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未来予測で元気な企業に

2006年8月10日(木曜日)

ここ数年、この先にある世界や事業、ターゲットを予測して描く、というプロジェクトを幾つか頂いている。未来予測にはどういうものがあり、何のために行うのか、そこにはどのような壁があるのかをまとめてみた。

未来予測のパターン

未来予測には、予測の最終ラインにより、大まかには3つのパターンがあるように思う。それぞれ目的も変わってくる。

(1) 近未来予測 3~5年先の環境や事業を予測する。主に企業の中期計画を立てるために実施
(2) 中未来予測 10年先の環境や事業を予測する。主に企業の研究開発の基本的な方向性を定めるために実施
(3) 遠未来予測 30年先の社会を予測する。主に省庁。国としての目指すロードマップの一環。

お気づきだろうか。この中で、あまり見かけないのは、(2)の中未来だ。 3~5年先の近未来であれば、現在を「詳細に観察する眼」と筋のよさそうな情報をキャッチする「アンテナ」があれば、そこから数年先に線を延ばしながらある程度確からしい筋書きを導き出し、企業としての向こう数年間の具体的目標をつくることはできる。

30年先の未来であれば、「夢」というものをどう描くか、という話に近くなってくる。外れても誰にもわからないので、そう精度を問われることもない。予測の筋書きは必要だけれど、ある意味「ここまで目指せればいいなぁ」という希望を込めて描ければいいということになる。

でも中未来はそうはいかない

企業が中未来を予測する理由

そもそも、企業が中未来を予測する目的は3つある。

  • 10年先の市場から見たときの、研究開発分野の妥当性検証
  • 10年先につくるべき商品・サービスイメージの全社共有
  • 10年先にはこういう世界を目指すというIR目的の意思表示

一つの技術をシーズから実用段階に乗せ普及させるまでに成長させるには10年かかる。今10年先を予測することは、今の研究開発シーズの中のどれに注力するかを選ぶ材料を作るということを意味する。予測の際には、技術・政策・社会経済のトレンド等の材料を混ぜながら創った潮流変化と新市場に、こういう社会にしていきたいという企業のビジョンを混ぜ込んで創り出すということになる。

ただし、そんなことをしなくても、技術開発の方向性はわが社では決まっているという企業も多いと思う。ごもっともだ。もちろん、中未来予測をしなくても決めることはできる。ではなぜ中未来予測をするか。それは現在の研究開発の分野が多岐にわたるためシーズを絞りきれなかったり、そのまま進んでその先はどうなるのか、という目論見が描けないままに開発投資をするのが怖いからである。中未来で予測した世界から必要な技術を逆引きし、現在想定しているシーズと合わせて検証する。未来予測をせずに想定したシーズは、現状のビジネスからみて「確からしい」「手堅い」センで固められていることが多いので、そこに違う観点からの創造性を入れ込んで判断しよう、というわけである。

未来予測は会社を元気にする?

その他に、この中未来予測を行っておくとよいことが幾つかある。まず、あらかじめ10年先の世界をイメージ化しておくことで、研究開発者に対し自分の技術がどのように使われる目論見なのかという意識付けができるということだ。イメージとして可視化されたものは、研究開発者だけでなく関係する他部門も目標として共有できる。そして、必要であれば共通認識のもとにブラッシュアップしていくこともできる。

更に、会社としてこういう世界の実現を目指します、という宣言を世の中にするということは、IR上も、社内モチベーションを上げる上でも役に立つ。別の見方をすると、企業のビジョンが社員の「腹に落ちてない」企業にとっては、この未来予測を通じて会社のビジョンを具体化して見せることができるようになる。その結果、社員が一丸となって10年先に描いた夢を現実にしようと頑張ることができるようになる。

シーメンス社が取り組んでいる"pictures of the future"は、これらの取り組みの実践例と言えるだろう。

厄介な中未来予測をするために

しかし、いいこと尽くめにみえる中未来予測だが、あまり成されていないのには理由がある。予測が厄介なのだ。故に一般情報として参考になる答えは転がっていないので、自社の事業領域での中未来予測は自社でつくらざるを得ない。現時点での筋のいい動きをもとに予測の線を延ばすには10年は長すぎる。予測に取り組む際に、どういう材料をもとに、どういう考えで10年先に辿り着けばいいのか、ということに悩むことになる。

方法は一つではない。10年先のターゲット像を予測し、そこから事業を予測する方法や、環境を予測してターゲットと事業に落とす方法もある。環境予測の例でいくと、例えばWeb5.0で実現される○○という領域はどのような世界なのか、など。ターゲット像予測の方法についても一つではない。予測の対象となる事業領域やテーマの特性に合わせて、予測のアプローチは変えることになるのが通常である。

最近、近未来・中未来の予測のプロジェクトが増えてきたということは、少し先まわりした世界に考えを巡らせて現状を振り返ろう、という余裕が企業に出てきたということか。それとも過去の反省から出ているのか。いずれにせよ、このような取り組みは今後も増えていきそうな気配である。


碓井 聡子(うすい さとこ)
流通コンサルティング事業部シニアマネジングコンサルタント
Webを含むITや先進テクノロジーを活用したビジネスおよびマーケティングの企画立案、戦略設計に従事。ユビキタスの先を読み、現在の企業に必要な施策を設計・提案・実施までを支援する。CI、企業統合の実績も有する。
富士通コンサルタント認定資格:マネジングコンサルタント(経営)
著書:「インターネットビジネス白書2002」、「既存企業VSドットコム企業」(監修)、「図解B2Beコマース」(共著)