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Japan

ブログ・SNSとイノベーション:アンケートからみる、ブログ・SNSの効果について

2007年4月4日(水曜日)

Web 2.0という動きとSNS

日本の情報技術革新は2000年のITバブルの崩壊で、一旦一つのステージが終わったが、その後ブロードバンドの普及が牽引役となって新たなブームが到来している。Web2.0もその一つである。個人の情報発信が極めて容易になる環境が整い、消費者が情報の受け手である時代は終焉し、消費者自らが情報発信し他の消費者と情報交換していく時代が到来している。関係者の情報共有性、相互関係性を、そのコミュニケーション・ツールが、ブログやSNS(Social Networking Services:ソーシャル・ネットワーキング・サービス)である。昨年9月には日本最大のSNSであるmixiが上場した。ここで、ブログ・SNSは、3つのステージに分けて考えることができる。1つ目は、消費者同士、2つめは、企業外(消費者または他企業)と企業内の接点として、3つ目は、企業内での土壌である。

企業活動とイノベーション

Web2.0の流れは、企業活動にも影響を与えてきている。企業のIT化がコスト削減だけでなく、企業内の情報の共有化と従業員の情報発信力の高まりを通じて価値創造をもたらす時代に入った。企業が仕事目的にブログやSNSを運営するケースが増えてきている。また、企業が、取引先や顧客との接点としてブログやSNSのようなツールを用いたり、競合となる同業他社をSNSの中に取り入れているケースがある。

社外のネットワークを活用して、研究開発等を行う企業が、それを他企業や消費者にわかるようアピールするケースが増えてきている。P&Gでは、「コネクト・アンド・ディベロップ(以下、C&D)」としてイノベーションのために社内・社外のネットワークを生かしている。我々は、「外部研究機関との接点としてのSNS」利用と、「案件を取り込んだ後の土壌としてのSNS」というパターンがあると考え、P&Gへヒアリング調査を行った。

C&Dで重要なことは、単に社外にのみ目を向けているのではなく、社内の従業員を重視し、さらに、外部で開発を行うのではなく、一度社内に取り込んでから社内で開発を行うことを前提としていることである。そのため、「C&Dは、アウトソーシングだと思われがちだが、実際は“インソース”である」とインタビューに答えて下さった。自分たちの強みを生かすために、足りない部分を外部から採用する。また、外部とのコラボレーションは、「早くお客様にこういう商品を出してあげたい」という、社員一人ひとりの「思い」があるから成立する。

様々な利用シーン(1)組織内活用

仕事にブログやSNSを導入することは、企業内部のワークスタイルにも影響を与える。例えば、事業部制のように縦割りの組織の場合や、職制を通じた公式なコミュニケーションだけでは、共通の問題意識を持ったものが協働することは容易ではない。他社とのコラボレーションも困難である。それに対して、企業内におけるブログやSNSの利用は社員同士の自由なコミュニケーションを活発化させる。日記形式という、日々の出来事や感想などを手軽に書き込みができ情報発信ができるため、共通の問題意識を持つ社員同士が、コミュニティ内での議論を通じ、仕事内容の持つ接点をすり合わせ、お互いに欠けている視点や足りない意見を補充しあいながらコラボレーションを行うことを促すのである。ブログやSNSでは異なった分野の専門知識を持った社員同士が自分に必要な人・モノ・情報を見つける。

様々な利用シーン(2)対顧客活用

また顧客の潜在的なニーズを捕らえることもブログやSNSを利用して行うことが可能である。例えば、富士写真フイルムは、2005年11月に、開発者がブログ(NAURAブログ)上に顧客から寄せられた要望の機能を取り入れて、新しいカメラを開発した。マーケティングでは、売ったものだけのプロモーションだけではなく、次へのプロモーションへつなげなければならない。また、顧客の意見を吸い上げるだけではなく、次の商品を作る際に、開発者同士で顧客の意見を共有化していかなければならない。従来は、量販店や営業を通して、情報が散発的でバラバラの塊として入ってきていた。それに比べ、ブログの場合は、情報が一つの塊となり目に入ってくる。富士写真フイルムは、ブログが、商品の感想を消費者視点で、消費者の語り口調のまま語ることができる点に着目した。また、技術者サイドから伝えたいこともある。ブログでは消費者が語るだけではなく、技術者が技術に関する情報を小出しにできるし、情報量が細かいことも掲載できる。何よりも、技術者の「思い」を伝えやすい。

企業の研究開発セクションが顧客のニーズと離れていることはよくあることである。その際、開発者が顧客の声に耳を傾ける機会を増やすことが重要である。ブログやSNSは開発者と顧客の接点になりえるのである。ブログやSNSは、消費者と企業、企業と企業、企業内の従業員同士が「お互いに歩み寄ろうとする場」となる。単に一方通行の意見の吸い上げではなく、双方が歩み寄る気持ちを表すことができる場になる。

顧客に関する「気づき」の吸い上げが重要

Web2.0時代、企業のイノベーションにとって、ブログやSNSといったコミュニケーション・ツールを上手く活用して、顧客情報に関して社員が気づいた点を社内に取り入れ、情報共有し顧客満足度を高めるというプロセスを実行することがイノベーションをもたらすという仮説をたて、昨年8月に、従業員向け(2060人)と管理職向け(1030人)のアンケート調査を実施した。前者は業務でブログ・SNS等を利用している従業員であり、後者はブログ・SNSを仕事目的で利用している企業の管理職(経営者・役員クラス約35%、部課長クラス約65%)を対象とした。このことにより、従業員の見解と管理職の見解の双方から、ブログやSNSが社内において果たしている役割を検証することを試みた。

