に与える影響と教訓(1)

巨大地震がわが国マクロ経済に与える影響

2011年3月22日(火曜日)

私たち富士通総研社員一同は、去る3月11日に発生した東日本大震災により被災された東北地方の方々に対し、心からのお見舞いを申し上げますと同時に、被災地の一日も早い復興を心より祈念致しております。福島原発事故が重くのしかかり、被災者の方々の不安を募り、復旧をさらに困難にしているという状況の一刻も早い収束も願うものです。今回の地震と津波、更には、原発事故が、我が国経済に長期にわたり、広範かつ深刻な影響を与えることは疑いの余地がありません。その具体的な影響については、今後、さまざまな検討がなされると考えられますが、当社経済研究所としても、現時点での影響評価と一刻も早い復興に向けての提言を行いたいと考えております。ここで示された分析と意見は、各研究者個人のものであり、今後更なる研究を通じて変化していくものであります。しかしながら、出来るだけ早い時点で私たちの考えを公表することにより、広範な議論を喚起し、今回の激甚災害から学び得る教訓を最大限に引き出し、一刻も早い復興のための一助となることを強く希望しております。

本シリーズの構成は以下の通りです。

(1) 巨大地震がわが国マクロ経済に与える影響

(2) 住基ネットを活用した迅速な安否情報提供

(3) わが国のエネルギー政策、地球温暖化対策へのインパクト

(4) 電力不足が日本経済に与える影響

(5) 東日本大震災後の日本産業

(6) 計画停電について考える:電力システムの再設計を

(7) 高齢社会における防災と地域づくりのあり方について

(8) 明日の日本再構築に向けて

(1) 巨大地震がわが国マクロ経済に与える影響

3月11日に発生した東日本大震災は、被害の全容はなお把握できず、経済活動には甚大な被害を与えている。以下ではこの地震がマクロ経済に与える影響について考えてみる。

1.地震による直接被害

まず地震の経済的被害であるが、自然災害の被害額を算定する場合は、通常、直接被害と間接被害とに分けて行われる。直接被害とは、住宅や施設などの建物、道路、港湾などのストックの被害のことである。阪神大震災の場合は、直接被害額は9.9兆円と算定されている(兵庫県による推計)。被害額の算定方法は、個々のストックの評価額(固定資産税評価額など)に被災率をかけることで、積み上げによって算出している。

被害の全容をなお把握できない現時点で、このような方法で算定するのは不可能であり、これは被害が収まった後に事後的に算出できる性質のものである。現在、いくつかの民間機関が出している直接被害額は10~15兆円程度で、阪神大震災時と同程度から1.5倍となっている。算出方法は、基本的な考え方としては、阪神大震災の直接被害額をベースとし、阪神大震災と今回の地震の被害地域のストック規模や経済規模の違いなどを考慮しているものと思われる。

こうした考え方で試算が行われているのは、現状でできるのはこれくらいであることによるが、こうして算出された数値の妥当性について、別の角度からチェックしてみよう。アメリカの災害リスク評価会社EQECAT(カリフォルニア州)は、今回の地震に伴う地震保険対象の損害額は80億~150億ドル(6,400億~1兆2,000億円、1ドル=80円で換算)と試算している(3月16日)。これに対し、阪神大震災時の地震保険の支払い総額は783億円だった(日本損害保険協会調べ)。直接被害額を算定するに当たっては、課税評価額や簿価などを使う方法のほか、保険金推計額を用いる方法がある。保険は迅速な支払いを要求されるため、その支払いリスクを評価する会社は、過去の災害と比較して算出するなどのノウハウを持っていると考えられる。

この保険金支払額の試算と、阪神大震災前(94年度)の兵庫県の地震保険加入率(4.8%)、今回の地震前(09年度)の岩手県、宮城県、福島県の地震保険加入率の平均(19.6%)の数値を使えば、当時と今回のすべての被災住宅が地震保険に加入していたとして(被災住宅の地震保険加入率は、住宅全体の保険加入率と同じと仮定)、その保険金支払い総額がいくらになるかを試算できる。阪神大震災時は1.6兆円、今回は3.3~6.1兆円となり、今回の直接被害額は住宅に限れば当時の2~4倍となる。

