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法人実効税率引き下げの意味はどこにあるか

2010年8月31日(火曜日)

法人実効税率の引き下げは成長につながるか

かねて、日本の国税と地方税を合わせた法人実効税率は国際的に見て高い水準にあり(日本40.69%、アメリカ40.75%、イギリス28%、中国25%、韓国24.2%)、産業界を中心にこれを引き下げるべきとの主張がなされてきた。民主党は、昨年の衆院選のマニフェストでは法人実効税率の引き下げには言及していなかったが、政権獲得後、経済の成長戦略が欠如している点を再三指摘され、参院選マニフェストでは、成長戦略の一環として法人実効税率引き下げにも前向きな姿勢を示した。しかし今のところ、具体的な動きは進展していない。

法人実効税率の引き下げが、経済の成長に寄与するとすれば、主として2つのルートが考えられる。その第1は、日本企業の海外進出の多さや、日本への対内投資が少ない要因の1つとして法人課税の負担の重さがあると考えられるため、これを引き下げれば、日本企業の海外進出の抑制や対内投資の増加につながり、これが経済成長を促すというものである。近年、世界的な法人課税の引き下げ競争が激しくなっている背景には、投資の呼び込み競争という側面もある。第2は、日本企業の税負担の大きさが、企業の設備投資余力を少なくしており、税負担を引き下げればこうした問題が軽減され、設備投資の増加につながるというものである。

日本ではこうしたルートで経済が活性化されると考えられるだろうか。第1の点に関する反論は、企業の立地選択に影響を与える要因のうち、法人課税の負担は主要な要因ではないというものである。東京都が実施したアンケート調査(2007年12月)によれば、海外への事業展開を行う理由で多いのは、生産拠点のケースでは「賃金コスト負担の軽減」(49.7%、複数回答、以下同じ)、「豊富な労働力が確保できる」(44.6%)、「市場規模拡大の一環」(44.3%)の順となっており、「法人化税負担の軽減」はわずか2.7%に過ぎない。生産拠点以外のケースでは、「市場規模拡大の一環」(63.2%)、「取引関係強化」(41.3%)、「関連企業への近接性」(30.2%)の順で、「法人課税負担の軽減」は3.6%に過ぎない。

ただ、日本企業が海外移転を考える際の主たる要因が、国内の法人課税負担の重さとは考えられないにしても、移転先を選ぶ際に、その国の法人実効税率が低ければ、移転先として有利になることはあり得る。つまり、上の海外移転の様々な条件を満たす国が複数あるケースで、最終的にそのどれかに決める際に、法人課税の負担の低さが決め手になるというような場合である。最近の一部の有力企業の本社や生産拠点の海外移転、海外研究開発拠点の設置については、移転先を決める際に、法人課税負担の低さも考慮されたと見られるケースがある。現に新興国が投資呼び込み競争で法人課税の引き下げ競争を行っているという事実も、実効税率の低さが決め手の1つになることを示している。

では、日本もそのような引き下げ競争に参加できるだろうか。日本が生産拠点の呼び込み競争に参加することは、そもそも労働コストが高い点や、人口減少によりマーケット面でも魅力が乏しいことから無理があると考えられるが、本社や研究開発拠点ならば、実効税率を引き下げることで、呼び込む余地はあるかもしれない。先進国でも、本社や研究開発拠点を呼び込む目的で、実効税率を大きく引き下げている国は存在する。

しかし、もし日本がそうした観点から税率引き下げ競争に参加しようとするならば、経済産業省が来年度税制改正で要求するように、実効税率をまずは5%引き下げるというような生ぬるいものではなく、一気に20%台に下げ、新興国並みの水準にするとか、思い切った措置を行わなければ、効果は期待できそうにない。ただ短期間で大幅引き下げを実施しようとする場合、全国一律では無理で、特区を作って引き下げるというようなことでなければ、実現は困難と考えられる。しかし、現在の日本ではそこまでやるという議論は起きていない。せいぜい主要国の平均レベルまで段階的に引き下げていくという程度では、経済活性化の効果はあまり期待できそうにない。

