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導入へ向けて、第一歩を踏み出す共通番号制度

2010年8月26日(木曜日)

はじめに

日本における長年の懸案事項であった番号制度が、導入に向けて本格的に動き出している。民主党への政権交代後、番号制度の制度設計を行う社会保障・税に関わる番号制度に関する検討会が開催され、6月29日にはその中間取りまとめが発表された。この中間取りまとめに対するパブリックコメントを国民から広く受け付け(8月16日締切)、これらの意見を参考に年内には結論が出され、2013年度に共通番号制度を導入するという予定になっている。

筆者は、自治体における情報システムの現場経験に基づいて日本の社会における番号制度の重要性を主張し、番号制度への反対運動が渦巻いた住基ネット本格稼働の2003年には住基ネットの推進を唯一訴える書籍『住基ネットで何が変わるのか』を出版した。しかし、国民に対するプライバシー侵害だという住基ネット訴訟なども起こされ、残念なことに政治家も官僚も次第に番号制度のテーマを避けるようになっていったのである。それ以降、日本生産性本部・情報化推進国民会議の専門委員会において住基ネットの必要性を訴える提言活動などを地道に続けてきたが、番号制度が再び注目されたのは2007年に起きた年金納付記録問題によってである。このとき社会保険庁の杜撰な事務が問題視されたが、筆者はいくら正確な事務を行ったとしても日本人の氏名を使ってデータの名寄せをすることは技術的に不可能であり(*1)、番号制度が不可欠であることを指摘した。その後、定額給付金の問題も起こり、マニフェストで「税と社会保障制度共通の番号制度の導入」を明記していた民主党が政権を奪取したことで、番号制度の導入について具体的な動きが始まったのである。

今回、政府は番号制度に関する中間取りまとめに対して国民から意見を求めるパブリックコメントを実施した。ここで示された論点に対しどのように考えるべきか、住基ネット以来多くの専門家や実務家と議論してきた経験を通して、私見を述べたい。

1.【論点1:利用範囲をどうするか】

中間取りまとめでは、A案(ドイツ型:税務分野のみで利用)、B案(アメリカ型:税務分野、社会保障で利用)、C案(スウェーデン型:幅広い行政分野で利用)という3つの選択肢が示されている。

まず、これから制度設計しようとしている共通番号とは一体何なのか、制度を構築する意義とは何なのかを明確にする共通番号の理念や哲学が何も無く、いきなり選択肢が示されていることに違和感を覚える。もちろん意見募集の序文では制度導入の目的について触れているが、テクニカルな目的が淡々と述べられているに過ぎないと感じる。すでに拙稿(*2)で主張したが、番号制度とは国家と国民との間における新たな社会契約の証であり、そのような位置づけの中で国家百年の大計としての制度設計をしていくべきと考える。

番号制度とは単に国の行政事務の効率を上げるためではなく、国家と国民の権利・義務関係を明確にするものであり、国民は公平な義務を負うとともに、国家は国民の権利を保護するという新たな時代の社会契約の証となるべきものである。然るに、番号制度とは税や社会保障など狭い範囲にとどめるべきではなく、幅広い行政分野で利用すべきものである。例えば、国民の実生活に直面している自治体が住民の生活を守るために使っていくべきものであり、さらに民間企業においても国民の権利・義務に関わる業務については使っていくべきものである。

特に自治体においては、課税(*3)のほか、年金資格、医療保険、住所照会など住民に関する外部とのデータ連携が大量かつ頻繁に行われており、これらの情報の突合作業で共通番号を使うことにより、基礎自治体レベルで年間1000億円もの経費節減(*4)になることがわかっている。また、幅広い行政分野で利用できれば、行政手続きにおける添付書類の削減が可能となり、面倒だと指摘されている住民の行政手続を改善していくことが可能となる。さらに、行政手続に関する知識に乏しく、日本語が良くわからないといった社会的な弱者に対しては、自治体内部で保有している住民情報を集約・活用してお知らせ型のサービスを行うことで、住民の生活を守っていくことができる。