もっとも、地震保険がカバーする範囲には住宅のほかに家財が含まれ、カバー率も阪神大震災時と今回では同じでないと考えられるため、その点については注意を要する。特に、阪神大震災後の96年から、地震保険の支払い限度額が4倍に引き上げられた点は重要であるが、阪神大震災後に起こった地震のうち1件あたりの保険金支払額が最も大きかった中越地震でも、阪神大震災時の1件あたりの保険金支払額と大差はなかったため、今回の計算では限度額引き上げが保険金支払い総額に与えた影響については考慮しなかった。

直接被害額は住宅以外のストックも含まれるが、都市空間においては、住宅はその域内に含まれる人口が多ければ、ほぼそれに比例して増加すると考えられるが、それ以外の施設・道路などは域内の人口に比例して増加するわけではないため、住宅以外のストックの直接被害額の阪神大震災時からの倍率は、住宅の直接被害額の阪神大震災時からの倍率よりは小さくなると考えられる。ただ、上記の数値はこうした点を考慮しても、すべてのストックの直接被害額は、阪神大震災時の数倍規模になる可能性があることを示している。これは現在いくつか出ている直接被害額の数値を上回っている。

2.地震による間接被害

間接被害額については、経済活動の停滞、機会損失などである。生産設備が壊れたり、物流網が寸断されたりすれば、地震がなかった場合に比べて生産できなかったり、生産できたとしても流通させられないため、その分損害を被ることになる。今回の場合は、地震によって原発が止まったことで電力不足となり、計画停電による生産休止といった事態に至ったが、これも間接被害と考えてよい。

東北地方の生産の停滞で特に深刻と考えられているのは、電子部品や情報関連の中間財の生産である。東北地方は、近年、こうした分野で工場を積極的に誘致することで、生産シェアを高めてきた。電子部品・デバイス・電子回路の東北6県の出荷額のシェアは12.3%、情報通信機械の東北6県の出荷額のシェアは14.4%を占めている。東北6県のうち、岩手、宮城、福島の被害は甚大で生産がストップし、これらの県の工場からの部品供給によって生産している他地域の工場の生産も止めざるを得ない状態となっている。これら工場からの部品を輸入している韓国や中国の企業も、部品供給が途絶えることについて懸念を高めている。

【表1】製造品出荷額に占める東北地方のシェア(2009年)
製造品出荷額に占める東北地方のシェア(2009年)

当面、こうした状態が続くと考えられるが、メーカーの間では、東北の工場で生産していた部品を他地域の工場に移管する動きが徐々に広がっており、今後、移管が進んでいけば、部品の供給が再開されていく可能性が高まっている。おそらく数か月以内にはそうした体制がかなり整っていくのではないか。

一方、電力不足による計画停電の影響については、製品によっては、短時間でも停電すると生産が成り立たないものもあり、メーカーは対応に苦慮している。東京電力がこの時期に必要な発電量の25%の発電能力を失ったことは、単純に考えれば、電気に依存している人間の様々な活動が同程度制約されることを意味する。しかし、休止中の火力発電の稼動などによって、4月末までに計画停電が予定通り終われば、悪影響は長引かないと考えられる。もっともこの問題については夏場の電力が賄えるかという問題が残っており、なお予断を許さない。生産を停止できない製品については、やはり停電のない地域の工場に移管する動きも出てくるかもしれない。

工業製品だけではなく、食品などでも東北地域からの供給が途絶え、一部が品薄になっているが、他地域からの供給に切り替える動きが広がっており、品不足は次第に解消していくと思われる。