次に、第2のルートで、経済が活性化されると考えられるか。法人課税負担が低くなれば企業のキャッシュフローが大きくなるのは事実であるが、日本企業は現状では全体として、企業の貯蓄が投資を上回る貯蓄超過の状態が続いており、投資のためのキャッシュフローが不足している状態ではない。むしろ有望な投資先を欠くカネ余りの状態となっている。このような現状においては、法人課税負担を引き下げたとしても、それが設備投資を増やす要因になるとは考えにくい。

社会保険料も含めた法人の公的負担

ここまで、日本経済が法人実効税率の引き下げ競争に参加して、経済が活性化するのかという点に関して、現状では懐疑的な見方を示してきた。これに加え、そもそもの問題になるが、日本は法人所得課税の負担は高いものの、法人所得課税負担と社会保険料の事業主負担を合わせた負担については、欧米諸国に比べ高くないという指摘も存在する(例えば、「2010年度度税制改正大綱」2009年12月22日閣議決定)。財務省はかねて法人実効税率の引き下げを渋る論拠の1つとしてこの点を主張してきた。

これに対し、法人実効税率の引き下げを求める立場の経済産業省はこの点について、(法人所得課税+社会保険料事業主負担)/GDPは、財務省が指摘するとおり、国際比較で日本が低いことは肯定しつつも、(法人所得課税+社会保険料事業主負担)/社会保障支出という別の指標を示し、これが国際比較でフランスやスウェーデン並みに高い点を指摘している(「産業構造ビジョン骨子案」2010年5月)。やや煩雑になるが、この指標の意味を検討してみよう。簡単化のため、(法人所得課税+社会保険料事業主負担)を(事業主の公的負担)と書き換えるとこの指標は、

(法人所得課税+社会保険料事業主負担)/社会保障支出

=事業主の公的負担/社会保障支出

=(事業主の公的負担/GDP)/(社会保障支出/GDP)

と変形でき、この指標の高さは、分子(=事業主の公的負担/GDP)が他国に比べ大きいか、分母(=社会保障支出/GDP)が他国に比べ小さいことを示している。日本の場合、前述のように分子の国際比較では小さいが、分母もまた小さいことが、この指標が高くなる要因となっている。フランスやスウェーデンは、分子の国際比較では日本より大きいものの、分母であるGDPに対する社会保障支出の割合が日本より大きいため、結果として、この指標が日本と同程度の水準になっている。

このように考えると、経済産業省が主張するように、この指標が高いからといって、必ずしも分子を小さくするため、法人税の実効税率を引き下げなければならないということにはならない。日本で欧米諸国との比較でこの指標が高くなっているのは、分母であるGDPに対する社会保障支出の割合がまだ欧米諸国に比べ低いためであり、これが欧米並みに高くなればこの指標は低くなる。経済産業省が持ち出した別な指標に基づく主張にはやや無理があると考えられ、日本における法人所得課税と社会保険料を含めた法人の負担が、社会保障の手厚い一部欧米諸国との比較ではなお低いという事実は残ることになる。

5%引き下げがもたらす効果

ここまで述べてきたように、そもそも日本の法人の公的負担が欧米諸国との比較で突出して高いというわけではない。また、現状論じられている程度の法人実効税率引き下げではさほど効果はありそうにない。しかし、税率引き下げが全く意味を持たないわけではない。現状での5%引き下げ案で発揮される効果は次のようなものであろう。

製造業は必要とあらば、海外に拠点を移すなどして税負担を軽くすることも可能であるのに対し、内需型の企業は基本的に国内に留まっているため、日本の実効税率が高ければそれに甘んじるしかない。法人税収の業種別割合の変化(1981~2008年度)を見ると、製造業は45.1%から30.2%と大幅に下がっているのに対し、非製造業のうちサービス業は0.4%から15.0%に大幅に上昇、卸・小売業も18.9%から19.5%に上昇しており、この間に法人税を支払う主体が、非製造業中心になっていることがわかる(国税庁による)。この変化には、サービス化という産業構造の変化とも無縁ではないが、日本経済が製造業からの税収をアップさせることが難しくなりつつあることを示している。こうした中で、法人実効税率が少しでも引き下げられれば、国内に留まるしかない内需型企業の税負担を低下させる効果を持つことになる。さらに、消費者に密着した内需型企業の税負担の低下は、税を消費者に転嫁させる部分を少なくする可能性がある。

