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相続税と所得税の二重課税が与える波紋

2010年7月15日(木曜日)

二重課税に関する最高裁判所判決

「この世で確実なのは、死と税金だけである」これはアメリカ合衆国建国にかかわった政治家・物理学者として有名なベンジャミン・フランクリンの言葉である。

われわれが運命的に逃れられないこの2つは、互いに密接な関係がある。身内が亡くなったとき、多くの人が気にかける相続税はその代表例である。しかし、相続や事業承継にあたっては、さらに所得税や贈与税なども関連するため、場合によっては税務面でかなり複雑な状況を呈することがある。

こうした状況に一石を投じる判決が、7月6日に最高裁判所で下された。最高裁判所は、生命保険金を年金払いで受け取る際、相続税と所得税が二重に課税されているとして、所得税の課税を取り消すとの判決を言い渡した。

判決内容と認定された事実を簡単に解説すると、夫の死亡に伴って、2300万円の死亡保険金が発生したが、妻はこれを10年間の分割(毎年230万円)で受け取ることとした。この際に、まず2300万円×60%=1380万円を課税ベースとして相続税を申告し、さらに230万円の年金から必要経費(支払った保険料に相当する額)を差し引いた金額を課税ベースとして、10年間所得税が課税されることになった。最高裁判所は、このうち、相続税の課税ベースである1380万円分が相続税と所得税の二重課税に当たると判断した。

生命保険金の二重課税

【図1】生命保険金の二重課税

二重課税は生命保険金だけか?

一昔前は、国を相手取った行政訴訟で勝訴するのは不可能に近いといわれていた。しかし、相続に関連した課税についても、これまでの慣行を違法とする判決が確定したことは過去にもあった。

相続によって取得した財産(不動産やゴルフ会員権など)を譲渡した場合、所得税の課税ベースは、資産の譲渡価額(売却金額)から取得費(購入価格や購入時の登記費用等)と譲渡に要する費用(不動産業者に支払う仲介手数料等)を差し引いたものである。では、相続の際に発生する登記の費用は、取得費に含めることが可能であろうか?以前は、これは取得費に含めないとされていたが、6年ほど前に取得費に含めるとの判決が最高裁判所で下されている。
(参考:国税庁「贈与・相続により取得した資産を譲渡した場合の譲渡所得の取得費について」

このときと異なり、今回の判決が大きなニュースになったのは、こうした生命保険の契約件数(保険金が未だ支払われていないもの)が少なくとも数百万件にも上ると考えられ、多くの契約者に影響を与えると考えられているからである。

しかし、今回の判決が影響を与える範囲は、これにとどまらないと思われる。例えば、不動産や非上場株式においても、まったく同様の問題が存在する。例えば、父親が1000万円で購入した土地を、子供が相続時の評価額1500万円で相続し、5000万円で売却した際に、相続税と所得税はどのように課税されるのであろうか?

現在では、相続時の評価額1500万円を課税ベースとして相続税が課税され、さらに売却時に、5000万円から1000万円を差し引いた4000万円を課税ベースとして所得税が課税されることになっている。今回の判決をそのまま適用すると、相続時の評価額1500万円分は、二重課税と判断されるのではなかろうか。(なお、上場株式については、相続の名義書換時の時価を取得費とすることが認められているケースがある。上場株式の相続税の評価額は名義書換時の時価を下回ることが多く、こうしたケースにおいては、同様の問題は発生しない。)

土地売却の二重課税

【図2】土地売却の二重課税

二重課税の影響と税制論議のあるべき姿

相続税は高い税金であると思われているが、これは以前のオピニオン(2009年4月10日)「贈与税減税をどう考えるか」でも指摘したように、誤解である。むしろ問題とすべきは、金額の多寡ではなく、課税によって人々の行動が左右されることであろう。特に、非上場株式などの事業用資産については、子供が相続して事業を継続する場合と比べ、第三者へ売却した場合には「二重課税」が発生する。従って、このような「二重課税」の存在が有能な第三者の事業承継の障害となり、ひいては社会全体の生産性を低下させている可能性は否定できない。

以上のように考えると、今回の判決が影響を与えるところは、単に生命保険の問題にとどまらないものと思われる。今回の判決を機に、事業承継に関する税制について、相続税・贈与税にとどまらず、所得税など他の税も一体的に検討を加えることが必要であると考えられる。

また、税制となると、とかく税率に我々は目を向けがちであるが、今回の判決で問題となったのは、課税ベースであり、これをどのように考えるのかも重要な論点である。

今回の参議院選挙を受け、再び参議院で与党が少数となるという、ねじれ国会が再現されることとなった。民主党の敗因の一つに消費税に関する議論が挙げられている。民主党が呼びかけた税制についての超党派での議論も、その行方は不透明であると言わざるを得ない。しかしながら、税制の問題とは消費税だけの問題ではなく、また、単に税率の上下に関わる問題にとどまらない。今後は、課税ベースも含めた議論が展開されることを強く望みたい。

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河野顔写真

河野 敏鑑(こうの としあき)
(株)富士通総研 経済研究所 上級研究員
2006年 (株)富士通総研経済研究所入社。
2009年 東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得。
専門領域は公共経済、社会保障・医療経済。