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クラウド時代に求められる大企業の戦略としてのコーポレートベンチャリング

2010年11月19日(金曜日)

昨年実施した、先進的にクラウドコンピューティングに取り組んでいる企業53社に関する調査では、その半数以上がベンチャー企業であることが判明した。

これらのベンチャー企業には、既にAmazonやGoogleのような大企業と資本・業務提携を行っているものもあるが、クラウドコンピューティングの時代には、大企業はそのビジネスの本質から、主に2つの点でベンチャー企業との関係を積極的に考える必要に迫られる。

まず、クラウドコンピューティングの時代の企業間の競争とは、言い換えればプラットフォームの拡大競争である。このため、自らの展開するプラットフォームの周辺企業とのネットワークを形成し、価値を創出することが重要になる。ベンチャー企業を活用することは、自社のプラットフォームを広げるチャンスを提供することになろう。

次に、クラウドコンピューティングは基本的にインターネットビジネスであり、簡単に修正が可能であるため、いわゆる「永遠のβ版」(ユーザーの声を聞きながら、常に改良を加えて進化すること)的発想で、簡単にビジネスモデルの修正が可能になる(*1)。したがって、クラウドコンピューティングのベンダーにはこれまで以上に、継続的なイノベーションと市場への迅速な参入が必要とされる。大企業とはいえ今後も自前主義を貫いたままイノベーションを起こして成長することは難しいだろう。必然的に社内で所有するサービスと、社外のパートナーから得られる製品・サービスの統合が重要となるが、この際のパートナーとしてベンチャー企業は大企業にとってかけがえのないものになる(*2)

こうした時代に、大企業の経営者が考えなければならないのが、コーポレートベンチャリングであろう。

コーポレートベンチャリングの意味

コーポレートベンチャリングとは、「アライアンス等を通じて社外のベンチャー企業を活用すること」を指す。コーポレートベンチャリングは、社内ベンチャーを育成するためのプログラムを意味する場合もあるが、より重要なのは社外のベンチャーとの関係を構築することであろう。

そもそも、ベンチャー企業は成長を果たす上で、様々な外部資源を活用し、イノベーションを創出する。例えば、創業期には大学からの事業シーズやエンジェル投資家からの創業資金を獲得し、VC(Venture Capital)からのリスクマネーを活用することで短期間に成長を果たす。言い換えれば、ベンチャー企業とは、様々なエコシステムを利用して成長するものである。

大企業はこうしたエコシステムの参加者を通じてベンチャー企業に流入した資産を有効活用することで、自前の研究開発だけに頼るというリスクを制限しながらイノベーションを活性化することが可能になる。したがって、社外のベンチャーを活用することは大企業にとって非常に重要である。こうした、大企業にとってのコーポレートベンチャリングの重要性は以前から指摘されてきたが、上に挙げたように、クラウドコンピューティングの時代には、その重要性はこれまでとは比較にならないほど増大していると考えられる。

CVC投資から考えるコーポレートベンチャリング

グローバル企業の間では、こうした考えは一般的なものだと思われるが、実際にどの程度の活動が行われているのかに関し、大企業とベンチャー企業のアライアンスの具体例としてのCVC (Corporate Venture Capital)のデータから考えてみたい。

アライアンスといってもその形態は様々であるが、ここでCVCを考察するのは、大企業がベンチャー企業と共同開発や業務提携といったアライアンスを行うためには、何らかのリソースを割く必要があるため、資金提供を行わない場合であっても、一種の投資と考えられるためである。

【図表1】は、アメリカにおけるCVCの投資金額と全VC投資に占める割合の推移を示したものである。確かにリーマンショック以降、その投資額は減少しているものの、最も少ない2009年でも、1,200億円程度のリスクマネーをCVCが供給している。2009年の我が国VC投資の総額が1,366億円であったことを考えると、アメリカでは事業会社が日本のVC並みの投資を行っていることになる。また、不況でも全VC投資に占めるCVC投資の割合はさほど低下していないことも特徴であり、CVCは安定的にベンチャー企業に資金供給を行っていることがわかる。

アメリカにおけるCVCの投資金額と全VC投資に占める割合の推移

【図表1】アメリカにおけるCVCの投資金額と全VC投資に占める割合の推移

2009年における、これらCVCの投資先ベンチャー企業の事業分野の割合をみると、ICT関連ベンチャー企業への投資は全体の36%を占めており、イノベーションのスピードが速い業界で大企業がCVC活動により、積極的にベンチャーを活用しようとしていることが推測できる(他の業種は、バイオテクノロジーが30.6%、その他が33.3%)。

【図表2】は、Ernst & Youngが、2008年から2009年の間に全世界で行われたCVC投資から、最も活発なCVC10社を表したものである。10社中6社が大手ICT企業であり、投資先にはインターネット企業、クラウド関連の技術・サービスを行う企業が目立つ。DisneyやHoltzbrinck Publishingも投資先はインターネット企業であり、広い意味でのICT関連ベンチャーへの投資に大手企業が積極的に取り組んでいる。

最もアクティブなCVC(2007-2008年)

【図表2】最もアクティブなCVC(2007-2008年)

このようなことから、グローバルに活動を行う大手ICT企業がベンチャー企業を積極的に活用しようとしていることが推測できる。一方、我が国の大手ICT企業のCVC活動は活発とはいえず、アライアンス活動も、ベンチャー企業を下請けとして捉えがちである。今後は国内の大手ICT企業も考え方を変えなければならないだろう。

戦略としてのコーポレートベンチャリング

先に述べたように大企業が積極的にベンチャー企業をイノベーションのパートナーとして活用することは、効率的に大企業のイノベーションを促すことになる。我が国大手ICT企業の経営陣は、これまでよりも積極的にベンチャーとの関係を考え、コーポレートベンチャリングを重点的な戦略として考える必要があるだろう。そして、経営陣主導で、外部で生まれたイノベーションを有効活用するために、組織を変革する、あるいは従業員の意識を変革するといった方法を講じなければならない。

未だにNIH(Not Invented Here)症候群を克服できない大企業も多いだろう。しかし、今起こりつつあるクラウドコンピューティングへの流れは変えようもなく、そのためにはベンチャー企業の力を活用しなければならない。

注釈

(*1) : オライリーは“Principles of Web2.0”の1つとして“Web as a Platform”を挙げているが、クラウドコンピューティングの世界とは、プラットフォームとなったWeb上での陣取り合戦とも捉えられる。

(*2) : こうしたことは既に以前から数々の識者によって指摘されてきたが、必ずしも我が国の大手ICT企業は積極的にこのような指摘に取り組んできたとはいえない。例えば、Key Stone Advantage (Iansiti, Marco, Levien, Roy 2004)、Platform Leadership (Gawer, Annabelle、Cusumano, Michael A. 2002)など。

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【調査・研究】


湯川 抗(ゆかわ こう)
(株)富士通総研 経済研究所 主任研究員
2005年東京大学工学系研究科博士課程修了(Ph.D.)。1996年コロンビア大学大学院 修了(MS)。1989年上智大学法学部卒。
現在、SBI大学院大学教授、玉川大学経営学部非常勤講師、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員、国際大学GLOCOM客員研究員などを兼任。
著書に、「進化するネットワーキング」(共著、NTT出版)、「起業の教科書」(共著、東洋経済新報社)など。