従業員向けアンケートの結果、ブログやSNSの利用は、単なる「連絡手段」もしくは「遊びのツール」に留まらず、従業員同士の活発な情報交換を促進しており、自分の個人的な経験や考え方や知識・スキルを他人と共有し、重要な情報を入手する手段として、そして社内における人脈を広げるといった目的で用いられていることがわかった。メールや掲示板に比べて、社員が主体的に意見交換することを促進する働きがあると考えられる。社員の職種別には、研究開発職や営業職の利用者が多いこという結果も出ている。

管理職アンケートの結果、ブログ・SNSの利用目的の一位が社内のコミュニケーションとナレッジマネジメントであった。企業内で利用することにより、従業員の情報収集時間が短縮される効果や視野が広がる効果も確認されている。ブログとSNSを比較するとSNSの方がこの点においてプラスの効果が大きい。ブログ・SNS利用のコミュニケーションに望むものという設問に対しては、「双方向で情報交換ができること」に続いて、「楽しさ」が挙げられている。「フラットな関係」を望む意見も多い。管理職アンケートでもブログ・SNSが単なる情報伝達以上の効果を挙げていることが伺える。特に管理職の視点からみて、ブログ・SNSに楽しさやフラットな関係を望んでいる点にも注目したい。会社内の序列や力関係をブログやSNSにあまり持ち込まない方がよいと推察できる。

「顧客について気づいたこと」についてのブログ・SNS内の情報交換については、営業職、店舗スタッフ、研究開発職で肯定的に答えている割合が高い結果となった。これらの職では情報交換が企業にとってプラスとなる新しい動きに結びついたという回答の割合も高かった。顧客に関する情報が、事業部をまたがってフランクに交換されることで、新しい製品・サービスの開発に結びつく。

最も重要なことは、両アンケートの結果、ブログ・SNS等を利用して顧客に関する「気づき」について情報交換することは企業のイノベーションに結びついていることが検証されたことである。富士写真フイルムの事例は例外的なケ-スではなく、すでにブログやSNSを利用している企業で成果が生じ始めていることが伺える。

管理職向けのアンケートでは、「気づき」に加え、ブログ・SNSを利用して企業内の失敗・成功事例の情報交換を行うことが企業のイノベーションを促進する効果があることもわかった。特に失敗事例を部署内に隠すのでなく、部署の壁を越えて共有化することが企業全体にとって望ましい。また、失敗事例だけではなく、成功談を社員が共有しあい、称えあうことも重要である。

顧客に関する情報は、メールや掲示板などでもやり取りされているが、ブログ・SNSでは社員同士がより自由に意見を述べ合う雰囲気がある。クロス集計の結果、ブログ・SNSを利用して顧客に関する「気づき」の情報交換を行っている場合、同時に共有しているものとして、「お互いを思いやる気持ち」、「夢・希望」、「価値観」、「お互いの心情・気持ち・性格・悩み事・心配事」、「アイデア・考え方」が挙げられた。

SNSは従業員同士の「思いやり」を醸成するか?

両アンケートの結果から、社内でブログ・SNSを利用した情報交換が行われるためには、豊かなソーシャル・キャピタル(円滑なコミュニケーションを行うことができる無形資本)が不可欠となる。社員間の信頼性が高く、互いにボランタリーにサポートしあう土壌が必要であることも確認された。企業内の部署の壁や地理的距離を越えて必要な情報を得るように、情報収集コストを削減することができるのがブログやSNSの重要な役割であるが、それは情報の出し手の信頼やおもいやり無くしては成立しない。また、社員が積極的に情報交換を行うためには、ブログやSNSで情報を出し合うことが評価の対象となり、金銭的な動機づけ(インセンティブ)あるいは非金銭的な報酬制度(表彰制度など)が組織から与えられることの重要性もアンケート結果は示している。

日本の情報技術革新は、企業内のコミュニケーションのあり方にも影響を与え始めている。ブログ・SNSは、従業員のメンタリティに関わる部分において、従来のツールと比較し、より効果的に入り込んでいる。その中で、従業員は、フラットな関係を求め、組織の壁を越えて情報交換し自発的にコラボレーションを行ってゆく。このような情報の流れの変化は企業の組織変革を促していく。ITを活用した新しい動きをポジティブに捉え活用していくことが企業に望まれる。情報の共有に留まらず、それを新製品・新サービス開発等のイノベーションにつなげ、企業価値の向上につなげていく仕組みづくりが肝要である。

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峰滝和典(みねたき かずのり)
民間研究所を経て2000年より、(株)富士通総研経済研究所主任研究員。
主な業績は、2001年大川出版賞受賞「ITエコノミー」(日本評論社,熊坂有三氏との共著)及び、2006年テレコム社会学賞受賞「日本経済と情報技術革新」(有斐閣、西村清彦氏との共著)。
専門はITと生産性分析。

吉田倫子(よしだ みちこ)
2001年4月、(株)富士通総研入社、経済研究所配属。日本経済研究センター、欧州委員会(ベルギー)税関税同盟総局付加価値税局研修生を経て、現在、経済研究所上級研究員。