現在のところ民間企業による利用は想定されていないようだが、民間企業の業務においても国民の権利・義務に関する業務に関しては積極的に使っていくべきである。例えば、厚生年金基金に関しては受給権者不明の年金が1500億円にも上っており、年金問題と同様なことが企業年金でも起こっているのである。そして、金融機関の休眠口座に眠る資産も膨大なものになるだろう。これらは番号がないために所有者不明となって所有者の権利が侵害されていると言えるだろう。このような業務においても積極的に使用していくべきであろう。

2.【論点2:番号に何を使うか】

中間取りまとめでは、基礎年金番号、住民票コード、新たな番号という3つの選択肢が示されている。基礎年金番号については、納付記録問題で判明したように二重付番が起き、住所・氏名等の変更情報が反映されず、確実な本人確認の要件を満たすとは言えないため、対象とすることは不適であろう。

それでは住民票コードと新たな番号のどちらを選択すべきか、ここは識者のなかでも意見が分かれている。新たな番号を使うことで住民票コードの過去の悪いイメージや過去のしがらみを払拭したいという考え方は理解できるものの、新たな番号を使うことであたかも危険が回避されるようなイメージを喧伝することはかえって国民を欺くことになるため、堂々と住民票コードを採用していくべきだというのが私の考えである。

自治体では、国民の基本情報の変更履歴を完璧に把握し、確実な本人確認を行うための基盤として住基ネットの構築を行い、この7年間、事故もなく運用を行ってきた。住基ネットこそが確実な本人確認の基盤であり、住基ネットで管理されている住民票コード以外の選択肢はあり得ないと考える。現在の法律では、住民票コードは厳格な利用制限と理由も無く何度でも変更可能という欠陥を持っており、これらについては法改正を行い、共通番号としての性格を付与すべきと考える。

(住民票コードと対応した)新たな番号体系を構築することは、屋上屋を重ねて無駄なコストを費やすことになる。新たな番号を構築したところで住民票コードが抱える問題はそのまま引き継がれることになり、新たな番号が実質的な「住民票コード」として独り歩きすれば、まったく同じことである。新たな番号体系を構築することであたかもプライバシーが保護されるような錯覚を与えることは、国民を欺くことになるだろう。万が一問題が起きた際には、欺かれたと悟った国民がパニックを引き起こさないとも限らない。プライバシー保護で重要なことは、番号に付随する情報が漏洩するのを防ぐことであり、番号そのものに手を加えてあたかもプライバシーが保護されるような装いをしてはならない。「見えない番号」などの議論は、まさに新たな番号と同じ議論である。住民票コードを「見える番号」として利用し、その住民票コードに付随する個人の情報をしっかりと守るという原則を打ち出すべきだろう。

3.【論点3:情報管理をどうするか】

中間取りまとめでは、一元管理方式(各分野の番号を一本に統一し、情報を一元的・集中的に管理)と分散管理方式(情報を各分野で分散管理し、中継データベースを通じて、共通番号を活用して連携)の2つの選択肢が示されている。

この論点は番号の管理と情報の管理が混在しており、正しくは下記のように整理して考えるべきである。

番号の管理
同じ番号 分野ごとに異なる番号
(連携の仕組み有)
情報の管理 一元化 韓国型 (なし)
分散化 米国型 オーストリア型

情報の管理方法としては、情報を業務ごとに分散して管理し、情報の内容についてはそれぞれの業務分野で責任を持つ体制にすべきである。個人情報保護の観点から、すべての情報を一元化して統合することは不適と考える。この考え方については識者のなかでもほぼ異論はないと認識している。

しかし、番号の管理方法については「同じ番号」を採用すべきか、「分野ごとの異なる番号」を採用すべきかで、識者の見解が大きく異なっている。筆者は「同じ番号」を採用すべきであると考えており、米国をはじめ韓国やEU諸国が採用している、いわゆるフラットモデルが妥当と考えている。それに対し、「分野ごとの異なる番号」を採用すべきと主張する識者は、オーストリアで採用されている方式、いわゆるセクトラルモデルが好ましいと考えている。

