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海外金融業界動向「金融業界におけるSOAへの取り組み」

2007年5月14日(月曜日)

わが国はもとより、世界的に見ても金融業界における「総合金融サービス化」の流れは一段と加速されているように見受けられます。こうした背景を受けて、それぞれの金融機関もリテール分野を中心として新たな商品やサービスの開発に鎬を削る様相を呈していると言っても過言ではないでしょう。一方では、金融商品のコモディティ化が進んでいることから、「規模の経済性」を追求するための合併や統合も引き続き、内外で進行している状況です。このような経営環境の変化から、さまざまな業務戦略を実行する上で、情報システム構築のスピード・アップが求められています。そこで今回は、近年、注目されているSOA(Service Oriented Architecture)と総称される最新の情報技術が欧米の金融機関においてどのように適用、活用されているのか、その一端をご紹介したいと思います。

1. 認知度と適用が進むSOA

「総合金融サービス」を展開する上で伝統的な銀行が取り扱ってこなかった「投資商品」や「保険商品」などの販売を情報システムとしていかに支援するか各金融機関も頭を痛めています。また、そうした変化を踏まえた個人向けのマーケティング戦略も根本的な見直しを迫られています。

経営レベルやエンドユーザからこれらの要請を受けて、システム部門としては既存システムの見直しや機能追加を迫られています。その解決策として、SOAに対する認識と期待が次第に高まっています。ある調査会社によるアンケートの結果によれば、金融機関のCIOの90%が既にSOAに関する知識を保有しており、さらに20%前後の金融機関がSOAを活用して何らかの形で既存システムをマイグレーションしていると報告されています。

2. CIOから見たSOA適用の期待効果

それでは、金融機関の情報戦略を統括するCIOがどこにSOAの適用価値や課題解決の可能性を見出しているのでしょうか。

まず、第一には、新商品対応などで既存システムに直接、大幅な修正や改造を加えることなく、例えば外付けで有力なパッケージを導入しながら既存システムと連携させることができることです。従って、第二にはスピーディーにシステム対応が図れる点です。また、第三には、結果的にシステム開発の効率性や柔軟性が高まることです。さらには、組織横断的に共通的なシステム機能を標準化することもできるのではないかと言われています。

既に、かなりのシステム資産を保有している金融機関にとっては、投資を抑制しながら、ユーザ部門からの要請に対して迅速に対応できるアプローチと期待されています。

3. SOAの具体的な適用事例とアプローチ

それでは、欧米の金融機関でどのように適用されているのか、具体的な事例をご紹介したいと思います。

まず、米国のある地域金融機関ではリテール・ビジネスを強化するために既存顧客との取引シェアを高める新たなマーケティング戦略を策定しました。それを実現するための目玉となったのが米銀流の徹底した顧客差別化戦略で、顧客ごとに取引実績や与信リスクなどを勘案した金利設定を行う”Relationship Pricing”と呼ばれるシステム機能の追加開発が求められました。既存の基幹系システムに大幅な修正や改造をすることはコスト面から決して得策ではなく、いわんや基幹系システムを入れ替えることはリスクが高くて採用できない状況でした。そこで、汎用的な”Pricingエンジン”を基幹系システムの外側に導入して、基幹系システムとの連携にSOAを活用しました。

また、前回、基幹系システムの再構築にJava技術を段階的に適用しているスペインを本拠地とするBanco Santanderも、フロントの営業支援のPortalサイト構築や与信判断のためのワークフローをサポートするBusiness Process Managementの導入にSOAを活用しています。

このように、高度化が求められるマーケティング戦略への対応やリスク管理の強化などはいずれの金融機関も直面しているシステム課題です。これらの課題に対してSOAを駆使してシステム構築を効率化、迅速化している事例は年々、増加している傾向にあります。

4. わが国金融機関に対する示唆

最近、わが国の金融機関でも収益が回復しつつあることから、情報システム投資に対して積極的なスタンスに転換しつつあります。しかしながら、巷間、「2007年問題」として懸念されているように、大規模なシステム設計を経験しているベテラン社員が次第に実務の第一線を退いていく時期を迎えて、基幹系システムをいかに維持、更改していくかという課題はいずれの金融機関でも解決を迫られています。わが国金融機関はかつて、およそ10年サイクルで勘定系システムを更改してきましたが、現在のような規制緩和が進み、変化が激しい時代に果たして同じようなアプローチや方策が採用できるでしょうか。むしろ、システム部門の若手の後継者育成という点からも、漸進的かつ段階的なシステム更改をせざるを得ない状況です。そうした観点からも、SOAを応用したシステム構築アプローチは効果的と言えるでしょう。

今や、金融機関の情報システムは社会経済活動の根幹を担う仕組みとして、瞬時と言えども停止させられないミッション・クリティカルなインフラとなっています。そうした厳しい運用環境の中で、一方では差別化や付加価値増大を追求せざるを得ない金融機関として、既存システムを極力、有効活用しながら安全、堅実にシステムを高度化していく上でSOAの適用が有効ではないでしょうか。

金融業界におけるSOAへの取り組み [232KB]


田村 雅靖(たむら まさやす)
金融コンサルティング事業部 プリンシパルコンサルタント
1979年富士通(株)入社。1986年(株)富士通総研へ出向。銀行、証券、保険及びノンバンク(クレジット・信販、リース)など広義の金融業界の顧客向けに「経営管理」や「マーケティング」などのアプリケーション企画、ソリューション企画等を中心としたビジョン策定型、問題解決型コンサルタントとして活動中。
中小企業診断士、システム監査技術者、特種情報処理技術者、富士通コンサルタント認定資格:シニアマネジングコンサルタント(経営)