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内部統制を企業経営に活かす

2007年11月5日(月曜日)

金融商品取引法の施行に伴い、対象企業における内部統制の運用が、早くも半年後に迫ってきた。文書化や不備改善などの対応でご苦労されている企業も多いことと思う。

我々も多くの内部統制構築プロジェクトに参加しているが、いまだに次のような言葉を聞く。「何のためにこのようなことを行わなければならないのか?」

本来、内部統制は企業統治の手段の一つであり、今回の法制度導入と対応をきっかけに、合理的な企業統治の仕組みにつなげることが、企業にとって最も重要な課題であると考えている。もちろん、企業統治は各企業において色々な手段で実現されているものであろうが、相対する説明責任と併せ、標準的な尺度で評価されることも重要である。

本文ではこのような観点から、内部統制の構築と企業経営における活用について述べる。

内部統制と企業統治

内部統制では、企業活動の基準となる「守るべき規約」、その規約を「守るためのプロセス」、プロセスを正しく「守っている証拠」という視点で、企業における統制の構築と評価を行う。この「規約」「プロセス」「証拠」から成る構造は、まさに企業統治そのもの、と言っても過言ではない。

もちろん、この統制だけが企業統治のための方法という訳ではない。例えば、最終的には財務諸表に集約される様々な数値による管理(予算管理等)、決裁権を用いた業務執行管理、人事権などの執行を通じた人事・組織管理など、色々な方法が用いられる。

今回の金融商品取引法に係る内部統制は、「財務報告の信頼性」という一つの目的に限定されたものである。換言すれば、「統制の正しさに拠って財務報告の信頼性を担保する」という主旨と理解できる。従って、全ての企業活動の中から、特に財務・会計に深く関係する活動の部分を取り出し、その活動について統制の構築を義務付けられている、という解釈になる。これは企業統治という観点からは目的を限定した部分的な統治とも言える。

しかし、次に述べる理由により、内部統制を企業統治のための一つの手段として認識の上、今回の法制度への対応をきっかけに、統制の目的を大きく捉え、企業経営の視点から重要な課題として取り組むべきであると考える。

まず、企業個々の業態や実状にもよるが、内部の活動を全て把握しその正当性や正確性を常に確認することは、組織の規模や業務連関の複雑性、または業務そのものの専門性などの理由によって極めて難しい、という現実は残念ながら否定できないこと。次に、企業を取り巻く経済、技術、社会などの環境は急速かつダイナミックに変化し、企業に対し短期間で大変大きなインパクトを与える可能性がある、という内外両面の実態である。

このような現実を整理すると、企業や企業経営者は相当なリスクにさらされているにも拘らず、的確な対応が執れる準備は不十分であるという認識である。

企業にとって本当に重要なことは自らの持続的発展のために、現状を把握し企業内部の透明性を高め、様々な環境変化によるインパクトに対して的確な対応が執れるよう常に備えておくことである。今回の内部統制構築は法制度への対応として避けて通れないことであるが、それを負担とせず企業統治に向けたきっかけとして捉えるべきである。

内部統制構築の現状

では、内部統制構築の現状はどうか。

内部統制の状況を評価する標準的な尺度ということを言ったが、「実施基準」などのガイドラインが示されてはいるものの、まだまだ曖昧であることは否めない。このような中で、金融商品取引法への現時点での対応ということになると、米国におけるSOX法対応や、国内におけるこれまでの対応作業での監査的解釈など、経験的な対応解を現実的な尺度とせざるを得ないのが実状である。

また、早くは半年後から運用開始という時間的制約や費用、改善規模などの問題から、まずは統制としての最低限の要件を満たす対応を採らざるを得ない、という判断もある。

従って、「当面」という時間軸で捉えると、まずは形式要件を満たし「監査に通るレベル」の内部統制構築、という初期段階の対応に拠ることも多い。

先行している米国の場合も、結局はこのような考え方で対応した事例が多いという報告もあるが、一方で、運用開始後の負荷やコストの問題が顕在化しつつあり、継続的な見直しが改めて求められている。