こうした生産面の間接被害は、他地域の供給に切り替えることによって、ある程度は克服できる性質のものであり、日本経済に長期にわたって悪影響を及ぼすものではないと考えられる。GDP統計上は、1~3月期は生産が下押しされることでマイナスの影響を与えるが、4~6月期以降は徐々に悪影響は解消していくことになるのではないか。一方、生産停止が長引けば、そこで働く人々の所得の低下、さらには消費の低迷というルートで経済に悪影響を及ぼすと考えられるが、生産減少が長引かなければ、影響を最小限にとどめることができると思われる。

間接被害のうち、今後、深刻化すると思われるのは、原発事故に伴い、海外からの旅行客が激減すると予想されることである。現にツアー客、個人客を問わずキャンセルが相次いでいるという。こうした動きは、秋葉原など近年人気を集めた観光地に大きな打撃を与えると考えられる。これは日本の経常収支のうち旅行収支の悪化という形で表れることになる。

3.復興財源の捻出と復興計画

地震が収束し、原発の放射能封じ込めに成功すれば、本格的な復興に取り組むことができる環境が整う。順調に推移すれば年後半には復興需要が本格的に出てくることになる。阪神大震災時は、94年度第2次、95年度第1次・第2次と3回補正予算を組み、計3.2兆円を支出した。兵庫県によれば、復興資金は10年間で16兆円あまりが投入された。今回の場合、直接被害額が阪神大震災時の2倍になるとすれば、復興資金もまた2倍必要ということになる。補正予算の規模もまた阪神大震災時の2倍近くは欲しいところである。復興需要はかなりの間、GDP成長率という面では、日本経済にプラスの影響を与えることになるはずである。

問題は財源であるが、例えば、子ども手当の増額を凍結したとしても一時的にわずかな額を賄えるに過ぎず、長期にわたって必要な復興資金を賄うことはできない。財源確保のアイディアとしては、現在までに通常の国債発行のほか、無利子国債の発行、震災復興国債の発行、消費税率の時限的引き上げ、環境税などが出ている。

当面、不要な歳出を削っても、なお財源を捻出できない場合は、国債を増発せざるを得ないと考えられる。無利子国債については金利がない分、相続税減免などの別なメリットを与える必要があり、その差し引きで政府にとって発行のメリットがあるかどうか疑問である。震災復興国債は、阪神大震災時に利子収入の課税を免除するものとして提案されたが、これを発行すると他の国債が売れなくなる恐れがある。

国債を増発すると、中長期的に見て、長期金利上昇要因になると考えられるが、財政再建の不安払拭には、税制の抜本改革の議論を進めていくことで応えるしかない。税制抜本改革で実現されるはずの、消費税率引き上げや環境税の導入などによって復興資金を捻出していくことが現実的であろう。同時に歳出改革も必要で、公務員給与の引き下げなども実現させるべきである。

復興計画については、今後の日本再生をリードするような復興策を官民一体となって打ち出すべきある。例えば、ハイテク技術を駆使した農水産業の復興、新たな街づくりの実践(コンパクトシティ、海外から見て魅力的な観光資源の開発など)、原発のより一層の安全性の確保と新エネルギーへの移行促進などが考えられる。

シリーズ

【東日本大震災の日本経済に与える影響と教訓】

(2) 住基ネットを活用した迅速な安否情報提供

(3) わが国のエネルギー政策、地球温暖化対策へのインパクト

(4) 電力不足が日本経済に与える影響

(5) 東日本大震災後の日本産業

(6) 計画停電について考える:電力システムの再設計を

(7) 高齢社会における防災と地域づくりのあり方について

(8) 明日の日本再構築に向けて

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【調査・研究】


米山秀隆

米山 秀隆(よねやま ひでたか)
(株)富士通総研 経済研究所 上席主任研究員。
【略歴】
1989年 筑波大学大学院経営・政策科学研究科修了、(株)富士総合研究所を経て、1996年 (株)富士通総研入社、2007年~2010年3月 慶応義塾大学グローバルセキュリティ研究所客員研究員
【執筆活動】
デフレの終わりと経済再生(ダイヤモンド社 2004年)、少子高齢化時代の住宅市場(日本経済新聞出版社、2011年)ほか多数