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海外金融業界動向「情報統合化による顧客価値の向上」

2007年3月6日(火曜日)

全世界的に金融業界の規制緩和が進展していることを背景にして、リテール分野の競争はますます激化する様相を呈しています。規制緩和や自由化によって新たな商品やサービスが登場しつつあるのみならず、顧客接点も情報通信技術の進展によって多様化しています。このような環境の変化によって、従来、金融機関が推進してきた伝統的な顧客リレーションの維持や管理の手法は見直さざるを得ない状況になっています。一方、長年の顧客取引がデータとして次第に蓄積されてきたことから、取引履歴のみならず顧客の属性や嗜好などの情報はマーケティングを推進する上で貴重な情報資産となることも経験的に認識されつつあります。そこで今回は、欧米の金融機関においてリテール金融分野において効果的なマーケティングを実践するために、いかに情報を統合化して、分析や管理を行っているか、その一端をご紹介したいと思います。

1. 依然として活用されていない顧客情報

さまざまな資金の決済、調達および運用などの金融行動によって、顧客はその足跡を情報として金融機関のデータベースに残していますが、それらを十分に活用している金融機関は海外でも決して多くはないようです。

ある調査会社のリサーチによれば、総資産500億ドル以上の大手銀行のほとんどが膨大な顧客取引データを収集し、分類しながら数年かけてデータウェアハウスを構築しているにもかかわらず、それらの活用という点では決して手放しで評価できる水準を達成していないようです。具体的には、商品別の収益分析は対応できているものの、顧客別の収益分析となると必ずしも正確な数字ではない上に、営業現場でのサービス提供にかかわるコストなどが考慮されていないなど解決すべき課題が残されています。

2. ライフタイム・バリュー(LTV)に基づく取引推進

顧客情報の活用という点で先進的な金融機関では、単純な商品別の収益分析モデルのみならず、例えばActivity-Based Costing(活動原価計算)などの手法を応用することで、顧客のチャネル活用状況を収益に反映させるような取り組みをしています。

いずれにしても、これらの顧客データをマーケティング推進の上で、戦略的ないし戦術的に活用している大手金融機関は僅か5%程度ではないかと上記のリサーチを調査会社は推定しています。そうした先進的な金融機関では、複数の顧客分析モデルを活用してそれぞれの顧客のLTVを計算しながらセグメンテーションを行い、様々な施策によるLTVの変化をシミュレーションしながら取引推進を行っています。このような金融機関として、Royal Bank of CanadaやWashington Mutualなどが参考になりそうです。

3. 顧客価値をマネジメントするための情報基盤と分析モデル

基本的な顧客別の収益分析モデルを構築して、逐次、高度化していくためにも当然のことながら金融機関の各部門に散在している顧客データを収集し、正規化しながら蓄積、分析そして管理していく情報システム基盤が前提となります。その上に、商品別のプライシング、ABC分析、収益分析およびマイニングなどの各種の分析アプリケーションを順次、整備していくことになります。

既に、従来からこうした情報システム基盤は逐次、構築されてきましたが、エンドユーザ部門の要求が次第に高度化してきたために、顧客情報に対する鮮度の向上や対象範囲の拡大などが一段と厳しく求められるような段階に差しかかってきました。また、分析結果についても、CRM関連のアプリケーションと組み合わせながら情報を表示したり、指標を作成したりすることが求められています。

一方、肝心の分析アプリケーションを構築する際にも、わが国でもお馴染みのSASやSPSSなどの分析ツールを提供するベンダーの他、Business ObjectsやCognosなどのBusiness Intelligenceベンダーなどが分析目的ごとに適宜、組み合わせて利用されています。すなわち、金融機関内部での資金移転を行うためのプライシング・モデル、原価管理や採算分析などのためのABC分析モデル、顧客別の収益管理モデル、そして的確なプロモーションを行うための顧客分析モデルなどに適用されています。

4. わが国金融機関に対する示唆

わが国金融機関の多くでも以前に構築したデータウェアハウスが更改時期に差しかかっているかと思います。当時も「統合データベース」と銘打って、かなり大規模な投資が行われたかと思いますが、構築されたシステムは期待効果に十分応えられたのでしょうか。今後、こうした顧客価値を分析、管理するシステムを構築する上で留意すべき点としては、以下のような経験則を念頭におくべきかと思います。

まずは、金融ビジネスが地域に根ざしたものではありますが、単純なマーケット・シェアは収益性を保障する指標ではないことです。次に、安易なクロス・セリングも決して収益向上策として必ずしも有効ではないということです。逆に、社会経済指標のどのような切り口から分析してみてもほとんどすべてのセグメントに収益性の高い顧客が存在するということも意外と正しいようです。そして最後に、富裕層と見なされる顧客が必ずしもすべて収益性が高いという訳でもないということも留意すべきでしょう。

今やほとんどの顧客取引データはデジタル化されて金融機関のデータベースに蓄積されていますが、必ずしも十分にそれらが分析、活用されている訳ではないようです。わが国金融機関も資金量や口座数などの量的な拡大を競う時代は終わったようですが、金融機関の内部に蓄積されている貴重な顧客情報がまだまだ眠っていると言っても過言ではないような気がします。

情報統合化による顧客価値の向上 [374KB]


田村 雅靖(たむら まさやす)
金融コンサルティング事業部 プリンシパルコンサルタント
1979年富士通(株)入社。1986年(株)富士通総研へ出向。銀行、証券、保険及びノンバンク(クレジット・信販、リース)など広義の金融業界の顧客向けに「経営管理」や「マーケティング」などのアプリケーション企画、ソリューション企画等を中心としたビジョン策定型、問題解決型コンサルタントとして活動中。
中小企業診断士、システム監査技術者、特種情報処理技術者、富士通コンサルタント認定資格:シニアマネジングコンサルタント(経営)