一方、法人実効税率の引き下げは、仮に5%引き下げた場合、1兆円の税収が失われるとされ、その分の財源確保が必要になる。将来の消費税率引き上げとセットで実施するのは1つの手であるが、早期の税率引き上げは難しいため、特定の業界を優遇する租税特別措置(政策減税)を廃止、縮小することなどにより法人課税の課税ベースを広げた上、実効税率を引き下げるのが1案とされている。この場合、研究開発に関する政策減税が見直され、それを財源に法人実効税率が引き下げられるとすれば、設備投資を多く行う製造業については実質的に増税となり、税率引き下げの意味がなくなってしまいかねない。これに対し、内需型で設備投資が少ない産業の立場から言えば、こうした形で課税ベースを広げるのは、現行の税制での業種による法人課税の負担の偏りをなくすという効果を持つことにはなる。しかし、実効税率を引き下げるためだけに、製造業の競争上有用と考えられている研究開発減税を止めるというのも本末転倒と思われる。実際、内需型企業のために実効税率引き下げを行うという議論は、全く盛り上がっていない。

大幅な引き下げは可能か

今後もし、法人実効税率引き下げを本格的に実施していくとすれば、課税ベースを広げるだけでは財源が限られるため、消費税率引き上げとセットで行うことが有力と考えられるが、この点は、この先も企業の付加価値に対する課税を、法人課税中心でやっていくのかどうかという問題と関連する。企業が税率の低い海外に逃げる可能性があり、税率引き下げ競争に常に巻き込まれる可能性を考えれば、企業の段階で課税する度合いを下げ、付加価値が消費者に分配された段階で課税する度合いを上げていく方が合理的という考え方は成り立つ。消費者に対する課税は、所得段階か消費段階のいずれかということになるが、この点については、今後は消費段階での課税がメインになっていくことは確実な情勢となっている。

ただ、法人実効税率引き下げのために消費税率を引き上げるというロジックは、企業を優遇する一方、消費者に犠牲を強いるイメージがあり、一般には受け入れられにくいと思われる。実際、法人実効税率を引き下げたとしても、その分、企業が消費者に分配する分を増やさなければ、消費者の税負担だけが増すという問題もある。これに関しては、こうした問題もあることを念頭に置きつつ、企業の海外流出を防ぐため、法人課税と消費課税のバランスをどのように修正していくかという課題となる。

結局、日本における法人実効税率引き下げの議論は、5%引き下げるだけでも財源の問題で壁にぶち当たっており、大幅引き下げとなるとさらなる困難に直面することが予想される。ただ、既に述べたとおり、日本は、法人の公的負担が主要国の中で突出して高いというわけではなく、新興国を含む法人実効税率引き下げ競争に参加することも必ずしも得策とは思われない。現行制度でも製造業は、研究開発減税などの政策減税の恩恵を多く被っているという事実もある。また最近では、法人実効税率引き下げがなくとも、国産ブランドの優位性に着目し、高付加価値品の国内生産を増やしている例もある。現在の法人実効税率の引き下げの議論は、それによって立地競争上有利になることが強調されがちであるが、本当に引き下げに見合う効果が発揮されるのかについて、より冷静な議論が必要と思われる。

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米山秀隆

米山 秀隆(よねやま ひでたか)
(株)富士通総研 経済研究所 上席主任研究員。
【略歴】1989年 筑波大学大学院経営・政策科学研究科修了、(株)富士総合研究所を経て、1996年 (株)富士通総研入社、2007年~2010年3月 慶応義塾大学グローバルセキュリティ研究所客員研究員
【著書】デフレの終わりと経済再生(ダイヤモンド社 2004年)、 図解よくわかる住宅市場 (日刊工業新聞社 2009年)ほか多数