「監査に通るレベル」という段階では、例えば職務分掌やアクセス管理などにおいての現実的な対応を考えると、どうしても人手による対応の負荷増加や、職務・職責の分離による煩雑さの発生など、「何故こんなことを」という現場の疑問と不満が生じる場合も多々ある。統制では不正が生じないよう牽制と抑止の機能を持ち込むために、第三者の承認・確認というプロセスを介在させるというのが最も典型的な方法であり、効率や簡便さを犠牲にする場合もある。

このような疑問や不満を抱く現場に対して、内部統制の目的と意義を明確に伝え理解させることは、企業経営に携わる立場の方にとっては極めて重要なことである。その意味でも、内部統制は企業統治の一つの手段という認識と、それが企業にとっていかに重要なことであるかということを、是非、理解頂きたいものと思う。

さて段階的な対応という考えから、次段階ではコストを抑制し「継続可能な統制」という考え方に基づく効率的な運用を実現すること、が課題になる。そもそも統制においては、人の介在による恣意的な操作の排除が望ましいとされており、この要件と併せて、内部統制運用の効率化のための自動化手段の導入を進める、ということである。

最終的には、「統制の全体最適化」という観点で、統制のモニタリングの自動化などまでを考慮した全社的システムにおける対応、などを実現することが望ましい。

内部統制を経営に活かす

内部統制と企業統治の関係、内部統制の構築の現状などを述べてきたが、改めて内部統制を経営に活かす、という趣旨で整理したい。

私企業経営の第一の目的は、利潤の追求であることは論を俟たない。従って、企業経営は数字を中心に行われることも当然である。

しかしながら、昨今の不祥事の続出とその対応の様子を見れば、行き過ぎた「利益至上の経営」が社会から如何に糾弾され、企業そのものの存続さえ左右するという事実に改めて驚かされる。ほとんどの経営者が、「ああいう状況には立ちたくない」と思われているはずである。

では、現実の足元を振り返ってみた時、どれだけの方が「大丈夫」と断言できるであろうか。企業内部の透明性、経営者としての理解と把握など、企業統治と言いながらも必ずしも十分な状況ではないのではないか。冒頭の文節において、「企業統治と相対する説明責任」と表現したのは、企業活動とその説明の責任は共に経営者にあり、即ちその責任を果たすための統治は十分と言えるか、という問い掛けである。

今回の金融商品取引法で求める内部統制は、あくまでも「財務報告の信頼性」を目的としたものであり、正に誤った「利益至上の経営」を監視、是正するために、財務(数値)と現実の企業活動の紐付けを行い、その上で統制の明確化によって、経営者の財務報告に係る責任の確認を迫るものである。

しかし、実施基準に示された全社統制の評価項目の中に、「財務報告の信頼性」だけに限定されない唯一の評価項目がある。

「経営者は適切な経営理念や倫理規定に基づき、社内の制度が設計・運用され、原則を逸脱した行動が発見された場合には、適切に是正が行われるようになっているか。」

この評価項目は内部統制が、「財務報告の信頼性」に限らず企業活動全体の信頼性を担保するために、有効な手段であることを示す項目である、と理解している。特に、「適切な経営理念や倫理規定」という表現で、企業の法人としてのあるべき姿に触れている点が、単なる制度に止まらない、企業統治の手段としての考え方を示しているものと考える。

内部統制構築を通じたプロセスをはじめとする企業活動の見える化は、企業経営における透明性の確保と共に、様々なリスクに対して的確な対応を行えるよう、合理的な企業統治を実現するための貴重な「知的財産」になり得る。

今回の法制度への対応を一過性の表面的なものに終わらせず、企業経営の中で活用していかなくてはならない。

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小村 元(おむら はじめ)
富士通総研 取締役 第三コンサルティ ング本部長代理 兼 内部統制事業部長
富士通(株)入社後、官公庁、自治体分野のシステムエンジニアとして、主に公共系の業務シ ステムの構想立案、構築を担当。その後、コンサルタントとして「e-Japan」構想に対応したビジネス推進を担当。BC(BusinessContinuity:事業継続性)等の対応と共に内部統制についてのコンサルティ ングに従事。