オーストリア方式が好ましく見えるのは、分野ごとに異なる番号を使っているため情報が漏洩しても番号でマッチングされないこと、および連携用番号の生成に複雑な手順や高度な暗号化技術を駆使していることで安全性が高いと見えること、による。この方式の問題点は2つある。

1つは運用上の問題である。論理的に正しくても現場の運用が正しく動くとは限らないことは、「生のデータ」を扱っている現場では周知の事実である。人口規模の相違(日本はオーストリアの約十数倍)による処理性能の問題を無視しても、オーストリアの方式は下記の点において大きな運用上の問題があるため、運用で大きなトラブルが発生すると考えられる(詳細については省略)。そして、オーストリアにおける先行分野でも連携用番号の貼りつけ作業は完了しておらず、本格的な運用実績がまだ無いことも課題である。

  • データ連携の際に使う氏名(漢字コードやふりがなの問題)
  • 氏名変更時の運用
  • 自治体とのデータ連携(短期間かつ大量の処理)
  • 各分野における番号変更への対応(医療保険被保険者番号の喪失・取得など)
  • 連携用の番号を貼りつける移行作業
  • 迅速なトラブルシューティング

2つめは、安全性に対する意識の問題である。複数の分野における情報が大量に漏洩した時に番号でマッチングできないから安全だという理由だが、そもそも各分野で厳格なセキュリティを確保していれば、複数の分野で同時に大量の情報が漏洩する確率は極めて低い。異なる番号を使っているから安全性が高いという意識で、各分野のセキュリティが甘くなり、論点4の個人情報保護への対策が軽んじられると、かえって情報漏洩の危険性が高まることになる。

誤解されることがあるのだが、筆者は各分野で「同じ番号」を使うべきことを主張しているが、必ずしも今すぐ「同じ番号」に置き換えることを主張しているわけではない。現在、共通番号が設定されていない業務においては共通番号を付番して使っていくべきだが、基礎年金番号や医療保険被保険者番号のように既存の番号が存在している場合には、当面既存の番号に共通番号を貼り付けて(つまり、連携用の番号として使う)運用していくべきなのである。「生のデータ」は決して綺麗な情報ではなく、共通番号を貼り付けて情報を正しくする作業(データのクレンジング)が必ず発生し、しかも時間がかかる。また、番号に意味づけを持たせている場合にはシステムの動きにも影響を与える。既存番号を廃止して共通番号へ置き換えるのは、データのクレンジングが完了し、システム運用の安全性が確保された後、国民のコンセンサスを得た上で実施すればよいのである。

同じ番号を使った場合、1つの番号がわかると芋づる式にその人の情報が統合されるという主張があるが、情報はそれぞれの業務分野で個別に保護されており、番号がわかったとしても情報が統合されるわけではない。重要なことは「番号がわかってしまう」ことではなく、その番号に付随する個人の情報を保護することなのである。また、中間取りまとめで言及されている「中継データベース」という考え方は、かつて電子私書箱の議論の際に持ち出された考え方であり、これは共通番号の導入を回避するための手法である。共通番号を使わない代わりに、各自の番号の紐付け責任を国民に負わせる(しかも、強制ではなく任意)という設計になっており、今回の共通番号の制度設計にはそぐわない考え方である。

4.【論点4:個人情報の保護をどうするか】

中間取りまとめでは、国民自らが情報活用をコントロールできる、「偽造」「なりすまし」等の不正行為を防ぐ、「目的外利用」を防ぐという選択肢が挙げられているが、どれも個人情報を保護するためには必要な施策である。

