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電子マネー・ポイント制度は消費者や社会をどう変えるのか?

2009年11月5日(木曜日)

2007年は電子マネー元年と呼ばれた。“電子マネー3年”ともなると、利用できる店舗の増加、富士通をはじめとする大手メーカーのパソコンへの対応端末の標準搭載など、生活により身近なものになりつつある。財布の中の小銭が以前に比べて減っているように感じるのは私だけではあるまい。また、ポイント制度についても、新たに三菱商事を中心にローソンや昭和シェル石油なども共通ポイント制度“Ponta”で提携することが明らかになるなど、航空、鉄道、商社、小売など様々な業種の会社が取り組みを強めている。

電子マネー・ポイント制度に関しては、ここ数年、法的な手当てやセキュリティについて法学や工学の専門家から、さまざまな議論が提起されてきたが、本稿では、経済学的な側面から、特に既存の通貨と異なったメリットを発行者と消費者の双方に与え得るのか否かについて検討したい。

「囲い込み効果」は意味があるのか?

まず、電子マネー・ポイント制度は、これまで囲い込みの手段として考えられてきたが、そもそも囲い込み効果自体が存在すると考えるのは正しいのであろうか。もし、競争相手がポイント制度を導入していないのであれば、自社がポイント制度を導入することで、自社製品を選択するのか競争相手の製品を選択するのか迷っている、いわば無党派層的な消費者を自社に惹きつける囲い込み効果が存在するだろう。また、競争相手が既にポイント制度を導入しているのならば、競争相手に引き寄せられそうな消費者を自社に呼び戻す囲い込み効果が存在すると考えられる。

しかし、両者がポイント制度を導入していない状態から両者ともポイント制度を導入している状態へと変わったところで、市場規模全体が大きくなるのであろうか?製品やサービスそのものが変わらない限りは、市場規模全体は大きく変化しないはずである。結局のところ、単純にポイント制度を導入しても、それだけでは、長期的にはシステムを構築するコストの分だけ両者が損害を被った、という事態が発生しかねない。既にお気づきの方も多いであろうが、お互いが相手の手を読んで、最適な反応をしたにも関わらず、両者にとって、望ましくない状況に陥っているわけで、これは「囚人のジレンマ」の典型的な例である。

電子マネー・ポイント制度の社会的意義

長期的に見て電子マネー・ポイント制度に囲い込み効果がないとすると、これらの制度に社会的意義はない、あるいは単に現金のやり取りがIT化されたに過ぎないと考えた方がよいのであろうか。通常の通貨と電子マネー・ポイント制度の大きな相違点は、前者ならば個々人の購入履歴などを収集できるが、後者ではそれが不可能だということである。確かに紙幣には番号がついているが、個々人の購入履歴まで把握することは中央銀行といえども不可能である。しかし、電子マネーやポイントの発行体は、利用者の購入履歴を把握することが可能である。

情報収集の手段として電子マネー・ポイント制度を捉えるとなると、プライバシーの観点から問題が提起されることも多い。企業側が利益を得るのみで、消費者が一方的に損害を被るのではないか、あるいは、電子マネーやポイント制度が我々の生活の全てを覆いつくし、ジョージ・オーウェルが「1984年」で描いたような監視社会が到来するのではないか、とまで考える人がいるが、それは極めて一面的な見方である。通常の通貨が存在する以上、消費者側から見ると、常に電子マネーと通常の通貨を選択する余地がある。もし、電子マネーを使うことで消費者に利益が生じない、あるいは、かえって損害を被るのであれば、通常の通貨を支払い手段として選択するだろう。電子マネーの発行枚数や発行残高、ポイントの残高が順調に増えていることは、電子マネー・ポイント制度が消費者にとって何がしかの利益があることの証拠に他ならない。

電子マネー・ポイント制度による消費者のメリット

では、消費者側のメリットとは何か。一つ考えられることは、特定の店舗で購入し続けることを約束すること(正確にはコミットメントすること)によって、値引きなどのサービスを受けることが可能なことである。同じ店で購入し続けるかわりに単価を安くするという長期契約を結ぶことには消費者と企業双方にとって利益を生む余地があると考えるべきである。

伝統的には商店街が顔なじみの客とそのような契約を暗黙のうちに結んでいたと考えられる。しかし、量販店やネットショッピングなどでは、顔なじみの客とそうでない客を、容易に区別できないという情報の非対称性が存在した。ポイント制度はこの両者をIT利用によって識別しようとするものと位置づけられる。

2つ目は消費者の嗜好を消費者本人は知っているが、企業側は知らないという情報の非対称性を緩和することによって、ポイントが受け取れる、あるいは最適な製品を入手できるというメリットである。ここでパソコン市場を例に、このような情報の非対称性について考えてみたい。パソコンを購入しようとする消費者の中には、メールが使え、ブラウザで文字情報を見られればそれで十分、という消費者もいれば、動画の編集などの大容量のデータを扱いたいという消費者もいるであろう。

企業側がこうした消費者の個々の嗜好を無視して、平均的なスペックのパソコンを平均的な価格で顧客に売ろうとすることはありえないだろう。実際には、スペックの高い製品から低い製品までフルラインで揃えるか、一部の顧客をターゲットに絞った製品を発売するのかいずれかであろう。問題は、企業が販売する際に個々の消費者の嗜好が分からないため、目の前の顧客にどのようなスペックの製品をどのような価格で販売すればよいのか容易に判断がつかないことである。1つの解決策として、顧客の過去の購買履歴を見ることで顧客の嗜好を把握するという方法がある。ポイント制度によって、消費者が情報を提供する対価としてポイントを得る一方、企業としても最適な財・サービスを提供できるのならば、消費者と企業双方にとって利益があると思われる。

電子マネー・ポイント制度の行方

言うまでもなく、電子マネー・ポイント制度はITという技術進歩によって生まれたシステムである。しかし、偶然の産物かもしれないが、企業と消費者双方にメリットをもたらす形で社会に導入されたことで、工学的な意味での技術進歩が、社会全体に広く浸透した代表例であると考えられよう。

今後、電子マネー・ポイント制度の勢力図はどのように移り変わっていくのであろうか。自然に淘汰が進み、特定のポイント制度・電子マネーのみが生き残るとの見方もあれば、クレジットカードのように、共通端末化が進むことで、ブランド間での差は徐々に消滅する形で共存が可能との見方もある。いずれにせよ、システムを維持することに見合ったメリットが存在しなければ、そのポイント制度・電子マネーは最終的に消滅すると思われる。一時的な「囲い込み効果」にすがるのではなく、データの分析などを通じて、情報の非対称性を緩和し、消費者の多様化する嗜好を把握することが、会社にとって必要不可欠であり、同時に消費者にとっての利益につながる。企業と消費者の間でWin-Winな関係が生み出せるかどうかが、個々の電子マネー・ポイント制度の行く末を決める分水嶺となろう。

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河野顔写真

河野 敏鑑(こうの としあき)
(株)富士通総研 経済研究所 研究員
2002年 東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。2002年4月 東京大学大学院経済学研究科博士課程(~現在) 。2006年 (株)富士通総研経済研究所入社。
専門領域は公共経済、社会保障・医療経済、制度の経済学。