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海外金融業界動向「基幹系システムの再構築とオープン化」

2007年4月17日(火曜日)

わが国はもとより、世界的に見ても金融業界における「総合金融サービス化」の流れがますます鮮明になりつつあることを受けて、リテール分野を中心とした商品やサービスの開発競争が一段と厳しくなっています。同時に、内外の金融業界で起こっている業界の再編の動きはこれらに更に拍車を駆けています。このような経営環境の変化を背景にして、各金融機関は長年にわたってメンテナンスしてきた基幹系システムを見直そうとしています。従来、メインフレームで運用されてきた基幹系システムが積年の機能追加や改造によって構造的な歪みや脆弱さを抱えつつあることは確かですが、金融機関としての信頼性を象徴する基幹系システムの再構築は重大な経営判断を伴うことから、かなり慎重な取り組み姿勢が伺われます。そこで今回は、特に欧州の金融機関において基幹系システムをどのように再構築しようとしているか、その一端をご紹介したいと思います。

1. 顧客や商品の絞り込みによるリテール金融の棲み分け

「総合金融サービス」の対象が個人向けのリテール金融マーケットであることから、欧州の金融機関もターゲットとする顧客層や商品・サービスを絞り込む傾向が次第に鮮明になりつつあります。

具体的には、従来から富裕層をターゲットとするプライベート・バンキング分野は卓越した専門的な金融サービスで定評があり、伝統と歴史のある金融機関が顧客ごとに完結したサービスを提供してきました。一方、これらの富裕層を除く一般個人マーケット分野については、基本的な金融サービスを低コストで提供するトランザクション処理を志向する金融機関の他、近年の資産運用やそれに付帯するアドバイスを組み合わせて事業展開するセールス志向の金融機関に分化していく傾向が見られます。

2. ウェルス・マネジメントへの取り組みによる階層分化

リテール金融マーケットにおけるこのような分化を促している要因として、従来のマス個人層がその金融資産の蓄積によってセグメント分化しつつあることが根底にあるものと思われます。近年、世界的に注目されているウェルス・マネジメントと呼ばれる金融サービスはこのような市場の変化を捉えた取り組みと言えます。

トランザクション処理を志向する金融機関は、相対的に低い付加価値商品を低コストで大量に提供することを模索しているタイプで、伝統的には貯蓄金融機関と呼ばれてきたところが該当します。一方、ウェルス・マネジメントに対して積極的に取り組んでいる金融機関は、確立されたブランド力の上に幅広い金融商品を専門的なアドバイスを駆使しながら販売していくタイプで、いわゆるマス富裕層を今後のターゲット顧客と位置づけています。

3. ビジネスモデルに対応した基幹系システムの再構築

トランザクション志向の金融機関とセールス志向の金融機関との間では追求しようとしているビジネスモデルが本質的に異なることから、IT投資の狙い、バックオフィスで実現すべき競争力、そして基幹系システムを再構築するに当たっての課題や前提条件などは自ずと異なっています。

従って、営業基盤を同じくする欧州のリテール金融機関でもこのビジネスモデルによって基幹系システムを再構築するアプローチはIT戦略的な次元からいくつかの類型に分けられます。独自開発やメインフレームによる既存システムをメンテナンスしていく既定路線を踏襲していくところが大手金融機関を中心にして依然として多いのは確かですが、一方ではベンダーが提供するERPパッケージや業務パッケージなどを採用する大手金融機関も登場しており、今後の展開が注目されます。

やはり多くの金融機関が選択するアプローチは、既存のアプリケーション資産を有効に再利用することを前提にして、柔軟性や効率性、そして開発のスピード・アップなどを狙って、SOA(Service Oriented Architecture)を活用しながら段階的に基幹系システムをマイグレーションするものです。スペインを本拠地とするBanco Santanderは最近、英国のAbby National 銀行を買収して傘下に納めましたが、そうした合併や買収の効果を極力、短期間で実現するために既存システムを順次、Javaベースに移植することで基幹系システムを再構築しています。

4. わが国金融機関に対する示唆

最近、わが国の金融機関で長らく逐次的な機能追加に終始してきた勘定系システムを再構築しようとする取り組みが始まっています。古くは、およそ10年サイクルで抜本的に再構築されてきた勘定系システムですが、第三次オンライン以降、暫定的なメンテナンスを繰り返してきた結果、いよいよ構造的な非効率性が顕在化してきたようです。そうした勘定系システム再構築に取り組む上で、欧米の先行事例に学ぶべき点として、以下のようなポイントがあろうかと思います。

まずは、「金融改革プログラム」などでも指摘されているように、金融業界の構造が「製販分離」という変化を辿るとすれば、信頼性の実現は不変のものとしても、従来とは異なった再構築のアプローチもあり得ることです。次に、言うまでもなく、経営的な観点からの投資対効果をどのように見込んで、実現していくかということも重要な考慮点でしょう。そして、最後には、計り知れないプロジェクト・リスクをいかに見極めて然るべき対策を講じてコントロールしていくかということも極めて肝要なポイントです。

「金融改革プログラム」でも提唱されていた、「利用者がいつでも、どこでも、誰でも、適正な価格で、良質で多様な金融商品・サービスの選択肢にアクセス」できるような基幹システムの実現を目指して再構築に取り組むことが期待されています。

基幹系システムの再構築とオープン化 [322KB]


田村 雅靖(たむら まさやす)
金融コンサルティング事業部 プリンシパルコンサルタント
1979年富士通(株)入社。1986年(株)富士通総研へ出向。銀行、証券、保険及びノンバンク(クレジット・信販、リース)など広義の金融業界の顧客向けに「経営管理」や「マーケティング」などのアプリケーション企画、ソリューション企画等を中心としたビジョン策定型、問題解決型コンサルタントとして活動中。
中小企業診断士、システム監査技術者、特種情報処理技術者、富士通コンサルタント認定資格:シニアマネジングコンサルタント(経営)