(1)国民自らが情報活用をコントロールできる

重要なことは、技術的な対策と制度的な対策をバランス良く設計することである。技術的な対策としては、自らアクセスログを確認できる仕組みを国民に提供することが必要であり、制度的な対策としては(政府外における)第三者機関の設置が必要となる。技術に安住して制度的な対策がおろそかになったり、その逆になったりすることは回避しなければならないと考える。

  • 技術的な対策:自らアクセスログを確認できる仕組み
  • 制度的な対策:(政府外における)第三者機関の設置

そして、第三者機関の機能については、下記の6項目を満たすべきと考えている。特に現状の運用を監視するだけでなく、「4.共通番号の利活用に関する監視機能」に関しても監視を行うべきと考えている。これは年金の納付記録問題で明らかになったように、政府が共通番号の使用をサボタージュして国民の権利侵害を放置することを許さないためである。

  1. 国民の不安解消機能
  2. 国民の被害救済機能
  3. 共通番号の運用状況の監視機能
  4. 共通番号の利活用に関する監視機能
  5. 内部告発の受理と告発者の保護
  6. 国民への情報公開と定期報告

(2)「偽造」「なりすまし」等の不正行為を防ぐ

「ICカードを導入し、確実な本人確認ができる仕組みとする。※既存の安定した仕組みとして住基カード活用も可能」と書いてあるが、そもそも確実な本人確認を実施するために住基ネットを構築し、自治体では本人確認のツールとして住基カードを配布している。常に安全性を高める努力をしており、平成21年4月20日以降に交付されている新しい住基カードではICチップ内へ券面情報が記録されており、偽造防止のロゴマークやQRコードも印刷されている。今また住基カードと別のICカードを作ることは、税金の無駄遣いと言われてもしかたないであろう。

(3) 「目的外利用」を防ぐ

これは現在でも、個人情報保護法や個人情報保護条例で規定され、目的外の利用を防いでいる。「目的外利用」については個人情報保護の問題であり、共通番号の問題ではなく、個人情報保護の問題として扱うべきだろう。

おわりに

今回のパブリックコメントの結果が、どこまで番号の制度設計へ反映されるかは定かではない。そして、一般国民へ意見を求めたために、設問の内容が正確性を欠き、表現が不十分だという識者の指摘もある。しかし、番号制度という、国の根幹に関わる問題の論点を国民に投げかけ、広く国民へ意見を求めたことは評価できると考えている。

これから多くの国民の意見を参考に、番号制度の最終案が練られ、政治的な判断で最終決定が下されていくことと思う。政府にお願いしたいことは、国民の一時の感情や不安感におもねることなく、これから百年先の国の姿を見据え、大局的な見地から国の骨格となるべき番号制度の決断を下していただきたいということである。

注釈

(*1) : 榎並利博、「年金納付記録問題を再発させないために:日本人氏名に潜む問題とその根本的な解決策について」(『行政&情報システム』2008年10月号)

(*2) : 榎並利博、「共通番号の導入で真の電子政府実現を―共通番号に関する3つの提言―」、『行政&情報システム』2010年6月号

(*3) : 自治体は税務署から提供される確定申告の情報だけでなく、土地・家屋・自動車・軽自動車といった課税客体の所有者を当該住民と結びつけるという作業を行っており、これらにも番号の付番を義務付けるべきである。

(*4) : 榎並利博、「統一番号制度で電子政府をリストラ(再構築)せよ」、『情報化研究』2009年7月号

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【調査・研究】


榎並 利博(えなみ としひろ)
(株)富士通総研 経済研究所 主席研究員
1981年富士通株式会社に入社、住民票システムや印鑑登録証明システムなど自治体のあらゆるシステム構築に従事する。96年から株式会社富士通総研に出向し、電子政府・電子自治体、地域活性化、行政経営に関する研究やコンサルティングを数多く手がける。また、政府委員会委員、研究機関の委員会委員などを歴任。主な著書『住基ネットで何が変わるのか』、『電子自治体 パブリックガバナンスのIT革命』、『電子自治体-実践の手引』、『自治体のIT革命』など多数。