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最近見聞きしたITの動き

2006年5月29日(月曜日)

ITの環境は大きなうねりの中で動いている。そこで、私が最近、見聞きしたIT環境について、新旧の動きを織り交ぜて見てみたい。

「ウェブ進化論」:Web2.0とBinary2.0

ベストセラーになっている「ウェブ進化論」(梅田望夫著、ちくま新書刊)を読んだ。WEBの世界で何が起きているか、最近話題の用語(ブログ、ロングテール、Web2.0など)やGoogleとマイクロソフトの違いなどが分かり易く書かれている。梅田さんの話によると、若手でその世界にいる人にとっては当たり前、高い年代層の人にとっては信じられないという評価もあるし、若手は上司や両親に分かってもらうために何冊も買っていくようだ。インターネットが登場して10年、大きな変化が起こっているのを実感する。

これに対し、Binary2.0という言葉が登場した。昨年12月に日本でBinary2.0カンファレンス2005が開催され、定員100名がすぐに埋まったと聞く。Binary2.0は高度なWeb2.0サービスの構築に不可欠な技術(Web2.0を底辺で支える低レベル技術)について光を当てようとするものである。どのように展開されるのか、一つの動きと見ることもできる。

オープンソフトウェアの動き

当社経済研究所の前川徹主任研究員が、「ソフトウェアに起きる究極の価格破壊— 業務系オープンソース・ソフトウェア(OSS)普及の可能性—」という研究レポートを発表した。内容はニユートーキヨーが2000万円掛けて開発した「セルベッサ」という外食チェーン向けの食材等の受発注システムのソフトウェアをオープンにしたというものである。その狙いは、�システム開発・維持・運用のトータルコストの削減、�一つのベンダに依存しないこと(ソフト寿命が延びる)、の二つにある。ニユートーキヨーは、�機能強化バージョンが開発された、�14社が利用しニユートーキヨーもV2を利用、�サポートするベンダが増えている、ということで目的を達成されたと評価している。業務系のソフトウェアがオープンにされたということで、その普及は経済全体にとってはプラスであり、利用企業にとってメリットが大きく、ITベンダはビジネスモデルの転換が必要ではないかと言われている。

(参考)
「ソフトウェアに起きる究極の価格破壊— 業務系オープンソース・ソフトウェア普及の可能性—」

ソフトウェア開発環境:「ソフトウェア会社のトヨタ生産方式導入から学ぶ」

もう一つは、ソフトウェア開発環境の話である。これも、「実践!!IT屋のトヨタ生産方式  あるソフトウェア会社の挑戦」((株)富士通プライムソフトウェアテクノロジー(PST)著、風媒社刊)という本が出版されている。海面上では、インドなどのソフトウェア開発費と伍して戦うには、5年後に3倍の生産性が必要と判断、また海面下では、協力会社依存による空洞化、加工費の増加に対処するために、ソフトウェア開発にトヨタ生産方式を導入し全社規模の業務改善に取り組んだものである。ここでは、中堅社員を「カイゼン塾」と呼ぶ社内トレーニングに参加させ、トヨタ生産方式(TPS:Toyota Production System)のリーダとして育てていった。各リーダは現場の抵抗に遭い、悩みながらも創意工夫を凝らして独自のTPSを生み出したものである。開発手法もあるが、人づくりがもっと大切ということを力説している。

(参考)
「トヨタ生産方式の導入によるソフトウェア開発プロセスの革新」(雑誌FUJITSU  2005年11月)

COBOLの世界

COBOLという言語は、古い言語のように思われがちであるが、1968年に誕生以来、生誕40年を迎えることとなり、今も進化を遂げている。利用者も多く、世界中で200万~300万人のプログラマが使用していると言われているし、日本国内におけるCOBOLの生産量は、2002年推定で60~70%、2007年度予測で50%というデータがある。選ばれる理由として、以下のものが挙げられる。

日本ではCOBOL言語を広く普及させ、COBOLユーザの利益を守るためにCOBOLコンソーシアムが2000年12月に設立されている。COBOLは古くて新しい言語と言える。

ウォーターフォールモデル

ソフトウェア開発における、ウォーターフォールモデルのコンファレンスが開かれるというアナウンスがあった。4月1日にナイアガラで開催するというもので、ジョークであることが分かったが、従来型の開発モデルが多くのところで活用され、そのコンファレンスが開催されるという、これが本当だと思わせるベースがあるのだろう。

これを契機に、「Waterfall Model再考」と題するフォーラムがソフトウェア技術者協会主催で開催された。単純なこのモデルが適しているという人は少ないが、大規模なシステム開発に適用されているのが現状である。どのようなモデルを適用していくのか、再考の時期にあるのではないだろうか。

(参考)
「ウォーターフォール・モデルからの脱却を」(日経コンピュータ 2006年5月1日 P.180)

断片的な幾つかの動きを見てきた。新しい動き、従来をベースにしてリニューアルした動きなど、各々の領域で進む方向の違いはあるが、リアルの世界とバーチャルの世界でいろいろな芽吹きを感じさせてくれる。梅田さんの本に、「あちら側」と「こちら側」という言葉があるが、今あるリアルを中心とした世界も当然良くなっていく訳で、新しい「あちら側」との棲み分けや融合が進んでいくことになるのだろう。また、これらの事例を別の観点から見ると、梅田さんの本にあるGoogle社の採用や仕事の仕方・評価など、またソフトウェアにおけるトヨタ生産方式を見ても、参加ではなく参画する人材をどう育てるかという、当然ではあるが、古くて新しい問題に如何に対応していくかの大切さが底流に流れていることを見逃してはならない。


藤野  誠治(ふじの  せいじ)
第一コンサルティング本部所属
公共系、特に大学の経営、ITグランドデザイン策定、業務分析などのコンサルティング活動を実践