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海外金融業界動向「ウェルス・マネジメント」

2006年11月16日(木曜日)

今回は、わが国で言われている「預かり資産営業」に相当するビジネス・モデルである「ウェルス・マネジメント(Wealth Management)」をテーマとして取り上げたいと思います。”Wealth”すなわち、富や財産をいかに管理、運用していくかは、ほとんどすべての個人が高い関心を抱いていますが、折しも今後10年程度にわたって、いわゆる「ベビー・ブーマー世代」からの次世代へ金融資産の移転が行われていくと想定されています。そうした観点から、今回は、欧米金融業界における「ウェルス・マネジメント」の動向についてご紹介したいと思います。

1. 熱い視線が集まる「ベビー・ブーマー世代」

何年か前から「マス富裕層(Mass Affluent)」という表現が金融業界で注目されています。 具体的には、40歳代から50歳代までの年齢層で、年間の家計所得が約10万ドル以上という世代をイメージして使われているようです。この世代は第二次世界大戦が終わった後に生まれた、いわゆる「ベビー・ブーマー世代」を指しているとも言えます。

従来、この世代はライフ・スタイルや流行、そして世論形成という点でも時代を特徴付けてきたという意味でも着目されてきました。特に、さまざまな業種において、それぞれの時代のマーケティングを形成する上で、言わばベンチマーキング的な位置づけを担ってきました。現在、欧米の金融業界もその例外ではなく、この「ベビー・ブーマー世代」に対して、近年の自由化や規制緩和によって可能となった「総合金融サービス」を積極的に仕掛けていこうとしています。

2. 「ベビー・ブーマー世代」の金融行動

そうした意味で、ある調査結果を分析すると、彼ら「ベビー・ブーマー世代」は金融行動という点でもいくつかの特徴的な傾向が観察されています。

例えば、彼らの金融資産はかなり多様な商品から構成されており、確かにその多くは銀行商品です。しかしながら、20%程度の個人は、自らのニーズに基づいて新たな金融商品の購入を計画しているという結果も得られています。また、金融商品に関する情報を得るチャネルとしてインターネットをかなり利用しており、前回取り上げたWeb2.0のような仕組みを積極的に活用しながら情報収集に務める一方で、最終的な契約手続きは営業店において対面取引で行うという堅実さを備えています。

このような行動様式からすると、当面は銀行の有するリレーションが有効に機能するでしょうが、今後の変化次第では安閑としているわけにはいかない状況です。

3. 「ウェルス・マネジメント」の実現に向けたソリューション

欧米の金融機関における「ウェルス・マネジメント」を実現しているプラットホームは大きく、個人顧客との相談やコンサルティングを行うためのフロント機能と、コンプライアンス管理などを担うミドル機能、そして契約書管理やアセット・アロケーション管理などのバック機能から構成されています。

フロント機能としては、ファイナンシャル・プランニングを支援する機能の他、前回も取り上げたCustomer Relationship Management(CRM)をベースとして、一連の顧客とのコンタクト履歴や口座情報のアグリゲーションなどの機能が揃えられています。ミドル機能としては、アセット・アロケーションなどのシミュレーション機能、法令遵守のためのコンプライアンス機能などから構成されています。また、バック機能としては、各種の取引データの統合管理、契約書などのドキュメント管理、そして資産運用ビジネス共通のデータ・リポジトリーなどの機能が揃えられています。

近年では、こうしたプラットホーム上に、ファイナンシャル・プランニングやアセット・アロケーションなどの共通的な機能がパッケージでカバーされています。

4. わが国金融業界にとっての示唆

このような「ベビー・ブーマー世代」が金融サービスを提供する上で魅力的な存在であることはわが国金融機関にとっても基本的には変わりはないのではないでしょうか。そうした仮説に基づいて、欧米金融機関による「ベビー・ブーマー世代」に対するマーケティング戦略の取り組みから学ぶべき問いかけを以下に述べたいと思います。

第一には、この「ベビー・ブーマー世代」を構成する個人顧客について、金融サービスを提供する立場としてどれほど熟知しているか、改めて自問自答してみるべきではないでしょうか。第二には、この世代が金融取引を行うにあたって、関連する情報をいかに収集し、それらを活用してどのような意思決定が行われているか、それらを十分に認識した上でプロモーションを行っているでしょうか。そして、最後に、第三として、この世代が今後の人生について、どのような計画や方針をもっているか、それらを推測できる情報を持っているでしょうか。

これらの問いかけに対する選択肢を洗い出し、それらに対する現実的なアプローチを検討し、実践する時期が到来しています。

わが国は既に「人口減少社会」に突入しました。一方で、高齢化も依然として進行しています。世界を見渡しても、これだけダイナミックな社会構造変化が進んでいる先進国が他にあるでしょうか。鳴り物入りで始まった「日本型401K」も相変わらず低迷しています。目先、公的年金制度の改革など社会的な「痛み」を伴う中で、将来への備えをするためにどのような金融サービスが求められているか、創意工夫が求められています。

ウェルス・マネジメント [274KB]


田村 雅靖(たむら まさやす)
金融コンサルティング事業部 プリンシパルコンサルタント
1979年富士通(株)入社。1986年(株)富士通総研へ出向。銀行、証券、保険及びノンバンク(クレジット・信販、リース)など広義の金融業界の顧客向けに「経営管理」や「マーケティング」などのアプリケーション企画、ソリューション企画等を中心としたビジョン策定型、問題解決型コンサルタントとして活動中。
中小企業診断士、システム監査技術者、特種情報処理技術者、富士通コンサルタント認定資格:シニアマネジングコンサルタント(経営)