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「人間関係のアームズ・レングス」、理想とする地域SNSとは?

2008年6月24日(火曜日)

地域SNSでは、それを利用することによって地域活性化に結びつくことが期待されている。そのためか、地域に関する情報について地域に住む人々が意見交換をし、地域活動に密着した強い結びつきの関係性が称えられがちである。 しかし、地域SNS利用者に対して行ったアンケート調査の記述自由回答から、むしろお互いに「付かず離れず」の適度な距離を保つという、「人との距離を示す言葉」が浮かび上がってきた。

調査概要と上位結果

富士通総研経済研究所は、2007年9月に、地域SNSを利用している人を対象に利用動向等についてアンケート調査を行った(以下、「地域SNSアンケート」) (*1) 。その中で「理想とする地域SNS」について任意に記述してもらったところ (*2) 、対象者1,648人中、1,250人からの記述回答を得た。そのテキストデータを用いて、テキスト・マイニング (*3) を行った結果、上位5位は以下の通りとなり、意味が通るように1位から順番に並べると、「地域みんなが自由に意見交換できる場」となった(表1)。

(表1)記述回答で多く利用されていた言葉のランキング上位5位

順位 キーワード 出現度数(回)
1 地域 168
2 みんな(の/と/で/が)・誰(もが/でも) 77
3 自由(で/な/に) 64
4 意見交換できる 63
5 51

上位には含まれていないが、「一部の人たちだけではない」(11回)、「大勢/多くの人(が/の/に)」(9回)という記述を考慮すると、地域SNSには、部分的な参加や盛り上がりではなく、地域全体で参加できる大規模プラットフォームとなることが求められていると考えることが出来る。

SNSを頻繁に利用したり発言したりする利用者を「アクティブ・ユーザー」、そうではなく消極的に関わっている利用者を「ノン・アクティブ・ユーザー」と呼び、二者の利用傾向のギャップが時々指摘されるが、現在の日本各地の地域SNSは、アクティブ・ユーザーの牽引力、発言力や努力に依存し、ノン・アクティブ・ユーザーに「いかに利用してもらうか」が課題となっている。記述回答の中には「お年寄りにもわかりやすく」、「小中学生も」という意見もあった。また、登録していても利用しないノン・アクティブ・ユーザーどころか、地域SNS自体に参加していない地域住民が圧倒的に多い。現状としては、日本の地域SNSは、まだ部分的な利用にとどまっており、だからこそ今後どう転ぶかの展開が重要である。

2008年2月に紹介させていただいた「パリ発・地域SNSのコミュニティ・デザイン」の中で触れたが、Peupladeというフランスの地域SNSでは、保護者が一緒に操作すれば、子供達もSNS内で友人にメッセージを送ることが可能である。筆者が把握している限りでは、日本には公式に小中学生が利用できるSNSは存在しておらず、今後は例えば、ネット上でのコミュニケーション・マナーの教育等も踏まえ、地域SNSをそのような場にすることは可能かもしれない。また、地域SNSと地域SNSの連携等においても、姉妹都市関係にある市・地域の連携であれば、小中学生の姉妹都市交流イベント等でSNSを利用することも考えられる。

地域SNS内でのアームズ・レングス的な距離感

アームズ・レングスとは、「税制や通商法などで、互いに支配・従属関係にない当事者間において成立するであろう取引条件や価格を基準とする考え方」 (*4) で、英語の意味をそのままとると「腕の長さ」、つまり、取引関係等では、誰に対しても腕の長さ程度の対等な立場を互いにとることを表し、人間関係では、相手に対して距離を置いた関係性を示す言葉である。Brian Uzzi (1996) (*5) は、米国のアパレル業界における関係性について、この「アームズ・レングス」という言葉を使って分析している。

記述回答を分析した上位の結果は、前述の通りではあるが、今度は、いくつかの言葉を概念としてまとめ、「人間と人間の距離感」について分析した結果、「付かず離れず」という、他の利用者に対して一定の距離を置く言葉が、密な関係を示す言葉の3.5倍出現していることがわかった(表2)。

(表2)「人との距離のある関係」と「人との密な関係」示す言葉

カテゴリ キーワード 出現合計(回)
人との距離のある関係を示す言葉
付かず離れず、深く干渉しない、深い交流ではなく、距離のある関係、ほどほどの関係、ほどほどの付き合い、親密になり過ぎない、距離を置いた、距離感のある、干渉し過ぎない関係、感情移入しすぎない付き合い、深く関わらない、べったりとしすぎない、踏み込まない、濃すぎない、いい距離を保った、粘着質な人がいない、馴れ合いではない、匿名の 49
人との密な関係を示す言葉 親密な関係、希薄な関係ではない関係、深い交流関係、バックグラウンドが解らない人が存在しない、密な交流、強い結びつき、実名の 14

関連の回答としては、「押し付けがましくない」、「あまり積極的でなくてもかまわない、といったムードがあっても良い」という記述も見られ、コミットメントを求められ深く付き合ってゆくよりは、一定の距離を保ちつつゆるやかに地域SNSを利用して行きたいと思う意見が多い。

「人との距離のある関係を示す言葉」について、カテゴリーによる違いを見るために(1)男女別、(2)子供の有無、(3)住んでいる地方(北海道・東北、関東、中部・近畿、中国・四国・九州)でそれぞれクロス集計を行ったが、いずれも有意な結果は得られなかった。

密な関係のベースとなる「信頼」

一方で、SNS研究では「ソーシャル・キャピタル」という言葉がよく用いられ、信頼できる関係性等についての分析は多い。「地域SNSアンケート」でも、利用者同士の「信頼」を求める記述が少なくない。「信頼」、「信頼関係」、「信頼性」、「信頼感」、「信頼できる」、「信頼のおける」という言葉をすべて合算すると、16位(26回)となる。

相手が搾取的ではない、悪意を持っていない、と判断するには、ある程度のコミュニケーションの蓄積や1回限りではない付き合いがベースとなるのではないかと推察される。

人との密な関係を示す概念は、「信頼」を前提としており、これらの言葉が含まれるため、出現度数が(表2よりも)多くなるのか、もともと地域SNSは、狭い地域(都道府県)の住民を第一の利用者としているため、密な関係は既にある程度構築されており、出現度数が少ないのか、それとも、信頼と密な関係性は別なものと位置づけられるのか、さらなる研究が必要である。

今回の分析で浮かび上がってきたことは、地域SNS以外の、例えば、企業のイントラネット内のSNSなどについても同様にあてはまることなのかどうかについても、検討しなければならないだろう。

注釈

  1. 富士通総研経済研究所が2007年9月に実施したウェブアンケート調査。
  2. 本質問項目は、必須ではなく、回答者は回答したくなければスキップすることができる。
  3. 方法は、回答者の回答を、文節で区切り、その言葉の利用頻度を数えるというシンプルなものである。「地域SNSアンケート」によって得られた記述回答全体の33,663単語を対象に分析した。
  4. 大辞泉より(Yahoo!辞書)
    http://dic.yahoo.co.jp/dsearch?enc=UTF-8&p=%E3%82%8B&dtype=0&stype=3&dname=0na&pagenum=1&index=00011900006450
  5. Uzzi, Brian (1996). “The Sources and Consequences of Embeddedness for the Economic Performance of Organizations: The Network Effect”. American Sociology Review, 1996, Vol. 61 (August: 674-698)

吉田倫子(よしだ みちこ)
2001年4月、(株)富士通総研入社、経済研究所配属。日本経済研究センター、欧州委員会(ベルギー)税関税同盟総局付加価値税局研修生を経て、現在、経済研究所上級研究員。