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食品流通業の今後の機能開発とIT戦略

2007年12月4日(火曜日)

食品流通業は、これまで生産性向上のためのサプライチェーンオペレーションの効率化や、 リードタイム短縮や納品精度向上といったサービスレベルの向上を主たる目標としてサプライチェーンの高度化に取り組ん できました。そしてこの成果として、ローコストで均質な広域サプライチェーンが実現され、その結果小売業に対しては店 舗拡大や出店の自由度という重要な戦略オプションを提供し、これに伴う消費者への購買利便性に貢献してきました。

しかしこうした努力による果実も、モノを運ぶという物理的コンディションに内在する効率 化の限界と、サービスの高度化が規模やシェアの拡大ほどには投資収益に還元されにくくなってきているという実態から、 戦略としての有効性はほぼ臨界域に達しつつあると考えなければならなくなってきたのではないでしょうか。

もしそうであるとすれば、食品流通業は今後の成長に向けて新たな軸足を見出し機能開発し てゆく必要があります。では、どのような機能が必要とされるのでしょうか?

「安心・安全」保障機能

今日、消費者の食に対する「安心・安全」の関心は高まってきていて、この傾向は長期に続 くと思われます。振り返って、食品流通の持つ多段階流通過程の中では、不完全ながら取引の中の相互作用による「安心・ 安全」保障機能が内在されていたと見ることができます。比較論でいえば、生産・流通・販売の一体的オペレーションより 、それぞれが独立したオペレーションの方が相互牽制により「安心・安全」が担保できるとういことですが、これまでは、 一義的には産地、生産者や製造企業が保障(ブランド化)し、以降の流通過程はこれを補完する役割でしかなかったわけで す。しかし、広域配荷やチルド/コールドチェーンのインフラ整備によって流通アイテムが拡大したことによって生じる問題 商品拡散の懸念、Eコマースによる流通経路の多様化に伴って本来流通段階で担っていた商品評価機能の劣化、需給や収益を 過度に優先するあまり生ずる不正な生産や在庫管理等、「安心・安全」保障機能の脆弱性が露出し始めています。そして、 こうした脆弱性は単に一過性の事故に留まることなく、多くの場合、企業の存続に繋がり、サプライチェーン全体のダメー ジに繋がることは数多くの残念な事例が示す通りです。

こうした脆弱性を抑止するためには、行政による消費者保護観点での規制の強化や各企業の コンプライアンス保障は当然のことですが、さらに加えてトータルのサプライチェーンの中で「生きた目」で「相互」にコ ントロールするという機能実装が必要と思われます。流通業がこうした「安心・安全」機能を実装して、明示的なサービス として確立できれば、ブランドとして広く認知されていない、しかしながら有望な商品に関してビジネス機会を拡大するこ とができ、また何より社会、消費者に対し無くてはならないサービスブランドを確立できる筈です。

サービスネットワーク指向サプライチェーン

食品流通は、少子化、高齢化の中で全体の総需要量が減ることはあっても増えることはない という大変厳しい時代に直面していますが、食の提供サービス、あるいは食の提供を含むライフサポートとして捉えた場合 、外食・給食・介護食・栄養管理サービスやケータリング、家庭宅配など、まだまだ多様な発展余地を残していると思われ ます。そして、高齢化等の影響を考えると、サービス付加価値の比重の大きい食品流通ほど発展余地を残していると考えら れます。

従って今後、大量消費チャネルからサービス指向型チャネルの形成やそれらへの関与は重要 な戦略課題といえます。サービス指向型チャネルの特徴はそれぞれのビジネスが固有のコンセプトとサービスモデルを持っ ており、大量消費チャネルと比較した場合、オペレーション対応が非効率であるように思われます。また、サービス指向と いうことで考えれば、そのことは川上レベルにも影響し、これまで以上のサプライチェーンサービスレベルが要求されるか もしれません。

また、こうした高いハードルを越えるためには、今後複数カテゴリ対応のための共同配送( 水平連携)や家庭までのラスト1km対応のための宅配事業者とのリレー配送(垂直連携)など新たな連携が必要となります 。

しかし、モノのネットワークから、サービスに包まれたモノのネットワークへの対応は食品 流通業の機能を新たに創造し、自らの付加価値を主張可能にできると思われます。

今後のIT戦略「SaaS」(*1)

さて、それではこうした新たな戦略的サプライチェーン機能を実装するためにはどうすれば 良いのでしょうか。その鍵はITにあります。

食品の生産・流通・消費過程ではモノとしての食品の生産・流通の効率化は当然必要ですが、これからの機能開発には加 えてサービスの高度化が重要になると考えられます。先に挙げた例でなぞれば、単独の企業が「安心・安全」というサービ スを提供するという形もあるでしょうし、複数の関係企業がアライアンスによって高度なサービスネットワークを構築する という形態もでてくるでしょう。そして、そうした仕組みが現実にワークするためには、これまで以上に膨大な情報をスマ ートに処理し効率的にサービスを提供できるようにする必要があります。ここまではコンピュータの処理、ここからは人の 業務、或いはここまでは私の業務、ここからはそちらの業務、といったまどろっこしいやり方ではとても実現はおぼつかな いでしょう。サービスの高度化のためには、それぞれのサービス要素がIT化(ソフトウェア化)され、それぞれのサービス 要素がコーディネートされた全体サービスから柔軟にかつ自動的に利用できる環境、まさにソフトウ ェア化されたサービス(=SaaS)環境(*2)を整備していく必要があります。

注釈

(*1)SaaS(Software as a Service)とは、WEB2.0のキーワードのひとつとして語られる「サービスと してのソフトウェア」のことで、一般にはソフトウェアを資産として購入するのではなく、利用量に応じてサービス使用料 として料金を支払う形態を指す。

(*2)サービスのソフトウェア化は、各プレーヤーの保有する情報(例えば商品情報や出荷先情報)や これらをハンドリングするシステムの開示・オープンソース化によってドライブされると考えられる。既に「駅すぱあと」 や航空会社の発券予約システムは企業の出張申請システムに組み込まれて活用されている。 例えば、大分のマンゴー「太陽 のたまご」。どこで売っているか知りたい、といった場合 産地で配荷している市場や流通業者の情報を取得し、流通業者か ら小売業者情報を取得する、といったサービスが考えられる。さらにはその店までの地図、道順がわかる。こうしたインテ グレートされたサービスはそれぞれのプレーヤーがそれぞれの持分のサービスをソフトウェア化して提供することにより実 現できる。かつては、このようなサービスを実現するためには各プレーヤーの情報を集約するためのプラットフォームサー ビスが必要であったが、マッシュアップ等の技術によって容易に実現できる時代になってきている。

関連サービス

【業務プロセス】

【流通・サービス】


渡辺事業部長顔写真

渡辺 南(わたなべ みなみ)
(株)富士通総研 流通コンサルティング事業部長
1979年富士通(株)入社。1988年(株)富士通総研へ出向。2006年より現職。
流通ビジネスを中心とした事業革新・ビジネスプロセス革新、企業統合・合併に伴うシステム統合計画立案、顧客関係戦略 の立案・顧客マネジメントプロセス立案、数理計画・シミュレーションモデルの応用システム企画 に従事。
著書に「差延の戦略」(富士通ブックス1995)、「リレーションプロセスマネジメント」 (ダイヤモンド社1999)など。