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子ども手当とICバウチャー

2010年8月13日(金曜日)

1.子ども手当とバウチャー

2010年の6月から子ども手当の支給が始まりました。今年度は当初予定額の半額、中学生以下の子ども1人あたり月13000円が支給され、支給総額は2兆7千億円と見込まれています。来年度以降の支給については、残額分を現金ではなくバウチャー(金券)とする案や保育所の充実にあてるべきとの声もあります。

内閣府が実施したアンケート調査によれば、子ども手当の使い途は、貯蓄に回すと答えた人が多かったようです。因みに筆者の試算によれば、仮に、2兆7千億円全額が消費に回った場合の経済波及効果は5兆2500億円に上るのに対し、30%が貯蓄に回った場合の経済波及効果は3兆6700億円に止まります。

【図1】子ども手当支給額全額を消費する場合の経済波及効果

【図1】子ども手当支給額全額を消費する場合の経済波及効果

バウチャーの場合は全額が消費に回ると考えられますので、子ども手当をバウチャーにする案は、経済波及効果の面では優れたものと言えますが、一方では、制度設計が難しい点や金券ショップでの換金を心配する声もあります。

実は子育て支援のバウチャーは、既に東京都杉並区の子育て応援券の例があります。5歳までの子どもの保護者を対象として、2010年9月までは無償の券が配られ、10月以降は7割のプレミアム(即ち区の負担)付きの有償バウチャーが購入でき、子どもを預かるサービスなどに利用できます。

このようなプレミアム付きバウチャーは、地域の産業振興や商店街の活性化の目的で様々な自治体において発行されており、例えば、東京都中央区世田谷区では、1割のプレミアム付きバウチャーが発行されています。

このように、バウチャーは、福祉、産業振興、地域活性化などの様々な政策目的を実現するとともに、ほぼ全額が消費に回るという面で景気刺激策としても有効です。更に、プレミアム付きバウチャーの場合は、例えば1割のプレミアムであれば、9割を住民が負担して行う景気刺激策とみなすこともできます。仮に、子ども手当を全額現金ではなく1割のプレミアム付きバウチャーとすれば、5兆2500億円の経済波及効果を得るのに、国の負担はわずか2700億円で済むことになります。

但し、これまでに実施されているバウチャーは紙券が主体でした。紙券の場合は、換金されて本来の目的にそぐわない使い方をされる恐れもあります。この解決策として、国民IDカードとICバウチャーを提案したいと思います。

2.国民IDカードとICバウチャー

最近、国民ID(共通番号)の議論が盛んになっています。昨年末の2010年度税制改正大綱に『社会保障・税共通の番号制度の導入を進める』と明記されたことを踏まえ、「社会保障・税に関わる番号制度に関する検討会」において具体的な番号制度が検討されています。また、政府のIT戦略本部の「新たな情報通信技術戦略」(2010年5月11日)においても、『電子行政の共通基盤として2013年までに国民ID制度を導入する』ことが明言されており、併せて『公的ICカードの整理・合理化を行う』とされています。公的ICカードとしては、既に住民基本台帳カードがありますが、いわゆるキラーアプリケーションがないこともあり、普及はあまり進んでいません。

筆者としては、新たな公的ICカード(以下、国民IDカード)に載せる1つのアプリケーションとして、バウチャーの電子化(以下、ICバウチャー)はどうかと考えています。紙のバウチャーで課題となる第三者への譲渡による換金の問題も、国民IDカード自体にバウチャー情報を記録することで解決するとともに、あたかも電子マネーのように日々の買い物などに使えるようにするのです。

ICバウチャーの実現にあたって検討すべき点は、

  • 国の事業や自治体独自の事業のいずれにも利用できる共通仕様
  • 利用できる店や施設の募集
  • ICカード読取端末の配備やネットワーク整備などの実施基盤整備
  • チャージ方法の検討や運営組織の立ち上げ

などがあり、制度面の検討を含めて政府レベルの研究会を立ち上げて仕様を検討するとともに、既に紙のバウチャーで成功している自治体などでの実証を重ねて、確実に使えるものにしていくのが良いと考えます。

【図2】 ICバウチャーの運用概念図

【図2】 ICバウチャーの運用概念図

ICT利活用による経済効果は、どちらかと言えば経費削減(出を減らす)効果が多い中、ICバウチャーは需要喚起(入を増やす)効果を持つ稀有なものと考えます。是非、実現されることを期待します。

関連サービス

【公共】
富士通総研の公共コンサルティングは、多くの経験に基づく知見やノウハウをもとに、国、地方自治体、関連団体など行政機関の抱える課題解決を支援します。


合田俊文

合田 俊文(ごうだ としぶみ)
株式会社富士通総研 シニアマネジングコンサルタント
【略歴】
1983年東京大学理学系大学院博士課程単位取得修了、1985年富士通入社、1998年富士通総研へ出向。現在、公共コンサルティング事業部シニアマネジングコンサルタント。システム監査技術者。
【執筆活動】
日本法制の改革:立法と実務の最前線(共著、2007年中央大学出版部)、アジア地域のインフラ整備をPPPの枠組で(2008年FRIコンサルティング最前線)等