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顧客データベース活用を成功に導く3つのポイント

2006年2月1日(水曜日)

ITの進化により、蓄積された大量の顧客データベースを短時間で緻密に分析することが可能になったために、様々な業種・業態の企業において顧客データベースを活用したマーケティングに対する期待が高まっています。しかし、効率化のためのIT導入とは違って、高度な顧客管理システムを導入すればマーケティング効果が上がるという単純な構造にはなりにくいところに情報系のシステム導入の難しさがあります。ここでは、様々な企業における成功事例、失敗事例を踏まえて、顧客情報を活用したマーケティングを成功させるためのポイントについて3つご提言させていただきたいと思います。

ポイント1.具体的マーケティング・アクション仮説が成功への入り口

顧客データベースを活用した代表的なマーケティング手法であり、最近各社で導入が相次いでいるものにフリークエンシー・プログラム(Frequency Program)があります。フリークエンシー・プログラムとは、顧客の購買実績を分析して、企業にとって貢献度が高い顧客層を抽出し、その顧客層には他の顧客層よりも多くのメリットを提供することによって、優良顧客の維持・拡大を図ろうとするマーケティング手法です。百貨店のポイントカードや航空会社のマイレージカードが代表的なものであり、顧客囲い込みに一定の効果はあると考えられます。

ただし、フリークエンシー・プログラムのマーケティング効果がポイント還元による金銭的メリットを訴求した顧客囲い込みだけで終わってしまうと、この手法は単なるディスカウント・ツールになってしまい、収益を圧迫するだけの結果に陥る危険性が高くなります。例えば、「ジョナサン」や「スカイラーク」、「天狗」といった外食チェーンでは、データ活用が思うように進まなかった、費用対効果が疑問であるといった理由で相次いでポイントカードを廃止していますし、大型家電小売店においても収益を圧迫する大きな要因になっています。

フリークエンシー・プログラムの本質は、「金銭的メリット訴求による顧客囲い込み」ではなく、「顧客情報を活用したマーケティング効果」にあります。

自社の商品特性や売上構造を踏まえて、顧客情報を活用した具体的なマーケティング・アクション仮説の緻密な検討が最初におこなわれるべきであり、ここでどこまで有効な仮説を描けるかがフリークエンシー・プログラム成功のためのキーポイントになります。

ポイント2.営業部門のマーケティング・ニーズを踏まえたシステム構築が成功を支える

情報システム部門が主導権をもって顧客管理システムを構築したために、マーケティング部門や営業部門の実態に合わないシステムが構築されてしまうことがよくあります。例えば、ある百貨店では導入した顧客管理システムにおける購買履歴データ分析期間が一律に1年半と設定された為に、販売部門におけるマーケティング活用の範囲が狭まるという弊害がでています。具体的には、冬物のコートのような重衣料や羽毛布団のような高級寝具では、買い替え時期となる顧客にアップセルを訴求するためには、3年前とか5年前にそれらの商品を購入した顧客を抽出してアプローチすることが有効だと考えられますが、そのような使い方ができないということです。こういったことにならないように、顧客管理システムの導入に当たっては、マーケティング部門はもちろん、営業部門のマーケティング・ニーズをきっちりと押えることが重要になると考えられます。

ポイント3.人材育成が成功の土台

顧客情報の活用がうまくいかない最大の原因の一つは、「データベース・マーケティングに関する基本ナレッジの欠落」ではないでしょうか。毎日システムから吐き出される膨大なデータを、価値あるインテリジェンスに変換することができないでいる企業が多く見られるのが実態です。データベース・マーケティングで成果を挙げるためには、マーケティング部門の人達はもちろん、顧客と接する営業現場の最前線の人達にも「データベース・マーケティングの基本スキル」を習得させるための人材育成システムを、顧客管理システム導入と同時に、あるいは顧客管理システム導入に先立って構築することが重要です。ある企業では、データベース・マーケティングのためのシステム導入に際して、手作業で必要なデータを収集し、そのデータを使った仮説・実行・検証の繰り返しを1年間販売現場でおこない、データを活用する基本を習得させたそうです。このようなアナログな取組みも有効かもしれません。

以上3点ご提言させていただきました。当たり前のことのようでありながら、なかなか実行できないことでもあると思います。このご提言が皆様方の顧客データベースを活用したマーケティングの成功に向けての気付きの一助になれば幸いです。


高橋 秀綱(たかはし ひでつな)
流通コンサルティング事業部 マネジングコンサルタント
流通業を中心としたリサーチ&マーケティング、新規事業開発、業務改革などの企画立案型のコンサルティング活動を数多く手掛ける。また、民間企業で培ったノウハウを行政機関に適用した取り組みとして、政策ターゲット設定を支援する戦略的調査・研究活動も実践している。